なんだかあちこちにヤツの感触のこってるみたいで、だるくて、頭がぼーっとして。
それでいて少しどこか満たされているような、奇妙な心地だった。
無駄に整ってる顔立ちが視界に入って、わけもわからず目を逸らす。
今まで見たことがないほど、無防備に眠っているように見えた。
静寂を破るように、けたたましい音が扉をノックする。
「おーいマリアローズー。いてはるかー?おーい」
居留守を決めようとしたがしつこいノックの音に、思わず「うるさい腐れ半魚人!」と怒鳴ってしまった。
「なんや自分、おるやんか。ごっつええ儲け話があるんやけど―」
いつもなら思わず食いつかずにいられない話題。
だが、ちょっと今は―。
「悪いけど今日はパス」
……万全の体調じゃないというか、調子が悪いというか。
別に具合が悪いわけじゃないけれど。無理できないことも、ないと思うけれど。
「なんや珍しいなあ。いつもなら金の話にはイチバンウルサイ自分がなあ。
……具合でも悪いんか?なんだったら、ユリカを連れてー」
「あ、いいっていいって!別に、そんな、大したことじゃないから。体調悪いわけじゃないし。ちょっと大人しくしてれば大丈夫」
「せやったらいいんやけど……」
「うん!じゃ、またそのうち」
このままカタリが帰って、平和が訪れるであろうと安堵した瞬間。
「うるさい魚だねえ」
最悪のタイミングで余計な口を挟む馬鹿がいた。
な、なんでこのタイミングで起きて来るんだよ君は!
「へ?今のアジアンの声か?何で自分の部屋に」
「何でもない!気のせいだから、ほらさっさと帰りなよ。儲けが逃げるよ!」
「お早うマイ・スィーテスト。今日も一段と可愛いネ」
「うるさい。その口閉じろ!ついでに抱きつくな」
「キミを目の前にして無理な注文だヨ」
「ってちょっと、何処触ってるのさ……!んーっ……」
ドア越しに聞こえるそのやりとりに、何だかカタリは阿呆らしくなって、さっさと帰ることにした。
さも、物分りのいい年長者であるかのように何度か頷く。
―ZOOの皆にも報告したろ。
「あーもうっ!ちょっと聞いてるカタリっ?!ありもしないことをベラベラと言いふらしたらぶっ殺すからな!」
当然扉越しに叫ぶマリアローズの声は、半魚人には届くことはなく。
後日、仲間からの暖かい祝福の声に半泣きになりながら赤面するしかなかったという。
(ただし、魚はキッチリと締めておいたらしい)