(――――っ?)
最初に感じたのは息苦しさ。
次に感じだのは体中に走る鈍い痛み。
酷くぼやけた頭で記憶を辿っていく…確か、自分はミルファと一緒に食料を買いに町へ出たはず。
楽しそうにはしゃぐテンションに困りながら、適当に話を合わせて森を歩いていた…。
(で、どうしたっけ?…ここはどこだろう)
重い体を起こそうと軽く唸りながら意識を戻していく。
強く香る甘い匂いと、自分を包む高価なシーツの肌触りがここが森じゃない事を教える。
森を歩いていた記憶まではあるのに、そこから先が思い出せない…。
その不自然さに不安なものを感じながら、目を開けようとした時笑う声が聞えた。
「あら、早い。―― もう意識が戻ったんですね」
聞き覚えのあるその危険な声に、背中が粟立つ。
痛む体を抑えて起き上がると、見たことの無い景色が広がっていた。
目に映るのは歩いていた森とは似つかない豪勢な部屋と、僕を覗き込んでいる一人の女性。
人間とあまり変わらない姿に愛らしい顔。
様子を伺うように頭の上でパタパタと揺れる耳…。
穏やかに笑う顔とは違って、彼女からは異常な程の死臭がする。
「ふふっ…まるで死にかけの金魚みたいですわね。パクパク口を開けて…可愛いお顔が台無し」
まるで鈴が転がるような可憐な声でコロコロと笑いながら、そっと僕の頬に優しく触れてくる。
長い経験が告げている。この空気を出している時の魔人が一番ヤバイ。
油断したり彼女が出している微かな殺気に気付いた時、僕は一瞬で殺される。
ぼやけた頭を必至で動かしなるべく冷静に振る舞い、頬に触れている手を丁寧に下ろした。
「…ここは、どこですか?僕は、仲間と森を歩いていたと思うんですけど」
僕の問いかけを楽しそうに受け入れながら、彼女は満足そうにクスリと笑う。
まるで心の中にある怯えや恐怖を見透かしたような目で僕を見ながら、そっと指を絡めてきた。
「ごめんなさい、ここは私のお部屋。ちゃんとお招きせずに連れて来てしまって驚かれたでしょう?
少し強引に連れてきてしまって、お二人とも目を覚まさないから…少し心配してましたの」
細い指でゆっくりと僕の指を擦りながら、女性らしい仕草で甘えるようにもたれかかってくる。
その言葉に自然とシワを作る僕の眉根をそっと撫でて、彼女は口元で甘く囁く。
「もう一人の方が心配ですか? ――――お会いになりたい?」
用心深く頷くと、彼女は笑って僕に軽く口付けた。
そして指をパチンと鳴らすと、ベットの後ろにある鏡が水のように歪んで、別の場所を映し出す。
モニターに映るのは、同じような部屋でベットに横たわっているミルファの姿。
呼吸する度にゆっくりと上下する胸や、健康的な肌の色が彼女が生きている事を教えてくれた。
横にいる魔人に気付かれないようにほっと胸を撫で下ろしていると、彼女はモニターを
うっとりと見つめて、そこに映るミルファの体を撫でるように指を宙に這わす。
「可愛らしいでしょう?まるで眠り姫のよう…。バカみたいに煩い方は野蛮で嫌いですけど
眠っている時の彼女は私の好みですわ。――でも、一番のお気に入りはあなた」
寒気を感じるほどの艶と殺気のある声を出して、彼女はゆっくりと僕を眺めた。
ここで選択肢を一つでも間違うと、僕とミルファは間違えなく殺される。
震える喉を必至で押さえ、逃げ出したい気持ちを隠し、彼女の視線にまっすぐな目で応えた。
何かを吟味するように静かに見つめる瞳に、怯む事無く静かに見つめ返す。
―――― 凍りついたような静かな時間が流れた後、可憐な容姿からは想像できないような
残酷な笑みを浮かべて僕の首筋にスルリと手を回した。
「…合格、ですわ。やっぱりあなたって、とても可愛らしい」
嬲るように笑いながら、彼女は僕の首筋 ―― 正確には首にある血管を軽くなぞっていく。
甘くて怖い…狂気にも似たその柔かい指の動きに息を詰めると、彼女は楽しそうに僕の頬を舐める。
ペロペロと味わうように舌を動かしながら、頬から瞼、鼻筋、耳、唇に軽く歯を立て噛み付いた。
軽い痛みと微かな快楽に身を震わせると、優しい手つきで僕の髪を掻き上げながら
熱の篭った目で、僕が震える様子を眺める。
うっとりとした表情で笑いながら、撫でていた手を止め、恐ろしい程の力で髪を引っ張ってきた。
「―――――――― いっ!!!!」
ブチブチと髪が抜ける音と頭部に広がる激しい痛みに、驚く暇も無くベットに押し倒される。
自分の指に絡まる僕の髪を愛しそうに眺めて、彼女は僕の上に跨るように座り笑みを零す。
まるで獲物を食べる前の蛇の目―― そんな表情で僕を見ながらペロリと自分の唇を舐めた。
「ふふっ…とても綺麗な髪をしてらっしゃるんですね。魔人に愛されるのも一つの才能…素敵ですわ」
「なに、を………」
「あら? 男女がベットでする事なんて分かりきっているでしょう?私では不満かしら…。
あなたがダメなら、眠り姫にお相手願おうかしら?煩くて喚けば、殺してしまうかもしれませんが
眠っていれば、彼女のお顔も私好みですし」
この状況から逃れようと必至に動かしていた思考が停止する。
彼女が口にした言葉は、ミルファの死刑宣告と同じ意味だった。
羽を一枚一枚もぎ取り逃げ場を無くしていくように、クスクスと笑いながら僕を眺める。
「大丈夫ですわ…。私、無益な殺戮は好まないんです。
あなたが私の暇つぶしに付き合って下されば、あなたも眠り姫さんも仲間の元に返してあげます」
いたぶるような甘い言葉で希望を持たせて、彼女は獲物である僕を絡み取っていく。
魔人とは思えない細くて小さな指で、舐めるように僕の体をなぞった後そっと手を絡めてくる。
上に跨ったまま、楽しそうに僕の指で遊んだ後、おもむろに僕の手を自分の胸元に押し当てた。
「――――っっ!!」
今自分が触れている肌は、魔人の固い皮膚ではなく人間の女の子と同じ柔かな感触 ―― 。
驚く僕にクスクスと笑いながら、僕の指を動かし乳房を揉むように誘導する。
動く指に合わせて柔かく沈んでいくマシュマロのような乳房や、短く漏れる吐息に目眩がした。
ありえない感触に動揺する僕を見下ろしながら、僕の指を動かして彼女は笑う。
「驚きました?魔人と一言で言っても、色々な種族がいるんですよ…体の構成も、ほら」
そう言いながら彼女はドレスのファスナーを下ろし、高級そうな上着を脱ぎ捨てた。
現れたのは見とれる程綺麗な白い肌と、プルンとした形の良い乳房…。
乳房の上についている桃色の突起も、驚くほどくびれた腰のラインも人間と何一つ変わり無い。
下から見えるその絶景に、恐怖を感じる理性より男としての本能が反応する。
ゴクリと喉を鳴らす僕を満足そうに見つめて、彼女は白い肌を僕に擦り付けてきた。
「―― ふふっ、そんな可愛らしいお顔で必死に見なくても。これからゆっくり、と…」
可愛がってあげますわ―― と、耳元で甘く囁きながら彼女は軽く噛み付いてきた。
まるで悪魔のようなその蠱惑的なセリフと、服越しから感じるその柔かい素肌の感触に
惹かれるように、僕は自然とその体に腕を回した。