「スパーイク!!」  
聞き慣れたダミ声が、耳にひっかかった気がする。  
跳ね回るマシンガンの音。レッド・ドラゴンの残党が逃げ回る。  
「…………」  
のろのろと開いた目に、ビルに突っ込んできたビバップ号が映ったような気がして、  
 
 
そこで、俺の意識は途絶えた。  
 
 
「行くぞ」  
ジェットがぶっきらぼうに言う。  
「どこへ行くってのよ?」  
私はこんな声をしてたろうか。泣き疲れ、しゃがれたような声。  
「腐れ縁って言葉があるんだよ」  
ジェットはのっしのっしとデッキに向かう。  
「お節介焼き」  
そう言いながら、私は勢いよく立ち上がった。  
惚れた腫れたなんて、もうゴメンだと思ってたのに。  
過去も無ければ帰る家だって無い、それが当たり前だったのに。  
「……責任、取ってもらうわね」  
ようやく、いつものフェイ・バレンタインの声が出た。  
 
 
…………歌だ。  
彼女が好きだった、あの歌。  
でも、何でだ。  
ジュリアはもう、  
 
 
……でも、歌が聞こえる。  
 
「あ、気がついた」  
いつかもこんな声で目が覚めた気がする。  
「一週間も寝っぱなし。お目覚めかしら、ネボスケさん?」  
……何かを喋ろうとして、声がうまく出ない。  
「ん?何よ?」  
見慣れた女が、耳を近づけてくる。いつか見た光景に、いつか言ったセリフが再び漏れる。  
「音痴」  
 
「おうフェイ、スパイクが目覚……め……」  
「うっさいっ!!」  
ぷりぷりと怒りながらフェイはガニ股で廊下を歩いて行く。……女はわからん。  
部屋の中には、枕を頭に叩きつけられた相棒がいた。  
「……よう」  
「……おう」  
「収穫は」  
「無ぇよ」  
「……とっとと体直せ。ウチは貧乏なんだよ」  
「……あいよ」  
見舞いに持ってきた盆栽を窓際に置き、俺はミイラ男の部屋から出た。  
 
……あたしって結構マメなタイプなんじゃ無いかしら。  
フェイは思わず呟く。あのいまいましい馬鹿が気になり、毎日毎日病院に来ている。  
これではまるで通い妻だ。  
「……入るわよー」  
ノックも無しに入る。アレから五日もたち、ミイラ男は驚異的に回復していた。  
「……おう」  
ぶっきらぼうに答える。かたわらのテレビからはビッグショットの後番組が流れているが、見ている様子も無い。  
「ご機嫌いかが?馬鹿男」  
「別に何にも。馬鹿女」  
軽口を叩き合う。  
「……ねえ」  
「あん?」  
言っちゃいけない事を、敢えて言う。  
「もう忘れたら?」  
「……」  
明日と昨日を見つめる目が、鈍く光る。  
「……あ?」  
「……復讐も、終わっちゃったんでしょ?」  
「…………」  
「過去はどーでもよくて、今なんじゃ無いの?」  
べらべらと動く舌だ。彼はきっと怒る。怒ってあたしを追い出す。そしてあたしはまた後悔する。  
だが。  
 
ぐいっとフェイの体は引き寄せられる。  
「え、ちょっ」  
「……悪い。少しだけ、な」  
そのまま、スパイクはフェイの体に押しつけるように抱き締める。  
「ちょ、あ、アンタ」  
「黙ってろって」  
スパイクの吐息が、フェイの肌に直接当たる。びくん、と体を強張らせるがフェイは抵抗しない。  
「……俺にも、何にもなくなっちまったよ」  
自嘲するかのように言うスパイク。  
「馬鹿ね」  
「ん?」  
「ジェットも待ってるし、アタシもいる。大切なのはこれからでしょ」  
子供をあやすように、スパイクの髪の毛を撫でながらフェイは言う。  
「く、くくく……」  
スパイクが震える。泣いているのか?と見たフェイに、  
「臭いセリフだなぁ、おいっ」  
スパイクは笑っていた。  
「!!!」  
かあっと真っ赤になり、平手打ちをしようとしたフェイの腕を掴み、スパイクはフェイを抱き締め、  
「!!」  
深いキスをした。  
 
「ちょ、んんッ……」  
突然の事に目をシロクロさせるフェイを抱き締め、さらにスパイクは深くキスをする。  
舌がフェイな口の中でぬらぬらと動く。フェイの目が、次第にとろん、としてくる。  
「……ぷはぁ」  
長い、とても長い接吻のまま、スパイクはフェイのシャツのボタンを外す。  
「ズルい男ね」  
「何とでも」  
そのまま、フェイの豊かな胸を、吸い、揉み、摘み、そしてまた揉みしだく。  
「ンんっ、あっ、……んっあ、んン……」  
鼻にかかったような声をあげながら、スパイクの手の中でフェイは悶え喘いだ。  
「早いな……もうこんなじゃねえか」  
股間にスパイクの手が伸び、フェイの体は弓なりにのけぞる。  
「ンんあッ、……ァあッ、……んッくうッ……」  
 
病室に、淫らな音が響く。フェイは豊満な胸と艶めかしい舌で、スパイク自身を愛撫する。  
「……っ、く」  
ぞくぞくする様な背徳感。目の前の淫美な光景。スパイクの手が乳房を愛撫し、指が乳首をこねる度にびくんと動き、それでも奉仕を止めないフェイ。  
「……ッ、おい、もうッ……」  
「溜まってるでしょ?一回くらい、このままイカせてあげる」  
そう言うとフェイは奥までを飲み込み、口全体でスパイクを刺激する。  
「っく、う、ぉッ……くゥっ、あッ!!」  
滾るほとばしりがフェイの喉を焼く。  
だがフェイは苦悶に顔をしかめながらも、それらを呑下する。  
「………ッ、ぁ、……。あ、んッ!!」  
スパイクの愛撫は止まず、フェイは切なく身を捩る。  
「来いよ」  
男の声に、フェイはがくがくとフラつく足を踏ん張り、ベッドの上に上がった。  
 
「ん……ッ、はあッ……ふ、あッっ!!」  
スパイクのそそり立つ肉棒に腰を下ろす様にフェイは挿入する。同時に、腰を掴まれ、挿入される。  
「あっ、き……つッ、や、まだ……ッ、ん、んあっあぁ!!」  
「ぬるぬるじゃねえか……イクぜ」  
動かされ、のけぞるフェイの胸を掴み、スパイクは下から突き上げる。  
「ちょ、駄目、あッ、くゥ……んぁッ、ふあっ」  
いつもの、つんと澄ました、それでいてどこかガキ臭いこの女が初めて見せる、あまりにも淫らで可愛い顔に、スパイクは腰をなおも打ちつける。  
「あっ、んあッ、ちょ、駄目、こんな、すぐ、……ッちゃう、イッ……んあァっ!!」  
「く……」  
暫く寝たきりだったせいか、スパイクの下腹部にも急激に射精感が走る。ごまかす様に、そして加速しながらお互いの陰部が激しくこすれ合う。  
「ら、めぇ……イッ、あ、んんああぁァっ!!」  
「う、くっ!!」  
フェイが達する瞬間の強烈な収縮の刺激。スパイクはたまらず、己の分身の拘束を解除した。  
 
「……スケベ。ついこの前まで寝てたくせに、起きるなりお盛んね」  
「人のことを言えるかよ」  
くてん、と猫の様にスパイクの上に転がりながらも、フェイはいつもの様に軽口を叩く。  
「……ねぇ」  
「ん?」  
「身代わりなんか、なる気はないわよ」  
きょとんとしたスパイクだが、やがて合点がいく。と、同時に、フェイを軽く抱き締める。  
「ちょ、ちょっと、やっ」  
「……俺の眼を、片方やるよ」  
「え?」  
意味がわからず、フェイは抱きすくめられたままスパイクの顔を見上げる。  
「過去は、渡しようが無いからな」  
「…………」  
呆然となり、そして真っ赤になり、そして、  
「く、クサイ台詞」  
必死にやり返したつもりが、丸で出来ていない。  
「く、くははは!!」  
再び声を上げて笑うスパイクの顔面を、フェイは枕で埋めた。  
 
 
「あのー……」  
「面会謝絶だ」  
「い、いえ、そのー」  
「面会、謝絶だ!!」  
病室の外では赤面しながらジェットが、看護婦を困らせていた。  
 
 
[END…SEE YOU NEXT COWBOY?]  

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