「…誰もいない…逃げるならいまのうち…」  
 手枷からぶら下がった中途半端な長さで千切れている鎖を握り締め、真っ暗な廊下を少女が歩いていた。  
無人の廊下に、少女の足音だけが響き渡る。  
ひとしきり暴れて、疲れて眠って…目が覚めたら腕を拘束する鎖が途中から千切れていた。  
いつもであれば、きっちりと鍵の掛けられているはずの扉にも、鍵がかかっていない。  
閉じ込められていた部屋から出る前に扉の影から覗いてみたが、見張りの人影など微塵もないようだ。  
 何もかもが上手く行き過ぎている、と、頭の中で何かが警鐘を鳴らしたが、そんな予兆めいたものに構っている暇はなかった。  
 今、少女の頭の中を占めているのは、一刻も早くこの場所から逃げ出す事だけであった。  
「…絶対逃げ切ってやるんだから…!」  
 軽く周囲を見回すと、まっすぐに続いている回廊の奥へと足を進める。  
等間隔に設けられた照明は、幅広の廊下のすべてを照らせる程多くはない。青白い薄ぼんやりとした光では、映し出される空間は限られてくる。  
その、光と闇が己の領分を巡って凌ぎ会う中で、伸び、溶け込み、また顕れて、少女の影が移動していく。  
 そして、少女が足を止めたのは、回廊の突き当たり。大きな両開きの扉の前だった。恐らく、この扉が外への出口なのだろう。  
 何を疑う事もなく、少女はそう信じていた。  
 少女は大扉の片側を僅かに開くと、するするとその中へと姿を消していく。人気の絶えた回廊に扉の閉まる音が大きく響いた…。  
 
 しかし、少女の期待は見事に裏切られる事になる。  
 何の躊躇いもなく開け放った扉の向こうにあったもの。  
それは、先程まで、自分が捕らえられていた部屋そのものであった。  
「――――――――――――――――――ッッッ!!!!」  
 驚愕と失望に息を呑む少女の目の前に、音もなく姿を現したのは褐色の肌を持つ一人の男。  
「次元の歪みを利用した簡単なトラップだよ」  
 薄い笑みをその端整な顔に浮かべながら、男は床にへたり込んでしまった少女―リリス―の元へ歩み寄る。  
「キミも、いい加減諦めたらどうだい?」  
 唇を噛み締めて俯く少女の顎に指をかけて、無理やり視線を合わせながら、男が笑みを深める。  
「お断りだヨ!こんな所に閉じ込めておいて、逃げ出すなって言うほうが無理じゃないか!」  
 その手を無理やり振り解き、リリスは男を睨みつけた。  
 『悪霊の頭』。『高き館の主』。『蝿の王』。  
 様々な名で呼ばれるこの男こそ、地獄帝国の宰相を務めるベルゼバブ。  
リリスをこの場所に連れてきた者であり、また、彼女をここに拘束している張本人である。  
「仕方ないなぁ…ボクとしては、強硬手段は避けたかったんだけどねぇ…」  
「…な…っ!?」  
 クスクスと笑うバルゼバブの顔が近いと感じた時には、彼の指に顎を掴まれ、次の瞬間には深く深く口付けられていた。  
 
「んうぅっ!!」  
 歯列を割り、口腔内に侵入してくるベルゼバブの舌から逃げようと、侭成らない身体でもがいている間に、男の手が服のファスナーを下ろし、抵抗する間もなく胸を露わにされてしまう。  
ビスチェを毟り取ろうとする手を抑えようと必死になれば、舌を絡め取られ、息をつく間もなく翻弄される。  
 歯列をなぞられ、舌を弄ばれ、飲み込みきれずに口の端からあふれ出した唾液を舐め取られて。  
一分空きも無くリリスを追い立てる舌の動きに呼応するかのごとく、ベルゼバブの手が、身体の隙間に捻じ込まれ、二人の身体の間で潰れているリリスの乳房を揉みしだく。  
「いやぁっ!!」  
 唾液を舐めとった後、鎖骨や首筋を辿っていた舌に、突然乳首を舐められ、体中を這っていた手が下肢へと伸びた頃、リリスはようやく思い出したかのように抵抗を始めた。  
「や…止めろって言ってるだろー!!」  
 辛うじて自由になる足を動かして、ベルゼバブを蹴り上げようとするリリスだが、両腕を押さえ込まれた状態では、その威力も高が知れている。  
「だいたい、何でこんな事するんだい!?」  
 切れ長の瞳に覗き込まれるような格好になりながら、リリスが声を張り上げる。  
彼女の大きな瞳から溢れる涙を舐め取ってやりながら、宰相殿が薄い笑みを浮かべた。  
「これ以上脱走騒ぎを起こされるのはゴメンだからね。お仕置きみたいなものさ」  
 手袋がむき出しの腹部をちくちくと刺激してくすぐったい。  
彼の舌は胸から脇腹を通り、今はへその辺りを擽るように舐めている。  
いつの間にかスカートが下ろされ、引き千切られた両袖で、両腕を後ろ手に縛られていた。  
「だ…だからってこんな、こ…と……っっ!!」  
 ベルゼバブの指がすっかり勃ちあがった乳首を摘み、そのままコリコリと弄ぶ。その刺激で、思わず声を上げそうになるのを、リリスは必死で堪えた。  
 
「やられている本人が『嫌だ』と思うことをしないと、お仕置きにはならないだろう?」  
「…っっ…!やぁっ……ヤダぁぁっっ……!」  
 柔らかい乳房を揉みしだき、乳首を弄びながら、ベルゼバブが熱い吐息をリリスの耳に吹きかける。  
それだけの刺激で、秘部がひくひくと痙攣し、トロリとした蜜を漏らし始める。  
イヤイヤをするように首を激しく横に振るリリスを、ベルエバブは後ろから抱きすくめ、布越しに秘部を軽くこする。  
其処は、先ほどまでの刺激で十分に潤い、布の上からでもわかるほど湿り気を帯びていた。  
「っ……ヤダ…っ………止めろ…っ」  
 自分の身体の変化が信じられないのか、先程よりも激しくリリスが身体を捩る。  
 そんなリリスの姿を眺めていたベルゼバブが、胸をいじる手を休めてため息をついた。  
「こんなに濡らしておいて、何が『イヤ』なんだか…ねぇ、リリス?」  
 男は下着の中に手を進入させて茂みの奥を探っていた手を引き抜くと、指に絡みつき、てらてらと光る愛液を見て喉の奥で低く笑う。  
見せ付けるように開かれた指の間で、粘性の高い蜜が銀色の細い糸を引いた。  
 耳を舐りながら吐息を吹きかけられ、リリスの身体は快感と恐怖に震えている。  
「『お仕置き』されて悦んでるなんて……もしかして、Mの気質があったのかな?」  
からかう様に耳元で囁かれ、胸への愛撫が激しくなった。乳首を摘んで引っ張ったり、指先で乳頭の表面を引っかいたりと、休む間もなく攻め立てる。  
 首筋に顔を埋められ、肩口を吸われたり、噛まれたり。  
 そうこうしているうちに、下着が取り払われ、男の指が直接秘部を這い始めた。  
「んっ!!や……イヤだって言ってるだろっ!お願っ…も、ヤダぁ…っ」  
 リリスの身体が快感に反応する度に、男の舌と指の動きは激しさを増していく。  
指の腹が内壁をなぞる様に出入りし、奥から溢れ出る蜜を掻き出す湿った音が耳に響き、リリスはくぐもった悲鳴をあげる。  
「あれ…やめていいのかい?ココはこんなに喜んでるのに…」  
 ぐり、と、胎内で指を曲げられて奥を刺激されると、秘肉は蜜を滴らせながら男の指を締め付ける。  
 
「…リリスはほんとに嘘つきだね…」  
「ひぁん…!…あ…あぁ…」  
 咎める様に呟いて、ベルゼバブが乳首を捻り上げる。その痛みすら快感に感じる身体が嫌で、リリスはぽろぽろと涙を零す。  
「…あんまり酷いことしたくなかったけど、お仕置きされて感じるような困った子には、もう少し荒療治が必要だよね?」  
 悪戯を計画する子供のような顔でクスクスと笑いながら、ベルゼバブがそばにあった箱から何かを取り出す。  
毒々しいピンク色をした繭の様な物体。俗にいうピンクローターというやつだ。  
 片手の指で、器用に肉芽の皮を剥き、露になった陰核にローターをあてがい、そのままテープで固定する。  
 既に硬く勃ちあがっている乳首にも、同様にローターを固定すると、彼は満足そうな笑みを浮かべた。  
「自分で取ったりできないように、もう少しきつく縛っておかないとね」  
 さも楽しげに笑いながら、ベルゼバブはリリスの腕を戒める袖を解くと、その代わりに新たに皮製の拘束具で彼女の腕をしっかりと固定する。  
「それじゃぁ、ちゃんと反省したら止めてあげるよ」  
 そう言って、いつもとなんら変わらぬ笑顔で微笑んだベルゼバブがローターのスイッチを入れる。  
 軽い振動音と共に、3箇所のローターが同時に振動し始める。断続的で容赦のない刺激に、既に昂ぶっている身体は素直に反応を示しだす。  
「や……ぁ…イヤ…やぁ…あ……っ…いやぁぁぁぁぁぁ!!」  
 誰も足を踏み入れる事のない冷たい牢獄内に、リリスの悲鳴が響き渡った。  
 

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