ああ、マリア。マリア、マリア、マリア。  
ボクの愛。ボクの魂。ボクのすべて。極限愛。  
告白しよう。ありったけの誠実さをこめて。  
正直、こうしてこの腕で真正面からキミをぎゅっと強く抱きしめられる時がやってくるなんて、信じることのできなかった日々もたしかにあった。  
でも、今、ボクの腕のなかにはキミがいる。  
ボクは何ものにもかえがたい、大切で、貴重で、美しく、気高くて、愛おしくてたまらない一輪の薔薇を、キミを、手折ってしまわないように、それでいてきつく抱きしめて耳元で囁く。  
「大丈夫。ボクを信じて」  
「……や、信じるって―」  
 
なにやら身の危険を感じたが、身構える暇も与えられなかった。  
後ろから耳朶にふっと熱い吐息を吹きかけられた。  
とっさに振り向こうとしたマリアローズを、アジアンが後ろから羽交い絞めにした。  
それだけにとどまらず、あろうことかアジアンは、真紅の頭髪に鼻の頭を突っこませ、マリアローズの首筋に唇を押しつけようとした。  
 
「や、やめろ!放せったら、この!」  
「放さない。放すもんか。ウフフ、そう、ボクは最初からこうするべきだったのかもしれないネ?  
この国の掟に従って、欲しいものは力ずくで手に入れる。  
でも大丈夫だヨ、マリア。キミだってすぐに嫌じゃなくなるサ」  
「がぁうっ……!や、やめろー!」  
アジアンは巧妙で、マリアローズの脇腹をくすぐったり、首筋から耳に吐息をかけたり。  
マリアローズの顔は朱に染まって、ひょっとしたら襲われているようには見えないかもしれない。  
 
「嫌がるキミも可愛いヨ。―それに」  
 
すっ、と奴の手が伸びる。  
 
人に触れられるのは嫌いだ。  
まして男になんて。  
怖気が走る。  
なのにどうしてだろう。  
さして抗えないのは。  
この手を許してしまうのは。 ―許すだって?  
 
「マリア」  
 
優しい声、優しい手。  
幾度となく降り注ぐ愛。  
 
「……やっ」  
 
知らずに零れる声。びくり、と震える体。これは本当に自分か。  
やめろ、という言おうとしたのだ。  
それなのに。  
 
「んっ……」  
襲い来る快楽。うなじ、背中、腰。やつの指先が触れてゆく。  
気持ち良いー  
もっと触れて欲しいようでいて。  
「も、やだ。変態。やめろよ」  
―泣きたい。気持ち悪い。  
自分が自分じゃないみたいで。  
「どうして?キミは欲しがってるのに」  
「欲しがってなんかいない」  
「嘘つきだネ。そういうところも愛してるヨ」  
 
 
うるさい、見透かしたようなこと言うな。容赦なく続く行為。  
 
アツイ。  
触れられた肌が熱を持つ。  
キモチイイ?  
 
……なんで、どうして。  
 
そんなことを思う自分がやっぱり嫌だ。気持ち悪い。超最低。  
今まで無理強いなんてしてこなかったから、油断していた。  
男なんてやっぱり同じだ。  
そのくせ今、快く思ってる部分があって。わけ、わかんないし。  
先刻の言葉が蘇る。  
―欲しがってるのは僕だってこと?  
ありえない。  
もっとありえないのは、この嫌悪感が徐々に消えていくこと。  
 
「……ア……ジ、アン」  
 
いつもより若干上ずった声。熱を帯びた声。甘い声。  
次第に何も考えれなくなって。  
波にたゆたうようにして、ただ、何度と無く降り注ぐ唇の感触と、肌と。  
「マリア」  
そう囁く声だけを感じていた。  
 
 
 
 
どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。  
右手を額の上にのせてみたが、それだけでも重労働だった。  
瞼を開けつづけているのがつらい。  
意識がどこかに沈んでゆきそうだ。  
やつがため息をつく音がした。  
音。  
ということは、自分はもう目をつぶっているのか。  
 
「―マリア?」  
「……なに……」  
「あ、いや。聞いてるのかな、と思ってネ」  
「きいてない……」  
「聞いているじゃないか」  
「ねむい……」  
「そっ―か……そうだよネ。ごめん、ボクが悪かった」  
やつは少しめくれていた薄手の羽布団とタオルケットをかけなおしてくれたようだ。  
そして、額の上にのせていた右手を、そっと握られた。  
 
ホントだよね。お陰で体はだるいし、痛いし、眠いし……。  
……ていうか、悪かったとか本当に思ってるわけ?  
色々言いたいことはあるのだが、睡魔には抵抗できなくて。  
僕はそのまま眠りに落ちた。  
 
やつに手を握られたまま。  
 
 

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