ユージくんが目を覚まさない……  
 
少し風邪気味だった私にユージくんは気付いていて、部活休んだら?って言ってくれた。  
でも私は高校生だから、自分の体のことぐらい分かってるから……  
稽古中、私は怠さを感じていた。頭もボーっとしていて地稽古でも東さんに一本獲られそうになった。  
でもユージくんは私に打ってこない。ユージくんの実力ならここで絶対打たれてる  
そんな瞬間が何度かあったのに打たない。……手加減してるんだ。  
そうわかったら何だかモヤモヤしてきて、私はお父さんの言い付けを破って突きを出した  
踏み込みが足りなかったそれを胴胸で受けたのはユージくんの技量だと思う。  
でも無理な姿勢で受けたユージくんはバランスを崩して後ろで稽古していた東さんにぶつかってしまった。  
ただでさえ転んでたのに、東さんを受けとめようとしたユージくんが受け身をとれる筈がなく  
さらに倒れた方向にいたキリノ先輩の竹刀で面が外れたユージくんは  
強かに頭を床にぶつけたのだった……  
目を覚まさないユージくんに都さんとダンくんが(その時不在だった)コジロー先生を呼んできて  
先生は顔を青くしながらもテキパキと行動し(さすがは大人だ)、そのまま  
私達は剣道着のままユージくんの運ばれた病院にいる。  
 
「私がコジロー先生無しで練習始めちゃおうなんて言ったから……」  
サヤ先輩。  
「サヤは悪くないよ、許可したのは部長のアタシだもん。それにアタシの竹刀が……」  
キリノ先輩。  
「私がトロいから…!私が…!」  
東さん。  
「ちきしょう、剣道ってのは最も安全なスポーツなんだぞ……ッ」  
コジロー先生。  
その通りだ。安全じゃなかったのは私のせい。悪いのは……  
「悪いのは…」  
「誰も悪くないわよ」  
都さんが私の肩に手を置く。  
「みんな一生懸命剣道に打ち込んでいただけじゃない」  
「そうだぞぉ〜それにユージは強いヤツだ。だから大丈夫だぞ」  
ダンくんの言葉にみんなの俯いていた顔が少しだけあがる。  
「ユージくん、あたしじゃないんだから寝坊しちゃダメだよ」  
「ユージくん、はやく起きないとウチのメンチカツ無くなっちゃうよ?」  
「ユージくん、剣道一緒にやろうって言ったじゃないですか」  
「ユージ!お前がいないと俺と互角稽古できるやつがいなくて困るだろ」  
「ユージくん……起きないとブッ殺すわよ?」  
「ユージ〜、男子部員を俺一人にする気か〜」  
みんなが思い思いの声をユージくんにかける。  
私は……  
「ユージくん……」  
私はなんていえばいいんだろう。ユージくんに目を覚まして欲しい。  
「……起きて」  
私はユージくんの唇に私の唇を重ねていた。  
昔お母さんが読んでくれた眠り姫は王子さまのキスで起きるから……  
「……タマちゃん?」  
「ユージくん……?」  
お母さん、お母さんが話してくれた通り、ユージくんは目を覚ましてくれました。  
「ユージくん!」  
「え?タ、タマちゃん!?」  
思わず抱きついたユージくんの肩は思ったより大きくて硬かった……  
「奇跡だ…奇跡だよぉ…」  
サヤ先輩とキリノ先輩が抱き合って泣いていた。  
「ユージィ、心配かけさせやがって〜」  
都さんとダンくんが笑っていた。  
「お医者さん、お医者さんを呼ばないと!」  
東さんはナースコールのコードに絡まっていた。  
「俺のクビが飛ばなくてよかったぜ…」  
コジロー先生は憎まれ口を叩きながら、ユージくんの両親に電話していた。  
入り口で入るタイミングを失った悪の集団・外山と岩佐がうろついていた。  
「ユージくん……」  
ユージくんは私のオデコに手をあてて  
「風邪、治ったみたいだね?」  
いつものように私に笑いかけた。  
 
 

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