「ん、んぅ…あぁ…っ」  
堪えきれずにか細く喘いで、ミミコは膝から崩れた。  
「だ、大丈夫ですかミミコさん?」  
すかさずジローが抱きとめ、ベッドへと運ぶ。  
「あ…。あたし、また腰ぬかしちゃったの?」  
顔を真っ赤に染め、ミミコは小さく呟いた。悔しさと恥ずかしさが入り混じった声音だ。  
ジローはミミコの捲り上げた袖を元に戻し、ボタンを留める。白い肌に、赤い二つの傷痕が  
妙に生々しく写り、ジローは顔を背ける。  
「で、ジローさん、少しは良くなった?」  
この数日体調不良で寝込んでいたジローに、血を提供してくれたミミコであった。  
理性ではいけないと思いつつ、弱った体にミミコの血への欲求は押えられるはずもない。  
ミミコが腰を抜かさなければ、もっと激しく貪っていたかもしれない。  
「おかげさまでだいぶ。さすがミミコさんの血ですね」  
「ちょっとジローさん!それ以上余計なこと言わないように!」  
ミミコは真っ赤になって近くの枕を投げつけた。が、ふと真顔になってため息をつく。  
「でも、これってまずいよねえ」  
「何がですか?」  
「だって…。これに味しめちゃったら、あたし、Hしても大して感じない体になっちゃ……」  
ミミコの顔が、茹で上がったカニのごとく真っ赤になった。  
「わ!わ!わぁ〜!!あたし!あたしったらなんてはしたないことを!!ちょ、ジローさん!  
忘れて!!今あたしが言ったこと、記憶から消しなさいっ!」  
「そんな照れずとも大丈夫ですよミミコさん、そういう悩みはよくありがちですが、実際  
性交渉を持てば、そんな悩みなど…」  
「馬鹿!変態吸血鬼!フツーの顔で言うんじゃないっ!ああーあたしの馬鹿馬鹿!いくら  
血を吸われてボーっとしてるからって、あんなはしたないことを…。どうしよー!もう  
お嫁にいけないぃぃ!!」  
見ていて気の毒なほど、ミミコは顔を赤くしたり青くしたり、泣いたり怒ったりしている。  
思春期の乙女の恥じらいという感情など知る由もないジローだったが、ミミコの反応は  
見ていてとても愛らしいものであった。  
かつて愛したかの人とは違う、陽の光りを浴びた美しさ、とでも言えばいいのだろうか。  
かの人が美しさの中に憂いを秘める、夜だけにしか咲かぬ月下美人であるなら、ミミコは  
健康的な快活さを持つ、夏の向日葵のようだ。  
「ミミコさん」  
ジローはベッドに乗った。さほど頑丈でもないベッドがぎしりと軋んだ。  
「それならば、わたしと試してみませんか?」  
「何を?」  
「本当に、大して感じないのかどうか」  
 
しばらく重い沈黙が流れたが、ミミコは動揺を隠して乾いた笑い声をあげた。  
「やーだジローさん、冗談にも程があるでしょ」  
「冗談ではありませんよ?」  
ミミコを見つめるジローの目はあくまでも真剣で、ミミコは空笑いをやめ、その瞳に  
見入ってしまった。この人の瞳には、どうしようもない悲しみが潜んでいる。  
吸い込まれそうだ。  
「ミミコさん」  
ジローの声が、耳元で聞こえる。いつの間にか、ミミコはジローに抱きしめられていた。  
「本当に嫌ならやめますが、どうします?」  
「…やめないで」  
沈黙のあとで、ミミコは答えた。いつもの威勢のいい快活な自分からは想像も  
出来ないほどのか細い声だった。唇に、冷たいものが触れる。  
「ん…」  
ミミコの火照りにうかされ、ジローの唇は次第に熱を持っていく。初めは重なるだけの  
柔らかなキスだったが、次第に唇の縁をなぞり、舌でつつき合い、繋がりを深めていく。  
呼吸しようと唇をずらした瞬間、すかさずジローの舌がミミコの中に入ってきた。  
「んんっ!!」  
舌が絡み、もつれ合う感触に、ミミコは体に電撃が走るような衝撃を受けた。  
(な…なんなの…?変なキモチ…)  
血を吸われる感触と似ているが、それとは微妙に違う。  
ミミコも夢中で舌を絡め、ジローの動きに合わせた。くちゅくちゅという淫猥な音が響く。  
息を呑むのも惜んで舌を絡めているので、飲み込めない唾液が二人の口元からだらしなく垂れる。  
「あぅ…ン!ん、んぅ」  
ようやくジローの唇が離れた。が、その唇は頬からあご、首筋を伝って鎖骨までを丁寧に這う。  
体中を筆で撫でられている感触に、ミミコは何度もあられもない悲鳴を上げる。  
自分の体を支えることができず、ジローにもたれてしまう。ジローはミミコの背を支え、  
優しくベッドに横たえ、そして自らも覆いかぶさってきた。  
ジローの手が、ブラウスのボタンを外していく。普段着の、そっけない白の下着だ。  
(ああ…こんなことになるのなら、勝負下着でも買っておくんだった)  
ぼんやりとした頭で、冷静にそんなことを考えているミミコだった。  
そんなミミコの思考などはもちろん知る由もなく、ジローはあくまでも丁寧に、ミミコを  
脱がせていく。本当なら服など引き裂いて、欲望の赴くまま蹂躙してしまいたい。  
ミミコから与えられた血によって、体の隅々まで力が漲っているのだ。だが、震えるミミコを  
これ以上不安にさせてはいけない。  
 
試行錯誤でホックを外すと、ミミコのほんのり桃色に火照った乳房があらわになった。  
まだ成長段階なのか、それほど豊満ではない。むしろかなり控えめと言ってもいい。  
だが、肌のきめ細かさ、形や張りは若さ特有の瑞々しさを保っており、我慢できずに  
ジローは先端を口に含んだ。  
「きゃぅ!」  
舌でぞろりと舐めあげられる感触に、ミミコは体を反らせた。ジローは片方を乳房を、壊れ物を  
扱うように優しく包み、ゆっくりと揉みしだく。  
「や、だめ、だめだってば!」  
「嫌ですか?」  
顔を上げて、ジローが悲しそうな瞳を向けた。子犬のような、しょんぼりとした瞳にミミコは弱い。  
「い、嫌じゃないわよ」  
「よかった」  
ジローはにっこり笑って、再びミミコの胸元に顔を埋めた。  
「ぁ、ぅン!はぅ…っ、も、だめぇ」  
裏ビデオも真っ青な、ミミコの嬌声である。血を吸われた時に見せる痴態からして、そこそこの  
反応は期待していたのだが、まさかここまでとは…。ジローは驚きと共に、激しい興奮を覚えた。  
こうして女性と肌を合わせたのは何年ぶりになるだろう。  
瑞々しく柔らかな肌、甘い息遣い。  
ミミコは胸を弄られただけで達してしまい、うつぶせになったまま、荒い息を吐いている。  
「ミミコさん、お加減はどうですか?」  
「はぃ…?なんれすかぁ?」  
「続きをしても大丈夫でしょうか?」  
「続き…?どぉぞ」  
くるんと仰向けになって、ミミコは両手を広げてジローを迎え入れた。ミミコ自らジローの背中を  
抱いて、唇を求めてくる。激しく舌を絡めあいながら、ジローの手は下腹部に伸びていた。  
スカートを捲り上げようとするが、タイトスカートは体のラインに張り付き、  
なかなかずらすことができない。と  
「あ!スカート!しわになるっ!!」  
ミミコは覚醒したかのようにジローを跳ね除けて起き上がり、スカートの皺を直す。  
「あー!やだ、今これ以外全部クリーニングに出してるのに!」  
「ミ、ミミコさん、ずいぶんお元気ですね」  
さっきまでヒィヒィ泣いていたくせに、本当に妙な場面でリアリストである。跳ね飛ばされて  
ベッドから転がり落ちたジローは、いてて、と呟いてベッドによじ登った。  
 
「あ、あらごめんなさいジローさん。あたしったら」  
「皺になるのなら、いっそご自分で脱いではいかがでしょうか?」  
ジローの提案に、ミミコは顔を赤らめながらも頷いた。ホックをはずしてファスナーを降ろし、  
脱いだスカートは丁寧にハンガーにかけ、皺防止のスプレーまでかける念の入れようである。  
しかも、そんなことをするミミコは上半身は裸で、下着一丁である。ジローは必死に笑いを  
かみ殺し、ミミコの気の済むようにさせてやった。  
「さてミミコさん、準備はよろしいですか?」  
「はぁ、なんか、変な展開になってきた気がするけど」  
「お気になさらず。読者の皆さんもそろそろお待ちですから」  
ジローはミミコを優しく押し倒し、覆いかぶさった。  
「ジローさん、こういうことするの、久しぶり?」  
ミミコの問いに、ジローは一瞬考え込んで、ミミコの耳たぶに息を吹き込んだ。  
「きゃん!!」  
「それは野暮な問いです。今私にはミミコさんだけしか見えませんよ」  
ジローの甘い言葉に、ミミコは心も体も蕩かされていく。  
ジローの手が、ゆっくりと下腹部に移動する。スカートがないため、目的地に到達するのは  
簡単だった。下着越しにそっと包み込む。  
すでにそこは、下着の上からでも分かるほど温かく、熱を帯びていた。  
「は、恥ずかしい…。あたしってば、変態どころかど変態だわ。ジローさんを怒れない」  
「正常なことですよ。恥ずかしがることありません」  
ゆっくりと下着を下ろし、じかにその茂みに触れる。ジローのほっそりとした指が、  
入り口付近をくすぐる。指にはあっという間に粘ついた分泌液が絡まる。しばらく弄り、  
ほぐれてきたところで一本、進入させた。  
「あう!!」  
初めて味わう異物の挿入感に、ミミコは体を仰け反らせ、ずりずりと上にいざった。  
だが下腹部はジローの指をがっつりと呑み込んで、締め付ける。  
「痛いですか?」  
「痛くはないけど…。ヘン。なんか、すごく…あァッ!や、やぁ…ッ」  
ミミコの声が乱れたのは、中で指を動かしたからである。くいっと曲げると、そこにミミコの  
感じるポイントがあるらしく、動かすたびに激しく体を反らせる。  
最初は一本でもキツキツだったが、次第に慣れてきたのか、二本目の指もすんなり入った。  
「ジローさん、もう、あたし…」  
ミミコは息も絶え絶えである。ジローとしても、そろそろ我慢の限界を迎えようとしていた。  
いったん指を抜いて体を起こし、すでに痛いほど存在を主張するそれを、開放した。  
陶然としていたミミコは、その異物にギョッとした表情を浮かべた。  
 
「それ…それが、入るの?」  
「あまりまじまじと見ないでくださいよ。照れるじゃないですか」  
「いや照れるとかそういう問題じゃなくて…。無理よ?」  
「これが意外に大丈夫なんですね。体を楽にして、ね」  
ちゅっと唇に軽いキスをして、ジローはミミコの足を掴んでゆっくりと左右に広げた。  
そして自分の体を滑り込ませ、たっぷりと潤っているその部分に照準を合わせた。  
ミミコは唇をかみ締め、悲鳴をこらえた。体が裂けるような痛みが、全身を貫いた。ジローの  
それは、つっかえつっかえようやくミミコの中に納まった。  
「ミミコさん、大丈夫ですか?」  
「痛い。死ぬほど痛いっ。ダメ、抜いて…」  
「我慢我慢。これからですから」  
ジローさんてば、実はマゾじゃなくてサドだったんじゃ…とミミコは頭の隅で考えた。  
しかし口では言ったものの、ジローはあくまでもミミコを気遣い、性急に腰を動かしたりは  
しなかった。体内に納まった、その感触を味わっているようだ。  
やがてミミコの中からも痛みが薄れてきた。  
「ジローさん、なんか、痛くなくなってきた」  
「それはけっこう。では、少し動きますよ?」  
ジローがゆっくりと腰を使い始めた。じっとしているだけなら痛くないが、動くとまだ痛い。  
ミミコは痛みを訴えようとしたが、見上げたジローの表情を見て、やめた。  
ジローが、今まで見たことのないような満ち足りた顔をしていた。血を吸ったあとの笑顔とも、  
コタロウと触れ合う時の笑顔とも違う。切なさの混じった、恍惚の顔。  
とたん、ミミコにも押し寄せるような恍惚が襲ってきた。宙に浮いて、羽で全身を撫ぜられて  
いるような、水の中で浮いているような、体の内側からなで上げられているかのような。  
ジローの動きに合わせて、次から次へと押し寄せてくる。  
「ミミコさん、痛いですか?」  
「痛くない…。キモチいい…キモチいいよぅ!あぅン!ンンッ!ハッ、ハァ…」  
ミミコは自ら足をジローの腰に巻きつけ、より強い結合を望んだ。  
「もっと、もっと…ッ、あぁ、あ…ッ」  
「ミミコさん、私も、もう、限界…」  
ジローは顔が歪ませ、そのままたぎった欲望をミミコの中に爆発させた。  
 
(分かっちゃった。なんで、キモチいいのか。あたし、ジローさんのこと好きだからだ。  
血を与えるのは一方通行だけど、これは、二人で…好きな人と繋がるから、だから  
こんなにキモチいいんでしょう…?)  
 
薄れかける意識の中で、ミミコはぼんやりとそんなことを考えていた。  
 
 
目が覚めたとき、ミミコの横にはジローの寝顔があった。  
まるで少女漫画の1シーンのように、腕枕をしてくれている。  
起き上がろうとして、腹部に鈍い痛みを覚え、目覚める前の痴態を思い出してミミコは一人、  
顔を赤らめた。  
ジローを起こさぬように、そっと起き上がったミミコは。めくった布団を見て飛び上がった。  
「ぎゃっ!!」  
シーツにはこれまたお約束の、破瓜の証が転々とシミを作っていた。  
「やっば!早く洗濯しなくちゃ!ちょっとジローさん、起きて!どいてっ!」  
ミミコは布団を蹴飛ばし、ついでにジローを蹴飛ばしてシーツをはがした。  
「いたた…ナニゴトですかミミコさん。おや、それは」  
床に転がり落ちたジローが、頭をさすりながら身を起こした。シーツに残る破瓜の痕を見て  
目を輝かせる。  
「いい匂いがすると思ったら、それですかぁ!え?洗濯?勿体ないなあ、ミミコさん、  
何ならそのシーツ私に…ごわっ!!」  
「変態!ど変態!!!バカバカバカッ!!」  
「ミミコさん!処女の血はわれわれ吸血鬼にとってはこの上ない…」  
「しゃべるな変態吸血鬼!!」  
ミミコはすがりつくジローを足蹴にし、シーツを洗濯機に放り込んだ。ジローは名残惜しそうに  
洗濯機の渦の流れを指をくわえてみている。  
「それよりミミコさん、血を吸われる行為と先ほどの行為、どちらが気持ちよかったですか?」  
「ええ!?」  
ジローはニコニコと笑いながら近づいてくる。  
「私の見た目では、血を吸われるより断然気持ちよさそうでしたが」  
「…そ、その、それは認めます」  
「それは良かった!私も頑張った甲斐がありました。私もいつになく我を忘れてしまいました」  
にこやかに、晴れ晴れとした笑みを浮かべるジローに、ミミコは思わず噴出した。  
「ミミコさん?なんで笑うんですか?私は真剣ですよっ」  
うろたえるジローにミミコはますます笑いがこみ上げ、涙を浮かべながら笑い続けた。  
体を交えたことで、関係が変わるのを恐れていた。  
いつか、この気持ちは抑えられなくなるかもしれない。だけど今は、このままがいい。  
何気ない日常を平和に過ごし、冗談を言って笑いあう、この関係が心地いいから…。  
 
おわり  
 

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