鷹の羽学園生徒会室にて。  
グリフィス生徒会長に呼び付けられたガッツ。実は、ガッツはちょくちょくグリフィスの「内密の依頼」でグリフィスの敵の口封じ、脅迫、暗殺その他に忙しかったりする。  
今回の依頼はっ。「『男性主人公約二名、非処女』の噂最初にばらまきやがった張本人、どこのどいつだーっ、…速攻・口封じ」。……根も葉もあるだけに、見せしめのためにも暗殺決定。  
「…まあ、殺すしかねーな」と思いつつ、生徒会室の本棚を適当にぱらぱら覗いていたガッツ。…おや、本の背表紙とは中身が違うものが入っているぞ、なんだこりゃ?と思って手に取り眺める。  
本から転がり出てきた中身は…いかにも、なパッケージのアダルトビデオ……。  
浅黒い肌に黒髪短髪の全裸の女性が、触手系に犯される内容らしい……。無修正モザイク無しっ。  
ちょっとキャスカに似ているけど、もっと女っぽいヒロインの全裸写真をついつい食い入るように眺めてしまう、ガタイはでかいが、実は童貞のせぶんてぃーん、なガッツ君。  
「良かったら貸すぞー」の声。人当たりの良い爽やか好青年な笑顔のグリフィス。  
………借りちまったよ……。  
とゆー訳で、あまり人に見られたくないヤバいブツを小脇に抱えたガッツ。…しかしどこで見よう、全寮制の寄宿舎の部屋にはビデオデッキなんかねーしな、と校庭の端で思案していると、  
「おーい、なにきょろきょろしてんだ、ガッツ?」と後ろからジュドーの声がっ。  
カタン、と地面に落ちるヤバいブツ。……人の背後から忍び寄るんじゃねーっ、と心の中で叫ぶが時すでに遅しっ。  
「何コレ、AVじゃん。触手強姦モノ…。…うわー、マニアな趣味。ガッツこういうのが好きなのか?おっ、モザイク無し」  
「…いや、それはグリフィスの趣味で…。オレは、借りただけだっ」  
焦るガッツの前で、フツーの顔でヤバいブツを拾い上げ、フツーに喋るジュドー。…そうか、フツーなのか…。何焦ってんだオレ…、とふと思うガッツ。  
「なんだよ、お前一人で見る気か?こーゆー時は仲間に一声かけるのが筋ってもんだろーがー」とにやにや顔のジュドーに言われて、コルカス、ピピン、合流。  
「視聴覚室なら器材があるぜ(ジュドー発案)」で、とりあえず部屋の鍵借りてくる。  
…リッケルトも何を観賞するか知らずについて来たがったけれど、一同、顔を見合わせて、  
「お前には、まだ早い!」で除外。  
「なんで俺だけ仲間外れ…」とぶつぶつ文句垂れるリッケルト。でも、無視。  
ちなみにリッケルトは最年少にも関わらず唯一の彼女持ち。…初等部のエリカちゃんという可愛らしい少女と、交換日記の清い交際をしているらしい。  
…ヘンな知恵つけてマズい事になったら、エリカちゃんの怖い親父に吊し上げられるのはリッケルトだしな…。  
「AV程度で喜ぶなんてお前らもガキだよなー」と言いつつ、ついて来るコルカスは、年齢ごまかしてカツアゲした金で風俗通いをする男。  
…しかし、最近風俗街の通りに並ぶしつ尿器系の医者に通う羽目になってからは、風俗店通いはちょっと足が遠のいてるらしい…。……病気は、怖い。  
なんにも言わずに無言でついて来るピピン。  
「無修正のAVあるんだけど、ピピンも見るか?」とジュドーが聞いた時も無言。  
「嫌ならいいけど…」と言った時も、無言。…でも、黙ってついて来る。  
よーく見ると、ちょっとだけ顔の皮膚が赤いような気がする…。……喋れよ。  
 
 
視聴覚室に一同到着っ。  
…とりあえずカーテン引いて電気消してボリュームを最小限に絞って、観賞開始っ。  
28インチのテレビ画面に、前置きも何も無しに、キャスカに似た女性が怪物に取り囲まれて、服ひっぺがされる場面がいきなり始まる。  
その後、触手系でろでろな怪物が入れ替わり立ち代わり、延々とキャスカに似た女性を凌辱。製作者の神経疑いたくなる内容だが、しかし…ヤベェ、これ来るよ…、な展開が続き…、沈黙する一同の胸に同じ思いが去来する。  
(…AVは、囲んで見るもんじゃない…、一人で見るものだ…。…オレ以外の奴等、全員部屋から出て行ってデリケートなオレ様を一人にさせろー…。…まわりに人がいたら、…無理だ)  
そんな時、視聴覚室の外の廊下から、聞き覚えのある声が。  
「あれ?…グリフィス、鍵開いてるみたいだよー。誰か使ってるのかなー?」  
がらっと開かれる視聴覚室のドア。………キャスカだ……。  
硬直する一同。硬直するキャスカ。その後ろにいつも平常心のグリフィス。  
間の悪すぎる沈黙の中、テレビ画面の中のキャスカ似の女性の喘ぎ声だけが響く。…丁度怪物の首領らしき、黒い羽根を生やした男が、キャスカ似の女性に覆い被さって、犯しているところだ…。  
……頼むから誰か何か喋ってくれ、と言いたくなる沈黙の中、無言のキャスカがAV放映真っ最中のテレビに向かってつかつかと歩く。  
無言で手近な椅子の足を掴むと、無言で振り上げ、無言で力一杯テレビ画面に向けて、降り下ろした。  
豪快な破壊音と共に、椅子の背がブラウン管に蜘蛛の巣状のひび割れを作って食い込み、画面が真っ暗になる。…最後に映っていたのは、キャスカ似の女性がうっとりした表情で、鳥の嘴のような兜を被った怪物の首領と舌を絡めている場面だった……。  
「……普通に電源切りゃいーだろ…」と呟きかけるコルカスに、「…シッ。刺激すると危険だっ」と真剣な表情で制止するジュドー。  
「………なんだ、これは……?……貴様等神聖な学舎で、一体何を見ている……」  
椅子の足を掴んだ後ろ姿のまま、地獄の底から響く呪いの呻きのようなキャスカの声。  
AV観賞大会のはずが、いつのまにかホラー映画(生・リアル)体験大会に……。  
振り返るキャスカ。…血走っている目が、こわい。  
「……この下劣な代物を、校舎に持ち込んだのは、どこのどいつだ……?」  
ジュドー、コルカス、ピピン、全員の指が、一斉にガッツを指差す。  
指差されたガッツ、『おい、お前等そりゃねーだろー』と言いたくなるが、皆の顔は「生け贄として、ガッツを捧げるっ」という強い決意でみなぎっている。  
「やっぱり貴様かあーっ!!」  
椅子を振りかぶり襲いかかってくるキャスカ。はっしと受け止め、  
「…いや、オレはそもそもグリフィスから借りて……」と言いかけると、  
「グリフィスを冒涜するなあーっ」という叫びと共に、キャスカの飛膝蹴りが顔面にヒッツっ。…ガッツの意識が一瞬暗くなる。  
畳み掛けるように殴る蹴るの暴行をガッツに加えるキャスカの後ろで、ジュドー、コルカス、ピピンの三人は、さりげなく足早に戦闘区域より撤退準備中だ。  
…ガッツ君、君の崇高な犠牲精神を、僕逹は決して忘れないよ…。どうか安らかに眠ってくれ……。  
「……『仲間』って、なんなんだ……?」という疑問がキャスカのパンチを顎に食らった一瞬、ガッツの頭によぎる。  
一応女のキャスカを殴り返すわけにもいかず防戦一方のガッツ。  
手を押さえても蹴りが飛ぶ。回転回し蹴りが肝臓を叩く。…ホントに女か、こいつは…。  
体格的に押さえ込めばなんとかなるんだけれど、…さっき見たAV画像の内容が脳裏にちらつくので、……異性と体が密着するよーな状態は、是が非でも避けたいっ。  
腰が引けてるのでキャスカにボコられ気味だ。…17歳は、多感な年頃…。  
 
いつも変わらぬ平常心で、ガッツと格闘しているキャスカを見つめていたグリフィス、思い出したかのようにキャスカに声をかける。  
「あ、ごめん、キャスカ。…それ、オレだ。さっきガッツにオレが貸したんだっけ」  
ぴたっと静止するキャスカ。……沈黙。  
グリフィスを振り返る。  
「……グリフィス、…えっと、もしかしてコイツを庇ってるの……?」  
「いや、そーじゃなくって、オレの私物。生徒会室に置いたまま、持って帰るの忘れてて」  
「…だから、オレが最初からそう言って……」だらだらと流れる鼻血を拭いながらガッツ。  
形容しがたい表情のキャスカ、しばらくの沈黙の後、コホン、と咳払いして、穏やかな口調でグリフィスに告げる。  
「……グリフィス、あなたは生徒会長なんだから、皆の手本になるように、もっと気をつけてもらわないと」  
「ああ、これからは気をつけるよ。すまない、キャスカ」  
「じゃあ、風紀委員として、……持ち込んだ問題の品物は没収します。後で任意提出同意の書類に署名して、私のところに持ってきて頂戴」  
「わかった」  
黙ってやり取りを見ていたガッツ。…奥歯の一本がぐらついて喋りにくい。  
「…おい、ちょっと待て。…その、態度の差は…、いったいなんだ?」  
キッと睨みつけるキャスカ。  
「うるさいッ!…そもそも学校であんなもの見てるお前が悪いッ!この変態!恥知らず!」  
……何故その台詞をグリフィスではなく、オレに言う……、と呟きかけた時、キャスカがガッツの手を取る。……しおらしげでちょっと可愛い。  
「…とりあえず、傷の手当ては…して、やるから、…それで勘弁しろ」  
 
とゆー訳で保健室でキャスカに傷の手当てをしてもらうガッツ。  
どー考えても損しかしてねーのに、得をした気分になるのは何故だー、と、キャスカに絆創膏を張ってもらいながら、ふと思う17歳。  
<劇終>  
 

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