「ちょ……カーサ!いい加減にして下さいっ」
「そう言うなよ、ジロー。口ではそんなこと言っててもシモの方はどうだ?」
濡れ濡れじゃないか、とジローの急所をぎゅっと掴みながらカーサは大声で笑った。
カーサが言うとおり、ジローのそこは既に形を変え、先走りの液が零れている。
悔しそうに歯噛みするジローにカーサはますます機嫌を良くし、上下に扱き始める。
「ぐっ!カ、カーサ!卑怯ですよっこんなことにハイドハンドなどを使って、ぐあ!」
「うるさいぞ、ヒヨッコサッカー。
人がせっかく君の溜りに溜まっている性欲を解消してやってるんだ。おとなしくしてろ」
「いっ!たたたたt」
しっかりと感じているくせに口答えをする、往生際が悪いジローがむかつく。
そう思った瞬間には、カーサは手の中で脈打つモノの先端に鋭く磨がれた爪を突き立てていた。
顔を引き攣らせ悲鳴をあげるジロー、その姿に言い知れぬ喜びが全身を駆け抜ける。
良いぞいいぞイイぞっ、最高だジロー!とカーサの気持ちが昂ぶった。思わず舌なめずりもした。
カーサは見えない力で押えられ、仰向けで動けないジローの上に乗り上がって身体を密着させる。
ジローが息を呑むのが分かったが、構わずに顔を胸元へ近づけた。
片手は休ませずに動かし続け、ジローのしっかりとした胸板にもう片方の手を這わす。
熱い。
吸血鬼の体温は人よりも低いものだが、今のジローはどこもかしこも熱をもっているようだった。
それとも、熱を孕んでいるのはカーサの方なのかもしれない。
この男の心も身体も、血の一滴さえも自分のものにはならない、今こんなにも近くにいるのに。
そう思うと胸がズキズキと痛んだ。その痛みはいつの頃からか、度々カーサを襲うのだ。
分かっている。こんなことをしても、どうにもならない、欲しいものは手に入らない。
自分が望むものはそんなに安くないのだから。
だが、今この時ぐらいは彼に触れるのを許してほしい。
カーサは心の中で彼女の闇の母にも等しい大切な人に謝った。
そして、目の前で上下する胸にゆっくりと唇を落としあと、幼子がそうするように
そこに頬をも寄せ、目を閉じた。
「カ、カーサ…?」
自分を追い込んでいたカーサの動きが止まったことに気付いたジローが訝しげな声をかける。
「少し、黙っていろ」
返ってきたのは存外に儚い声。いつの間にかハイドハンドも解かれている。
何だか毒を抜かれてしまったジローは身体の力を抜いて、言われたとおり静かに待った。
「あっれぇー、カーサちゃんどこ行ってたの?ボクすっっごく探したんだよっ!
今日は久しぶり買い物したりして遊ぼうって約束したじゃない、もう!
……ねねね、ジロー知らない?ついさっきまで一緒にいたのにちょっと目を離したらいなくなってるんだもん…
まったく護衛者失格だよ……あ!もしかしてカーサちゃん、ジローと一緒だった?
そうでしょ!なに?なに?みんなしてボクのこと仲間はずれしてるの?!ひどいよぉーあんまりだよぉ」
アリスの止めどないマシンガントークに圧倒されていたカーサだが、アリスがジローのいる部屋へ行こうとした途端、
腕を掴んで慌てて引き止めた。
「い、今は止めておけ」
「?なんで?」
「と、とにかく今はダメだ……ああ、いやダメというか、寝てるんだ、あいつ」
そうとう疲れてたんだな、と言ってカーサは話を切り上げ、アリスの肩を抱き、強引にその場から離れる。
「今日はゆっくり休ませてやったほうが良いさ。…そうだ、私たちはケーキでも食べに行こう、アリス」
「ケーキ?カーサちゃん甘いもの好きじゃないのに……付き合ってくれるの!?」
「あ、ああ!今日は思いっきり食べよう」
アリスをそそくさと連れ出しながら、(すまない、ジロー)とカーサはジローに初めて詫びた。
ジローはと言えば、カーサによって中途半端に昂ぶらされた熱を半泣き処理していた。
「うう、あ、あんまりだ……」
誰もいなくなった部屋で、寂しくジローの声が響いていた。