「あーーーーーーーーーーーーーーっ!!! くそっ!!!」  
 
桑原鞘子は机の上の原稿用紙をぐしゃりと潰すと、バリバリと頭をかきむしった。  
突然頭に浮かんだ物語を小説に書き起こそうとしたのだが、まるで進まない。  
鞘子にとって自分の語彙や表現の不足は、許容できる問題ではなかった。  
書くたびに躓き、そのたびに苛立ちが募るが、逸る心が知識を蓄えるという回り道を許さない。  
悪循環に身を焦がす鞘子は、バンと机を叩いて勢い良く立ち上がった。  
 
「ダメだダメだダメだッ! こんなんじゃ全然ダメなんだよぉッ!!」  
 
拳を握り締めて胸中を想いっきり吐露して、深く深く息を吐く。  
どうにも今日はダメだった。いや、最近は、ダメな日が続いていて1ミリも前に進めてない気がする。  
もどかしさと苛立ちがピークに達していた鞘子は、顔を覆って自嘲気味な疲れた笑みを浮かべた。  
もういいや。どうでもいいや。そんな、何度思ったか知れない感情に身を任せて、服に手をかける。  
 
飾り気は無いが、一応上下色違いのトレーナー姿なので、脱ぐのに時間はかからなかった。  
赤茶色のトレーナーの上を脱ぎ、クリーム色のTシャツを脱いでベッドに放り投げる。  
豊満な乳房を覆うブラだけを残した肌は、苛立ちに火照り、湯気が出そうなほど熱かった。  
部屋の空気に肌が冷やされるのを感じながら、灰色のトレーナーの下を脱ぐ。  
白いソックスも脱いでカーペットの上に放ると、オレンジ色の上下の下着だけが肌に残った。  
 
鞘子の身体は、高校生とは思えないほど女性としての豊満さを備えていた。  
170cmの長身に、制服を着ていてもなお存在を大きく主張する豊満なバスト。  
剣道を含めた運動を通して腹は締まり、腰は大きくくびれてから、再び裾野を広げていく。  
臀部もまた大きく実りつつもハリがあり引き締まっていて、肌全体から若々しさを感じさせていた。  
 
女としての魅力溢れる立ち姿だが、惜しまれるとすれば、やはり170cmという長身だろうか。  
釣りあう男子はほとんどおらず、個性的な性格も手伝って、鞘子はまだ男と満足に付き合ったことはなかった。  
そのため豊満な身体を持ち、思春期の最中にあり、苦悩する少女は感情も欲情も持て余してしまう。  
 
(イライラする。イライラする。イライラする――――!!)  
 
苛立ちに身を任せた鞘子は、軽く屈みながら背中に手を回すとブラジャーのホックを外した。  
オレンジの3/4カップに支えられていた乳房が重力に引かれ、ふるんと柔らかく震える。  
次いで両手の親指を同色のショーツにかけると、ふくらはぎまで一気にずりおろした。  
 
見苦しくない程度に処理した陰毛と、その下の奥で息づく性器が外気に晒される。  
ショーツを脱ぎ捨てると、脱ぎ散らかした服一式をベッドの中に丸めて突っ込んだ。  
姿見を一瞥しながら髪を両手で髪を一度かきあげ、髪の乱れを軽く整える。  
 
一糸纏わぬ自分の姿を、まるでくだらないモノのように冷たく見つめると、鞘子は踵を返した。  
ズカズカと壁際へ歩いていって、ハンガーからコートを外し、裸の上に着込んでいく。  
せいぜい太腿の半ばより少し下程度までの丈のコートのボタンを止めると、部屋の外に出た。  
そのまま扉越しに家族に適当に言葉をかけ、素足の上にスニーカーを履いて外に出る。  
 
自転車のスタンドを外し、大きく脚を広げて自転車に跨ると、鞘子ははじめて笑みを浮かべた。  
ギッと強く力をこめて、素肌にコートだけの少女はいつも使っている自転車に推進力を与えていった。  
 
(は、あ――あはは、あははは、楽しい楽しい楽しいなぁーーーっ!!)  
 
力強いペダル捌きによって、グングンと自転車はスピードを増していく。  
栗色の髪が風でバサバサとなびき、ボタンの隙間からの風が素肌を撫でていく。  
大きく左右に上がる太腿にコートの裾が持ち上がり、陰毛と露出に火照る女唇をも風は撫で上げた。  
愛液は垂れはしないが、その変わりとばかりに体全体が熱を帯び、ペダルを踏むごとにカッカと火照っていく。  
 
「あははははっ! 私出来る子だよっ! 私はなんだって出来るんだ! 私出来る子! 私出来る子!!」  
 
心底楽しそうに笑いながら、鞘子は全力で自転車を飛ばした。  
知ってる道も知らない道も関係なく、目的地もろくに定めず力の限り漕ぎ続ける。  
自分を捕らえる全てを置き去りにするようなこの時だけは、鞘子は全てを忘れて子供のように笑うことが出来た。  
 

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