スパイクが思うに、安眠とは他人に妨げられる為にあるようなものだ。  
眠っている人間の都合など、余人は気にも留めない。  
「ねね、スパイクスパイクー」  
無遠慮に体を揺すられ、顔に乗せていた本がずり落ちる。  
エドである。疲れている時には付き合いたくない相手だ。  
「…んだよ」  
開いた本を顔に乗せ直し、スパイクは投げやりに応じた。  
しかしエドは本の隙間を覗き込むように顔を寄せてくる。  
「さっきアインにくすぐりっコしたらね、アインのチンコびぃ〜ん! ってなったよ。  
スパイクもびぃ〜んってなるー?」  
「………」  
「ねーねースパイクもなるー? ねーねーねー」  
「ぅうっせえなもぉ…そういう事はフェイに訊けよ……って何すんだぁお前!?」  
素早く跳ね起きてエドの手を払い退ける。よりにもよって、エドは問題の箇所を  
直接くすぐりに来たのだ。  
「だぁってフェイにはチンコ無いよー?」  
「じゃ、じゃあジェットに訊けよ! だから触んなっての!」  
なおも手を伸ばしてくるエドを押し退ける事幾度、エドはようやくジェットに興味を  
移したようだ。ジェットの居るキッチンに走り去る。  
ジェットの狼狽した怒鳴り声か響くよりも早く、スパイクは再び浅い眠りに落ちていった。  
余人が眠る人間の都合など気にも留めないように、眠りについた人間もまた、  
余人の迷惑などに心を痛めたりはしないのだ…。  
 
 
 
盛大な溜息を吐き出し、ジェットは視線を落とした。  
キッチンの入り口、床から10cmほどの位置。エドの顔半分が覗いている。  
「…気持ち悪い真似するな。メシならもう少しかかるぞ? おとなしく待ってろ」  
エドの奇行はいつもの事だ。こんな時、何か話でもあるのかと声をかけてみれば、例えば  
「ウチュー人はっけ〜ん! たいひ〜たいひ〜」などと訳の解らない事を喚きながら走り去って  
しまったりする。しかし今日は幾分様子が違った。無言のままジェットの左腕と腰のあたりに  
視線を走らせている。  
「何見てんだ…。俺の義手か? 今更気付いた訳でもないだろ」  
なおも無言のエド。ジェットは微かな焦りを感じた。様子が変だ。  
「……? おいエド、どうした? 具合でも悪いのか? 何処か痛いんだったら…」  
「ねーねージェットー。ジェットの腕は機械の腕だよねー?」  
「あ、ああ」  
「じゃーチンコはー?」  
「………」  
「チンコも機械ー?」  
「…あー、オイスターソースは、と。確かこの棚に…」  
 
一拍の空白を置いて、ジェットの大声が響きわたった。怒りや苦痛に満ちたものではない。  
例を挙げるなら、古いアメリカン・コメディで舞台狭しと転げまわる喜劇役者のそれだ。  
無視を決め込もうとしたジェットの背後、素早く這い寄ったエドが股下からジェットの局部を  
握ったのだ。  
 
反射的にに繰り出した後ろ蹴りでエドを蹴り飛ばし、キッチンの奥へと跳び退くジェット。  
手近に掴んだフライパンで股間をガードする事も忘れない。  
「おっ、おおっ…お前っ!? 何考えてんだお前!」  
悔しい事に、赤面するのを止められない。如何にジェットの歩んで来た人生が波乱に満ちたもので  
あっても、これは余りにも予想外だ。場合によっては嬉しい類の被害であろうが、しかし相手は小娘。  
それもよりにもよって、エドだ。  
「お、俺はダメだぞ! 俺はそういう趣味は無い! そういう事ならスパイクの奴に…」  
「へへーなまにくー」  
握ったモノの感触を思い返すかのようにニギニギと手を蠢かし、満面の笑みで這い寄るエド。  
「びぃ〜んってなったー?」  
「はあ?」  
「チンコびぃ〜んならジェットに見せてもらえってスパイク言ってたよー?」  
「はあ?」  
「ねーねーみせてみせてみーせーてー!」  
「……お前なあ…」  
本日幾度目かの溜息。つまりはエドは性的関心を覚えつつあるという事か。  
ようやく状況を呑み込めたジェットだが、それで気が晴れるというものでも無い。  
ただでさえ経済面で頭を痛めぬ日など無いというのに、その上この厄介な小娘の  
性教育にまで気を回さねばならぬらしい…。  
 

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