(例)V.荒ぶる者どもに吹き荒れろ嵐 のP366〜  
 マリアローズはもう偽却火を抜いていたし、走っていた。  
 あと三歩だった。  
 そこで、なぜか止まった。  
 最初、理由がわからなかった。  
 すぐに、もしかして倍化が切れたのかと思った。  
 だが、それでは説明のつかないことがたくさんあった。第一、マリアローズの体が宙に浮い  
て。マリアローズの視線は屋根の瓦に落ちていて、少し下を見ると、自分の股から何かが生え  
ていた。いや、そうじゃない。逆だ。逆、といえるのかどうかわからないが、違う。あれは突  
き刺さっているのだ。  
 棒? たどってゆくと、背後、そいつはマリアローズのすぐ後ろにいた。股を刺しているも  
のは……そいつの股間、ペニス!  
 マリアローズはそいつのそそり起ったペニス一本に膣を貫かれていたのだった。  
 ズボンを裂かれたと悟る間もなく、一瞬の出来事だった。  
 マリアローズの、未発達な局部が露になっていた。  
 
「お前ねえ。おかしな真似して、せっかくの勝負を邪魔するんじゃないよ。そういうのを無粋  
というんだ」  
「――し……」  
 SIX。  
 声を出そうとしたら全身が震えてきた。背骨を下から上へ駆け上がるような震え。  
 何だか、全身が痺れているような、自分の体のはずなのに、そうじゃないような。  
 そんなわけがないと無理をして力を入れようとしてみたら、SIXに刺されているところが  
痛んだ。しかも、痛む箇所から暖かいものが流れ落ちる感覚まであって、そのせいかどうか判  
らない、また体が、特に刺されている箇所……膣が意思を持ったように痙攣を強めだした。  
 痛いいたいイタイ。引き裂かれてしまう。涙が溢れるのをこらえられそうに無い。血が流れてる。  
 辛うじて、悲鳴だけは堪えた。けれどそんなんじゃあ、このちっぽけな心も体も守れっこない。  
 唇をかみ締めたせいで、鉄の味がした。  
 
「まったく、ジェイの片割れも死んじまいそうだし、この上、ボルフェンゲーテまで――」S  
IXがそこまで言ったとき、突然、死霊術士が身体中を痙攣させたかと思うと、まともに立っ  
ていられなくなり、よろめいて、屋根のへりから落ちていった。「……何だそりゃ」  
「……ざ、ざまあ……みろ……」  
 我ながら、痙攣しながらそう言ってやったのは、いい根性を見せたと思う。でも、本当にそ  
んな気分だった。  
 ざまあみろ。  
 死霊術士がいなくなって、ジェイまで始末してしまえば、SIXにとってはさぞかし大打撃  
だろう。ピンパーネルだけでなく、ZOOの皆がいてはじめて可能な作戦だったとはいえ、マ  
リアローズはよくやった。大金星だ。自分を褒めてやりたい。SIXに「ざまあみろ」の一言  
くらい言ってやりたい。 涙はぼろぼろこぼれるし、血はどくどく流れるし、最低最悪の状態だけど。一矢報いることはできた。  
 ただ、おかげで余計にSIXを怒らせてしまった。仕方ないが。  
「ざまあみろ、だって……? お前か。オイオイオォォイ、お前なのかよ? お前みたいなイ  
レられただけで穴ぁヒクヒクさせてるヤツが? ボルフェンゲーテを殺ったのか? 俺の計画  
をぶちこわして……! 何てことしてくれるんだ、このチビペチャパイのあばずれめ……!」  
 膣の中を熱いものに打たれる感覚。目を落とすと、刺されたままの股間から白濁したジェル  
みたいなものが溢れて、SIXのペニスを途中まで辿って瓦へ落ちていくのが見えた。  
 そして、膣の中からズルッと何かが抜けた――何か、直ぐに判ったSIXのペニスか。僕、  
もしかして犯されちゃった? 僕には赤ちゃんなんて産めないから良いけど。いや、いいわけ  
ない。なんで、また犯されるわけ? 女じゃない、ってあれほど言って聞かせてるのに。むし  
ろSIXに僕の情報なんて何も……  
やだ。いやだいやだいやだ!  
 
 子供のようにまっ平らな胸。不自然なほど、何の体毛も生えていない体。僕の体はこれ以上成長することは無い。  
 女のものとしても、男のものとしても不自然な体つき。なのにそれを望むやつらも中にはいる。  
 もう二度と、誰にも見せることも、触れさせることもさせたくなかったのに。  
 
 じんじんする。ひりひりする。何より皆の前にこんな姿さらして。あんなヤツに犯された。  
 ヒクヒクさせてるだって?当然だ。力づくで、無理矢理挿れられたのだから。ああ、痛い。  
 体も心も。超最悪。超最低。  
 
 雲に覆われた空に虚ろな目は向いたまま、頭はそんなことを考えていた。直後だ、マリアロ  
ーズはだんだん自分が落ちていってると感じ始めたのは。  
 
―勘弁してよ。  
だいたい、僕、あばずれなんかじゃないって……。  
でもこんな状態だったら死んだ方がマシかもしれない。  
 
しかし、落下はしたが、地面に叩きつけられることはなかったようだ。  
誰かに抱きとめられたのか。砂の匂いがする。砂の?それって、どんな匂いだろう。知らないが、何となくそんな感じがしたのだ。  
わかっていた。  
ピンパーネル。  
「大丈夫デすか?」  
「……うん……」  
いや、大丈夫じゃないけど。  
寧ろ気分的には死んだ方がマシてなものだけど。  
案じる声に、包みこむマントに、そう答えていた。  
たった今受けた傷が、それだけで癒えるわけが無いけれど。  
そう答えたあとのことはおぼろげにしか覚えていない。  
「― SIX……!貴様、マリアを犯ったな……!許さん!殺してやる……!」  
 
 

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