「…こわい…もの」
大男がおうむ返しに繰り返した。
片方しかない眼が、真っ直ぐシールケをみつめた。なんとも言えない、悲しみと罪悪感と憧れがいっぺんに混ざり合ったような表情をして、…シールケを、見ている。
大男のごつい右手が、シールケの頬に触れた。大きな手の平がシールケの頬を包み込む。
「…お前だ」
ぎょっとした。…なんでシールケの事をこの男が怖がるんだろう?…魔女だから?でも、それならお師匠様の方がずっと怖いんじゃないかしら。
「私、ですか?私のどこが……」
「……わかんねェ」
大男がシールケの肩口に顔を埋め、抱き寄せた。骨がしなりそうなほど強い力で身体を抱き締められて、どきっと心臓が跳ね上がる。なんだかなんとなく、お師匠様のとは感じが全然違う抱き締め方のような……。
「…あの、ちょっと、ガッツさん…」
うろたえながら、抱きすくめられたまま大男に声を掛けた。聞こえているのかいないのか、返事無し。鼻息が荒い。
欠けた左腕がシールケの背中を支えながら、右手が下に降りた。シールケの尻の膨らみに触れて撫ぜたかと思うと、双丘の狭間の奥に太い指が性急に潜り込もうとする。…どっ、どこ触ろうとしてるんだこの人!?
「ちょっと、ガッツさん!やめなさい!手をどけて!」
ぴたっと相手の手が止まって離れた。暗示の術がまだ効いている。…ほっと胸を撫で下ろした。
代わりにおっそろしく深刻に傷ついた声が、シールケの肩の方から返ってきた。
「…俺が、嫌いか?」
「…きっ、嫌いもなにもっ、よく知らないですっ。今日会ったばっかりじゃないですかあーっ!?」
…なっ、なんなんだ、この人いったい。人間性にかなり問題あるような。お師匠様は、やっぱり助っ人の人選を間違えてるんじゃないかしら…。
はたっと気付く。そういえば、旅の女性の黒髪の物狂いの女性は、この人嫌ってた。食事の時でもわざわざお互い一番離れた席に座ってたし。…こっちの大男の方は、ちらちら物狂いの女性の方を物欲しそうに見ては、それはそれは嫌がられていた……。
……嫌われるのが、怖いんだ。一番こわいものがシールケなのは、シールケに一番嫌われたくないからなのか……。
…って、ちょっと待て。一番嫌われたくない人って…、それって、普通は……一番、好きな人。……よね。
…………え。えええええっ!?
かあっと頬に血が昇って真っ赤になった。湯船で気絶する直前の時のように、心臓が激しく高鳴る。
うろたえる。動揺する。困る。
だって、あの黒髪の物狂いの女の人って、この人の奥さんじゃなかったっけ?「連れ合い」って結婚してる配偶者のことよね?なのにあの女の人じゃくってシールケが一番好き?…なーんて最悪に無責任な浮気男なんだろう。
大体年の差が幾つ離れてると思ってるのよ、この人どー見ても軽く三十歳越えてるじゃない、真性の変態ロリコンさんだわー、と思いつつ。
………なのに、嬉しい。物凄く、嬉しい。頭の上で、見えない薬玉がぱかっと開いて花びらが降り注ぎ、どこかでファンファーレが鳴り響くような気分に、なるのは……何故。
……絶対、どうかしてる…。自分が、わからない……。
本の中でしか読んだことのない『一目惚れ』というものを、シールケはされてしまったのかしら、と考える。こんな大きな大人の男の人が、シールケを真剣に女性として好きで、嫌われるのをこわがっている……。うっわー……。
どきどきしながらシールケの肩に顔を埋めたままの大男の太い首に視線を移した。蜘蛛に似た形の呪いのしるしが目に映る。
「…あの、ガッツさんは、私の事が……好き、なのですか?」
「だから、わかんねェって」
「ちゃんと、はっきり、答えてくださいっ」
むきになって問い詰めた。『…はっきりさせてどーするのよ、私』と内心呟く。
大男が顔を上げる。目が合う。至近距離。心臓がうっかりときめく。やっぱり不機嫌そうな怒った顔をしている。後頭部を大きな手が押さえるのを感じる。顔が近付く。
……どうして『やめなさい』と私は命じないのだろう、と考えながらへの字に結んだ口にキスされる。食いしばっている歯が舌でこじあけられて、『うわーんっ』ともう一回泣き出したくなった。
半泣きになりながら、大男の首に両腕を回してしがみつく。
自分で自分の心に問い掛ける。シールケは、この男が好きなのか?
……わかんない…。全然わからない……。
…口の中に他人の舌が入って来るのって変な感じだ。胸がぎゅうっと苦しくなる。口を重ねながら、溺れかけた人が救助者にしがみつくように大男に必死ですがりつく。
大人はこういう事をするのだろうか、それとも単にこの人の趣味なのだろうか、と考えながら舌を吸われる。
シールケがこわい、という大男の気持ちがちょっとわかる。シールケも大男がこわい。わけのわからない、理解不能な自分がこわい。
だって言うと悪いけど、この人おじさんだし、礼儀知らずで無神経で粗暴で、シールケのいっちばん嫌いなタイプだし、おまけに妻帯者だし、……それに、飛び抜けて最悪なのは…多分この大男は本当に変質者だ……。
お師匠様から『小さな子供に悪戯したがる心の病んだ大人がたまにいるから、変な大人に出会ったら冷静に対処しなさい』って言われた事があるけれど…、そーゆー人じゃないのかしら、この人。
そしてシールケは冷静に対処できているかといえば…溺れている。悪戯されているのだから、怒ってやめさせなければいけないのに…怒れない。体の力がずるずる抜けていく。…どうしよう……。
大男の大きな手がシールケの体の上を這う。昼間猿に揉まれたシールケの淡い乳房を大男の手が揉む。…なんだかよくわからないおかしな気分になる。変な声が口から洩れそうになって…困る。
…この大男はもしかして魔法使いなのかしら、と考える。知らないうちに、シールケに魔法をかけてしまったのだ。
だから、シールケは、悪くない。…悪いのは、全部この大男。
閉じていた目を開いた。あんまり間近で見ると人の顔って不気味だ、と思いながら大男の怒ったような片眼を睨みつける。…にらめっこだ。負けるもんかっ、と念じて睨んでいるうちに、呼吸が苦しくなってきた。
口が塞がっていると…、い、息が、できない……。
酸欠状態で顔が真っ赤になった。拳を丸めて大男の肩を叩く。悔しいけど、降参…。
気付いた大男が口を離した。
…息ができるっ。自由になった口を大きく開いて無我夢中で空気を貪り、ふうっ、と息をついた。…大男の口の端から涎が垂れている、と思ったらシールケの口からも垂れていた。子供みたいでみっともない、と慌てて手の甲でごしごし拭う。
「…お前、年幾つだ?」
シールケの額に額をくっつけて大男が尋ねた。この人は何歳なんだろう、と思いながら答える。
「えっと、十一歳です」
大男がふかーい溜め息を吐いて、シールケの髪をくしゃくしゃにして抱き寄せた。道に迷って途方に暮れた人が、疲れ果てて嘆声を上げるように呻く。
「……無理だ…。…どー考えても無理だ……」
むっとする。また子供扱い。
「なにがですかっ」
きっ、と大男を見上げて睨みつけてやった。憮然とした表情で大男がシールケをじっと見下ろす。
「これが」
大男の手が座り込んでいるシールケの股間に延びた。…どうしてこんなところ触るのっ、とぎょっとする。…でも、嫌がったら子供っぽいと思われるのかもしれない、と考えて我慢。
おしっこが出るところを太い指がいじり、鋭い痛みが走って顔をしかめた。
「痛いっ」
指が止まった。耳元で低い声が命令する。
「…ケツ上げろ」
…どうして言う事を聞いてしまうのだろう、と思いながら大男の胡座の上に膝で立って腰を浮かした。これじゃあ立場が逆じゃないか。
やめなさい、ってどうして言えないのだろう、と思いつつ目を閉じ、太い首にしがみついて逞しい肩に赤くなった顔を伏せた。
とてもおかしな真似をされているのはわかる。ちゃんとした大人なら、しないような事。…でも、この人はちゃんとした大人じゃあないから、シールケが好きなんだろうなあ、と思う。
……この大男はシールケが好きだ。そう思うと、他の事が全部何も彼もどうでもよくなる。常識や良識にうるさい、いつもの真面目なシールケが何処かへ行ってしまう。
胸の中が暖かい。大男の首に回した両腕に力を込める。どうしていいのかわからない。
この人が一番に大好きなのはシールケだ。…それが、嬉しい。
膝立ちして開いた両脚の間を大男の指が進んだ。…シールケも触った事がないような場所を大男の指がゆっくり探る。変な場所をいじったりすると、黴菌が入って悪い病気に罹らないかしら、と大男にしがみついてぼんやり思う。
ひりっとした痛みに耐えながら、かさついた指がゆるく往復するのを堪えた。
……痛い。苦痛の苦い味が舌の上に広がる。刃の鈍った剃刀を肌に何度も擦りつけられてるみたい。『お願い、やめて』と言いそうになるのを必死で我慢する。
どうして我慢してるんだろう、と自分が不思議になった。
理由。…この大男が、なんだかわからないけどシールケにしたがっている事だから。
……設問。シールケは、この男が好きなのか?
……却下。考えたくない。思考停止。…変態なのはこの大男だけで、シールケは無罪っ。
この大男は、配偶者に不誠実な浮気男の上にロリコンの変質者で、かなりどーしよーもない最低の大人だけど…でも、シールケが嫌がったら、きっとすごく傷つく。…それだけは、なんとなくわかる。
大男が傷ついたら、…シールケは、辛い。今されている痛いことより、ずっと強く心が痛むと思う。理由は…わからない。知らない。
大人って、みんなこんな事してるんだろうか、痛いし、汚いと思わないのかしら…と思ううちに、痛み以外の鋭い感覚が腰に走った。変な声が口から洩れそうになるのを噛み殺す。体が汗ばみ、次第に呼吸が早くなるのがわかる。…なんだろう、これ……。
押さえ切れず声が零れると同時に、大男の指が触れている場所がじわっと熱くなった。
うそ!?おもらし!?
慌ててしゃがみ込んで大男の手首を両手で押さえ付けた。…ショックすぎて口が利けない。人の目の前でおしっこ漏らすなんて……。いや、そもそもおかしな場所をいじりたがるこの大男が悪いんだけど。
「……や、やめてくださいー……」
俯きながら、蚊の泣くような声で抗議した。顔から火が吹き出しそうに思える。痛いのなら我慢できるけど、恥ずかしいのは…絶対無理だ。子供と思われても、我慢できない。
やめさせたいけれど…これじゃ、駄目だ。強い意志で命じないと、術が、利かない。
「ケツ上げろって言ってんだろ」
大男が微かに苛立った調子で命じた。
股間に潜り込んだ指が、濡れた箇所をくすぐり、つついた。顔をのけぞらせて呻く。またどろっとした熱いものが両脚の間から溢れるのを感じる。…おしっこじゃあ、ないのかしら、これ。
頑丈な手首を押さえたまま、息を喘がせて大男の胸板に凭れ込んだ。シールケの白い腹に何か堅くて熱いものがぶつかるのがわかる。…男の人の、おしっこが出るところだ。
『…排泄器官と何か関係のあることなのかしら、これは?』という疑問が一瞬頭を過ぎる。
浮かせた腰と掴んでいる大男の手首の間で、ぬかるみを掻き混ぜるような湿った音が響くのが聞こえた。…聞きたくない。羞恥心で身が縮む。
「…きた…ない、です……。やめて……」
途切れ途切れにようやく囁いた。下腹部から込み上げて来る熱い感覚を、舌を噛んでこらえる。ぬるっと指が滑る感触。我を忘れそう。普段意識したこともない場所が、脈打ち疼いて充血しているのを感じる。
意地になったように大男が指を動かした。得体の知れない熱を浮かべた眼が、シールケが喘ぐ様子に視線を注いでいる。
大男の指先が、すうっとシールケの内側に潜り込むのを感じた。
一瞬驚きで体が固まった。『…どこなの、これ?』という疑問で頭が一杯になる。
おしっこの出る穴と大きいのが出る穴の間にも…穴って、あるの!?
…あるみたいだ。大男の指の先端が……シールケの体の中に入って来ている。『内側』としか呼びようがない。シールケの脈打つ部位の丁度中央に、大男の指先が埋め込まれているのを感じる。
大男は特に驚いた風もない。浅く差し込んだ指が、シールケの知らない、ひどく鋭敏な内部の縁を慎重にゆっくり掻き混ぜた。また新しい滴が沸き出、体が震えて甲高い声が喉から洩れる。
…不思議だ。シールケの体なのに、大男の方が詳しく知っているみたい。
知らない事を、教わっているのかしら、と大男に凭れかかりながら思う。…知って何の役に立つのかよくわからない知識のような気もするけれど。
浅く抜き差しする指の感覚に、声を上げて溺れた。大男の無言の興奮が、触れている皮膚から直接伝わる。…シールケは、大人として合格なんだろうか。
無意識のうちに腰がくねった。大男の指の動きに合わせて尻が律動する。腹にぶつかっている大男の排泄器官が、シールケの臍の穴をくすぐり、擦った。…硬くて熱い。
息を切らせて大男の胴体に腕を回し、しがみついた。シールケの柔らかい腹と大男の堅い腹筋の間で大男の器官が挟まれる。
「……ダメ、…ダメです……」
うわ言のように繰り返す。…甘えた声。ねだっているような響きだと思う。
大男の荒い息がシールケの髪に吹きかかった。肘から先が途切れた左腕が、もどかしそうにシールケの背中の上を撫ぜてさ迷う。…シールケを、抱き締めたいのかな。でも、腕がないからできないのか。唐突に強烈な大男への愛しさが込み上げる。
大男の指がずず、と狭苦しいシールケの奥に進んだ。
喉の奥から熱い塊が迫り上がる。背筋を反り返らせて、内部に侵入するごつごつした指を受け入れようと身体を開いた。開き方を知っている自分自身の身体に戸惑い、あう、と言葉にならない呻き声が洩れてとろっと唾液が口の端から零れた。
呼吸が圧迫される。大男の指をシールケの内部の肉がぴちっと包み込んでいるのを感じた。
脳味噌がとろけそうに思えた。シールケの内側を大男の指が摩擦する度に、『死んじゃう』と心の中で叫ぶ。大男の事しか考えられない。身体と心が支配されているみたいだ。…やっぱり、これって絶対何かの魔法だ。
固く閉じた瞼の奥で、幾つもの星が筋を引いて流れ落ちて来るような気がした。次々とたくさんの星が墜落し、頭の後ろ側がすうっと白くなってゆく。
腰が激しく痙攣した。シールケの腹が大男の器官を擦り立て、何言かを大声で口走っているのを他人事のように意識する。開いた両腿が突っ張り、痙攣が足首の筋を通って爪先の親指まで届くのを感じた。
両脚の付け根からどっと液体が溢れて大男の指を濡らした時、大男が低い声で呻くのが聞こえた。同時にシールケの腹の上に、大量の熱い粘液がぶちまけられる。
湯船の中で気絶した時のように、また意識が遠くなってゆくのがわかった。しがみついている大男の脇腹も、シールケと同じに痙攣して震えている。…ああ、この大男もシールケと同じ気持ちなのか、と知って安堵する。
「…シールケ…」
気を失う寸前に、大男が小声でシールケの名前を呟くのが聞こえた。
『なんだ、ちゃんと名前覚えててくれたんだ…』と思った瞬間、意識が昏くなった。
熱いお湯が腹の上を流れ落ちるのを感じて目が覚めた。
『今日はよく気絶する日だ』と思いながら瞼を開くと、大男が左腕にシールケの体を抱え、海綿でシールケの腹にへばり着いている白っぽい粘液を黙々とこそげ落としている最中だった。
…体がぐんにゃりして力が入らない。大男に声を掛ける気にもならず、されるがままになった。
ぼうっとしながら大男の顔を眺める。…やっぱりしかめっ面。無愛想な人だ。
大男の海綿を握る手がシールケの内腿に回り、あん、と変な声が喉から洩れた。
片方だけの眼がシールケの顔に向けられる。無表情。『にらめっこ再戦っ』と心の中で念じながら大男をじっとみつめ返す。
……勝った。大男がついっとシールケから視線を反らせた。再び、事務的な手つきでシールケの太腿に付着している液体を拭うのに専念する。シールケが甘い声を上げても、見ようともしない。
大男がシールケを床に横たえ、離れた。手桶で湯船から湯を汲み、またシールケの身体の上に流して洗い濯ぐ。犯罪者が証拠湮滅の跡を点検するような目付きでシールケの肢体の上を眺め回し、検分し終わったのか、ふうっと小さく溜め息を吐き、立ち上がった。
「…また湯の中で溺れんじゃねーぞ」
とシールケに言い捨て、大男は背を向けて脱ぎ捨てた服の許へ歩を進めた。
ゆっくり床から身体を起こした。…腰がまだがくがくしてる。変な感じ。
シールケが小さくくしゃみをすると、服を着込んでいる大男もくしゃみをした。…湯冷めしてるんじゃないかしら、あの人。でも風邪ひく心配は無さそうだから、大丈夫よね。
「あ、そうだ、ガッツさん」
湯船の中に漬ってから、浴室から出ようとしている大男へ声を掛けた。大男が振り返る。暗示の術がまだ残ってるといいんだけど…。
「明日のトロール退治は私の指示に従って進めたいんです。反対者が出た場合はそれとなく調停をお願いします。…でないと、色々バラしますよ?」
大男に向けて小首を傾げてにっこり微笑んだ。…大男は特に動じた風は無い。ツラの皮の厚さだけは、この人たいしたものかもしれない。
「俺は別にどっちでも構わねェよ」
大男が扉を開きながらシールケに言った。退室。閉じた扉の向こう側に大男の姿が消える。
浴槽の中で扉の方を眺めながら、大男の返事の意味を考えた。…バラされても、構わないとゆーことなのかしら。
とりあえず、弱味を握るのには成功したわねー、とお湯にのんびり気持ちよく漬りながら考える。
あの大男は、シールケの事が、好きだ。だから、シールケの言いなりっ。
口許がにこにこと綻ぶ。…シールケは、おじさんなんて好みじゃないけど、かわいそうだからあの大男を好きなフリをしてあげよう。大男がシールケの前でカッコつけたい時は、カッコいいと思っているフリをしてあげようっ。…だってかわいそうだし。
鼻歌混じりに呟いてみる。
「ガッツさんはシールケに、恋をしているっ」
……次期ヒロインの座は、シールケのものっ。……かもしれない。
「…それは、本当の事なのですか、シールケ?本当に黒い剣士殿があなたにそんな真似を……?」
「あ、はい。あれって絶対何かの魔法と思うんですけど……違うんですか、お師匠様?」
風呂場でされた謎の行為の意味をお師匠様に尋ねてみた。…すると、どうしたのかしら、いつもは温厚で優しいお師匠様の気が、異様な怒りの炎を帯び出したような……。
「……シールケ。いずれ時が来た時、黒い剣士殿にあの狂戦士の甲冑を渡しなさい」
「ええっ!?でも、お師匠様、あの甲冑は……」
「……いいのです。お願いしましたよ、シールケ」
「……わ、わかりました。それがお師匠様の願いであるのなら……」
……お師匠様が、何を考えていらっしゃるのかわからない。でも、お師匠様のことだもの、きっと何か深い理由があるはずだわ……。
こうして、ガッツは呪いの鎧を身に着ける羽目になった。
…『因果応報』とは『自業自得』の別称である。
END.