「ハアっ!たあっ!やあぁっ!!」  
 レオタードよりも露出がきわどい衣装を身に着け、悪霊軍団の中心部で両手剣を振るっている女がいる。  
 彼女の名前はミカエル。天使陣営の最高指揮官である。  
「…成る程…この程度の輩では足止めにもならぬか…」  
 その様子を、少し離れた空から眺めている一団がいた。巨大な竜に乗り、右手に蛇を纏わり付かせた女性と、竜に乗り軍旗と槍を携えた男。そして、炎の戦車に乗った男の3人。彼らこそが、地獄帝国の7大幹部の一角である、アシュタロス、アスモデウス、ベリアルだ。  
「仕方ねえだろ。軍団の大部分がザコ悪魔の寄せ集めなんだしな」  
「しかも、ザコ悪魔の大半が元ザコ天使ですからね…」  
「…敵を知り、己を知れば、また百戦危うからず、というわけか…」  
 3人が、のんきに会話をしている間にも、どんどん軍団の一般兵は切り捨てられ、ミカエルの包囲網は薄くなっていく。  
「100人斬りくらいはイったんじゃねえのか?あの様子だとよ」  
「ほう…万夫不当の豪傑ぶりだな…」  
「何をのんきなことを…このままだと、こっちの士気が下がりかねないんだぞ…」  
 あくまでまったりと観戦を続ける二人を横目に、アスモデウスがミカエルに騎乗竜の上で槍を握りなおす。  
「…仕方あるまい…出るか…」  
 アスモデウスの言葉に促されたように、アシュタロスがしぶしぶという感じで後を追う。  
 しかし、その瞳には、しっかりと興奮の色が滲んでいる。  
「…行くぞ、シルシュ!!」  
 竜首をミカエルに向けさせながら、アシュタロスが果敢に空を駆けていく。  
「…さすが元地母神…迫力あんなあ…」  
 天使陣営の布陣を見直しながら、唖然としたベリアルが呟く。  
「…噂に違わぬ猛将ぶりですね…」  
 愛と美と戦の女神という、彼女の前身を思い出しながら、アスモデウスも身震いする。  
 彼女が、さまざまな武器を手にして猫が引く戦車に乗る姿を想像した二人だったが…。  
「「…猫車って微妙だよなあ…」」  
 見事に、二人の声がハモったのはいうまでも無い…。  
 
 
「…流石は天使長だな…」  
 アシュタロスが戦場に着いたとき、3悪魔王の軍団、合計・162個師団は、約半分にまで減っていた。ミカエルに倒されたことは一目瞭然だ。  
「来たな!上位悪魔神め!!」  
 レヴァンテインを構えながら、ミカエルが咆哮する。その姿は、まさに「神の黄金の剣」と呼ばれるに相応しい。  
「…相変わらずお堅い奴だな、お前は…」  
 使命感に燃えるミカエルのセリフを聞き流しながら、アシュタロスがその柳眉を顰める。怠惰担当官の彼女にとって、使命に燃える人間はまったく正反対の生き物である。  
 …まあ、それゆえに「落とす」事がもっとも楽しみな人種であるということもまた事実ではあるが…。  
「うるさい!神に仇なす悪魔どもが!私に出会ったことを後悔するがいい!!」  
 言うが早いが、ミカエルはレヴァンテインを構えて袈裟懸けに切りかかる。が、剣を振り下ろした場所に、すでにアシュタロスはおらず、ミカエルの剣は虚しく空を切る。  
「…なっ…!!」  
「どうした?天使長の剣撃がその程度というわけではあるまい?」  
 戦い慣れした様子で、さらりと攻撃をかわしたアシュタロスが、薄笑いを浮かべる。  
「くっ…その余裕も今のうちだっ!」  
 怒りに頬を染め、再び切りかかってくるミカエル。  
 その攻撃に、自らも白刃を抜き払って迎え撃つアシュタロス。  
 雁金に斬り下げられるレヴァンテインを受け流し、刃に身体を寄せるようにして、刃を左に引き寄せながら、そのまま逆袈裟に切り上げる。  
 まともに入っていたなら、肝臓を切り裂き、刃が腹から肩まで通ったであろう。しかし、今度はアシュタロスの攻撃がかわされる番だった。  
 彼女の剣先は、ミカエルの脇腹を軽く掠めただけであった。  
 ここぞとばかりに、ミカエルが反撃しようと剣を振りかぶる。どうやら、唐竹割りに斬り下げるつもりらしい。  
だが、両手を使った斬撃はやはり隙が大きい。アシュタロスが華麗な手綱捌きで騎乗獣ごと後退すると攻撃をかわし、ミカエルの背後を奪う。  
 
「貴様ぁ…あくまでこの私を愚弄するかっ!!」  
 ミカエルの背後、2〜3Mのところで不敵に笑うアシュタロスに、もう1撃を叩き込もうと振り返ったミカエル。ところが…。  
「うわあ!!」  
 上空からの一撃を加えようと、地を蹴って飛び上がったミカエルが、突如、両手で顔を覆って失速する。支えを失ったレヴァンテインがアシュタロスの足元に落ち、ミカエルの身体もまた、地面に叩きつけられた。  
「…フフフ…遅い!」  
 翼が衝撃を吸収したのであろう、身体自体に大きな怪我はないが、3対の翼は、見るも無残に折れ曲がってしまっている。  
「うぅ…っ…目が…目が焼ける…っっっ!」  
 顔を覆ったまま、頭を振り、地面をごろごろと転がるミカエルを眺めながら、アシュタロスは自分を乗せている巨大な竜の頭に軽く口付ける。  
「…言い忘れたが、こやつはシルシュ…。私の可愛い騎乗竜でな…。気に入らぬ輩に毒液を吹き付けることもある気性の荒い奴でな…。気をつけたほうがいいぞ…」  
 どうやら、騎乗獣が吐き出す毒液を直接に浴びてしまったらしい。指の隙間から見える瞳は、真っ赤に腫れ上がり瞼を開くことすらかなわなそうだ。  
「う…あぁ…」  
 それでも、一応気配を感じ取る事程度は可能なのだろう。懸命にレヴァンテインを取り返そうと懸命に伸ばされたミカエルの腕を踏みつけながら、シルシュと呼ばれた竜が足元に転がるレヴァンテインを拾い上げる。  
「どうした?これを返して欲しいのだろう?」  
 足元でもがいている天使長の無防備になった腹を爪先で蹴り上げ、アシュタロスは嫣然と微笑む。  
 まともな防御もできぬまま、鋭い蹴りをまともに受けたミカエルは、腹を押さえてのた打ち回る。毒液のせいで腫れ上がり、ほとんど開いていない瞳から涙を零しながら、それでもなお、戦おうとするかのように、いまや敵の手の落ちてしまったレヴァンテインに手を伸ばす。  
 …と…。  
 
「うわあああぁぁぁぁぁぁぁ!!」  
 身体を大きく痙攣させ、ミカエルが絶叫する。  
 見ると、先程までアシュタロスの腕に巻きついていた蛇が、ミカエルの首筋に噛み付いている。  
「…ほう…。やはり耐えるか…。そやつはケラステス・コルヌトゥス。…ヴァーチャー程度であれば、一瞬のうちに息絶えるほどの毒性を持っているのだがな。天使長の名は伊達ではないということか…」  
 くつくつと、楽しげに笑うアシュタロス。それを朦朧とした意識で見上げるミカエル。  
「なんだ。もう終わったのか?」  
「…噂以上の武者ぶりですね…」  
 そこへ、それぞれの分担を殲滅し終わったのか、ベリアルとアスモデウスが集まってきた。二人とも、妙にうきうきした様子だ。  
「…どうした?何があったというのだ?」  
訝しげな表情で二人に視線を移したアシュタロス。そんな彼女に、連絡将校・カイムあたりが奮闘したのであろう。悪魔陣営の成果が書かれた連絡速報をベリアルが手渡した。  
「……………ほう…これはこれは…」  
 ベリアルから手渡された紙面に目を通しながら、アシュタロスが極上の微笑を浮かべながらミカエルに向き直る。  
「喜ぶがいい。お前達セラフの一角、ガブリエルが我らが手に落ちたそうだ…」  
「…そんな…馬鹿、な…」  
 首筋から全身に広がっていく痺れと戦いながら、ミカエルが頭を持ち上げる。  
「…どうやら嘘ではないようだな。ペイモンとビレトの両軍が捕獲したと、ここに書かれているようだ…」  
「へっ!意外とあっけなかったみたいだぜ!セラフってのも口ほどにもねえんじゃねのか?」  
「…それじゃあ、オレ達も引き上げましょうか…。このセラフたちの処置も決めなくてはならないだろうし…」  
 自分の頭の上から響いてくる悪魔王達の嘲笑と話し声を聞きながら、ミカエルは絶望という名の眠りへと堕ちていった…。  
 
 
 その日の万魔殿は歓喜に沸いていた。何せ、天使長とその副官の捕獲に成功したのだ。これで喜ぶな、という方が無理というものであろう。大広間は、戦果を祝う魔物たちで満ち溢れている。  
 その輪の中心にいるのが、今回の立役者、アシュタロスと、ガブリエルを捕獲したビレトとペイモンの両名である。  
「あぁん、オネエ様〜〜〜♪今回の戦場では獅子奮迅の働きやったって聞いたでぇ〜♪さすがやわぁ☆ミ」  
「さすがはアシュタロスおねえ様だモ〜〜ン☆尊敬しちゃうモ〜〜〜ン」  
 先ほどから、仲魔達の祝杯を受けていたのだろう。すっかりと出来上がってしまったビレトとペイモンに両脇から擦り寄られ、アシュタロスは二人の対応に追われていた。  
「何を言う。ビレトとペイモンの活躍もすごかったと聞いているぞ…よく頑張ったな」  
 二人の身体の柔らかさを心地よく感じながら、労いの意味を込めて軽く頭を撫でてやる。その姿は、先ほどまでの好戦的な姿とは打って変わって、とても優しげで母性的だ。  
 と。勝利の歓声に沸く魔物達の群れが左右に割れ始めた。その様は、まるでモーセの杖に打たれて割れていく大海原だ―…まあ、悪魔にこの描写を使っていいのかどうかという疑問は残るが…―。  
 そして。あっという間に出来上がった花道の向こうから、悠々と歩いてくる男が一人…。  
 拘束具に全身を包まれた一見異様な風貌のこの男こそが、地獄帝国の最高権力者。悪魔王・サタンだ。  
「…これはこれはサタン様…このような場所で御尊顔を拝することができるとは、恐悦至極にございます…」  
 いち早くサタンの姿を認めたアシュタロスが、慇懃にサタンの足元に跪く。その姿に触発されたのか、ややあってビレトとペイモンがアシュタロスに倣う。  
 
「ああ…堅苦しい挨拶はいらねえぞ。まあ適当に楽しんでろ」  
 鷹揚に手を振るい、彼女達を立たせるサタン。言葉は少ないが、全身から発せられる存在感と威圧感は、まさに王者のものである。  
「事の次第はベルゼバブから聞いてるぜ。ミカエルを捕獲したんだってナ」  
 一つしかない彼の瞳が鋭く光り、アシュタロスを一瞥する。その瞳のおくにかすかに滲む興奮の色を、彼女は見逃さなかった。  
 どうやら喜んでくれているらしい。  
「…些か手こずりましたが、見事仕留めましてございます…」  
「言ってくれるぜ。お前こそ真の三国無双だってベルゼバブがほざいてたぞ」  
ククッと、喉の奥で押し殺したような笑い声を上げ、仮面の向こうで、サタンがニヤリと笑みを浮かべたのがわかる。彼が笑うところを見るのは久しぶりだ。  
…あの男め…サタン様に一体何を吹き込んだというのだ…!?  
 再び魔物たちの間に消えていくサタンの後姿を見送りながら、万魔殿に帰還した際、本陣で作戦の総指揮を勤めていたベルゼバブにミカエルを引き渡した際の、やけに楽しそうな笑顔を思い出しながら、アシュタロスは内心毒づいた。  
 腹立ち紛れに、手にしたグラスの中身を一気に煽る。  
 トロリとした深紅の液体が喉の奥を降りていくと、胃の奥底がかっと焼ける様な感覚が心地いい。なかなか上等な酒だ。憂さを晴らすように、手酌で続けて杯を重ねる。何杯めかの酒を注ごうしたとき、背後から声がかかった。  
「美女の酔態というのもなかなか乙だけど、それにだって限度ってものがあるよ、アシュタロス」  
 背後から腕を伸ばし、彼女の杯を奪ったのは、彼女の憂さの原因、地獄の宰相ことベルゼバブだ。相も変わらず底の見えない笑みを浮かべている。  
「…貴様…一体ドコから湧いてきたのだ?」  
 ベルゼバブの手に握られたグラスを取り返しながら、アシュタロスが横目で彼を睨む。  
 しかし、酒精にほんのりと頬を染め、目の縁を滲ませるその姿は恐ろしさよりも艶っぽさを強調させる。  
 
「湧いてきたって…ボウフラとかじゃあるまいし…」  
「…蝿も蚊も似たようなものではないか…」  
 酔ったアシュには逆らわない方が得策とでも判断したのであろう。困ったような笑みを浮かべて、宰相手ずから彼女のグラスに酒を満たしてやる。  
「…貴様がそう素直だと、逆に気味が悪いな」  
 口の端を持ち上げて笑みを作り、悪態をつきながらも満足げな様子でアシュタロスはグラスに口をつける。  
 周りを見渡せば、ビレトとペイモンはすでに夢の国。幸せそうな笑みを浮かべて寝息を立てている。その他の魔物たちも、ますます意気軒高だ。炎を吐くもの、楽を奏するもの、歌いだすもの…。皆、勝利の美酒に酔っている。  
 しかし…。  
「…アスモとベリアルの姿が見えんな…」  
 大広間のドコにも、あの凸凹コンビの姿が見えない。  
 何だかんだいって、彼らもアシュタロス同様にミカエル捕縛に一役買った者達である。共に祝杯を上げているとばかり思っていたのだが…。  
「気になるかい?」  
 いつの間にか、悪戯っぽい笑みを浮かべたベルゼバブに顔を覗き込まれていた。  
 ここで頷いてしまうと、彼の思う壺にはめられてしまうような気がして。アシュタロスは好奇心を押さえ、努めて平静を装う。  
「…別に…。あいつらが何をしていようと私には関係ないからな」  
 そう言って、再びグラスの酒を一気に煽ると、「注げ」といわんばかりにベルゼバブにグラスを突き出す。  
「…はいはい、マダム…。お望みのままに…」  
 楽しげに笑う宰相殿の手によって、グラスに深紅の酒が満たされた…。  
 
 
 一方その頃。酒宴の喧騒も届かぬ地下の牢獄に、アスモデウスとベリアルの姿があった。  
 彼らの目の前には、ほぼ全裸で拘束されているミカエルがいる。身に着けているものといえば、先ほどまでの戦鎧の残骸に、腕と足を拘束する鎖。そして、きつく噛まされている猿轡だけだ。  
「ほら!起きろよ!!」  
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっっっ!!!」  
 むき出しのミカエルの腹に、ベリアルが蹴りを食らわせる。無防備でいたところにいい角度で爪先が鳩尾に入り、途端にミカエルが激しく咳き込む。  
「ったく…いつまで寝てんだよ。案外寝汚いな、テメエも」  
 海老のように身体を折り曲げ、床をのたうつミカエルの姿を見ながらベリアルがせせら笑う。そんなベリアルを無視して、淡々と作業を進めるアスモデウス。  
 ぎっちりと後ろ手に縛り上げ、さらに、神霊力を苦痛へと変換する首輪を取り付けている。  
「…よし…」  
 自分の作業に満足したのか、うんうんと頷きながらアスモデウスはミカエルの猿轡を外そうと手をかける。  
「おい!何で猿轡外すんだよ!?」  
「声が聞こえたほうが面白いでしょう?」  
「…流石だな、情欲担当官。好きにしろ…」  
 あっさり答えるアスモデウスに、ベリアルは盛大なため息をつく。  
…情欲担当官って言うなっての…と、口の中でぶつぶつ呟きながらも、結局ミカエルの猿轡を外すアスモデウス。  
「くぅっ…離せ!卑怯者!!」  
その途端に、ミカエルの口から罵声とも怒声とも付かない声がマシンガンのように飛び出してくる。  
しかし、瞳を精一杯見開き、闇の中でも輝く金の髪を振り乱しながら、ろくに動かすこともできぬ身体を震わせることしかできない今は、牙を抜かれた獅子にすぎない。  
「…やっぱりうるせぇぞ………まあいいか。さっさと始めようぜ」  
「始める?何をするつもりだ貴様!!」  
 
 眦を吊り上げてミカエルが叫ぶ。しかし、彼女の瞳に恐怖の色が浮かんだことは否定できない。  
「それに、何だかんだ言っても、お前クラスの熾天使なら堕とす価値もあるしな」  
 ベリアルの台詞が言い終わらぬうちに、彼の手によってミカエルの身体から鎧の残骸が剥ぎ取られる。拘束が取れた彼女の乳房が、重力に従いブルンと震えて下に垂れ下がる。  
「や…やめろぉっっ!!」  
 羞恥に頬を染め、驚愕に目を見開いて。ミカエルが無駄ともいえる抵抗を始めた。鎖を振りほどこうと身体をよじらせ、手足をばたつかせる。しかし、彼女が暴れるたびに、鎖や首輪は尚一層きつく締まり、支えを失った乳房がいやらしく揺れるだけである。  
「解ってねぇなぁ。ここには地獄の魔素で作った結界を張ってあんのさ。つまり人間やお前達天使にとっては力を封じる蜘蛛の巣にかかった様なもんなんだよ」  
 にやりと唇の端を歪めたベリアルの手で、戦鎧の下に着ていた薄いレオタードのようなアンダーウェアがするりと脱がされる。  
「なあ、知ってるか?意外に天使は精神的にモロいらしいぜ」  
「悪魔の手に落ちた天使がどうなるか、知らないワケじゃないですよね?」  
 むき出しになった身体に二人の手が這わされ、肌が粟立つような感覚に、これから加えられるであろう拷問を想像し、思わず身震いするミカエル。  
「お前らは知らねぇだろうがな。お前ら天使より悪魔は勤勉で研究心、探究心も強いんだぜ。なんせ、より徳の高い人間を堕とすためには賢く、狡猾でいなければならないからな」  
 薄笑いを浮かべて語るベリアルに、いつもの直情的な雰囲気は微塵も無い。人間界では派閥の間の利潤調整官として、フィクサー、もしくは黒幕として恐れられている存在だ。本当は意外と知識はあるのかもしれない。  
「くっ…貴様ら悪魔ごときに…遅れを取るとは…」  
 かつては、凛々しく正義の光を宿していた青い瞳に涙を滲ませ、羞恥と屈辱に苛まれている姿は、悪魔でなくても嗜虐真をそそられるであろう。  
「オレ達悪魔はね、天使と違って敵をすぐ葬ったりはしないんですよ。悪魔はいたぶるのが好きですからね」  
 ミカエルの耳元で、涼しげな顔でそう囁いたアスモデウスが彼女の唇を奪い、無理やり唇をこじ開けると、舌を口の中に差し込み、歯列を開かせて舌を絡めようとする。  
 が。  
 
「っ!」  
 一瞬、顔をしかめたアスモデウスが慌てて唇を離す。どうやら、口腔内に差し込んだ舌を噛み切られたらしい。ミカエルが吐き出した舌の切れ端が床に落ち、ビチャッと湿った音をたてる。  
「…やってくれますね…」  
 口の端から溢れ出た血を拭ったアスモの瞳に、仄暗い怒りと情欲の焔が揺らめく。  
顎を掴み、強引に重ねた唇から麻痺・魅了・媚薬効果のある「息」を吹き込む。  
「…ッぷぁっ…貴様なにをした!?」  
 頭を振るって口付けから逃げたミカエルだが、すでに体の自由がきかず、ただ悔しそうに睨む事しか出来ない。そんな彼女の上半身を床に押しつけ、尻を高く上げるように四つん這いに地面に這わせる。  
「ちょっと大人しくして貰う為のまじないみたいなものですよ。どうです?地面に触れただけで快感でしょう?」  
 欲望に歪んだ笑みを浮かべたアスモデウスが、身体の下で潰れているミカエルの胸を床に擦りつけるように、押さえつけている上半身を軽く揺らす。  
 
「はぁっん・・な、何だ・・体が…っ」  
意思とは裏腹に、触れられただけで声が出たことが信じられないという表情だ。  
「ホラもう乳首が勃ってる…悪魔はウソツキだけどさっきの話はウソじゃないって証拠ですよ」  
胸と床の隙間から指を差し込み、もう勃ちあがり始めている乳首を弄んでやる。  
「気持ちいいんですか?まあ、何も言わなくてもその声を聞けばわかりますけどね」  
「あっやぁっ…」  
 指先で、勃っている乳首を触られる度にビクッと身体が痙攣する。触られているところから、下腹部の奥底に向けて電流が流れるような感覚がミカエルを襲う。  
「…てか…見てないで手伝ってくださいよ…」  
 ミカエルの身体を起こし、後ろから両乳房を思うさまに揉みしだきながら、アスモがベリアルを睨む。アスモがミカエルを攻めている間、ベリアルは何もせず、ただ壁によりかかりながら彼の行為をじっと見ているだけであった。  
「…いや、邪魔しても悪いな、と思ったからよ」  
 微苦笑を浮かべて近づいてきたベリアルが、乳房の根元を搾るように掴まれ、ぷっくりと立ち上がった乳首を摘み、そのまま押しつぶすようにひねり上げる。  
「ふあぁん!!」  
 脳を直接刺激する痛みと快感に、身体はどんどん反応していく。  
「…あ…あぁ…っん…」  
唇を噛み、必死に耐えようとするミカエルだが、次々と与えられる肉体への快楽に、次第に理性の箍が外れ始めていくのを感じ始めている。  
長い長い地獄の夜は明けたばかりだ。  
ミカエルの悪夢は、まだ終わりそうに無い…。  
 
 ミカエルへの拷問という名の陵辱が始まってしばらくたつ。散々身体を弄られつつも、ミカエルは気丈にも堕ちてはいなかった。  
「ったく…強情だな、テメェも…」  
 呆れたような口調で、彼女の胸を弄るベリアルがため息をついている。  
「一言『入れて』と言えば楽にしてあげてもいいんですよ?」  
 好色そうな笑みを浮かべたアスモデウスの指が、彼女の尻を撫でる。  
 体の奥からとめどなく湧き上がり、理性を侵していく肉欲を必死で堪えながらミカエルが声を絞り出す。  
「ふぁん・・だ、誰が悪魔になんか・・あっん」  
 身体をよじって刺激から逃れようとしても、その動きが更なる刺激となり、燻る快感の火を煽り立てる。  
「何だ…まだそんな事言えんのか。 天 使 長 必 死 だ な 」  
「その精神力の強さは認めますが…いい加減素直になったらどうですか?」  
ベリアルの指が乳首を摘みあげ、アスモの手が、尻肉を掴んで手を大きく動かすと秘部にも間接的に刺激が伝わる。  
「やぁん……んぅっ、やめ、ろ……っ」  
 本能に負けそうになる理性を必死で奮い立たせ、ミカエルは吠える。  
 身体はすっかり彼らの愛撫に屈服し、男を欲しがりウズウズしている。気が狂いそうな快感に飲まれ、めちゃくちゃにされたいと訴えている。  
しかし、理性が彼らに屈服することを拒んでいた。  
「もうかなり湿ってますね…。悪魔側に来るならもっと気持ち良くしてあげますが?」  
指が軽く秘部にあてがわれ、そのままゆるゆるとこすられる。  
指が動かされるたびに、クチュクチュという湿った音が部屋中に響き渡る。  
「だ…まれっ!わた、しは…仮にも4大熾天使……天使長…だっ!悪魔の手下になどなれるかっ!」  
 口から漏れそうになる喘ぎを必死でかみ殺し、ミカエルは頑なに拒み続ける。  
 幾億を越える天使を統括する天使長のプライドが、彼らに屈することを良しとしないのだ。  
 
 誰よりも気高く、誰よりも強く、何者にも負けず…。  
 敬愛してやまないルシフェルが堕ち、その後を継いだときから自分に課してきた戒めの言葉。  
 耐え続ければ、きっと助けがくると信じていた。…だからこそ、この屈辱にも耐えようとした。  
 しかし。  
「4大熾天使ねえ……それじゃあ、コレを見てもそのプライドが保てるか?」  
 パチン!とベリアルが指を鳴らすと、目の前の石造りの壁が歪んでいく。どこかと空間が繋がったらしい。  
 耳障りなノイズ音と共に、女の喘ぎ声とグチョグチョという湿った水音が耳に飛び込んできた。  
「こ…この声…は……まさか…っ!」  
 サッとミカエルの顔から血の気が引く。  
 徐々に鮮明な像を結んでいくスクリーンに映し出されるのは、体中に無数の触手を絡みつかせた一人の少女。  
「あはぁっ、んあああっ…そんなに…掻き混ぜちゃダメなのだぁぁ…っ!!はぁっ……ガブぅあはぁ……おかしく……おかしくなっちゃうのだぁぁ…っ!」  
「が……ガブリエル!!!」  
 触手に絡め獲られて大きく開脚され、露になったガブリエルの秘裂に、触手の先から生え出してきた無数の細い触手が侵入していく。  
「んあっ…んぅんん…っんむむうぅぅ……っ!!」  
 身をよじらせ、あられもない姿を晒す仲間の姿にミカエルが顔を背けようとしても、がっちりと顎を押さえられ、結局食い入るように見てしまう。  
「ほら!しっかり見てろって。お前もいずれああなるんだからよ」  
 無数の触手がガブリエルの淫肉の隅々を舐める様に蠢くたびに、快感に身をよじらせ身悶えるガブリエル。  
「あひいっ…!ああん…ソコぉ…もっと奥まで入れて欲しいのだぁ…」  
 淫らに笑いながら、自らの手でピンクの秘肉を押し広げる。すかさず、触手が集まり内部に侵入していく。  
 
 寄り集まった触手は、彼女の手首以上の太さになっている。  
 秘部を限界まで押し開かれながらも、愛液を垂らし、恍惚とした顔で快感をむさぼるガブリエル。  
「んんんっ…!はぁ、ガブの膣内でいっぱい蠢いてるよぉ…うぅううう…ああん!恥かしいお汁がぁ出てるのぉ…止まらないのぉ……」  
 自ら腰を動かして快感を求めるガブリエルの体に、あぶれた触手たちが纏わりつき、彼女の肛門や、乳房、乳首、そして口腔内を犯し始める。  
「ひぐぅぅっ…!お、お尻のっなか、でっ…!ああああ…こっ、擦れてるよぉっ!!」  
 半狂乱の態で、ガブリエルの体がビクンと跳ねる。アナルにも極太の触手が入り込み、膣の触手と共に交互に彼女を突き上げている。  
「あ…ああ…ちくび…ガブのちくびがぁ…あぁんっ…ちくびいじめちゃダメなのだあ…イヤぁっ!引っ張らないでェ!」  
 人一倍豊かなガブリエルの胸乳に絡みついた触手が、ぷっくりと立ち上がったピンクの乳首をむしゃぶるように舐め上げしごきあげる。  
 と、完全に勃起し、肥大しきった乳首の先から真っ白な母乳が吹き上げる。  
「あはぁ…激しいよぉ…いい、いいのだあ…!お尻にもおまんこにもいっぱい入って動いてる…ああっ、だめぇ…き、気持ち…いいよぅ!!!」  
 乳房と乳首を責められ、下半身を触手が激しく貫くたびに、瞳に涙を浮かべ、身をよじるガブリエル。  
 快楽に蕩けきった表情で、体液にまみれながら絶頂へと向かう。  
「…おっぱいも…揉まれ、て…っ…感じちゃぅ…!ああん…ミルクを舐められて気持ちいいのぉ……ミルク…搾ってほしいのだぁっ……!!」  
 触手がガブリエルの身体を這いずり、体中の性感帯を刺激し、乳房を揉みしだき、泉の如く湧き出る母乳を啜り、下半身を激しく貫く度に愛液を溢れさせる。  
 そして、だらしなく開いた愛らしい唇から涎を垂ながら、淫らに身をくねらせ身悶えよがるガブリエル。  
「あはぁあああ!!らめぇ…いっちゃう…!!あああっ、おっぱい…だめぇ…出ちゃうっ…!ああん、いくっ、いくっ、いくぅううううう!!」  
 一際高く絶叫すると、潮を吹き、母乳を噴射させながらガブリエルが絶叫を迎える。それと同時に、触手たちも白濁した体液を放出し、彼女の身体を汚していく。  
 触手が抜け落ち、開いたままの秘部からは、彼女の愛液と、触手の体液とが混じった白濁液が溢れ出している。  
 
「…な…なんということだ……っ」  
 ビクビクと痙攣しながら横たわるガブリエルの姿を見たミカエルが、がっくりと床に崩れ落ちる。  
「あいつ、一回俺たちの手に落ちてるからな。そん時にいろいろ仕込んでおいたからな」  
「軽く触手で弄ってあげたらあの通り…見事に堕ちてくれましたよ」  
 さも楽しげに笑う二人を、キッとミカエルが睨みつける。  
「貴様ら…よくもガブリエルにっ!!」  
「うるせーな!ギャーギャー喚くなよ!!お楽しみはこれからなんだからよ!」  
 その顎を掴んだベリアルが、再びスクリーンへと顔を向けさせる。  
 ソコには、先ほどと変わらず、体液で汚されたままのガブリエルが横たわっている。  
 突然、彼女の体が大きく跳ね上がった。  
「あ、ああああああ、だめ…お、お腹の中でっ…う、動いてるのだぁっ!!」  
 下腹部を押さえ、のた打ち回るガブリエル。壁にもたれかかり、足を大きくM字に開く。  
「あ…ああああ…で、出るぅ…生まれるよぉぉぉっ!!」  
 ビクビクと痙攣するガブリエルの秘部がパックリと割れ、粘液にまみれたソフトボール大の卵のようなものが排出される。  
「あ…あ…あ…あ…っ!!」  
 断続的に次々と産み落とされる卵から、先ほどまで彼女に纏わりついていた触手のミニチュア版のような生物が孵化している。  
「蟲の卵ですよ。他生物の子宮に寄生して産卵するんです。苗床を決めたら最後、切開して摘出しない限り取り除くことは出来ません」  
 唖然としているミカエルの耳元でアスモデウスが囁く。  
「あ……あ……」  
 恐怖に青ざめるミカエルの見ている前で、ガブリエルは、今、自分が産卵したばかりの触手の幼生達に再び責められている。  
 幼生たちは、彼女の乳房に纏わりつき、溢れる母乳を啜っているようだ。  
「さて…と…」  
 がたがたと震えるミカエルを尻目にアスモデウスが立ち上がる。  
「そろそろ行きましょうか」  
「何だ。もうそんな時間か?意外と進展なかったな」  
 其れに促されるように、ベリアルも立ち上がる。何やら用事があるようだ。  
 今日の所はこれで終わりなのか、と、ミカエルが安堵しかけたとき、アスモデウスが振り返る。  
 
「そうそう、忘れてました。オレ達はこれで帰りますけど、貴女の相手はこいつらがしてくれますから」  
 そう言って、アスモデウスが召喚したのは、先ほどガブリエルを責めていた触手達。  
「此処に用意したのは雌の個体ばかりですから、何匹か、貴女の子宮に寄生するかもしれませんね」  
「言ったろう?『お前もいずれああなるから』ってな」  
 不適に笑った二人は、もうミカエルを振り向くことなく部屋を後にする。  
 ガシャン!と、無情にも鍵がかかる音がして…部屋の中には、ミカエルと触手だけが取り残された。  
「ヒィッツ、や、やめろ!近づくな!!」  
 上手く身動きできない身体を引きずりながら、ミカエルは触手を避けようと狭い部屋の中を逃げる。  
 しかし、大量に現れた異形のモノ達は見る間に彼女の周りを取り囲み絡み付こうとしたり、怪しい液体や針等を彼女に吹き付けはじめる。  
 囲まれてしまっているため回避行動の取れないミカエルは、その攻撃をまともに浴びてしまった。  
「うあああっ!!な…何だ!?か、身体が…っ!」  
 液体を吹き付けられたところから、身体が熱を帯び始める。  
 ミカエルが其れに気を取られた隙をついて、触手達が彼女の身体に絡みつく。  
 ある物は口内を犯し、ある個体は乳房に吸い付き、またある個体は彼女の秘部へと侵入しようとする。  
「や、やめろっ!そ、そんなところ…や…やめ…っ!!ダメぇっ…!」  
 触手に犯されそうになったミカエルが、必死で抵抗を試みるが、暴れれば暴れるほどに触手が彼女の身体を締め上げる。  
 ミカエルが襲われているすぐそばのスクリーンに映るガブリエルも、幼生達に母乳を絞られながら、尚も産卵を続けている。  
 
 そんな彼女の様子を、密かに見ている、白銀色の髪をした男が一人…。  
「あいつらにしちゃあよくやったナ。マア褒めてやるか」  
 万魔殿の最上階。寝台の脇の水晶に映るのは彼女達の痴態。  
 と。男の横で眠る少女が寝返りをうつ。泣き寝入りでもしたのだろうか。瞼が軽く腫れている。  
「…ったく…お前もいい加減諦めればいいのにナ…反創生は間近なんだからヨ…」  
 ククッと喉の奥で低く笑うと、肌蹴た毛布を掛けなおしてやる。  
「それとも…まだ、暗黒のアダムが忘れられねえのカ?」  
 絹糸のように滑らかな髪を、軽く手櫛で梳かしてみる。さらさらとしたした感触が心地良い。  
 調子に乗って、鼻を摘んだり、頬をつついてみたりするが、少女が目を覚ます気配はまったくない。  
「マアいいサ。そのうち、オレのことが忘れらないようになるまで、みっちりその身体に仕込んでやるからナ」  
 男は微かに苦笑して、少女の薄く開いた唇に、己のそれを重ね合わせた。  
 水晶の向こうでは、熾天使達が触手に犯され泣き喚いていた。  
 
 
 …数日後。万魔殿内大広間。  
 サタンを頂点として、7大悪魔王、72柱の魔王達、そして、彼らの指揮する2.643個師団の悪魔全てが集う中、アスモデウスとベリアルが現れる。  
そしてその足元には、首輪を着けられ四つん這いで、無様に肥大した乳房を揺らしながらヨタヨタと引きずられるミカエルとガブリエルの姿があった。  
 二人の見事な金髪は、いまや汚らしい体液にまみれ、以前の輝きなどが嘘のように薄汚れている。  
 そして、何より一番の違いは、二人の表情だった。  
 呆けたような表情にも、虐待を受け続けた野良犬のようにも見えるその表情。  
「やぁん…!搾ってぇ…ガブのいやらしいおっぱい搾ってぇえええ…我慢できないのだぁっ…」  
「ああ…あうぅぅぅぅ…っ…た…卵がっ…卵がぁっっ!う、生まれるぅっっ……!!」  
 母乳を噴き出し、ボトボトと蟲の卵を産卵し続ける二人の熾天使に息をのむ悪魔達。  
 そこには、気高く美しい熾天使の姿は無く、ただ無様に家畜と化した姿をさらす2匹の雌がいるだけであった。  
 そんな二人の様子を満足げに眺めるサタンが、声を上げる。  
「熾天使は我々の手に落ちた!恐れるものは最早この世には存在しない!!!」  
 途端に、広間に割れんばかりの歓声が湧き上がる。  
 それを制すかのように、サタンの右手が高々と掲げられる。  
「全軍、進撃せよ!!!」  
 勝鬨の声を上げながら、全ての悪魔がエデンを目指す。  
 …そして…  
 
―――――――……ネガジェネシスが始まった……―――――――  
 

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