「……っ……んっ……あ……あっ、アア」
蝋燭が一つだけ灯っているだけの、暗く静かな部屋に女の甘い声が響く。
部屋に入って来た者がいたならば、むせ返るような血の匂いに気付いただろう。
整えられたベッドのシーツの上、壁に押し付けられるような形で白峰サユカは己が主に縋り付いていた。
「は……ぁっ……ゼル、マン…様ぁ」
サユカは快感に酔いしれながらも目の前で自分を貪っている相手を見つめる。
主であるゼルマン・クロックの姿を。
今、自分の血はゼルマンと一つになっている……その事実がサユカの心を満たした。
高貴な彼の体の中を自分の血が流れて行く様を想像しただけで快感が増していく。
荒く、しかし甘い息を吐き、首筋を曝け出し両腕を絡ませ、もっとと強請るようにその肢体を震わせる。
それに応えるように白い首に、それと同じぐらい白く煌めくゼルマンの牙がより深く刺し込まれた。
「あ……あ、あああっ!」
身体に走る強烈な快感、鼻をかすめるゼルマンの香り、求められる嬉しさの全てに煽られて、サユカは絶頂に達した。
「そんなに良かったか?」
強い快感によって一時的に意識を飛ばしていたサユカだが、笑いを含んだゼルマンの声に慌てて起き上がった。
「ぁ……も、申し訳ありませんっ。は、はしたない姿を……」
「茹ダコか、お前は」
赤みがさしていた頬をますます赤くさせながら詫びるサユカの姿にゼルマンはのどを震わせて笑う。
「ゼルマン様……本当にすみませんでした」
乱れた髪を服を必死で整えて、もう一度頭を下げようとしたが、突然ゼルマンの手がサユカの下半身に触れた。
「あっ、な、何を」
「濡れてるな……」
サユカの台詞を遮り、ゼルマンの長く細い指がサユカのもっとも敏感な場所をスルリと撫で上げる。
そこは血を吸われた快感によってか、確かに潤っていた。
「こんなにぐっちょり濡らして……感じやすいのか、はたまた淫乱なのか」
ゼルマンは熱を帯びたそこを上下に擦りあげながら、彼らしからぬ、いかにもな台詞を口にした。
行為はエスカレートしサユカの中心に指を突き立てたかと思うと、そこに潜り込ませる。
「ひっ……ぁあ!……ああ……」
突然のゼルマンの行動に驚き、羞恥心が込み上げたサユカだったが、決して「嫌」とは言わなかった。
それは僕が主を拒否するなどもってのほかとい理由もあったが、何よりも楽しげな主の姿に見惚れてしまったのだ。
ゼルマンは卑猥な言葉を口にしながらも外見相応の少年のようにただ純粋に行為を楽しんでいるようだった。
「すごいな、どんどん指をのみ込んでく……」
「あ、あ……はぁ……ぅん」
「どうだ?こうすると気持ちイイのか?サユカ?」
「あ、ゼ…ルマン様っ……あ、んっ……あっああ」
2本の指を動かし緩急をつけながらサユカの中を行き来させ、快感という刺激を与える。
その動きに喘ぐサユカはゼルマンの視線が自分の性器に注がれているのが恥ずかしく、同時に彼の関心をひいてることが嬉しかった。
「あ!……も、もう……ゼルマン…さ、まっ……」
限界を感じ、サユカは主に許しを乞うように腰を揺らす。
ゼルマンはサユカの言葉にニヤリと笑い、強くそこを擦った。
「……っゼルマン様ぁ!」
身体を襲う強い刺激にサユカは一際高く鳴いて、ゼルマンの指を汚した。
「イく時まで俺の名前を呼ぶとは!」
あっはっはと腹を抱えて笑うゼルマンを、サユカが潤んだ瞳で睨む。
(し……仕方ありません!それぐらいサユカはゼルマン様を愛してるんです!)
口には出さないで心の中で思う。
「悪い悪い。そうむくれるなよ、良かっただろ?俺のテクは。お前も中々良いセンいってたぜ?」
「!……は、はい、さすがです、さすがはゼルマン様……」
歯切れの悪いサユカの返答にゼルマンは怪訝な顔し、次いで思いついたようにポンッと手を打った。
「なんだ、お前、妬いてるのか」
「!!……いえ……いえ、そんな恐れおおい……私は……」
否定しながらも、実のところゼルマンのサユカへの指摘は当たっていた。
ゼルマンが何気なく言った一言はサユカの胸を貫いていたのだ。
ゼルマンは800年を生きてきた吸血鬼であり、その上あの美貌。当然その手の経験は豊富だろう。
「良いセンいってた」というゼルマンの言葉からも、相手は掃いて捨てるほどいたはずだ。
普段は意識しないようにしているサユカだったが、今回のゼルマンの行動と台詞でそのことがはっきりと分かってしまった。
そのことがサユカの胸を締め付けていた。下らない嫉妬心だとは思ってもどうしようもなかった。
沈んだように押し黙ったサユカを見て、ゼルマンは再び手を打った。
「それともアレか?俺が挿れなかったから怒ってるのか」
「!!!いっいいいえっ、そんなっ!!」
直接的すぎる言葉にどもるサユカを差し置いてゼルマンは話し続ける。
「まぁ、我ながら中途半端なとこで止めたなーとは思ったが。……でもなぁ」
「ん〜」と思案するように虚空を見上げていたゼルマンがサユカに顔を向けた。
「実際にヤったことないしなぁ。実際気持ち良いもんなのかね?」
「…………ヘ?」
サユカの顔がこれ以上ないぐらいマヌケになったがゼルマンは構わずに言葉を続ける。
「でも、ヤりたいと思ったのはお前が初めてだ」
サユカの時を止めたゼルマンが浮かべたのは普段のニヒルな笑みではなく。
無邪気に牙を出しニコっと笑ったゼルマンの顔はまさしく少年の表情。
「じゃあ、おやすみ、サユカ」
サユカの耳元で優しい声音で囁いたあと、呆然とするサユカを置いてゼルマンはさっさと部屋を出て行く。
「え……?ゼルマン様……それって……それって……ええ!?」
一人残されたサユカの頭の中でゼルマンの台詞が繰り返される。
結局その意味を一晩中考えていたため一睡も出来ず、翌朝、隈を浮かべたサユカは夜会の面々を驚かせた。