待てども待てども彼は帰って来ない。どこで油を売っているのか、私には見当もつかない。
彼、ダーク・シュナイダーは私に言った。何かでバラけた時は必ずここに戻って来るから、ここで俺を待っていろ、と。
破壊神に憑かれたアビゲイルとの死闘で離れ離れになってしから、もう2年の歳月が流れた。
でも私は待ち続けている。彼の帰りをただひたすら待ち続けている。
ダーク・シュナイダーと寝食を共にし、彼に学び、そして互いに愛しあったこの館で。
だが、ただ待っているだけだと、人は碌でもない妄想に捕らわれ自らの心を妬いてしまうらしい。
最初は、彼がこんなに遅い理由を、暗黒の破壊神復活に向けて邁進するカル=ス一派と
また派手に戦っているからだと自分に言い聞かせていた。
しかし、そのうち彼の過去の行状が次々に脳裏をかすめて行き、次第に私を苛んでいく。
そこかしこの女達を口説き落とすのに憂き身をやつす彼の姿が。
あの女、ティア・ノート・ヨーコに言い寄る彼の幻が。
何もしていないから、こんなに気が揉めるのだ。ならばどうする?
そこで私、アーシェス・ネイは考えた。一つ、このまとまった時間を利用してこれまでの人生を振り返ってみよう、と。
「父」としての彼、ダーク・シュナイダーは、はっきり言ってあまり褒められたものではないだろう。
元々が家庭を営むタイプの男ではないのだ、無理もない。「家」を丸々半年空けるなどザラだった。
戦争に、闘争に、冒険に。そして、忌々しいことに他の女との色恋沙汰に。
ただ、彼は戻ってくる度に私に色々なお土産を持って来てくれたし、
一端戻ると半年以上は腰を落ち着けていたのでまだ幼い頃の私は文句をあまり言わなかった。…寂しくはあったが。
いつだったかはもう忘れ果てたが、私が始めて大人の階段に足を踏み込んだのもそういった彼の帰宅時の出来事であった。
「おい、アーシェ! いるか〜アーシェ〜 今帰ってきたゾー」
「おかえりなさ〜い、ダーシュ!!」
彼の若々しく張りのある声が隠れ家(というには少々広壮であったが)一杯に響き渡り、
私は奥から駆け足で転がり出て来て彼に向かって飛び掛る。
心得たもので、彼も両手を広げて宙を舞う私の体を確りと抱きしめてくれた。
「良い子に留守番してたか、アーシェ?」
「アーシェ、良い子に留守番してたよダーシュ!」
私が喜々としてそう言うと彼は決まって「そっか!」と嬉しそうに返事をし、私の頭をその大きな掌でもって撫でてくれた。
その後はいつもパターンが決まっていて、飯、風呂、寝る、がお定まりのコースであった。
その「事件」は久方ぶりの一緒の食事も終り、共に湯浴みをしていた際に起こる。
「お湯を掛けます! 目をつぶってくださ〜い」
「んん〜」
私はダーシュの背中を流すのが好きだ。頭を洗うのが好きだ。とにかく一緒にお風呂に入るのが大好きだ。
この日も私はまだまだ成長しきらない小さな体で懸命に彼の広い背中を拭い、
燃える様に輝く銀髪に覆われた頭を小さな両手でわっしわっしと揉んで洗う。
それが終わって湯を掛けて泡を洗い流すと、今度は私が彼に洗ってもらう番だ。
「お前、だいぶ背が伸びたな。この間は俺の腰にも届かなかったんだが。エルフってこんなに成長早かったか?」
私の黒髪を泡に絡ませ梳き撫でながらダーシュは呟いた。
「わかんなーい。背だけじゃなくて足もちゃんと伸びてるよ。胸も最近膨らんできたの」
誤解を招きそうだが、別に私は彼を挑発した訳ではない。だが結果としてそうなったのは事実だろう。
「へぇ…… まだまだ食べ頃には程遠そうだがな。どれ、ちょっと試してやろうか」
「試すって、何?」
私の背後に座っていたダーシュは洗いかけの私の頭から手を離し何かをしている。
気配ではわかるのだが、何分泡が入らないようにと目を閉じていたので詳しくはわからない。
「ひゃッ!? な、何してるの!?」
突如生暖かい感触が私の胸元を覆い、蠢いている。ダーシュの、両手だ。
「ああ、どんだけ大きくなったか測ってるんだ。動くなよ、じっとしてろ」
耳元でそっと囁く。これこそ猫撫で声というやつなのだろう。
何が何だかさっぱりわからない私はハイ、と返事してその場に固まっている以外に術がない。
よしよしと彼が口走ると、泡に塗れた両手が再び蠢動する。
膨らんだ、と言ってもそれは辛うじて視認しうる程度で、乳房だと主張するのは誇大表示もいいところだろう。
そんな褐色の胸板の上を彼の掌が、指が、何度も何度も行き来する。
その度にヌルヌルとした石鹸の泡が立ち上り、その芳香が鼻腔をくすぐる。
視覚が封じられている為か、嗅覚そして何より触覚が冴え渡るまでに鋭く敏感になっているのがわかる。
それは今までに味わったことのない新鮮な感覚であった。
「ダーシュ、く、くすぐったいよぉ やめて、やめてったらぁ」
その新鮮さがあまりに鮮烈であった為に私は彼の腕の中で身悶えして逃げ出そうとする。
「大丈夫だって、ホント、大丈夫。俺がお前に今まで酷いことしたことあるか?」
子供をあやす口調でクスクスと笑いながら彼は手を動かすのをやめようとしない。
その内に彼の指先が私の開花には程遠い乳首を容赦なく捉え、円を描くようになぞり出した。
「ふぁああッ ダ、ダメ、そんなとこ、さわっちゃダメェ」
ゲラ ゲラ ゲラ ゲラ ゲラ ゲラ♪
特色のある彼の臆面も無い朗らかな笑い声が浴室一杯にこだまする。
「どうだァ あ〜?アーシェ、俺様の愛撫の感じは。言ってみろよ、正直な感想を」
未知の感覚に困惑し、身も心も打ち震える私にダーシュはお構いなしだ。
「あ、ああ、くすぐったくてぇ こそばゆくてぇ でも、何だか体中が、ポカポカしてきて……」
たどたどしい私の答えに満足したのか、彼はご機嫌なのか鼻歌を歌い始める。
そのリズムに合わせて太い指先が緩急をつけて動き出す。
周囲の小麦色の肌に比して淡い桜色だった、ささやかなサイズの私の幼い乳輪を。
私は懸命にダーシュの両腕にしがみついて、この胸板の先端から全身へと拡がる高揚感に耐えていた。
「お、乳輪広がってるじゃねえか、いっちょ前に」
後で自分自身、確認をしてみたが、確かに尋常ではない膨張率であった。私から見たら、だが。
人差し指で楽に覆い隠せる大きさだったものが、親指でも少しはみ出すほどに咲き誇る。
しかも、それは通常時と比較して、地肌から小指の爪ほどの高さにプックリと盛り上がっているのである。
まるで褐色の大地に突如桜の花咲く小山が出来上がったかの様な光景に、
自分の体にこんな機能があったのかと我ながら感心した記憶が鮮明に残っている。
「硬くなってるな、流石は俺様、お子様であろうと感じさせちまうんだなあ」
自惚れの傾向が人一倍強い彼は、同時に人一倍好奇心が旺盛だった。
自分の腕の中で身を硬くして忍んでいる私の反応に飽きたのか、次の行動に打って出たのだ。
「ひっやあぁぁあ!? い、痛い!痛いダーシュ!! 摘ままないでぇ あッあっ目がぁ」
人差し指と親指が硬く腫れ上がった私の乳首を摘まんで強く締め上げる。
彼としてはちょっとした戯れだったのだろうが、散々弄られて敏感になった私の部分には強すぎる刺激だった。
思わず悲鳴をあげて状態を反らす。その際見開いた目に石鹸の泡が入り込んできたのだ。
「うわちゃッ スマン、スマン! 待ってろ、今洗い流してやるから」
金切り声に反応して、ダーシュは急いで私の胸板から手を離し、側の盥に湯をすくって私の頭にぶっかける。
その所作は、私の小さな体から全ての泡が洗い流されて私が泣き止むまで続いた。
「ダーシュのバカァ〜〜」
「悪いって言ってるだろ? なあ、もう機嫌直せよ」
泣きじゃくり、自分を罵倒する私を彼は困った顔でなだめる。
「うっ うっ ど、どうしてあんな酷いことするの!? 何度も止めてって言ったのに…」
「そりゃ、おまえ、おまえがどんだけ成長したか確かめるためさ。おまえを愛してるからな、アーシェ」
子供相手だからといって、彼は決してその場限りの言い逃れを吐いたのではない。
少なくともその時の私はそう思った。その時の彼の瞳はとても優しく見えたから。
彼はゆっくりと私のまだ赤くなっている両の瞳に口付けをしてくれたのだ。
私の気質は、余人は何というかは知らないが至って単純である。しかもまだ子供だったからもっと単純だ。
だから、ダーシュの謝罪の言葉をあっさりと受け入れた。しかも過激な和解案まで添えて。
「うん、もういいよ、私も愛してる。だからいいよ、もっと調べても。ハイ!」
彼と向き合い、露わなままの胸板を突き出して彼に迫る。
「ハイっておまえ…… 俺にどうしろと」
半ば呆れたかのように頬杖をつきながら私の頭からつま先まで眺めていた彼は、
その視線の先が私の下腹部に向かった時にまた悪いことを考えついたらしい。
「ああいいぜ、アーシェ。もっと、もおおおぉぉっと調べてやっからよ。まあとりあえず、ここに座るんだ」
自分の膝を指差し彼は私を誘う。その表情は、これから先何度も拝むことになる欲望に濡れたものだった。
「なあアーシェ、さっき俺様が胸を調べていたとき、股間もムズムズしたか?」
「う、うん、少し。でもお風呂の前にちゃんとおトイレに行ったよ」
ダーシュが何を調べたいのか皆目わからない私は見当違いも甚だしい答えを返す。
そうか、そうか、とダーシュは何度も頷きながら、私の腰を自分の膝の間に引き寄せた。
「いいか? 今からじっくりと調べっから、きつくなったら素直に言えよ。我慢しなくていいからな」
「うん、わかった。でも痛くしないでね」
「わかってるさ。ハハ! 痛くするのはいくらなんでも早過ぎるからなぁ〜」
ククッとお腹を抱えて笑いを堪えたダーシュは右腕を私の膝の上に伸ばす。
左腕は確りと私の腹部へとまわされ自分の膝の上から逃れられない様に固定していた。
何をされるのかは皆目見当がつかない。昨日までは極普通の二人仲良く入るお風呂だったのに。
彼の指先が再び私の肌の上を滑走する。今度は下から上に向かって。太腿の内側の柔肌を左右交互に擦り始める。
徐々に右手は太腿から足の付け根へ、そして下腹部へとゆっくりと移り変わっていた。
「あ、ああぁダーシュ! そんなとこ触っちゃダメ! そこは…… ああううぅぅっ!」
彼の少々無骨な人差し指が、その頃はまだ何物にも守られていなかった私の秘裂を下から上になぞる。
「どうした? まだまだおまえにゃ刺激が強すぎたか?」
耳元でそう呟くと、ダーシュは私のエルフ特有の尖った耳を口に含んで甘く噛んだ。
「そ、そんなことないよ、本当だよ。だ、だから続けていいよっ」
強がりを言いつつも顔はいつしかうつむき加減になっていく。呼気も次第に荒くなっていった。
自分でも心臓がドクドクと急速に脈打ち、熱い血潮が全身を駆け巡っているのがわかる。
胸を愛撫された時とは比較にならない感触が瞬間的に私の背筋を走り抜けていった。
そんな私の様相に内心の好奇心と欲情が焚きつけられたらしく、彼は両眼を爛々と輝かせていた。
人差し指は何度も何度も、縁がふっくらとした緩やかな丸みを帯びている小麦色の裂け目を往復する。
指が上下する度にジワジワと得体の知れない感覚の波が、私の下腹部から背筋を伝わり頭の芯へと昇っていく。
そうこうする内に、私の秘部の縁を辿っていた指は次第に裂け目の間へと喰い込んでいった。
まだ誰も触れたことの無い私の内粘膜に、直接ダーシュの指が触れる。
喉から心臓が飛び出そうな恥ずかしさと何とも形容の仕様がない込み上げる感覚、
そしてその瞬間まで一度も目にした事のない自身の体の一部の情景に興奮が留めなく湧き上がった。
それは、サーモンピンクと形容される色だと思う。
ダーシュの指が割れ目の中ほどに入り込むことで捲れ上がった、私の秘部の内側はそんな色をしていた。
普段マジマジとその部分を観察することなどない私は、褐色の肌の色と違うことが妙に気になってしまった。
「だ、ダーシュ、私のここ、肌の色と違うよ!? わ、私病気なのかなぁ」
無知蒙昧な私の問いにダーシュは含み笑いを漏らしつつも答えた。
「違う、違う。これ、見てみろよ」
私の秘裂を指で左右に広げると共に私の体を少し持ち上げ、
先ほどから私のお尻を後ろからつっついていた何かを私の股の間からひょいと顔を覗かせた。
それは今まで一緒にお風呂に入っていた際も見たことがないほどに硬度を増し、膨張した彼の男性器だった。
「な? 俺のも似たような色してるだろ? 皆そんなもんさ。ここは肌の色なんか関係ねえんだよ」
そう言って彼は陽気に笑う。だが、私の眼にした彼のそれは私のよりも鈍く赤黒く見えた。
「しかし何だな……」
繁々と私の股間を眺めつつ、
「娘の成長を直接体に確認するなんざ、父親冥利に尽きるってもんだな」
鬼畜な内容の発言ではあったが、そう呟いたダーシュの横顔は少しだけ、少しだけ感慨深げに遠くを見つめる表情をしていた。
「わ、私、大人になってるのかなあ。ねぇ、ダーシュ…」
首をもたげて背後を振り返る私の頬にダーシュは静かに労わる様に優しく接吻する。
戦場の彼を知る者であればそのギャップに唖然としたことであろう。
「ま、大人になり始めてるってところだな。まだここも毛が生えてねぇし」
ツルリとしたそこを丹念に撫しながら彼は私の問いに答えてくれた。
ダーシュなりに気を使っているのか、指は人差し指の先の部分以外はいれようとしない。
そんな指先が私の内部を際限なく刺激する度に下半身が疼いてきて、
両足から腰にかけて力を入れたり抜いたりを繰り返しながらもがき、初めての快感に耐え続ける。
しばらくの間彼の執拗な愛撫が続くうちに、私の体内で新たな変化が生じてきた。
私の秘部からこれまでの人生で一度も流した事の無い体液が徐々に、しかし確実に量を増やしながら染み出してきたのだ。
最初は先程頭からかぶった湯が中に入り込んだのかとも思ったが、
それにしては体温に馴染んだ温かさの上、湯とは比較にならない粘性を身の内で感じていた。
「もう濡れてるぜ…… まったく、最近の若いのは発育が良過ぎるんだなァ」
ダーシュは自分の指に絡みつく体液の存在に気付いたらしく、目を細めて笑った。
私はその体液が、この状況下では溢れ出すのが自然であるのをこの時点では全く知らない。
だからこの変容が何か恐ろしい事の前兆ではないかと、熱く痺れている頭の片隅で思った。
体は真に正直らしく、下半身は次第に蕩ける様に動きが鈍くなり、上半身はそれに比して右へ左へと揺れ動く。
声に出してダーシュに体調の変化を訴えたかったが、口を開けばそこからは奇妙な嬌声しか出せなかった。
「!!」
声にならない刺激が突如私の先鋭化した感覚器に襲い掛かる。
それはダーシュの愛液で濡れたままの指先が体内から引き抜かれ、赤く腫れ上がった陰核を軽く押した瞬間だった。
「まだまだ直で刺激するには早過ぎるな。傷んだら事だから、剥かずにそのままで弄るのが吉か……」
幼い私の陰核を上から押して刺激しながら、ダーシュは小さく呟いた。
私が長ずるにしたがって、彼は躊躇することなく包皮の中の赤い豆粒大の陰核を剥いて露わにし、
吸ったり、舐めたり、撫でたり、押したり、摘んだりと縦横無尽に翻弄する。
だが、この時分は私の成長具合を考慮して、彼なりに労わってくれていたのだ。
「あっ あっ あっ んああァァっ ダーシュ… ダーシュ ダーシュ!」
際限なく彼の名を口走りながら私はよがり狂う。
指先が敏感な部分を弾く度に下腹部に緊張が走り、お腹の中がキュッと締まる。
彼の指先が腫れた部分を撫でる度に身も心も高揚し、切なさが溢れ返らんばかりに込み上げる。
ドロドロに融けそうなほど秘部が火照って、その熱がじんわりと全身に飛び火し体中が焼け付くほどに燃え上がり、
艶めくまでに滑らかな小麦色の肌の上には無色透明の大粒の汗が浮き出て雫を作り、私が悶えるや下に向かって垂れ落ちる。
その雫の軌跡、肌を伝う汗までもが私の快楽中枢を作動させ、更なる深みに誘う。
「子供の感じ方じゃねえよな、こりゃ…… やべぇ、こりゃあマジでやべぇ 俺も本気になっちまいそうだ」
鼻息を荒くしてダーシュは興奮していた。私の股間にある彼の分身も狂おしいまでに反り返り、天を突いている。
ジンジンとする熱い感覚が占拠していた脳裏はもはや時間も周囲の状況も、
ダーシュの言葉すらもまともに認知出来ない。ただひたすらに新鮮なこの快感を貪るだけだった。
だがそれもどうやら終焉を迎える時が来たようだった。
心も体も許容量を超える快楽の波が襲いかかった瞬間に脆くも崩れ去った。
白熱する波が頭の天辺からつま先に至るまで到達するや私の四肢はピクピクと小刻みに痙攣し、
全身が何者かに押え付けられたかの如く硬直する。
何かを叫んでいたと思う。だが、丸で覚えていない。何故ならば、そのまま私の意識は飛んでしまったからだ。
「おいおい、大丈夫か? いくら初めてでも手淫で気ぃ失うとこまで感じるとはな。でもまあ、よく頑張ったなアーシェ」
目を覚まし、薄い霧がかかったまま焦点が合わない私の視線にダーシュの笑顔が映っていた。
ダーシュの腕の中で、私は次第に意識を取り戻し始めた。
輪郭がぼやけていた視点も定まり、荒くなっていた呼吸も徐々にだが静まっていった。
「ねえダーシュ、私、ひょっとして何かの病気なの?」
静かに私を見守る彼の顔を見上げながら不安げに問う。
「違う。それはお前の体が子供から大人へと変わり始めた証拠だ。それに、どっちかっつーと、病気なのは俺の方だな」
「えっ!? ど、どういうこと!?」
驚きの余りに思わず彼の体の上で飛び上がった私に、彼は自分の股間を指差す。
「これ、腫れ上がってるだろう?」
そこにはコチコチに硬直し、屹立するダーシュの男根があった。
「悪い膿が一杯溜まってるんだ。このままいくと更に膨れ上がって弾けるかもしれネェ
俺、もう死んじゃうかもしれない。短い人生だったなぁ俺も……」
病気で死にそうな割には涼しい顔で、ヘラヘラ笑っている。
「ダメェェッ 死んじゃダメェッ!! ダーシュ元気になって!!」
両目から夥しい涙を溢れ出しながら、私はダーシュの胸に縋り付いてしゃくりあげながら泣いた。
ダーシュはそんな私を抱き寄せて、そっと顔を持ち上げ、自分の唇を私の唇に重ね合わせた。
不意を突かれ、あっと声を出しかけて半開きになった私の口を塞いで大きく吸い込む。
たちまち私の短い舌は彼の口中へと吸い込まれてしまい、彼の長く柔らかい舌に絡め取られた。
私の舌を吸ったり転がしたりでは済まなかった。彼の舌が私の口にも侵入し、上顎や下顎を存分に舐め回す。
おやすみの挨拶などの接吻から遠くかけ離れた、それが彼との初めてのディープキスだった。
髪をくしゃくしゃになるほど掻き撫でながら、ダーシュは私を抱き締める。
別の生き物の様に蠢くピンクの舌で、私の少々厚い唇まで丹念になぞりながら、
息が出来なくなるほど強く、強く、私を、私の口中を吸い続けた。
満足するまで口付けを交わして後、やっと私を解放してから彼は言った。
「じゃあ、お前が俺を救ってくれ。お前だけが俺の病気を治せるんだから」
そう言って、彼は赤黒く腫れた「患部」を私に突き出した。
今にして思えば酷い話だ。何も知らない子供を騙して自分の淫欲を満足させようとするのだから。
だが当時の私は、否、今も私はダーシュの為ならば何でもしようと思っている。
例えそれが世界を敵に廻す事になろうとも躊躇する事はない。本気なのだ、私は。
そんな私にとって、「患部を握ったり、擦ったり、舐めたり、吸ったりして膿を出す」事など問題にもならなかった。
「まずは患部を触診してくれ。ゆっくりと触るんだぞ。でないと、俺、死んじゃう」
まるで固形化したように喉を通ろうとしない唾をゴクリと音を立てさせて無理矢理飲み込み、
私は恐る恐るそそり立つ「患部」に両手を添えた。
それは火傷しそうなほどに発熱し、中で狂おしいまでに脈打っているのがすぐに分かった。
「どうだ?」
「熱くなってる…… それにとても硬いよ……」
「ああ、このままほっとくと手遅れになるな。じゃ、早速中の膿を搾り出すんだ。
まずは両手で棹の所を掴んで上下に扱くんだ。いいな、あんまり力を入れて握んなよ?」
にやにやしながらダーシュは指示を下す。私は言われるがままに動いた。
太くて長い彼の「棹」を手にし、上下に向かって擦り上げる。
硬い硬いとは言っても決して弾力性が失われた訳ではなく、それどころか擦る度に
私の手の中で硬度を増しながらより膨張し、且つより反り返ってくる。
「おおぉ いい感じだぜぇアーシェ…… いい按配だ… へへっ」
床に両手をつき、自分の体を支えながらダーシュは気持ちよさそうに人心地ついていた。
私は彼が伸ばした足の上に跨って、彼と向かい合う形で「治療」に専念していた。
ダーシュの顔も嬉しそうだったが、私の手の中の彼も嬉しそうにしていた。
私が息を弾ませて懸命にしごく度にピクピクと脈打つのだ。
「よし、よし、その調子だアーシェ。次は……おい、左手を貸してみな」
起き上がったダーシュは私の左手を手に取り、「患部」の下へと持って行く。
広げられた私の手の平に、ダーシュのいささか滑稽な形をした陰嚢が乗せられた。
実のところそれは私にとって普段から好奇心の対象だった。
私の体には備わっていない不思議な形状のそれをこの浴室で目にする度に気になっていたのだ。
だから、私はダーシュに命ぜられる前に思わず手中で陰嚢をコロコロと転がしてしまっていた。
手の平に、鳥の卵大の玉が二つほど袋状の物の中に入っているのが分かる。
「そうだ、そうやって転がすんだ。タマに軽く、ホントに軽く握るとかするんだ。
そこに『膿』が溜まってるから、そうやって搾り出すんだ」
「じゃ、じゃあここを強く握り締めたら全部膿を出せるの!?」
今思い出すだに可笑しくなるが、その時私は真面目に陰嚢を全力で握り締めようとしたのだ。
「あ!? い、いや、それはマズイ!! 激しくまずいっ そんなことしたらショック死しちまう」
確かに、言葉の額面通りだろう。
「だ、だからな!? ほら、ゆっくりと、時間をかけて優しく労わってやるんだ、な」
「うん、わかった。優しくしてあげればいいの? こう、すれば」
ゆっくりと陰嚢を左右に転がしたり、軽く伸ばしたりする。
すると陰嚢の中の二つの卵状のもの(後で睾丸という名であると知った)が
私の左手の中で膨らんだり縮んだりと動き始める。「膿」を精製しているのであろう。
私は必死になって彼のモノを上下にさすり、陰嚢を可能な限り優しく揉んでいる。
そんな私を彼は上から見下ろし、鑑賞する。時折熱い呼気を漏らし、目は恍惚で呆けていた。
そうこうする内に、彼の、その名称からは程遠いグロテスクな形状の亀頭の紅い口から、
今も私の女性器から際限無く溢れ出し、太腿から伝って滴り落ちる液体に似た体液が滲み出てきた。
それは透明度は高いが白く濁っていて、少しばかり粘り気があったように思われる。
その体液が私の右手の指先にも絡まり、彼を丹念にさする度にネチャネチャと音を立てた。
「膿! これ膿だよね!」
目に見えて現れた「治療」の効果に私は興奮して叫んだ。
「そうだ、アーシェ、これが俺の中に溜まった膿だ。……もういい頃合だな」
私の頬を撫でて私の労を謝し、彼は次の指示を下す。己のいきり立つ分身を突き出しながら。
「さあ、今度はお前の口で直接膿を吸い出すんだ。頼むぜぇ、あともうちょいで全部出そうだからよ」
浴槽の縁に腰掛てふんぞり返るダーシュの足元にひざまずく。
屈みこんだ為に私の顔の位置はちょうど彼の腰、有体に言えば彼の股間と同じ高さになった。
「早くしろよ。もたもたしてると膿が溜まりすぎて爆発しちまう。死んじまうぜ、俺が」
病苦に苛まれているにしては涼しい声で督促するのが厚かましい限りだ。
彼が指差す股間には先程からピクピクと痙攣して上下に揺れ動く男根が蠢いている。
赤黒い肉塊が揺れ動くその様は、まるで私を誘ってでもいるかのようだ。
だが、まだ幼く純情だった私はその声に押されて慌ててヘソまで反り返った彼の男根を両手に取る。
鼻先まで彼の腫れた尖端が迫っているが、どうにもその先に進むことが、出来ない。
「どうした? そんなに困った顔をして」
「ダーシュ…… ホントにこれを吸わないといけないの? これ、大き過ぎて私の口の中に入らない様な気がする」
「ハハハッ そんなことかよ。いいぜ、全部飲み込めなんて無茶言わねえから、出来る範囲まで口に含んでみな」
「うん…… わかったよダーシュ、ダーシュの為なら私何でもするから」
半ばまで開いた口の中に、限界まで膨張することによって皮が張り切り、鈍い光沢まで放っている亀頭を頬張る。
唇で感じた彼の男根は、「病気です」と言われても納得してしまうほどの熱を放っている。
ただし、火傷してしまうほどでもなく、妙な例えだがそれは焼き立てのパンに似た温かさだった。
「間違っても歯を立てるなよ。始めはゆっくりでいいからな」
ダーシュを口にしたまま上目遣いで仰ぎ見、小さく何度も頷く。
「いい子だアーシェ、じゃ、まずは舌で先っぽを舐めるんだ」
また私は頷き、言われた通りに作業を開始した。頑張って亀頭を四分の三ほど口に含み、中で舌を動かす。
硬く張り出した肉片を舌の上に乗せ、まるで味わうかのごとく下顎との間で左右に転がす。
そして次に下顎から上顎に向かって舌を移動させる。私の赤い舌は何度も丸い円を描いて口中を回転した。
時に舌を硬くすぼめて「膿」が漏れ出ている「口」に宛がい、舌先で上下左右に転がしてみる。
以上は、別にダーシュに教えられた訳ではない。「膿」を出す為にはそうしないといけないと思ったからやったまでだ。
口中で舌を動かし続けたためか、唾液の分泌が活発になってきているのが自分にも良く分かった。
だが、口一杯に彼の膨張するモノを含んでいるために飲み込むことも適わない。
だから次第に溢れ出した涎が唇から顎を伝い、首筋にまで垂れてきてしまっている。
それでも私はそれを拭うこともせず、一心不乱に彼を癒し続ける。
「ああ…… いいぜ、アーシェ、その調子だ。次は吸ってみな」
言われる通りに、吸う。チュッチュッと音を立てて。舌を下方に宛がい、歯を立てないよう注意する。
少量ではあるが漏れ出ている「膿」が舌の上に広がる。妙な生臭さと苦味が嗅覚と味覚を占拠し始めていた。
「吸ったり、舐めたり、ほら、手で扱くのも忘れんなよ。それから……」
自分の股間に吸い付く私の頭に手を置き、一旦引き離す。私の唇から透明な唾液が糸を引き、虚空で途切れる。
ダーシュは自分で自分の性器を握り、私の眼前で肉茎を晒して見せた。
「ここも、な、同じようにするんだ。頼んだぞ、アーシェ」
「うん アーシェ、がんばる……」
ダーシュの手から受け取ったダーシュの肉棒はビクビクと脈打ち、黒光りして見える。
私はそれを両手に添えて、そっと口付けした。それからチロリと短く舌を出して満遍なく舐めまわす。
指で捏ね繰り回したり、唇に挟んで擦ったり、それからかれこれ15分ばかり彼のモノを弄り回す。
ダーシュは私の所為に埋没し、OH!だのAH!だのといった奇声ばかり上げていた。
その時はそんなに具合が悪かったのかと心配して懸命に励んでしまったが、
曲がりなりにも100年にも上る年月を経た今は自分にもダーシュにも呆れるほかない。
そんな私の眼に、中で何かが蠢いているかの様に見える陰嚢が入ってきた。
(あの中に、ダーシュを苦しめている「膿」が溜まっている……)
ダーシュに元気になって欲しい一念の私は、その思いに突き動かされて、
それまで亀頭の付け根の皮膚を含んでいた口を放す。より彼の腰近くへと口元を移動させた。
「ああッ おうぅ!? ど、どこをっ あ、アーシェ!?」
悲鳴にも似た声を上げてダーシュの腰が宙に浮く。その時、彼の陰嚢は私の口の中に吸い込まれていた。
陰嚢を口に含んだ私は、覚悟を決めて行動を開始した。
袋の中の縦長の玉が私の舌の上でコロコロと踊っていた。私も玉を舌の上でコロコロと転がす。
皺々の袋も軽めに吸うことによって伸ばしたりした。私の舌の動きに連動してダーシュの腰もビクビクと揺れ動く。
不意の出来事で多少面食らった様子だったが、ダーシュは下半身より立ち昇る喜悦を隠そうともしない。
「いいぜ、アーシェ。もっと、もっとしゃぶるんだ。まったく、お前は俺様の自慢の娘だよ。
親孝行で、気が利いて、その上エロくて。将来が楽しみになってきたなァ」
エロくて? どうやら快楽を貪るのに夢中なあまり、本音が一部漏れたらしい。
どういう意味なのか問い質そうと、私が口から陰嚢を出した瞬間だった。
「よくやった、アーシェ。後は俺が動くから、お前はとにかく吸い続けるんだ」
私の後頭部に腕を回し、がっちりと抱え込んで頭を固定すると、ダーシュは無理矢理男根を私の口にねじり込んできた。
「!? ダーひゅッ!? な あ あぐ」
唐突な行動に、私は彼の肉棒に口中を犯されながらも彼の愛称で叫ぶ。
もっともその言葉は意味を成すこともなく喉の奥底へと飲み込まれていったが。
湯気が漂う浴室の床に両手両足をついた格好の私の顔に向かってダーシュは腰を振り始める。
強引にこじ開けられた唇の間を、諸々の体液で光が反射しきらめきながらヌルヌルとした肉棒が出入りを繰り返した。
ダーシュの腰が私に向かって突き出される度に喉に男根が直撃し、嘔吐を催すこともあったが、
そこは何とか我慢して、彼の言う通り、思い切り啜る。力を込めて啜る。
空気も唾液も、染み出る「膿」もお構い無しに嚥下して吸い込み続ける。
そのためか、頬や上顎の内粘膜とネチャネチャと濡れた舌が隙間なく肉棒を包み込み、
時折口内へと吸い込まれる空気だと思うが、「くちゅ」だの「ちゅぷ」だのと音を立てて浴室内に響き渡った。
ダーシュは前屈みになって一心不乱に腰を振り続けた。時に緩急をつけ、回転方向をかえてみたりはしたが。
目の前に迫り来るダーシュの躍動する肉体に、恐れにも似た感情を抱いた私は硬く目蓋を閉じる。
それでも、暗闇の中においても私はダーシュの猛り狂う肉欲を受け止めることをやめなかった。
次第に、私の唇を分け入り、舌を犯し、口蓋を蹂躙するダーシュの肉棒の回転が速くなってきた。
私の頭の上からもダーシュの興奮交じりの鼻息が不規則に、しかし何度も私の素肌の上を吹いてくる。
ポタポタと滴り落ちた彼の大粒の汗も私の小麦色の背中を受け皿にして下へ流れていった。
「愛してるぜアーシェ〜 お前を本当に」
そう言って彼は両手で私の黒髪を大きく掻き撫でる。
(私も! 私もダーシュを愛してる!! だから……)
愛するダーシュを貪りしゃぶりつく私にその思いを口にすることは出来ない。
だから私は床から離した両腕を、突き出したり引き抜いたりと忙しい彼の腰にまわしてすがりついた。
湯と汗に濡れた彼の臀部に両手の指を食い込ませる。
少しでも、ダーシュの体を、ダーシュ自身を感じるために。
狂おしいまでに口内を駆ける肉棒を啜り込む度に、肉棒もダーシュの全身も歓喜で打ち震える。
荒々しいまでに私の髪を掻き乱すその所作は何事かを耐えているかの様にも思えた。
だが、そのダーシュの忍耐も終焉を迎える時が来たようだ。
おおおおぉぉぉォッなどと言う雄の声を上げてダーシュは一瞬その動きを止める。
そして猛烈な勢いで私の口から男根を引き抜き、その場に立ち上がった。
「ふあああッ ああ!?」
何事かと見開かれた私の目に、直立して硬直するダーシュの全身が飛び込んでくる。
だがそれも長くは続かない。ビクッビクッと大きく脈打ち痙攣したかのように見えた彼の男根は、
次の瞬間に大量の白く濁った飛沫をほとばしらせてきたのだ。
避けることは出来なかった。彼の足元にひざまずく格好になった私は頭からそれを浴びたのだ。
これが彼の言う「膿」なのだろう。それは生暖かく、そして粘つく触感の生臭い体液だった。
あまりの事に私は無表情で放心していたが、ダーシュは満足感で緩みきった表情で放心していた。
が、長い時間を置くこともなく彼は我に帰ったらしく、その長身を屈めて私の顔を覗き込んだ。
「ふうぅっ 助かったぜアーシェ、ありがとうな。愛してるぞ」
その場に固まっている私の額にそっとキスしてくれた。お礼のつもり、なのだろう。
私の有様を見てダーシュは鼻で笑い、また盥に湯を汲み私の体を流した。
「悪りぃことしちまったかな、せっかく洗ったのに、もっぺん洗いなおさないと」
私のまだ成長しきらない小さな体のあちこちを、白濁した「膿」が、
いや、もうまどろっこしいことを言うのは止めにしよう、つまり、ダーシュの精液が汚していた。
褐色の肌の上では、それは一際白く輝いて見える。
私は薄い胸板に飛び散った精液を、まだ拡がったままの乳輪上で人差し指でもって捏ね繰り回しながら、
「ダーシュ、もう体の具合は良くなったの? 膿はもう全部吸い出せた?」
か細い声でダーシュに「治療」の成果を確認する。
「ん? ああ、もうすっかり良くなったぜ。もう気分爽快」
そりゃ、出すもん出せば気分も爽快になるだろう。
だが、まだ幼く性的な知識の片鱗と言えど持ち合わせない私にはそうは思えなかった。
「嘘ッ まだダーシュのここ、腫れがひいてないよ!」
私はそう叫んでダーシュの股間で満足そうに垂れ下がっていた肉棒をむんずと掴む。
最高時に比べればかなり腫れはひいたが、それでもこの日になるまで浴室で目にした物よりは膨らんでいた。
「ダーシュ、元気になって!! 死んじゃダメ!!」
「お、おい何を、おい、やめ、アーシェ!?」
無知と過度の献身の組み合わせは斯くも恐ろしい。
まだ尿道に残った精液が染み出ていた彼の肉棒を再び擦り、そして再び唇に挟み、吸い込んだ。
ダーシュは腰を浮かし、言葉にならない悲鳴を上げて悶絶していた。
結局、この日一日でダーシュは5回も無理矢理射精させられる破目に陥る。
大袈裟な嘘をついて私を欺いた罰と甘受してもらう以外ない。
だが話はこれで終わらなかったのだ。
それは二人仲良く並んで寝た寝室のベッドの上で再開する。
全ては私の無知、特に男の生理に対する無理解が生んだ悲喜劇であった。
朝は大抵私が早く起きる。不摂生なダーシュは生活が不規則で、故に目覚めの時間も一定しない。
手早く身支度を整えた後、このお寝坊さんの父親を揺り起こすのも私の尊い責務であった。
「ダーシュ、起きて。もう朝だよ…… あれ!?」
それを見つけた時、私はまだ頭が寝てるのかと思ったくらいだ。
それは、仰向けになって寝ている寝相の悪いダーシュの股間にそそり立っていた。言わずもがな、ダーシュのご立派な男根だ。
昨夜、もうふやけるまで口淫を続け、無色透明のサラサラした精液しか出ないほどに吸い尽くしたのに。
それで完治したと思ったのに、またダーシュが腫れている。ダーシュが病気になっている!!
「朝立ち」などという、はしたない単語を知る由もない私はその光景に驚愕した。
混乱し、動揺した私はベッドから飛び降りドアを乱暴に蹴破って走り出した。朝っぱらから大音声で泣きながら。
「どうしたのです、アーシェス・ネイ。そんなに泣きながら走って」
食堂の入り口に飛び込んだ所で、旧知の二人組みに出くわした。
ダーシュの腹心、D.S四天王の一角を占めるカル=スとアビゲイルだ。
この頃は破壊神に洗脳されていないため、まだマトモだった(もっともこの頃から既に変人だったが)
アビゲイルの無駄に長い脚に正面衝突して、やっと私は走ることを止めた。
急ぎ二人に事情を説明したかったが、何分全力疾走した後ということと、
信じ難い事態の現出で頭が混乱し、口の呂律も満足に回らない状態だったのだ。
「まあそんなに焦らないで。カル=ス、すみませんが卓上の水を一杯持って来てくれませんか」
無言で頷くと、カルは腕を伸ばしグラスを手に取り、水差しの水を注いでアビゲイルに手渡した。
「これでも飲んで、少し落ち着きなさい。事情は落ち着いてからで結構ですよ」
アビゲイルの差し出すグラスを引ったくり、口の端から零れ落ちるのもかまわず一気に飲み干す。
お蔭で息継ぎは大分楽になった。そうすると、今度は気ばかりが焦りだす。
「ダーシュが大変なの!! このままじゃ、ダーシュが死んじゃう!!」
朝一番から衝撃的フレーズを鼓膜に叩き付けられて、闇の僧侶と氷の魔術師は互いの顔を見合わせた。
いつもの無表情を崩すことなく、アビゲイルは顎に手をやり撫でまわして考え込んでいた。
「ネイ、少し話が飛躍し過ぎている。まずは順に説明するんだ」
屈むことで私と視線を等しくしたカルが真剣な眼差しで問い質す。
私は、何も隠さず、何も脚色せず、全てを有りのままに二人に説明した。
昨夜、二人でお風呂に入った事。
私の体を洗う最中、ダーシュが大人になってるか検査すると体のあちこちを触った事。
ダーシュのあそこが見たことも無いほどにカチコチに硬まり、腫れ上がっていた事。
ダーシュを救う為、あそこをずっと舐めたり吸ったり擦ったりして「膿」を出した事。
にも拘らず、今朝になってまたダーシュのあそこが腫れていた事。
時に身振り手振りでその時の状況を説明する。彼のモノを擦る真似までしたのだ。
最初は真面目に話しを聞いていた二人も、次第に落ちが分かったらしく肩を落として耳を傾けていた。
カルは不吉な予感が外れて安心したらしく、目元を和らげていた。
アビゲイルは、いつもと変わらない無表情のままだった。時々、こめかみがピクピクと痙攣していたけど。
「ふあぁ〜〜〜あ… あー腹減った。メシ、メシ。ん、何やってんだこんなとこで、お前ら」
大欠伸をしながら、件の主人公が呑気に入場してきた。ダーシュだ。
「ダーク・シュナイダー、とてもとてもとてもとても大事な話があります。少しいいですか」
そう言いながらアビゲイルは返事も聞かずに別室への扉に向かってずんずん歩いていった。
「何だよ朝っぱら、メシ喰った後でもいいだろうに…… ッたくよー」
ブツブツ文句は言っていたがダーシュは何の疑いも無くついて行く。
「ねえ、アビゲイルはダーシュに何のお話があるの?」
「D.Sの病を治す、術でもかけるのだろう。奴の専門だからな、心配せずに任せるべきだ」
暗い表情で二人を見送る私に、カルはそう答えた。涙と鼻水でくしゃくしゃになった私の顔をハンカチで拭いながら。
見守る私とカルの前で、治療したりされたりする二人が入った部屋の重い扉が静かに閉まった。
カチャリと鈍い金属音が食堂に響き渡る。多分、アビゲイルが内側から鍵を閉めたのだろう。
それから間を置かずに、何やら中から声や物音が聞こえてきた。
『あなたと…… 自分の娘に何を……』『仕方ね…… あタッ! テメ……』
『この色狂い…… 物にはげんど…… きちくですか…… そのこんじょー…… ガッ!?』
『うっせー! あれは俺様の…… ば、ばか、やめ…… !! ひとごろッ……』
ドンッ!! グシャッ
「ね、ねえ大丈夫かなあダーシュ……」
治療呪文の詠唱と言うよりは、互いを罵倒しあうセリフの応酬や物が破損する音に聞こえて私は思わず反問する。
だがカルは我関せずとばかりに一人食卓に着き、自分で淹れた茶を一杯喫していた。
「ふう ふう ……お待たせしました。それでは食事にしますか」
軋む音を立てて開かれた扉から、何故か鼻から血を垂れ流しているアビゲイルが顔を覗かせていた。
手に、血塗れのモーニングスターを握り締め、息を切らせながら。
「意外に手間取ったな」
別のカップに茶を注ぎ入れ、カルはアビゲイルにそれを差し出した。
「いや、まったく困ったものです」
「ダーシュは、ダーシュは大丈夫なの!?」
カルから受け取った茶をすするアビゲイルに、私は不安げに尋ねる。澄ました顔で奴は、
「大丈夫ですよ。死ぬことはもうありません。でも時々患部が腫れることがありますが、気にしないで下さい。
今日は手術で血を流しちゃいましたから安静にして、そのまま動かさないように。部屋に入っちゃダメですよ。
……それから、『治療』は結構ですけど、もうちょっと大人になってからにしましょうね。
ああ、早く貴女には成長してもらわないと、私の身が持ちません。こんな役目は真っ平ゴメンなのですが……」
と言った。それっきり、彼ら二人はこの件の話をしようとしなかった。
これが、私の大人へと歩みだした時の物語だ。
それから長ずるほどに、ダーシュの指や唇が触れぬ場所など無くなるほどに愛し合うことになるが、まだそれは当分先の話である。
そしてその頃には、ダーシュの「お痛」を折檻する役目はアビゲイルから私に交代したのだった。
それにしても、ダーシュはいつになったら私の元に帰って来るのであろうか?