「ちょ、ちょっと待ってよシールケェ!」  
忙しく羽を動かすイバレラを尻目に、シールケは足早に歩を進めた。  
「早くしなさい、イバレラ!もう日が傾きかけているのよ!!」  
シールケにやっと追い付いたイバレラは、今度こそ振り落とされぬ様に帽子のつばの端を  
しっかり掴んだ。  
(早く御師匠様の元に戻らないと!もう日が暮れてしまう…)  
 
今日は朝から、イバレラと共にフローラの使いで森の中に薬草を摘みに行っていた。  
最近の森の騒がしさに、術に長けたシールケとは言え決して油断してはならない、  
日暮れ前には必ず館に戻る事をフローラに約束させられていた。  
しかし、森の中を歩くのは実に久し振りだった。  
日常の雑務で結界の外に出る事はしばしばあるものの、用心の為歩くのは館の近くのみで、  
用を足したら直ぐにフローラの元へ戻る毎日だった。館へ戻る道の傍らに咲く花や風の匂いで  
季節の移ろいを知り、以前見付けた野苺の木や山葡萄の蔓、綺麗な羽を持った小鳥の  
巣、いたずらな兎やリスの小さな住処が懐かしくなっていた。そしてついつい、時間を忘れ遊び  
過ぎてしまったのだった。  
 
「少し位平気よォシールケ!フローラのお土産に、一番良い野苺や山葡萄も取っといたしさ〜」  
帽子の上に乗っていたイバレラはいつの間にか、急ぐシールケの前を飛んでいた。  
「…余りにも久し振りだからとは言え‥つい‥子供じみた事をしてしまったわ‥」  
小さな肩を大きく上下させ、息を切らせながら尚もずんずんと森の奥を目指して行く。  
(よっく言う〜まだガキなくせに!)  
呆れ気味に大きな溜息をつき、視線をシールケから容赦なく沈む太陽に目を移した時だった。  
「?!」  
突然、シールケの後頭部に鈍い痛みが走った。  
(な、何…?)  
見慣れた森がいびつに歪み、もの凄い速さで自転し始めた。手や膝をつく間も無く、石や土が  
体を受け止め、ひんやりと冷たさを返す。後頭部の熱さは、地面の冷たさの所為なのか…?  
「きゃあぁぁぁぁぁ!!!シールケェ──────!!!!」  
イバレラの悲愴な悲鳴に、切れかけた意識の糸を掴み直し必死に手繰り寄せる。  
自身を取り巻く風がやけに温く、生臭い。  
「あ、あ、あ、あんた達!!シ、シールケに指一本でも触ったらしょーちしないからぁっっ!!」  
「‥う…イ‥バレ‥ラ…?」  
目の前で両手を広げ、震えながら通せんぼをしているイバレラ越しに、夥しい数の黒い毛の  
塊があるのに気が付いた。  
(…トロールだ!!)  
急いで体を起こそうとするが、重く痺れて言う事を聞かない。何とかいざって木の根本まで  
辿り着き、幹に体を凭せかける。  
「シ、シ、シールケェ!‥は、早く魔法でやっちゃってよ、コイツ等!!!!」  
「‥ふ…ううっ…」  
とにかくトロール達の気を逸らそうと、シールケは精神を集中させるが、後頭部の痛みで  
直ぐに散漫になってしまう。しかし黒い毛の塊は、イバレラを威嚇しながらじりじりと間隔を  
詰めて来ている。  
「シ、シールケェ!‥は、早くうぅ────!!!」  
がたがたと震えるイバレラは、今にもトロールに潰されてしまいそうだ。  
(‥いけない!このままではイバレラが…)  
 
「イバレラ…!こ、ここは私が、何‥とかするから‥あ、なたは、は、早く…御師匠様の元に…」  
「何バカ言ってんのォ?!そんな事出来るワケないじゃない!!!」  
「私…は、平気だ‥から…そ、そうじゃな‥いと…私達、ふ、二人共…!!」  
「絶対イヤよ!!アンタが動かなきゃ、アタシもここからどかないんだからっっ!!!!  
コラァそこォっっ!!動くんじゃねーわよっっっっ!!!!」  
「‥お願い、イバレラ…!!!」  
シールケは弱々しく動かした片手で、イバレラを自分の眼の前から振り払った。自由の  
利かない体を無理に動かした為に力の加減が出来ず、小さなイバレラは大分遠くまで  
飛んで行ってしまった。しかし、これで良いのだ。  
「シールケェ──────!!!!」  
五月蠅い羽虫が居なくなったのを幸いとばかりに、トロール共はシールケに手をかける。  
「は、早くぅっ!!!!」  
「ま、待ってんのよ!シールケ!!絶対無事で待ってなさいよっっ!!!!」  
大きな瞳に涙を湛えながら、イバレラは背を向け精一杯のスピードでフローラの元へと  
飛んで行った。  
 
「‥う…イ、イヤ、イヤぁぁっっっ…!!」  
ほの暗い森の片隅に、幼く力のない声が哀しく風に消されて行く。  
4〜5匹の醜悪なものが、小さなシールケを取り囲んでいた。  
 
シールケの腕を掴んだトロールは、生臭い息を荒立たせながら、躊躇無くシールケの  
ローブを引き裂き、その躯を冷たい地面へ横たえた。  
「…イ、イヤぁ…触‥るな、触らないでぇぇ!!  
…だれか、だれかぁーーっっ!!!御師匠様ぁっ!!イバレラぁっっ!!!」  
ギチギチと気味の悪い笑い声が辺りを包み、トロール共は小さなシールケに覆い被さった。  
「ひあぁっっ!!…イ、イヤ、イヤぁぁっっっ…!!!たすけて、イヤぁーーーっっ!!」  
重く痺れた腕で抵抗を試みるも、虚しく宙を斬るだけだった。あっと言う間に身包みを剥がされ、  
幼い肢体が露わになる。溢れ出した涙で周囲が滲んで行く。  
味見とばかりに、トロール共の異臭を放つ幾条もの舌が、まだ青く瑞々しいシールケの躯を  
這いずり回った。  
「…あぁうっ…ひ、ぐぅう…ふぁ、あぁあぁぁっっ!!」  
しなやかで真っ直ぐに伸びた足も、兆しを見せ始めた2つの淡い膨らみも、その頂にある  
可愛らしいピンク色のぐみの実も、ざらついた舌で、汚らしく臭い唾液に穢されて行く。  
「‥ひぅっ!…うぅっ!!…あぁうっ……た、たすけて‥だ、れか…」  
 
ふと、トロールの1匹がシールケの持っていた布袋に鼻を寄せ、袋の中の野苺や山葡萄を  
嗅ぎ付けた。そして力任せに布を引きちぎり、シールケの躯に中身をぶちまけた。  
シールケに覆い被さっているトロールが、目の前で山葡萄の一房を潰し、滴る果汁を躯に  
零して行く。  
(‥うぅ…私…食べられてしまうんだ…)  
甘露に群がる蟻の様に、黒く醜い異形のものどもが、幼女の躯に群がった。  
──ぴちゃ‥ぴちゃ…ちゅ、ちゅちゅ…ぺちゃ、ぺちゃ…  
「うあぁぁっっ!!‥ひ、ひぃぃん……イヤだぁっ‥イヤぁぁっ…!!」  
涼しげな虫の声は、か弱い悲鳴と、粘りと熱のこもった水音とに掻き消されて行く。  
果汁の味が気に入ったのか、周りのトロールも果物を潰し、果汁を躯に塗りたくり舐め上げる。  
腋の下や臍など、少しでも窪みのある部分は果汁が溜まるので、執拗に舐められる。  
「くぅっ…!‥は、うぅぅんっ…!!」  
あるものは小さな突起が気に入ったのか、シールケのいじらしい乳首に音を立てて吸い付き、  
唾液にまみれた太い指でくりくりと弄び、摘み上げ、舌で転がして行く。  
「はぁ…あぁ……う…」  
気に入った玩具でずうっと遊ぶ子供の様に執拗に、シールケの2つの突起を責め立て続ける。  
その刺激に耐え切れず、それはささやかながらも存在を主張し始めた。  
 
「…っひゃあぁっ!!…イ、イヤ、イヤぁぁっっっ…」  
トロールの1匹が、細くすんなりと伸びた足を、黒く毛深い両肩にかけ、未だ誰にも見せた事の  
無い、性を知らない幼い少女の恥ずかしい部分を開き、無遠慮に覗き込んだ。  
「イヤぁっ、イヤあぁっっ!!おし、御師匠さまぁっっ!!…だれかぁぁぁぁっっっっっ!!!!」  
──くちゅ‥くちゅ、ちゅぷっ…ぴちゃ、ぴちゃぴちゃ…  
果汁を舐め尽くそうと、まだ何にも覆われていないシールケの幼い割れ目を割り、舌を這わせた。  
密やかに閉じたそこを太く汚い指で押し開き、ざらついた長い舌が、皮膚が薄く敏感な襞を丁寧に  
舌でなぞって行く。  
「く、ぅああっっ…ふ、あぁぁん!イヤぁぁっっっ…!!」  
びくん、とシールケの躯が跳ね上がった。長く粘った舌が、割れ目の上の幼い核をも弄び  
始めたのだった。  
「…ひ、ぐぅう…あぁぁっ…だれか‥だ、れ‥かぁ……」  
臭くいやらしい唾液で、シールケの可愛らしい蕾を汚していく。トロールは突起の存在感が  
心地良いのか、舌全体でねぶり上げたり、舌先を尖らせてチロチロと突いたりしている。  
「…ふぁ、あ、あぁ‥うぅ…お、御師匠…さ、ま…」  
更にトロールは、シールケの小さなクリトリスを指で弄り、勢いよく擦り上げ、きゅうっと摘む。  
「あ、あああぁっっ…ふぅんっ‥は、はぁんん…!」  
幼いクリトリスはすっかり剥かれ、弾けんばかりに張りつめた芽を露わにしていた。  
そこに刺激が走る度に、シールケの意志とは関わらず躯がびくん、びくんと跳ねる。  
シールケは何とか腰を浮かせ粘りつく舌から逃れようとするが、小さなお尻を両手でしっかりと  
掴まれているので逃げられない。舌が離れると、今度は生ぬるい息が蕾にかかる。  
(‥く、うぅ…食べるなら‥いっそひと思いに食べれば良いものを…!!)  
シールケの思いや事実とは裏腹に、小さな花びらは唾液とは違った液体で潤い始めた。  
卑猥な水音は勢いを増して来て、たった一つの抵抗の砦にも甘い熱を帯びだした。  
冷たかった夜風がいつの間にか、ひんやりと心地良いものになっている。  
 
「ひゃうぅっっ!!」  
滴り始めた蜜が甘いのか、トロールはシールケの小さな蜜壺を探り当て、舌を差し込んだ。  
ぐちゅっ、ぐちゅっ、と熱く長いものが行ったり来たりし、シールケの躯の内を掻き回す。  
「‥はぁ、くぅ…ふぅんんっ…ぉ‥師匠‥さまぁ…」  
シールケを押し包む初めての刺激に、思考はだんだんぼやけ、刺激のみに集中して行く。  
「っああ!!‥い‥いた、いぃ…ふぅっ、はぁぁん…」  
トロールは、甘く溢れる蜜を更に掬おうと、いびつな指を突き立てた。  
いくら蜜を湛えていても、開通のないそこは太く汚い指には狭く、なかなか入って行かない。  
トロールは指を、ゆっくりと浅い所から出し入れし、口に運び蜜を舐めた。  
──…くちゅっ、くちゅっ、くちゅっ、くちゅっ‥ちゅぷっ……  
「はぁうっ、あうぅっ…あ あ あぁぁっ…」  
溢れ出る蜜の滑りに任せ、いびつな指をゆっくり挿入すると、舌で存分に掻き回されていた  
そこは、トロールの人差し指全てを、少しの抵抗を持って受け入れた。  
──…ちゅぷっ‥くちゅ‥くちゅ、くちゅ、くちゅ、くちゅ……  
「は‥ぁう、うぅ…んん…ぁあん…」  
幾度か内を掻き回し指を抜いたトロールは、少し紅に染まった指を美味しそうに舐めあげた。  
そしてまた蜜を掬おうと指を滑らせる。透明だった蜜が、少しづつ桜色に染まる。  
仄かな血の甘い臭いに惹かれ、数匹のトロールがシールケの下半身に群がり始めた。  
ゆっくり挿入されていた指も、今は激しく動き回り蜜を掻き出している。  
「っきゃああぁぁっっ!!」  
もっと蜜を掬おうと、1匹のトロールはもう一つの穴、シールケの後ろの穴にも指を差し入れた。  
 
「あぁうっ、いたい、いたいぃ!!」  
智慧の足りないトロールでも、流石にそのきつさに驚いたのか挿入した指をとっとと引っ込めた。  
しかし、血の滲んだ蜜の甘さを知ったトロールは、唾液と愛液でぬるぬるになっている指でもう一度、  
今度はゆっくり、シールケのアヌスに挿入した。  
「きゃあ、あああああっっ!!」  
小さな性器の周りの、穢れたぬめりを絡ませながらゆっくりと指は沈んで行く。  
「いたいぃ‥いたいよぅ…ひぐっ、うぅ…は・あぁぁ……」  
指を出し入れし、狭い内を探ってもそこから蜜は出なかったが、指の太さに耐え切れず染み出た血の  
甘さが、更にトロールを惹き付けた。菊花を象る淡い襞に、舌を這わせながら指を抽挿する。  
──くにゅっ、ぬるっ…ぬる、ぬる、にゅる、にゅる、にゅぷっ、にゅぷっ……  
痛みで正気を感じたのも束の間、また新たな刺激の波がシールケの思考を曇らせて行く。  
 
シールケの二つの小さな穴は、トロールどもの数本の指によって塞がれ、蜜を滴らせるスイッチと  
認識された核や乳首は、執拗に舌や指で弄ばれる。密やかに閉じていた青い花も今はすっかり  
淫靡に咲き乱れ、二つの小さな入口は、塞がれる事をねだるようにヒクつかせ、指を入れた途端に  
外の襞までもが絡まり付く様になった。  
「あ、あ、あ、あぅっ‥ふぅん、はぁ‥はぁうっ…」  
淫靡な水音は速さを増し、下腹部からの刺激の波が、尿意を伴って背骨を熱く伝わって来る。  
汚い指が躯の奥をノックする度に、シールケの頭は痺れ、躯との疎通を手放しそうになる。  
「‥あ、イヤぁ…おしっこが‥おしっこが出ちゃうぅ!!」  
シールケのいじらしい恥じらいなどは全くお構いなしに、トロールは蜜を吸い尽くそうと、  
ピンク色に染まった花びら全てに舌を這わせ、指で二つの穴を掻き回し、クリトリスを摘み上げる。  
──きゅうっ…くちゃっ、くちゃっ、くちゃっ…ぐちゅ、ぐちゅ‥ぐちゅ、ちゅっ…ちゅちゅ…  
「‥イ…イ、ヤぁ…出ちゃ‥うぅ‥出ちゃうのぉぉ……!!」  
尿意が刺激に集中している頭まで上り詰めた瞬間、シールケは全身を大きく跳ね上がらせ、  
勢い良く解き放たれた。  
──シャアアアアアアーーー……  
迸る泉に驚いたトロールは慌てて口を離したが、水の勢いが弱まって来ると口で受け、喉を  
鳴らして飲み干した。  
 
自身が果てた、と言う事を知らないシールケは、全身の倦怠感と、失禁による屈辱感から  
とうとう意志を手放し、何も考えられなくなってしまった。躯はもう動かす気力さえ無く、  
トロールの弄ぶままに揺れている。  
 
その時のそり、とトロールの1匹がシールケの頭を跨ぎ、地面に膝を付いた。  
シールケの頭を両手で掴み、トロールの中心にある、屹立した不気味な黒い物を  
小さな顔に宛う。  
「ひいっっ!!!」  
トロールは、目を逸らそうとしたシールケを押さえ付け、異臭を放つそれを容赦なく口に押し込んだ。  
「ぐうぅ!!うぐぅっ!!」  
しっかりとシールケの頭を掴み、ガクガクと腰を振り喉元まで突き立て、幼い口腔を犯す。  
ハァハァと荒く、生臭い息がシールケの顔にかかる。喉の奥に異物が当り、鼻と口の中に広がる  
異臭に何度も吐きそうになるが、出口は塞がれている。  
「ふぐっ、ぅえ‥ぐううぅぅ…!!」  
トロールの動きは激しさを増し、シールケの意識が途切れそうになった頃。  
「ぐうううううっっっ!!!!」  
夥しい量の苦く、青臭いものが口腔内に迸った。トロールが果てたのだった。  
それは口の中でビクッ、ビクッと2〜3度爆ぜると、粘液の糸を引いて抜き出された。  
「ぅえええええっっ‥げほっ、げほっ!!ぅぐうっっ…」  
シールケは直ぐさま、込み上げる胃の内容物と共にその粘液を吐き出した。  
 
「…はぁ、はぁ‥‥っうぇっ、ぐうぅっ…」  
吐き出しても吐き出しても臭いと粘液は口内に残り、その所為でまた胃から込み上げて来る。  
しかしまた、別の1匹がシールケの頭を鷲掴みにし、吐く暇を与えず一物を口の中に突っ込んだ。  
「ふぐううううぅぅぅぅっっっっ!!!!」  
1匹が果てたらまた1匹と、トロールどもは代わる代わるシールケの口をも輪姦して行った。  
白濁した粘液を吐き出す気力もだんだん薄れて行き、精液を口の中に湛えたまま、次のものを  
くわえさせられて行った。  
 
 
トロールどもは休ませる事無く、蜜を求めシールケの小さな2つの乳首とクリトリスに淫らな  
刺激を与え続けた。首から上の苦痛を忘れそうになる程、頭の上からつま先まで絶えず  
シールケを覆う刺激の波に、幼い躯は何度も何度も果て、その都度淫水を迸らせた。  
 
淡い恋心さえ抱いた事もなく、ましてや愛と言う名の下に本能で為される営みなど知る筈も無い  
幼い少女が、醜悪な異形のものによって輪姦され、穢され、果てていた。  
 
あるものは甘露な蜜を求め、またあるものは自身の欲求を満たそうと、幼い躯に密やかに  
息づいていた穴と言う穴は、醜くいびつなものに押し開かれ、塞がれていた。  
経験した事の無い刺激に躯は敏感に反応し、求めるままに蜜を迸らせているが、意志との疎通は  
そこには無い。心はずたずたに引き裂かれ、思考は最早形にならずただの散漫な霧に過ぎない。  
 
清潔で瑞々しかったシールケの肢体は今や力無く、トロールどもの臭い粘液に覆われ、  
黒い塊の中、月明かりに鈍く反射した青白い躯を怪しく揺らしていた。  
 
 
「きゃあぁぁぁぁぁ!!!シールケェ──────!!!!  
フ、フローラッ…フローラあっっっっ!!!!」  
闇に包まれた森の中、イバレラとフローラがやっとシールケを探し当てたのは、己の欲求が満たされ、  
蜜も枯れた玩具に飽きたトロールどもに置き去りにされた後だった。  
賢く素直な少女だった面影も失い、かろうじて息はしているものの、死ぬ事も生きる事も判らない  
只の生き人形になっていた。  
「‥シ…シール‥ケ‥」  
我が子同然に愛しんだ子の残酷な姿に、老女は力無く崩おれた。  
「シ‥シールケェ?!しっかりしてよ!!…うわあぁ───っ!!!」  
イバレラは泣きじゃくりながら、シールケの頬を叩くが、反応は無い。俯せになっているシールケは、  
細い腕を力無く横に投げ出している。あどけない顔は片頬を土に載せ、半分開いた唇は色味を失い、  
白濁した粘液を零して震えている。涙はすっかり涸れ果てた様子で、焦点の定まらない濁った瞳は  
宙を彷徨っている。  
「ああ!可哀想なシールケ!!私の大事な安らぎ…!!だからあれ程念を押したのに…  
この惨い運命から、私の微かな力じゃ貴女を助けてあげられなかった!!!!」  
涙ながらに掻き抱いたシールケの体温はすっかり低下し、瑞々しかった皮膚は泥と黒い毛にまみれ、  
乾いた粘液でがさがさになっていた。  
「シールケ…シールケェ……うぇぇ…ごめんねぇ〜‥うえぇ〜……」  
フローラは、自身の鱗粉をシールケにかけようとしているイバレラを遮った。  
「…家に戻ってからに‥しましょう…」  
そう言って、肩に掛けていたケープでシールケを包み、しっかりと抱いて家路を急いだ。  
 
 
館に戻ったフローラはシールケの躯を丁寧に清め、イバレラの力も借りて、シールケの傷もすっかり  
治した。フローラもイバレラも、眠り続けるシールケの傍を、昼も夜も離れずにいた。  
 
3日経ってもシールケが目覚める気配は無く、イバレラは不安と焦燥に駆られていた。  
しかしフローラにそれは微塵も感じられず、シールケを優しく覆うこの部屋の空気の様に、  
ゆったりと柔らかく、落ち着いていた。  
「‥ねェフローラ…シールケ、このままずっと眠ったまま‥なんて事は無いよね…?」  
悲しみに満ちた瞳を向け、イバレラはフローラに尋ねた。  
シールケのベッドの傍らの椅子に腰掛け、分厚い魔術書を読んでいたフローラは、視線を  
読みかけの本からシールケに移した。  
「…大丈夫よ、イバレラ‥。  
この子は強く、賢い子だもの…きっとまた私達に、笑いかけてくれるわ…。」  
大きな窓から、この部屋に差し込む穏やかな光の様に、フローラは静かに答えた。  
───フローラは、何故こんなにも静かでいられるのだろう?  
───何故、シールケを酷い目に遭わせたあいつらを消しに行かないのだろう?  
うじうじと考え込む事の出来ないイバレラは、自身の無力さと罪悪感を苛立ちに変え、  
とうとうフローラにぶつけてしまった。  
「フローラ!!フローラはあいつらが憎くないの?!  
あんたの力を持ってすれば、あんな弱っちい奴らなんて直ぐ消せちゃう筈でしょ?!  
何でそんな、腰が抜けた様に大人しくしてるのさ!!!  
これ以上あんたが何もしないんだったら、アタシがあいつらを殺しに行ってやるっ!!!」  
激しい怒りに小さな体を震わせながら、イバレラは涙を流して一気に捲し立てた。  
 
「どうなのよ、フローラ!!  
何とか言いなさいよーーー!!!」  
突然の事に些か驚きながらも、イバレラの感情を全て汲み取ったフローラは、ほうっ、と大きな  
溜息を1つついた。そして座って居た椅子からゆっくりと立ち上がり、イバレラに背を向けながら  
答えた。  
「…悔しく無い訳がありませんよ…私のたった一つの日溜りをこんな酷い目に遭わせて…!」  
イバレラは、フローラの声に恐怖を感じた。  
穏やかに答えているその底に、今までのフローラからは感じられなかった仄暗さがある。  
「しかし、ほんの少し、あとほんの少し待てば、強力な力がやって来るわ…  
そしてこの子自身が、あれら全てを消し去る手助けをしてくれるでしょう。」  
「で、でも!!その前にフローラならっ…!!!」  
「…ごめんなさい、イバレラ。今の私の魔力では到底無理なの…。だから今は悔しくとも、時を待つしか術が無いわ…。  
その時まで、私が生きていられるかどうかは判らないけれど…あれらは必ず滅ぶでしょう…」  
「フローラ…」  
 
「‥さて、イバレラ。私はこれからこの子に、物忘れの術をかけなくてはならないの‥。  
この子はもうじき目覚めるわ。」  
「物忘れの術‥って、あれは…!!」  
───自然の理に反する術。  
イバレラは、後に続く言葉を飲み込んだ。  
物忘れの術───記憶を逆行させ、時間を遡る秘術。自然の理の内に身を置き、時間の流れに  
身を委ねて魔術を探求するフローラには、行ってはいけない筈の魔術。  
「ねえイバレラ、大事なのは、罪を犯す事ではなく、罪を犯すまいとして周りを見誤る事だわ。」  
願う事は、自分が罪を犯さない事ではなく、幼い少女の歩む未来。  
魔術師の禁忌を破ってでも、自分があの出来事を防げば良かったと言う後悔。  
柔らかく穏やかな空気を纏いながらも、愛しい少女に起った過酷な現実に、フローラの心は常に  
嘖まれていたのだった。  
「……そうしないと、この子が前に進む事が出来ないのが‥解るのよ…」  
 
 
「‥フローラ?ついでにアタシにも、その‥物忘れの術っての、かけてくんない?」  
「…!!」  
「だってさ、これから先…アタシ、シールケとずっと一緒に居るのなら、忘れてしまっていた方が  
お互いにとっていいんじゃないかなァ…な〜んてね。」  
「…イバレラ…」  
「フローラが言ってたじゃなァ〜い?『知らない方が良い時もある』ってさ!  
…だから…」  
「‥ありがとう、私の小さなお友達…。  
貴女に出逢えた事は、私とシールケにとって希望の光だったのね…」  
「な、何よ〜急にィ!ちょーしくるうわねー!!ホラ早く、サクッとやっちゃってくんなーい?!」  
「本当にありがとう、イバレラ…」  
二人は、柔らかい光の中で、穏やかな寝息を立てているシールケに目を向け、  
自分達もそっと両の瞼を閉じた。  
 
───────Fin  
 

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