屋敷に戻ってから一ヶ月が経った。
三年ぶりに足を踏み入れた屋敷は全く変わってはいなかった。
広大な敷地、薄暗い廊下に並ぶ厳しい彫像、何もかもがあのころのままだ。
無駄に広い寝室のベッドに横になり暖炉の炎を見つめる。
屋敷に戻って以来一度も神に祈りをささげることはなかった。
数ヶ月前、未知なる闇の前に私が唯一すがるべきものだった信仰は粉々に打ち砕かれた。
大審院の判断――というより父の働きかけよるものだろう――私は聖鉄鎖騎士団の団長を更迭された。任務も信仰も何もかも、全てを失った私に残されていたものはヴォンディミオン家の名前だけだった。
赤い炎に照らされながらいつものように下着を脱ぎ捨てる。
ベッドの上で四つん這いになりお尻を大きく突き出す。
そして左手で乳房を揉みしだきながら、右手でクリトリスをゆっくり刺激する。
この巨大な牢獄の中で、すがるものを持たずに生きていけるほど私は強くはない。
今の私に残された唯一すがるものは、私の中に巣喰う淫らな肉欲だけだ。
「あうぅ……く!」
甘い声が漏れる。徐々に体が赤みを帯びてきて、額に汗がにじみ出る。
まだ……まだ物足りない。
愛液でじっとりと濡れる膣口に指を差し込む。生暖かく、ぬるぬるとした感覚が指に伝わってくる。
さらに指を奥まで差し込んで、体を内側をゆっくりとなぞる。
「くうぅ……ひぁぁ……」
よく知っている自分が一番感じる場所に指を押し付ける。
指を出し入れするたびに赤く照らされた部屋にクチュクチュとぬめった音が響く。
あられもない姿で激しい自慰に耽る自分に興奮し、膣口からは愛液が止め処なく溢れる。
誰でもいい。無理やり唇を奪い、乳房を握りつぶし、愛液で溢れる嫌らしい穴を突き上げて欲しい。
淫らに、激しく、私の暗い欲望を満たして欲しい。この疼きを満たしてくれるなら死んだっていい。
膣口に突き刺した中指と薬指をよりいっそう激しく出し入れする。体が浮くような感覚。
絶頂と近づくにつれ呼吸が激しくなり、口と膣口から体液を垂れ流しながら犬のように腰を振る。
「あ!あぁ!イクぅ!……ん……あああああぁぁぁ!」
部屋に響き渡る大きな絶叫とともに膣口から愛液が吹き出す。
体を痙攣させながら荒い息でうずくまる。
「ハァ……ハァ……」
全身に広がった痺れるような絶頂の余韻に浸っていると、突然ノックの音が響いた。
「だ、誰だ!」
予想外の訪問者に思わず声を張り上げる。
「ぼくです。ファルネーゼ様。」
聞き慣れた声。セルピコだ。
「な、なんだこんな時間に!」
もしかして聞かれた?――顔が恥ずかしさで真っ赤に染まる。
「すいません。お話したいことがありまして。」
慌てて脱ぎ捨てた服を掻き集める。呼吸を整えドアを開ける。そこにはいつもの表情のセルピコがいた。
顔が赤いのは暖炉の炎のおかげで気づかれないはず……大丈夫。自分に言い聞かせる。
「なんの話だ?」
暖炉の前のテーブルに向かい合って腰掛け、いつもどおり気丈に振舞う。
そんな私の気持ちを知ってか知らずかセルピコは小さなため息をつき言った。
「先ほど御館様から連絡がありまして……その、ファルネーゼ様の結婚についてなのですが……」
「……え?」
予想外の内容に目を丸くする。
「もう話は決まっているそうです。お相手はロデリック侯爵という御方です。」
「そんな急な話……」
「御館様がお屋敷にお戻りになり次第、ロデリック侯のお屋敷に向かうそうです。」
――決して予想できない話ではなかった。
ヴォンディミオン家の繁栄にしか興味のない父上にとって、私は厄介者でしかない。
せいぜい派閥拡大のための道具としか見ていないこともわかっていた。
「……そう、わかったわ。」
しかし私に父上に逆らうことなどできはしない。
ヴァンディミオン家の庇護の下でしか私は生きられないのだから……
もうどうなってもいい――これが運命だと受け入れるしかない。
「……本当にそれで良いのですか?」
「え?」