……よけいなことを言ってしまった。  
礼拝堂の床に視線を落とし、ファルネーゼは胸の中で後悔する。  
視線のはじにはモズグスの爪先があってその声はさっきから  
彼女に顔を上げるよう、激しい調子で促しているが  
それをする勇気はとてもなかった。  
 
黒い剣士捕縛の任を解かれたことで、動揺していたのかもしれない。  
沈んだ彼女に優しげに懺悔するよう諭すモズグスに従い礼拝堂に入って  
あの日以来胸の中にあった思いを口にしてしまった。  
もちろんすべてを言ったわけではないし言えるはずもない。  
遠回しな言葉で自分の信仰心への疑問を口にすれば  
美しい言葉でそれを否定してもらえると思った。  
"神に身を捧げる正しい自分"を餞別にもらって  
安心して任を離れるつもりでいたのに。  
……そんなに悪いことなのだろうか。  
神の名の下に身を捧げる自分が  
奉仕に酔っているだけのような気がすることが?  
 
「顔を上げなさい、ファルネーゼ殿。  
自分の罪と向き合うことなく、なにが懺悔ですか!」  
それでも顔を上げない彼女の腕を、いきなりモズグスがつかんだ。  
驚く間もなく祭壇に突き飛ばされて腕をついた体が  
背後から抱えられて、臀部に打擲が加えられる。  
「!」  
「法王庁の、神の軍隊の団長という立場にありながら  
浅ましい欲望に身を投げ出すばかりか信仰をその言い訳に使うなどと!」  
尻を打たれる痛みと罵られる屈辱に涙が浮かんだ。  
しかし屈辱に耐える風を装っても、  
その屈辱感と痛みが自分に与える影響を認めないわけには行かない。  
こみ上がる涙と同時に、疼くような熱さが下腹部を満たしていくのが分かる。  
じっとりと濡れた感触は隠しようもなかった。  
……罵られて濡れるなんて。  
自己嫌悪の気持ちの一方で、そうした自分の浅ましさを思うことが  
さらに下腹部を熱くした。  
打たれる痛みは痛みだが、さすがに本気で打ってはいない  
ある意味単調な痛みは酔いに似たものさえ誘う。  
息をつめて耐えていたその痛みが途切れた瞬間、  
吐き出した息は陶然としたものになって  
ファルネーゼは我に返って目を見張った。  
次の瞬間、あきらかにそこまでとは違う本気の打擲が尻を打った。  
「ひっ」  
思わず逃れかけた体をつかんで引き倒され、  
祭壇の前に座り込んだファルネーゼの前にモズグスが仁王立ちになった。  
 
「……なんと罪深い」  
怒りの顔に怯えて逃げようとした腰をとらえて  
捕まえられたズボンが恐ろしい力で引きちぎられた。  
恐怖で声も出ず座り込んだ体の腕を引いて祭壇にもたれた形で正面を向け、  
開かれた足の間で、そこは隠しようもなく濡れて口を開けている。  
 
「懺悔すると言い信仰を問われながら、臆することもなく欲望に溺れる。  
おまえのような者が、神の軍団の象徴たる乙女を名乗るなどと」  
 
引き据えられたまま姿勢を変えることも許されず  
濡れた股間をさらしたぶざまな姿でモズグスの手元を見つめながら  
ファルネーゼは混乱の極みにあった。  
モズグスの手元には祭壇の近くから取り出した手箱と  
そこから取り出されたものがある。  
おそらくは水牛の角でできたそれは、艶めいて黒く光る張型だった。  
「なぜそんなものがと思っているのですね」  
人に似せてものを作るのは、教会で禁じられている。  
象った対象の淫らさを差し引いても、礼拝堂にあって良いものではない。  
「その通り、これは神の教えを伝える場所にあって良いものではありません。  
これは異教徒が快楽のために作ったもの、  
これ自体が神に背く悪魔の存在です。  
しかし、人の中には愛を以て諭されることでは自分の罪を自覚できない者、  
罰と苦痛なしには許しを請えない者が存在するのです。  
……あなたのように」  
「ここに手をついて四つばいになりなさい。  
あなたのすべきことは、懺悔して罪の赦しを願うことではなく  
あなたの成したことの罰を受けることです。  
獣の姿で悪魔に犯されることで、  
あなたの罪を償いなさい」  
 
促されるまま四つばいの姿勢をとって  
ファルネーゼは言われたことを理解しようと試みる。  
『……獣の姿で悪魔に犯される……』  
『あの、張型に』  
張型は大きく傘を開いて反り返り、その大きさはファルネーゼの  
拳ほどもあるように見えた。  
『入るわけがない。あんな……』  
「ひっ!」  
背後から異物を押し付けられて、ファルネーゼはやっと我に返った。  
さっきの行為で入り口は濡れているが、モズグスの叱責と恐怖で  
中はすっかり乾いてちじこまっている。  
冷たい彫刻は、違和感以外のなにも伝えなかった。  
それがぐいぐいと力任せに、開かれたことのない膣に押し当てられる。  
そこから引き裂かれる自分が目に浮かんで、  
ファルネーゼは一瞬息をのんだ。  
 
 
 

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