「あは…ん、んん…」
生物の内臓を彷彿させる装飾の部屋の中に、濡れた鼻声が響き渡る。
その部屋の中央に据えられた大きな白いベッドの上で、
悪魔王ペイモンは人間の美しい少女、
リリスにその牛のように大きく張り出た白い乳房を吸われ乱れていた。
「ふふ…本当に君のミルクって、凄く美味しいね…?」
夢中になって吸い立てていた左の乳房から唇を離すと、
白濁した唾液が糸を引きながら、
快感にふるふると打ち震える薄桃色の乳首と唇を繋ぎ、
程なくしてぷつりと途切れた。
「あは…!はぁ、はぁはぁ、私の大好きなリ、リリスちゃんに、誉めて貰えて、ずっごく、嬉しいモン…」
気の遠くなるような快感から解放されて、
胸のうちから沸く劣情と、愛する人から誉められた喜びを濡れた視線に込めて、
自分の乳房に顔を埋める少女に息も絶え絶えに微笑みかける。
数10分前…
きゅー…くるくるくる…
「はぁ…お腹空いたよぉ…」
64回目の脱走の末、捕らえられたリリスは逃げられないようベルゼバブにより真っ暗な部屋の天井から鎖で吊されていた。
64回目の逃亡という事もあって、
今回のお仕置きは「死なない程度」にリリスを追い詰め懲らしめる為に、
ここ数日間、水も食料も一切与えられてはいなかった。
リリスからすれば、記憶喪失な上にいきなり悪魔に連れてこられ、
わけのわからない男と結婚させられそうなのだから逃げようとするのも至極当然の事だった。
ぐるぐるきゅー…
「はぁ…僕が悪かったってばぁー、もうしないから、ご飯ちょうだい…って、誰も聞いていないか…」
本心では悪いとは思っていないものの、
空腹と喉の渇きには勝てず、
弱々しく眼前に広がる暗闇に言葉を投げかけるも、
返事はない。
「リリスちゃん…」
何もなかったハズの暗闇から、
自分の名を呼ぶ女の声が耳に届き、思わずリリスはハットして顔を上げる。
「あ、君は……」
空間転移の魔法だろうか、
白い小さなブロックが暗闇に無数に浮かび上がり、
ブロック同士が吸着して一人の少女の姿を形作り、
徐々に鮮明になるその少女の名前を記憶の中から探り出した。
「えっと、確かペイ、モン…だっけ…?」
「………」
何も言わずに小さく頷くと、宙に浮かんだままゆっくりとこちらに近づいてくる。
「あのね、リリスちゃん…私リリスちゃんをずっと見張ってたんだもん…リリスちゃんがお腹を空かせて苦しそうにしてる間も…」
「…………」
ペイモンの表情は今にも泣き出しそうなほどに暗く、
およそ初めて連れてこられた時に見た明るい姿とのギャップに、
リリスは空腹感も忘れて見入っていた。
「でもリリスちゃんに食べ物をあげると、
サタン様やベルゼバブに怒られちゃうから…ごめんねリリスちゃん」
子供のような丸い瞳から涙が一筋、
白い頬を伝って落ちた。
自分を捕らえた者たちの一人とはいえ、
自分の身を案じ涙を流す眼前の悪魔に、
淡い愛情を感じ始めていた。
「い、いいんだよ別に…サタンとか、
ベルゼバブって凄く強いんだろ?」
「……うん」
「だったら仕方ないよ、それに脱走した僕が悪いんだし…だから泣かないで…ね?」
あやすように、ペイモンに優しく言葉をかけ微笑みかけるリリス。
「でも…さすがに喉が乾いたな…僕達人間は食べ物はなくても、水分さえ取れればしばらくは耐えられるんだけど…」