「ここはすっかり春ね」
ぼんやりと空を見上げて、フェイがぽつりと呟いた。
捕らえた賞金首なら、気絶したままピクリともしていない。
――となれば、言葉の矛先は自分以外に考えられなくて。
「そうだな」
咥えていた煙草を一旦指先で摘んだスパイクは、
煙を吐き出すついでに適当な相槌を返しながら、いつからこうしているのかと考える。
『よくやったぜ、スパイクにフェイ。迎えに行くから、そこで待っとけよ』
二人掛かりで捕らえた首を報告した際。
迎えに行くと告げたきり、通信機は沈黙を保ち続けている。
青かった空は次第に茜色を帯び始め、気付けば東の空には闇がやって来ようとしていた。
冬に比べて日は長くなったとは言え、夜も更ければ寒くもなる。
それでも、待ち侘びる迎えは来る気配すらもなく。
何かあったのかと心配する気持ちよりも、そろそろ暇を持て余すにも飽きてきた気持ちの方が強い。
「でも、やっぱり寒いわね」
「……ま、その格好だからな」
それはフェイとて同じことだったのだろう。
お天道様が燦々と輝いていたときには、確か『暑いわね』と言っていた。
そして自分は確か『その格好でか?』と返した気がする。
昼間交わしたはずの会話を、夜バージョンに切り替えて同じ話題を繰り返される。
「こんなイイオンナが寒いって言ってんのよ。どうにかしたらどうなの」
「薄着のお前が悪いんだろ」
シュールな会話が不思議と可笑しくて。
くっくっと喉の奥で笑ったスパイクが再び煙草を唇へ戻せば、再び沈黙が訪れた。
「……男なら、抱き締めるとか何とかしてみせなさいよ」
紺碧の宵闇が、二人のカウボーイと一人の賞金首の頭上へとやってきた頃。
小さな声が耳に届いて、煙草を取り出そうとしていたスパイクは視線を動かした。
こちらを見ていないフェイが、二の腕を摩って寒さを凌いでいる。
「へいへい、仰せのままに」
吸おうとしていた煙草を仕舞い込み、そっと立ち上がってフェイの後ろに回った。
青いジャケットを露わになっている肩口に掛けてやった後、彼女に覆い被さるようにして抱き締める。
フェイは自分の胸の前で交差された逞しい腕へ、一度視線を落として。
しかし、そこに手を添えるでもなく煙草を一本取り出すと、黙ったままで口に咥えた。
暮れ始めた夜の中――
フェイが吸う煙草の煙と、愛情とも呼べぬ冷めた感情が、二人の間にゆらりと揺蕩っていた。