「………雨」
窓に目を向けて、女が物憂気に呟く。
男はその顎に手を寄せ、ぐい、と自分に向けさせた。
「お前は私だけを見ていればいい…外なぞ見るな…」
そのまま貪る様に口付けて、ベットに座っている女の服を手早く剥ぎ取る。
自分の服をもどかし気に脱ぎ捨て、そのまま男は女の上に覆いかぶさった。
量感のある胸を揉みしだき、その肉体に快楽を与えるため指を這わせ。
強く、淡く、指と舌と唇を使い、女の身に熱を与えようと煽る。
その指も、舌も、唇も、熱が篭っている筈なのに、冷たい感触に思えるのは何故だろう。
女の体が反応を返し、甘い喘ぎを上げ、男の首に腕を絡ませる。
しかしその頭の隅はどこか冴え渡っていて、心は窓の外の雨雲の上にある青空を思い描いていた。
ーーー空の彼方に手を伸ばしたら、この身が吸い込まれてしまえばいいのに。
そうしたら、こんな生活に別れを告げる事ができる。
うつし世が夢ならば、どんなに楽だろう。
だが全ては永遠に終わらない。
女はどこまでも堕ちていく。
「…ジュリア…何を考えている…」
「…何も……いえ…貴方の事を…ん……っ!…」
唇から、欠片も思っていない言葉がすらすら出て来る。
一瞬片眉を上げた男の目が氷の様に閃いた。苦々し気に笑って首を振る。
「嘘を付いている事ぐらいすぐ判るぞ。…せめて最中ぐらい、私の事だけ考えろ」
そのまま男は、濡れているジュリアの秘裂を自分の肉茎で割り裂いた。
奥まで貫かれ肉壁が戦慄く。
挿入の衝撃に、息を詰めてジュリアは耐えた。
その顔を面白そうに眺めた男は、その肉の奥の奥まで容赦なく蹂躙していく。
短く息を吐きながら、懸命に与えられる熱をやり過ごそうと試みる。
それを嘲笑う様に、男は知り尽くした女の弱点を責め立てて来た。
どんなに抵抗をしても快楽に飲み込まれ、心が望まなくても膣中がざわめき立ち、男の槍を受け入れ蠢く。
外では叩き付ける様に、雨が窓目がけてその身をぶつける。
きっと、窓の外では雨が土を潤し、草木は歓びの歌を奏で、鳥達は巣の中で安らいでいるだろう。
全てが自由で思いのまま。思いのままにならないのは、神様の思し召しに叶う事だけ。
そして窓の中では、何一つ思いのままにならない女が、全てを思い通りにしようとする男に服従を強いられる。
心の中で、『自由になりたい、自由を感じたい』と叫びながら。
全てを知って嘲笑うかの様に、男が唇を合わせて来た。
口腔の奥まで侵入し、逃げようとする舌を絡め取って吸い寄せる。
舌までもが、自由を許さないと言う様に。
「言うんだ…俺を愛していると」
そう言いながら男は抽送を早め、さらに指で陰核を捻り上げた。
ジュリアの身体が刺激に跳ね上がり、快楽の大きな波に飲み込まれて行く。
愛していない事を知っていながら、愛を告げろと言う男。
自分からは、愛の言葉を言った事も無い癖に。
…言いたくない。
でも、言うまでこの身は解放されないだろう。
つかの間の自由と引き換えに、望まぬ呪詛を唱えさせられる。
だれか。
誰か、私をこの籠から出して。
それが無理なら、せめてこの男の関心を私から引き剥がして。
誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か
子宮口の奥から引き絞られた様に肉壁が痙攣し、限界を男に伝える。
男の口元が酷薄そうに歪み、耳に噛み付く様に囁く。
「…言え」
観念した女は深く息を吸い込み、ため息まじりに言葉を吐いた。
「愛しているわ………ヴィシャス…」
そのままジュリアの身体は快感の渦に飲み込まれ、指先まで痙攣を起こしながら達した。
同時にヴィシャスも、何度か深く肉茎を差し入れながら、その奥に白濁を流し込む。
愛してもいないのに愛を強請り取られ。
愛してもいない癖に、深い快楽に肉だけが溺れていく。
肌を合わせれば合わせるほど、ジュリアの身の奥は凍り付いて行く様だった。
外の雨は、激しくうなりを上げて嵐に変わり始めている。
それは今のジュリアの心の叫びにも似ていた。
<END>