”…さて、どうしたもんか?この状況。”  
 
「せっ、先生、どうしよう?」  
「………どうしよ。」  
 俺の名は石田虎侍。室江高校剣道部顧問だ。  
 今朝、ひょんな事で頭をぶつけて教え子と入れ替わると言う奇妙な体験をした俺は、  
 まさかその次の機会が、こうもあっさりと回って来るなんて思いもしなかった…が、どうやらガチらしい。  
 
 信じ難いが、いま目の前にいるタマはユージで、ユージはタマなのだそうだ。  
 確かに、こんなに狼狽したタマは見た事がない。ユージも流石にいつもより落ち着きすぎだ。  
 しかもこれって、俺とキリノが元に戻るのを手伝ってくれたせい…なんだよな。  
 一応顧問として、先に同じ現象を経験した者として、ここは大人な態度を示さなければならない。 大人な意見、うーんと…  
 
『…んじゃあさ。もう一回同じことやってみりゃ直るんじゃないか? こう、”ごつんっ☆”と。』  
「…ダメーっ!!」  
 声がでかい。サヤだ。何でお前が。  
「ダメだよ、勝手な事言わないでコジロー先生!  
 そんな一日に2回も3回も記憶の操作をやっちゃうと、人は”戻って来れなく”なるんだよ!  
 私、小説で読んだ事あるもん!その人達、最後には記憶が混ざり合っちゃって、  
 元の二人はどこにもいなくなっちゃうんだよ!だからダメ!ダメなんだってば!」  
 
『分かった。分かったからサヤお前も落ち着け。』  
 まぁ、多少飛躍し過ぎの観はあるが、こんな事何度もやってると人体によくはないだろうなあ、とは俺も思う。  
 大体、タマが剣の振り方を忘れてしまったり、ユージくらいにまで弱体化してしまったらどうなる。俺の野望は。クビは。  
 
「あのぅ〜、ちょおっとコジロー先生とサヤに、お耳に入れたい事が…」  
 キリノだ。元に戻れて嬉しそうだがそんなに俺の体イヤだったのか? まあお互い様だけど…ちょっと悲しいぞ。て何考えてる俺。  
「ダンくんとミヤミヤも、良かったら聞いてくれる?」  
 キリノの所へやって来た俺とサヤ、ダンとミヤミヤは取り合えず当人達はそっちのけでキリノの話に耳を傾ける。  
 
「(あのね… 元に戻れるかはともかくとして、私、もうちょっとあの二人はあのままでもいいと思うの。)  
 (って言うのもね、ユージくんって、タマちゃんの事、明らかに意識してるでしょ。この間なんて間接キ…まあこの話はいっか、とにかく)」  
 (でねでね、タマちゃんもちょっと今日、様子がヘンじゃなかった?他にもな〜んか、怪しいのよ。あの二人。)  
 (だからね、このまま二人を入れ替えたまま一緒にいさせて、そのままさりげな〜く、くっつけちゃえないかな?って…ダメ?)  
 
『(オイオイ、お前がそうしたいのは勝手だけどな…)』  
 なんつー無茶を言い出す女だ。ちょっとはタマやユージの気持ちも考え…ての思いつきなんだろうな、こいつの事だから。  
 その方が元に戻る可能性も高まる、とコイツなりの算段もあるのだろう。  
 
 それに対し、ミヤミヤが暗そうに口を開く。  
「(馬鹿じゃないですか?そんなの当事者にやらせておけばいいんだし。それより元に戻す方法を考えてあげないと。)」  
 ごもっとも。しかし、それには彼氏のツッコミが入った。  
「(ミヤミヤ〜 俺はユージとタマちゃんがうまくいった方がいいと思うぞぉ〜)  
 (それに人と人が恋をするのって、いい事じゃないかあ〜 俺とお前だって、そうだろぉ〜)」  
「(ダンくんっ…! わかった私協力するよ!)」  
 全くこいつらは。サヤはどうやら元々乗り気のようだ。  
「(い〜じゃんいいじゃん?楽しそうじゃん!やってみようよ!)」  
 まぁくっつける云々は置くとして、いま無理に外からいじるよりは暫く放置してみるのもいいのか…?  
 
『(まあ、じゃあ、やってみるか?)』  
「(さっすが、コジロー先生!)」  
 キリノは嬉しそうだ。お前はあの二人のお母さんか?  
 ともあれ、こうして一枚岩になった俺達は、ユージとタマを呼んだ。  
 
「タマちゃん、ユージくん、ちょっとおいで〜」  
 俺達のひそひそ話を少し訝しがりながら、やって来るユージのタマと、タマのユージ。  
 
「あのね、サヤの言う通り、あんな方法で何度も試してると、危ないし、もっとヤバい事になるかもしれないよね?  
 でね、ちょっとだけの間、他の方法が考えつくまで二人にはそのままで暮らして欲しいの。」  
 元に戻る方法はあたし達が絶対何とか考えるから!安心して!ぶいっ!」  
「「……………。」」  
 まあ、そりゃ、受け入れ難いわな。  
 そういえば、何で俺はヘーキだったんだ…?  
 夢だと思ってた?時間がなかった?…相手がキリノだったから? …いやいやそれは。さすがに。  
…  
「わかりました。」  
 お、タマ。いや今はユージか。  
「さっきタマちゃんとも二人で話してたんですけど…  
 やっぱり、こうなった以上ある程度覚悟はしなきゃいけないと思うので…ね?タマちゃん」  
「………うん。 でも… ううん、何でもない。」  
 なんかユージ、いや今はタマか…は様子が変だな?  
 まぁ、でも、決めた事だししょうがない。  
 
『よっしじゃあ、早いけど今日は解散!家に帰ってグッスリ眠る事!いいな!』  
「「「「ありがとうございましたっ!」」」」  
 
 
(ユージの川添家)  
『ただいまー。』  
 っと、ついいつもの家の調子で言っちゃったけど… まあ、ただいまくらいは皆言うよね?  
 でも…ホントに、何でこんなことになっちゃったのかなあ…  
 おっと、タマちゃんらしくタマちゃんらしく!  
「おお、おかえりタマキ。今日は早かったんだな。」  
『うん、そうだよ父さん、今日は部活が先生の都合で途中で終わっちゃって…  
  あ、でも、ちゃんと練習はしたんだよ? 心配しないでね。』  
「(目をぱちくり)そ、そうか。いや心配はしてないのだよ。スマンな…」  
 …う〜ん、何か変な事言っちゃったかな?  
…  
「タマキ、道場の時間だぞ〜」  
『あ、うん!』  
 あれ?安請け合いしちゃったらまずかったのかな…  
 今僕はタマちゃんなわけだから… 稽古つけるって、大人相手に!?  
 そりゃムリだ!うわあああどうしよう。  
…  
『メェェェェェン!!!!』  
「今日も凄いな、タマちゃんは…お願いします!」  
『お願いします、キヤァァァァァ!!!!』  
 …すごい。自分でも自分がとんでもない集中の域に居るのがわかる…  
 相手のきっと、凄く強いオジサンの行動が手に取るように分かるし、身体が勝手に動く。  
 どうしちゃったんだ僕? ううん、これがきっと、タマちゃんの見てる物なんだ…  
 だとしたら、僕ってなんなんだ…? こんなにも、こんなにも、タマちゃんは遠くに居て、クソッ!  
『…ごめんなさい父さん。今日はこの位で上がらせて下さい。』  
「む、そうか?まぁ今日はお前の剣にも迷いが見える。上がりなさい。」  
 …迷っているのは、どう考えても僕、だな。  
 
 
(タマちゃんの翌日・学校編)  
『………栄花くん、おはよう。』  
「おはようユージぃ〜」  
 夕べは大変だったなあ。ユージくんの家族… いい人達だったけど、私、緊張しちゃって…  
 ユージくんも、家じゃそんなに喋らない方みたいだから、ごまかせたけど…  
 …ホントに、なんでこうなっちゃってるのかな。  
 でも、ユージくんらしくしなくちゃ…ユージくんらしく?  
…  
「中田くん、中田くん、放課後ヒマ?もし良かったらここ教えてくれない?」  
 あ、女の子… ユージくんなら、教えてあげるのかな…  
 これくらいなら私でも、分かりそうかな? でも…  
 やっぱり、だめ。  
『………ごめんね。放課後、部活、いかなきゃ。』  
「えっ、ううん、いいのよ、私の方こそゴメンね〜」  
 
「お〜、じゃあ、俺が教えてやるよぉ〜」  
「えー、栄花くんはいいよお。」  
「つれない事言うなってぇ〜」  
 …あ。  
『………栄花くん、宮崎さんが見てるけど…』  
「お〜ミヤミヤぁ〜ごめんよ浮気しちゃってえ〜」  
「ううん、いいのよダンくん〜 だっていつも最後は私の所へ戻って来てくれるんだもん!」  
 
 …仲良いなぁ、栄花くんと宮崎さん…  
 ユージくんも… 昨日、キリノ部長と、仲良さそうだった。  
 ううん、あれは先生だから… でも… なんでこんなに、モヤモヤするの?  
 …部活、行こうっと…  
 
『………おはようございます。』  
「あら〜おはようユー… タマちゃん!」  
 キリノ先輩…先に来てたんだ。  
 (…チクリ。)  
 
「聞いてよ聞いてよ!サヤと今日すっごい考えてたんだけど〜」  
 
 キリノ…昨日の今日で元気な奴だ。しかし…  
 こいつらの共謀なんて、十中八九ロクなもんじゃないだろうな。  
 
「そうだよ!タマちゃんユージくん!いい?」  
「「キスしてみれば、治るんじゃない?」」  
 
 ほら見たことか。 …お前ら、氏んで来い。マジで。  
 
「えっっっと、キス、ですか? な、な、なんでそうなるんですか!?」  
「………キス…(俯きがちに顔真っ赤)」  
 
 おーおーおー、若いねえ。  
 
『悪い事は言わんが、あいつ等の言う事は右耳で聞いて、左耳から流せ。』  
「「………は、はぁ。」」  
「もうっ、真面目に言ってるのに〜」  
「そうだよ!私がこの本で、ちゃんと見つけたんだから!  
 いい?深層意識を共有している だけの二つの個体の表層意識はもはや別人だと言ってよく、  
 それ故にその深層意識を表層意識から呼び覚ます為に(ry 行う行為がキスなの!」  
 
 出典:少女漫画。わかったわかったサヤ。お前は偉い。  
 
『オラ、練習するぞー』  
「「ぶぅ〜」」  
 
 やっぱりタマの様子がおかしいな。  
 それどころか今日はユージまで何か変に思い詰めてるし…  
 どうしたんだ一体。取り合えず素振りしてるユージに声をかけてみるか。  
 
『おいユージ、掛り稽古やろうぜ。』  
「あ… はい。でも… 先生じゃ相手にならないと思いますよ?」  
 
 カチーン。てめえ見た目はタマだが中身はユージだろ!  
 俺がてめえに負けた事… あれ?試合した事あるっけ?  
 まぁとにかく負ける訳がねぇだろがごるぁぁぁぁ!  
 
「メェェェェェン!!!!メェェェェェン!!!!メェェェェェン!!!!」  
『だああっ、ストップ!ストップだタ…じゃなかった、ユージ。』  
 
 …ハー、ハー、ハー。  
 何だこりゃ?ユージの野郎どんなドーピング… いや今はタマだが…  
 んっ、強さはタマのままなのか。じゃあ、タマの方にも当たってみるか。  
 
『おいユー、いやタマ、どうした?なんか悩んでるんじゃないのか?』  
「………コジロー先生。 ………私、変ですか?」  
 
 いや、俺が聞いているんだが。  
 
『変かどうかは分からないけど、調子悪そうだぞ?それに何か今日はキリノを避けてないか?』  
「………いえ、何でも…何でもないです。」  
 
 的を射んなあ。キリノとサヤのあんな寝言なんか無視しとけばいいのに。  
 入れ替わり生活でもストレスでもあるのか… でも、俺には無かったな?キリノの体でも…  
 ああっ、だから俺までキリノを意識し過ぎだ!キリノから離れろ、まず。  
 しかし…今日はまぁ、こんなもんだな。  
 
『よっしゃ、今日の稽古ここまで!』  
「「「「ありがとうございましたっ!」」」」  
 
 
(ミヤミヤの下校風景)  
「タマちゃん、一緒に帰ろう。」  
「ユージくん……うん、帰ろ。」  
「あのね、タマちゃん、話したい事があるんだ。喫茶店、寄っていい?」  
「……うん。私も、お話、あるから。」  
 
 …下校中にそんなとこ寄ったらダメだろあんたらは…  
 でも帰りに喫茶店なんて、健全だねー。  
 
「お〜いミヤミヤ〜、の〜どかわいたから駅前のスタバよってい〜〜?」  
『もちろんよダンくん!』  
 
…  
 
「ミ〜ヤ〜ミ〜ヤ〜 席とっといてよ〜〜」  
『は〜い』  
 
 えっと、あの二人は… やっぱり、いた。  
 
「………ふう。」「………フウ。」  
「「………あのねっ!」」  
「「…………ど、どうぞ。」」  
 
 ふふっ、初々しいなあ。あたしとダン君にもこんな頃、あったっけ…  
 
「…あのね。僕、この…タマちゃんの身体になって、気付いた事があるんだ。」  
「………気付いた事?」  
 
「この、タマちゃんの体に比べて、元の、僕の体は…男なのに、全然、弱くてさ。  
 ホントに嫌気がさしてて… なのに、こうして入れ替わってるとさ。  
 時々、酔っちゃいそうになるんだ。今、この、自分の物でない力に。  
 それがもう… 僕自身が、許せなくてさ。情けなくて…」  
「………私も…ユージくんの身体になってから…ううん、なる前から…  
 ユージくんがキリノ部長と… 仲良さそうにゴミ運んでた時、ちょっとイヤだったの。  
 それで、今日も…ユージくんの身体で他の女の子と仲良くするのが、すっごく、イヤだったの。  
 部活のときだって、ずっと、ずっと、ユージくんの身体でキリノ部長とお話するのが怖くて…  
 私、私、なんでこんなイヤな事思うのかなあ? ………私、分からない…」  
 
 ちょ、ちょっと。  
 
「えっ、でも、そんな事…」  
「"そんな事"じゃないよ! ………こんなに、苦しくて、悲しいのに… ………"そんな事"なんかじゃ…ない、よぉ…」  
「(ムカ) じゃ、じゃあ!僕だってこんな… 強いタマちゃんが… 守り、たいのに! 何で…」  
「………そんなの… グスッ …いらない… 私、」  
「そっちだって、"そんなの"じゃないか! 俺だって、」  
「ユージくんになんか!」  
「タマちゃんになんか!」  
「「なりたくなかった!!」」  
 
 …うわぁー、これは、さすがに、出て行かないとダメかなあ?  
 
「ゆーじぃ」  
「え、栄花くん!?」  
 (ぱぁん、とユージ(体はタマ)の頬を張るダン)  
 
 ちょちょちょっと、なんてカッコいいのダンくん! いやいやいや。  
 
『ストーップ!ハイそこまでです。』  
『あなた達が何でケンカしてるのかは知らないけど。』  
『ケンカするなら、場所を選びなさいっ。お店にご迷惑、かけちゃだめでしょ?』  
「「………」」  
「……ゴメンね、先、帰る… 宮崎さん、栄花くん、ごめんね。ありがと。」  
「僕も、帰るよ… ごめん、ミヤミヤ、栄花くん。」  
 
 …ふぅ。そうそう、今日の所は帰りなさい。  
 
『…ダンくん、ありがとうね。カッコよかったよ。』  
「ミ〜ヤミヤのほうこそ、かぁっこよかったぞ〜」  
『ダンくんっ…!』  
 
 この人が私の彼氏で、ホントに、よかった。  
 
 
 翌日。ユージから事の顛末を聞いた俺達は、一様にこう反応した。  
 
『あやまっとけ。』  
「あ〜やまんなさ〜い」  
「あやまった方がいいよ!」  
「…まだ、あやまってねえの?(黒)」  
「おまぁえが〜あやまれぇ。」  
 
「うう… あやまります。」  
 
…(それから一週間後。)  
 
 …だからって、わざわざ道場をその待ち合わせに使うかぁ?  
 誰かに吐き出せば解消できる類だったユージの悩みに対し、タマの傷は深かった…のだろう。  
 他の部員に知られてしまった事もあるし、実際タマは全然道場にも姿を見せていなかった。  
 それが、ようやく話をつけられたと言うので、今日はここ道場にて謝罪の儀式なのだが、肝心のタマが… 来た。  
 
『ほらほら俺達は出てるぞー』  
「「「「え〜」」」」  
『二人だけにしてやんなきゃ、な?』  
 
 渋々ながら全員出払った。じゃあ後は、頼むぞユージ。  
 
「………ユージくん。」  
「タマちゃん。 …来てくれてありがとう。」  
 
 (ひょっこり、道場裏の格子戸に野次馬5人。)  
 
『(コラッ、お前等、何してんだよ!)』  
「(え〜だって、やっぱり気になるじゃないですか〜)」  
「(先生こそこんなトコで隠れて見てるのに!ずーるーいー!)」  
 
 …教師たるもの、生徒の管理は当然の権利だ(?)  
 まぁ実際、俺とキリノが撒いた種みたいなもんだしな…当然、気にはなる。  
 
「僕、タマちゃんの気持ち考えずに、自分の事ばっか聞いてもらおうとして。」  
「…」  
「それどころかすっごい傷付ける様な事まで言っちゃって…」  
「……」  
「ホントに、どうやって謝っていいのかもわからないけど、ごめん!」  
「………いいよ。」  
「…許してくれるの?」  
「……もともと、許とか、許さない、とかの事じゃ、ないし…  
 あのね、私… あれから一杯考えて。  
 わからないけど、この気持ちのホントが知りたいの。」  
「えっ、それって…」  
「……ユージくん、私と、えっと… キス、してくれる?」  
「な、な、なんでそうなるの?」  
「宮崎さんが…」  
 
 !!!!  
 
『(ミヤ〜お前なぁ〜)』  
「(えーっ、だって… 先生はニブいから分からないと思いますけどぉ)」  
『(誰がニブいんだよ… ったく! キリノ!お前くっつきすぎだ!見えんだろーが!)』  
「(え〜いいじゃないっすかぁ〜〜)」  
「「「(それだよ…)」」」  
 
「…ダメ?」  
「いや、ええと、ううん… ホントに、僕でいいの?」  
「………ユージくんとじゃないと、分からないよ…   
 ううん、こう言う言い方じゃズルイよね。 ………ユージくんが、いいの。」  
「…あ、ありがとう。 …じゃあ、えっと。」  
「うん…(目を閉じる)」  
「…」  
「…ん。」  
 
 …長い。ユージはともかくタマは知識もないだろうにこの長さはどうだ。  
 大人のキス。いやいや大人未満の… ユージの方が知ってたのだろう。  
 とりあえずおぼつかないながら、ずっと、目は閉じたまま、唇を重ねている。  
 
『(オイあいつ等、長くないか?息、止まってるぞ?)』  
「「「「(先生ちょっと黙ってて!)」」」」  
 
 やっと終わったらしい。  
 ゆっくり離れていく二人の唇に銀の橋がかかる。  
 …ん?なんか様子が変だが。  
 
「…ぷは。 …ん?あれ?」  
「………ふぅ。 ………あ。」  
「もどっ…てる?」  
「………戻ってる。」  
「やったよ、タマちゃん!」  
「………うん。よかった…! …ありがとう、ユージくん。」  
「僕の方こそっ… 一杯迷惑かけちゃったのに、そんな…」  
「ユージくん…」  
 
 だあぁ、そっから先は流石にご法度だ!ヤング誌じゃあるまいし!  
 
『そこまでっ!お前等、神聖な道場を汚すんじゃねえ!』  
「こ、コジロー先生!?見てたんすか?」  
「「「ちょ〜、先生、空気読もうよ〜」」」  
「!!! ………みんなも、見てたんですか?#」  
「いやいやいや、あらら …タマちゃん? …ちょっと、あ、突きは、ダメぇーッ!!」  
 
 怒れる大魔神・タマと便乗したユージにフルボッコにされた俺達は  
 足腰ガクガクのまま自転車で帰ってく二人を見送った。  
 いや、と言うか、お見送りさせられた。  
 …その後、下校中のカップルに、このような会話があったかどうかは、定かではない。  
 
「……ねえ、ユージ君。」  
「なに、タマちゃん?」  
「……私達、サヤ先輩の言ってたお話みたいに、少しは、混ざっちゃったのかなあ。」  
「入れ替わって…それから元に戻った事で、記憶が、って言う事?」  
「…うん。今、たぶんユージくんと同じ事、考えてると、思うし…… 私ね。」  
「待って。」  
「…え?」  
「それは僕に、先に言わせて?」  
「……うん。」  
「好きだよ、タマちゃん。」  
「……私も、ユージくん。」  
「「ふふふっ」」  
 
「じゃあ、またね!」  
「…うん、ばいばい!」  
 
 
 
 
[終わり?]  
 
 
〜「その後」の「その後」の、エピソード〜  
 
「ねぇ〜?だから言ったじゃん!うまくいったでしょ?あっはっはっは」  
 
 …キリノ。こいつは。本当に。どこまで分かってるんだか。  
 全て終わった後の道場。タマに最も念入りにボコられた俺とキリノは二人だけで道場の壁にへたりこんでいた。  
 
「…ところでコジロー先生、不思議じゃなかったですか?」  
『ん?何がだ?』  
 
 突如、エンジンが再点火したかのように、表情をイキイキとさせるキリノ。  
 相変わらずこいつの表情からは何を考えているか読めない。  
 
「ほら〜、はじめ、私と先生が入れ替わった時、先生、イヤじゃなかったでしょ? …私も、全然、イヤじゃなかった。」  
「サヤの言ってたお話って、ホントなんですよ。意識と意識が入れ替わると、一瞬、お互いの記憶…  
 記憶、だけじゃなくて、人格やキモチや経験、そんなのが全部、同じになっちゃうの。」  
『ちょっと待て、何を言ってるんだお前?』  
 
 ついには立ち上がり、手を広げて解説を始めるキリノ。  
 俺もなんとか、壁を頼りに身体を起こす。  
 
「きっと、タマちゃんとユージくんは、ぶつかった時、どっちか…もしかしたら二人とも、不安だったのかな?  
 だから、あんなに、離れていきそうになっちゃったんですよ。お互いの、心と心が。  
 それを直す為には、二人が、ホントに結び付く必要があったんですよ〜」  
『…だあああっ、だから、俺にわかる言葉でしゃべってくれ、お願いだから。』  
 
 と言いながら、覗き込めばキリノの目は真剣その物だ。一点の曇りも無い。  
 俺の身体を回り込むように歩きながら、続けて喋り出す。  
 
「…私達が入れ替わった時、コジロー先生の気持ちが私に溶けて、私の気持ちもコジロー先生に溶けたんですよ。  
 お互いの… その、”好きだ”って気持ちが、ね? 私… ホントに、嬉しかったんですよ?  
 本当の本当に… 今でも思い出すだけで、跳び上がっちゃいそうなくらい!  
 コジロー先生も、そうだったはずですよね〜? …だから、私達は見た目は変わっても、全然変わらなかったでしょ?」  
「サヤは勘違いしてるみたいだけど、サヤの言ってたあの物語って、本当はハッピーエンドなんですよ。  
 私たちは、最初から、”もとどおりの二人”、だったって事なんですよ!」  
『…つまり?』  
 
 俺の正面にキリノの身体が来て、向かい合う。  
 つまりは。  
 
「私たちぃ、トロットロに、相思相愛!相性抜群!って事ですよ、せーんせっ♪」  
 
 カカトを少し上げ、静かに目を閉じて、キスを促すキリノ。  
 ―――ああ、こいつには、一生敵わんな。と、思った。  
 
『しょうがねえなあ…』  
 
 
 
 
[おわりです。]  
 

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