Vol.1
辺りを朱に染めていた夕陽が燃え尽き、ゆっくりと夜の帳がおりた。
漆黒の闇夜を彩る無数の星々は、今の私達を嘲笑するかの様に煌々と輝いている。
私は星の階段を駆け登り、きらめく夜のステージに上がった。
白鳥座の優雅な舞を真似て、軽くステップを踏む。私のダンスに合わせて、こと座がワルツを奏でる。
三拍子のリズムで運ぶ足元には、星屑の軌跡が足跡の様に残って行った。
大勢の小さな観客に混じって、わし座がくるくると頭上を旋回している。
私は星空の舞踏会で、暫しの間、ダンスを楽しんだ。
ふと、蠍座が私を見つめているのに気が付いた。悲しそうな寂しそうな瞳で、私を見つめているのだ。
それよりも私の目を引いたのは、蠍座の腹部でギラギラと鈍く光る赤い星だった。
(あの星は……何かに似てる……何かに……。)
「カ……カテリーナ。」
意識が夜空のダンスホールから、悲鳴を上げている車へと落下して行く。
赤い星に魅せられていた私を、隣の男が現実に引き戻した。
目を開けてすぐに飛び込んで来たのは、赤い星だった。
車のフロントガラスに、一対の赤い星が映っている。
(あの星は……彼に似てたんだわ……。彼の……目に……。)
私の彼──アシモフ・ソーレンサン──は、
真っ赤に充血した目で車を運転していた。
全身が小刻みに痙攣していて、額は脂汗でじっとりと濡れている。
やはり副作用が大きいのだろうか。
肉体、反射神経、そして動体視力を極限まで引き上げる代わりに、
使用者の身体を蝕む悪魔の薬”ブラッディアイ”。
私との約束を守る為、アシモフは悪魔と契約を結び、組織から追われる身となった。
苦痛に歪むアシモフの顔を見る度、私は胸が苦しくなる。
(罪悪感?いえ……違うわ……。もっと別の……。)
「カテリーナ……。もうすぐ……モーテルに着く……。」
「……ええ。」
アシモフの赤い目を見れずに、私は目を逸らしながら呟いた。
私の口からこぼれた呟きは、車のエキゾースト音に掻き消され、虚空へと霧散して行った。