巨大な地響きを立てて、大男の巨体が全滅した部下たちの上に折り重なって倒れた。それが四天王の一角、ニンジャ・マスター・ガラの最後だった。
もはやただの肉塊と化した彼の前には、粉々に砕けた愛刀と、中身のない“悪魔の鎧”がごろりと転がっている。ガラはこの魔導器に身を包んだ「腐敗の軍団」の軍団長、リンチと差し違えたのだ。
その傍らには、やはり四天王の一角、“雷帝”アーシェス・ネイが倒れ伏していた。もっとも、こちらはただ気を失っているだけだったが。
あの“魔人”D・Sが自ら心臓を抉り出して死んだ今となっては、メタ・リカーナ王国の最後の頼みの綱は大神官ジオ・ノート・ソートと、騎士団長ボン・ジョヴィーナの二人しかいない。
だが・・・。
そのとき、城壁からガラの死を信じられぬ思いで見つめていたジオの無防備な背中から逞しい胸板を、大きな剣が刺し貫いていた。
「・・・・・・・・・・・・?」驚愕に目を見開き、のろのろと振り返った大神官の瞳に最後に映ったもの。
それは、明らかに何者かに操られているということが分かる、異常に血走った騎士団長の狂気の眼だった。
「ヨ・・・・・・」最後に愛娘の名を呼ぶことすら出来ず、ジオは死んだ。その後ろでは、怒り狂った兵士たちによって、ボン・ジョヴィーナの肉体がめちゃめちゃに斬り刻まれていた。
こうして、メタ・リカーナ王国は「闇の反逆軍団」の手に落ちたのだった。
「なに?居らんだと?そんな筈はない!もっとよく探せ!」
今や「闇の反逆軍団」のものとなったジューダス城にアビゲイルの怒声が響き渡った。
役立たずの部下どもの前に怒り狂って仁王立ちする“冥界の預言者”の後ろでは、“氷の至高王”カル=スが秀麗な眉をほんの少しひそめている。
彼らが多大な犠牲を払ってこの城を落としたのはただひとつ、シーラ王女が持つというアンスラサクスの封印の在りかを求めてのことだった。
ところが、もう丸二日もたつというのに、シーラをはじめとする王族たちと、そして大神官の娘であるティア・ノート・ヨーコの姿が何処にも見えないのだ。
「おそらくジオの仕業だな。D・Sが死ねば我らには敵わぬとみて、封印と娘だけは護ろうとしたのだろう」
唇を小さく歪めて苦笑するカルの言葉からは、
(ジオを殺すことなどいつでもできたのに、早まったことをしてくれたな)というニュアンスがありありと読み取れる。
「こうなればこの国の人間をゆっくりじわじわと出来るだけ残酷な方法で嬲り殺しにしてやりましょう。
それでもコソコソと隠れていられるかどうか見てやりますよ!」
プライドを傷つけられ猛り狂うアビゲイル。そんな彼を宥めるようにカルが言った。
「いや、おそらく最高レベルの隠匿魔法を掛けたんだ。掛けられた本人たちも脱出できないほどのな。
もちろん、魔導士である我らには大神官の呪法を破ることはできない。
それよりも、あそこにいる女に聞こう。あの女なら必ず何か知っているに違いない」
カルが指差した先の寝台には、深手を負って黄泉路を彷徨っている“雷帝”アーシェス・ネイが横たわっていた。