黄金色の地平が、吹き付ける風を形に変えて見せる。  
 止め処無く流れ出る汗を拭いもせず、男は広大な麦畑を眺めていた。今の時代、農作業もオート化  
が進み、人の手が必要になるのは細かな調整部分のみだ。それでも作物の育成具合は己の目で見極め  
ねばならない。散布する農薬の種類や量、刈り入れのタイミングなどを判断するのは人間の役目だ。  
「…でも、昔はコレ、みィーんな人の手でやってたんだよねェ……」  
 とてもじゃないが信じられない。男は自分の浅黒い腕を見つめた。日に焼けている訳では無く、彼  
の肌は元から黒い。  
 信じられないと言えば―――と、男は己の過去を思った。  
 二年前の自分は、今の生活を予期していただろうか…?  
 
 
 保安官の衣装。  
 軽薄な色で、所々ほつれて。生地だってペラペラだ。  
 こんなものを着込んで勇壮な気分になれるような奴など人類に、いや異星人にだっていやしない。  
「それでもいいさ。お気に入りだよ」  
 みすぼらしい口髭の、黒い肌の男―――鏡に映る自分―――に言い聞かせる。せめてこの宇宙に自  
分だけでも、このみっともない衣装を誇りに思っても良い筈だ。  
「賞金首とカウボーイがいる内は、番組も安泰だと思ったんだけどねェ…」  
 番組進行の保安官役。それが自分の、役者としての最後の仕事。男は溜息をつかずにはいられない。  
まあ、いいさ。売れない役者の最後なんて、どうせこんなモンさ…。  
「ねーえ?」  
 開けっ放しにしておいた楽屋のドアがノックされた。少々歳のいった、それでも充分美人の範疇に  
含まれるであろう女が顔を覗かせていた。  
「どお? 一緒に飲もうと思ってくすねて来たんだけど」  
 そう言って、ワインとグラスを掲げてみせる。男と同じく番組進行の、保安官助手の女だ。  
 
「お、い〜ねェ! 最高の締めくくりだね」  
「まだ打ち上げがあるけどね」  
 テーブルの上の雑多な小物をどかし、グラスにワインを注いだ。それぞれグラスを目の高さに掲げ  
て見せる。  
「では。番組終了、ご苦労サンッて事で…」  
「カンパァーイ!」  
 チン…、と、軽く打ち付けたグラスが妙に寂しい音色を奏でる。タイミングを合わせたように、二  
人同時に薄桃色の液体を飲み干した。  
「…安物、ね…」  
「まあ、仕方無いよ。飲める酒があるだけ幸せってモンさ」  
 そうだろ? そう思えよ。男は自分の胸に向かって呟いた。  
   
 BIG SHOT。賞金首の情報を専門に取り扱う唯一の番組。  
 視聴者層の限られた番組は往々にして短命だ。例に漏れずこの番組も、たった今終えた収録分で放  
送終了だ。それと同時に、男の俳優人生も終結を迎えた。  
「ねえ、次の仕事は決まったの?」  
 女は開け放たれていたドアを閉めた。廊下から微かに聞こえていた周囲の雑音が消える。  
「いやぁ…役者はもう廃業だよ。ドコからもお声がかからなくてね」  
「あら、それじゃあたしと同じなのね」  
「ええっ? 僕はともかく、君はまだまだ―――」  
「それがね…」  
 女は深々と息をつき、二杯目のワインを飲み干した。  
「仕事があるにはあるんだけど…もう若いってワケでもないから、もっと露出する方向でないとダメ  
みたいなの。でもそこまでしてこの仕事続ける気ないのよ。このカッコだって恥ずかしかったのに」  
 大きく胸元の開いた保安官助手の衣装。視聴率獲得の手段の一つではあったが。  
 
「どうせあたしが脱いだって売れるワケでもなし…」  
「いやいや、そんな事はないよ。ホラ、君が急病で出れなくて僕一人でやった回! ただでさえ低い  
数字が半分に―――あ、いや、別に脱ぐのを勧めてるんじゃなくって…」  
「解ってるわよ。ありがと」   
 慌てて弁解する男を、女は目を細めて見つめた。男も微笑を返す。  
「いやでもホント、君のお陰で楽しかったよ。こんな美人と組めたんだ、役者になって良かった」  
 男もワインを飲み干す。一瓶のワインは瞬く間に無くなった。  
「俳優辞めて、その後どうするの?」  
「う〜ん…実家が麦畑やっててね、親父が継げ継げうるさいんだ。嫌だから断ってたんだけど、その  
親父もそろそろ危なくてね。ま、夢破れて帰郷って事になるなァ。……君は?」  
「あたしはどうしよっかな…。やっぱりポルノ紛いの仕事やる事になるのかも」  
 女は肩を落とし、何やら意味ありげに上目遣いな視線を男に向ける。  
「…でも確か君、ポッドの免許持ってたよね? ならその方面の仕事は結構あるんじゃないの?」  
「ん〜…あたしのは宇宙に出れないヤツだから、どうかしら…」  
 ふと、女は沈黙する。頭の中で、何か猛烈な勢いで言葉を選んでいるようだ。  
「ねえ、今まで特に言ってなかったけど…」  
 一歩、男に近づく。  
「あたし、ファンだったのよ。あなたの」  
「え? 僕の…?」  
 意外な言葉だったようだ。男は本気で驚いている。  
「あー、いや、嬉しいけど…ファンになってもらえるような仕事、やったっけなァ…」  
「主演映画があったじゃない。素晴らしかったわよ」  
「ああ、アレ? そんな事もあったっけねェ…」  
 惚けた事を言いつつも、男はハッキリと覚えていた。売れない役者にもそんな時代があったのだ。  
 
 一人の若者が世の理不尽に怒り、立ち上がり、誰一人理解する者もいないまま、それでも力の限り  
闘い―――敗れる。そんな内容の、辛気くさい映画だ。全身全霊を尽くしてやり遂げた仕事だった。  
世間の評価は限りなくゼロに近いものではあったが。  
「そうかァ…いや、ありがとう。今までの全てが報われたよ気分だよ」  
おどけるように片目をつむって見せる。その仕草は如何にも滑稽で愛嬌に満ちてはいたが、それが  
かえって底冷えするような空気を招いた。明るい笑顔であり過ぎたのだ。  
「ね、あたし達、今日でお別れなのよね…?」  
「…そうなるかなァ。でもまあ―――」  
 そのうち逢えるさ、そう言いかけた男の頬に女の手が伸びる。  
「だから……しない?」  
「え?」  
 女の頬が微かに赤いのはワインのせいだと思っていた。女が合成革のスカートの下に手を差し入れ、  
するりと下着を脚から抜き取るのを見て、ようやく男は「しない?」の意味に気付く。  
「……えぇえ!?」  
「気が乗らない?」  
「いや、そうじゃないけど…今そんな話だったっけ?」  
 男は二、三歩あとずさった。  
「ファンだって言ったでしょ」  
「いや幾らファンでもね、こういう事は…」  
「そんなに構えないでよ。脈絡なんかないの。お別れの記念にチャチャッと一回…ね?」  
 男の浅黒い頬を、白い手が這う。男の咽喉がゴクリと音を立てた。  
「…そうだね、お別れなんだし。よぉし! 最後に一つ、ビッグ―――」  
 女の唇が言葉を遮る。軽く触れるだけの接吻。ごく間近で、青い瞳が笑った。  
「照れ隠しにしても、その冗談は最低よ?」  
「…ゴメン」  
 
 青い血管が僅かに浮き出るほどの白い乳房。大き過ぎず小さ過ぎず、男の好みのサイズだ。触れぬ  
内から硬く尖った乳頭を口に含み、乳輪の丸みに沿って舌を這わす。  
「ンッ……」  
 舌先で乳頭を転がす。手は女のなだらかな腹部を優しく撫でる。もう若くもないと言ってはいたが、  
汗で湿り始めたキメ細やかな肌は掌に吸い付くようだ。  
 息を詰めていた女が、それでもクスクスと笑い出した。  
「この衣装だとやり易いわね。簡単に準備出来ちゃう」  
 テーブルの上に上半身を横たえた女が笑う。確かに胸元をはだけて下着を脱ぐだけで臨戦体勢だ。  
そう言われると、下半身だけ裸になっている自分の姿は間が抜けている、と男は思った。  
「ねえ、下も触って…?」  
「あ、ハイハイ」  
 蕩けた声でねだられ、男は女の腹部を撫でていた手を下方へと這わす―――前に己の指を見た。  
 大丈夫。汚れてもいないし、爪だって伸びているという程でも無い。  
「じゃあ、痛かったら言ってね」  
「別にあたし初めてってワケでも―――」  
「いやいや、実はねェ」  
 吹き出す女に、男は困ったような笑みを浮かべた。  
「正直言って僕、こういうのもう何年もやってないんだよ。だから扱いにイマイチ自信が…」  
「…そうなの?」  
 男の額に汗が浮き出ている。その緊張具合に女は笑いの衝動を堪えた。  
「そんなに頑張らなくってもいいわよ。あたしも凄く久し振りだから、ほら…」  
 女の白い手が男の手を、自らの秘部へと導く。そこは既に独特の粘性を持つ露に満ち溢れ、尻の谷  
間をつたってテーブルの表面を僅かに濡らしていた。  
 女の脚の間に腰を落とし、ぬめりに指を滑らせながらもそっと押し広げた。天井の無機質な照明を  
受けてぬらりと光る濃いピンクの秘肉に舌を差し入れた。  
 
「…ッ…!」  
 声を押し殺す女を上目で伺いながら、裂け目に沿って舐め上げる。  
「…あっ…ね、ねぇ、なんか…ン……すぐイッちゃいそぉ…」  
「そう? 僕って意外にテクニシャン?」  
「…そういう寒いコト言わないの」  
「…ゴメン」   
 男の顔を引き離し、女は仰向けの身体を起こして向きを変える。テーブルに両手を置き、男に向け  
て尻を突き出した。  
「ちょっと勿体無い気もするけど、あんまり時間もないし……もう、入れて」  
 肉付きの良い太腿の奥、開ききった花弁から、トロリと愛液が滲み出すのが見えた。  
「じゃあ、入れるよ…」  
 くちゅ、と小さな音を立てて、先端をもぐり込ませる。ゆっくり、ゆっくりと突き入れる。  
「あ、あ、あァっ…!」  
 たまらず声を荒げる女。  
「な、なるべく声は…外に聞こえ―――」  
 と、男が言った瞬間、楽屋のドアが開いた―――!  
「え!?」  
「あ!?」  
「失礼しまーす! あのー、打ち上げの事なんスけど」  
 ドアから顔だけ出しているのは、番組の若いスタッフの一人だった。  
「記念撮影があるんで、衣装は…そのまま…で………」  
 テーブルに突っ伏した女。背後から覆い被さる男。それを横からのアングルで目撃したスタッフ。  
「………」  
「………」  
「………」  
 
 先に動いた方がやられる、とでも言うような沈黙の刹那。  
「―――あ、あのー、えーと、そう、八時からです、打ち上げ」  
 先に我に帰った若いスタッフがそれだけを告げ、自分の口をジッパーで閉じるジェスチャーをして  
から姿を消した。その後数秒、思わず止めていた息を同時に吐き出す二人。  
「…み、見られたかしら…?」  
「見えてないって事はないだろうけど。まあ、アイツ余計な事は言わないヤツだから大丈夫だよ」  
「……なら平気ね。続きしましょ?」  
「えぇっ!?」  
 半分程突き入れていた己の強張りを引き抜こうとしていた男は驚きの声を上げた。  
「み、見られたのに続けるの!?」  
「途中でやめられるワケないでしょ。サッサと済ませれば平気よ」  
「そ、そうかなァ…」  
「ほらぁ、早く! 入れたまんま固まってないでよ」  
「あ、ハイハイ」  
 
 
 表通りでタクシーを探す。打ち上げには少し遅れてしまいそうだ。  
「でも、この格好のままで行く事ないんじゃないかな。店に着いてから着替えて―――」  
「時間がないんだからしょうがないでしょ?」  
 保安官とその助手という格好で、果たしてタクシーが止まってくれるかは解らない。  
「後は、パァーッと騒いで…それでお別れね」  
「そうなるねェ…」  
 何となく立ち尽くす。タクシーは来ない。  
「今日は、ありがとう」  
 男は女に向き直った。  
 
「ホント言うと僕ね、落ち込んでたんだ。今まで頑張って頑張って、でも全然売れなくて。才能なん  
てなかったんだ、誰も望んじゃいないんだってね」  
 通り過ぎる車のライトが、滅多に見せない男の真剣な表情を照らし出す。  
「でも君がファンだって言ってくれて…ホントに嬉しかった。今までの全てが報われ―――」  
「それさっきも言った」  
「あ」  
 真摯な表情が崩れた。二人して、たまらず吹き出す。  
「あ〜あ、キメのシーンだったのに…リテイクしてもいいかな?」  
「ダーメ。今のがラストよ」  
 女が笑う。眉を顰めるような微笑みだ。  
「今のでいいわ。湿っぽいラストより、ずっといい。どんなに楽しい話だって、最後が悲しければ言  
われちゃうもの。悲しい物語だった…って」  
「…そうだね」  
「歩きましょ? なんかタクシー来ないみたい」  
 寄りかかるように、男の腕を取った。そのまま歩き出す。  
 男の夢は今日終わった。女の前には望まぬ道が敷かれている。生きている限り続くこの舞台では、  
アクターはシナリオを選べない。  
「どんな役でも…」  
「え?」  
「いや、どんな事をしててもさ。いい事ってのは、必ずあるモンだよ?」  
「…本当に?」  
「ホント、ホント!」  
 男は笑いかけた。出来るだけ馬鹿馬鹿しく、出来るだけ滑稽に。  
 女は―――。  
 
 
 麦畑に駆け抜けるような風が吹く。男は目を細めてやり過ごした。  
 今頃彼女はどうしてるのだろうか? 女優を続けているのか、それとも辞めたのかも解らなかった。  
 あの時の女の顔は未だに忘れられない。笑っているようにも、泣いているようにも見えた。もっと  
気の利いた事が言えなかったのか? その思いは男の胸に、今も後悔となって疼き続けている。  
 あるいは、「君も一緒に来ないか」と言うべきだったのか。しかしあの時、女はそれを望んでいな  
いような気がした。根拠は何も無い。いずれにせよ、曲がりなりにも女優として生きてきた女を、今  
の生活には誘えはしなかっただろう。労力だけがかさむ、変化に乏しい毎日だ。  
 しかし、名も無い役者として生きていた頃に比べ、充実した日々である事は確かだ。ここで作られ  
る麦は人類消費のシェアの1%にも満たないが、それでも少なからぬ人々の元へ届く。その事実は自  
分という存在と社会との結び付きを強く実感させた。  
「それは、いい事だよねェ…?」  
 という男の呟きは轟音に掻き消された。男の頭上に中型の汎用ポッドが浮かんでいる。  
 市場に捨て値同然で流れていたところを買い上げたものだ。人員や器具の搬送、農薬散布と頼もし  
い戦力ではあったが、二世代前の格落ち品なのでとにかく騒音が凄い。  
『社長ぉー。 面接の人、もう来てますよー』  
 拡声器からの声が響いた。歳の割には農作業に対する情熱も深く、男の片腕として重宝されている  
若い従業員のものだ。  
「それ、なんだったっけーっ!!」  
『うぅわ、忘れてんですか! 自分で言い出しといて…』  
 汎用ポッドを操縦できるのはこの若い従業員だけだが、免許を持っている訳ではなかった。無免許  
だと何か事故を起こした際に重大な問題となる。正規の免許保持者を新たに雇い入れる事にを決めた  
のは社長だ、と説明された。さっぱり覚えていないが、この若い従業員が言うなら確かな事だろう。  
『とにかく、早いとこ宿舎に戻って下さいよ。ったく、そういう事はみんな俺任せで…そんなんじゃ  
その内ここ乗っ取っちまいますよ?』  
「ああ! それもイイなあ! そんときゃあ雇ってチョウダイよ!?」  
 
 それも良いと本気で思う。自分などより適任だ。そのうち畑全体を任せ、自分は気楽な隠居生活を  
させて貰おう。  
 バイクに跳び乗る。募集に応じてくれたのが如何なる人物かは解らないが、不要に待たせては申し  
訳無い。それに面接するのに汗まみれの作業着、という訳にもいかない。  
 宿舎に戻り、年に幾度も袖を通さないスーツに着替え―――  
「いや、待てよ…?」  
 おそらくは真剣な表情で待ち受ける応募者。そこに現れるスーツ姿の面接官。愛想笑いと、ありき  
たりの無難なやり取り。  
 それではつまらない。少しくらい、ウケを狙ってもいい筈だ。  
 男は記憶の底を探り出した。アレは何処にしまったっけ…?  
 
 
空調の効いた室内。そのドアが勢い良く開け放たれ、軽薄な色調の衣装を身につけた保安官が躍り  
出る。  
「アミ〜ゴォ! そう! 私がこの農場の責任者!」  
 男は二年振りの、渾身のステップを繰り出した。  
「私の事はシンプルに社長! もしくは頼れる隣人として保安官! でなければ親しみを込めてファー  
ストネームで呼んでくれてもいい。その名も―――」  
「も、申し訳ありません!」  
「―――へ?」  
 悲痛な詫び声に男の踊りが止まる。見ると応募者は女性のようだ。深々と頭を下げ、豊かな金髪が  
垂れているせいで良く見えないが―――その身に纏う衣装は。  
 
「あ、あの、面接なのに、こんな格好でゴメンナサイ! でも別にふざけてこんな服着てる訳じゃ無い  
んです!」  
「…んじゃ、趣味なの?」  
「ち、違います! 事故なんです! その、酷い泥跳ねつくってしまって…着替えがコレしかなくて」  
 しどろもどろに弁解する女。下げっ放しの頭に、流れるような金髪が揺れている。  
「洗う時間も無くて、その、遅刻するワケにはいきませんでしたし―――」  
「で、汚れたの着て来るより、そのカッコの方がマシだって?」  
「はい、そうなんです…」  
 頭を上げる気配は無い。許しの言葉が出るまでそうしているつもりなのだろう。それとは対照的に、  
男は天井を仰いだ。  
 まったく。こんな衣装を引っ張り出して面接するなどという非常識な真似を、何故自分はしてしま  
ったのか、その理由が良く解った。確かに彼女を迎えるにあたっては、この格好がふさわしい。否、  
これでなくては駄目なのだ。こんな再会、まともな格好じゃ勿体無い。  
 神様! 舞台の神様! もし逢えたら、その時はキスしてイイですか!?  
 視線を戻すと、女は未だ顔を上げてはいなかった。二年振りに目にするそのボディラインは、僅か  
に細くなっているようだった。女独り、色々な苦労があったであろう事は想像に難くは無い。  
「まあ、イイんじゃない? 結果的に、イチバン似合う服で来てくれたんだからさ」  
「は、はあ、…え?」  
 男の言葉に、女はようやく顔を上げた。上げた途端、固まった。目の前の男。たった今、大変な失  
礼を働いてしまったかも知れない相手。しかも雇い主になるかも知れない男。それが。  
 
「………なんであなたが、ここにいるの…?」  
「申し込む時に気が付かなかった? 一応、僕の名前も出てた筈なんだけど。ちっちゃく」  
「…ぇえ?」  
「まあ、これで保安官と助手が揃ったんだ。ウチの畑も安泰ってなモンだねェ」  
「…ぇええ!? 」  
 再会に驚く余り未だに状況が飲み込めない女に、男はとびきりのウインクをして見せた。  
 何よりも馬鹿馬鹿しく。何よりも滑稽な。そして慰めの為などでは無い、心の底から放たれたよう  
なウインク。呆然としていた女の顔が、泣き笑いの表情で崩れていく。  
「そうそう、大事なコトを忘れてたよ」  
 右手で銃の形を作り、女の左胸に狙いを定める。  
「―――採用!」  
 
   
 後に一つの広大な麦畑を継ぐ事になった、かつての若き従業員は、「どうしてウチの農場はBIG SHOT  
だなんて名前が付けられてるんだろう」と首を捻る事になるが、それはまた別の話だ。    
 

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