妙な間が部屋を包む。  
岩佐は、ベッドの上で唇をわなわなと震わせ続けるサヤと二人きりになっていた。  
部屋の主の外山といえば、何かを探しに物置のある廊下へ出て行ったままだ。  
(どういう状況だよこれ……)  
目の前で幾度もの絶頂に顔を真っ赤にしてうつむく少女と、それを眺める彼氏の友人である自分。  
交わす言葉も思いつかず、岩佐はただただサヤの原稿用紙を読みながらビールを飲み続けた。  
 
「岩佐君……帰って……」  
外山が部屋を出てから10分近くたってからだろうか、  
肉体を蝕む愉悦からようやく解放されてきたサヤが顔を背けたまま岩佐に話しかける。  
「いや、俺も帰りたいのは山々だぜ、ビデオ持ってきたから用も済んだし。  
でもまあ、今帰ったらお前ぶち切れたあいつにどんな最悪な事されるかわかんねーぞ」  
「大丈夫だよ……だって、さっきより、今までされてたことより最悪なことなんてそう無いもの……」  
(さっきまでのことが『最悪な事』ねぇ……)  
外山がベッドの上から離れる時にサヤが発した「あ」という言葉と、  
その表情を岩佐は思い出す。  
 
その声、その顔には少しも安堵はなく、  
むしろもう行為が終わるのかという悲哀ともっとして欲しいという欲望しかなかった。  
しかしそんな発情しきった心も、発生源である外山が10分近くも離れ  
他人に近い岩佐と二人きりで放置されることにより少しだけ羞恥心が戻ったのだろう。  
だが心は戻ったとしても、体がいまだ発情中なのは遠くから見ていても手に取るように分る。  
最後に携帯の前で外山に性器を弄り回された時のまま両足は大きく割り開いたままだし、  
その顔は額から喉まで汗でびっしょりだし、呼吸もいまだ荒いままだ。  
 
しかしサヤに何ができよう。  
後ろ手で縛られたままでは自らを慰めることもできず  
(もっとも岩佐のいる前ではそんなことをするわけは無いが)、  
岩佐のいる前では廊下の外山にねだることさえ許されない。  
放置プレイと羞恥プレイを兼ねた外山の仕掛けに、サヤはどこまでもはまってゆくしかない。  
 
「俺から見たら、全然最悪な事をされてるようには見えねーな」  
「……それ、どーゆーことよ……」  
「おまえ自身が一番分ってんじゃねーの?」  
(いや、むしろ、こいつは最悪な事をされるのを望んでるのかもしれねーな)  
あの外山の彼女を半年以上もして、さらにHだって何度もしているようなのに  
いまだ別れていないのだから、サヤは相当のMなのかもしれない。  
サヤが何かを言おうとした瞬間、扉が開いて外山が入ってきた。  
「当たり前だろうが、俺と岩佐のおかげでお前の小説はどんどん良くなってるんだぜ。  
最悪もくそもないだろうが」  
その右手に握られた機械を見た瞬間、サヤは悲鳴を上げた。  
 
その機械は、小形の空気清浄機のような本体に一本の蛇腹が生えていて、  
そしてその蛇腹の先端が、男性器の形を模している。  
「それ、バイブかよ」  
「そうだ。ネットで買ったが5桁はしたんだぜ」  
岩佐も別にそう大人のおもちゃに詳しくは無いが、  
しかしそれはなんとも異様ないでたちだった。外山が機械についているスイッチを入れると、  
ズガガガガガッという腹に響くような重低音を巻きちらしながら先端が滅茶苦茶に震えた。  
「じゃあ、最後の修正箇所だな。  
『高みへと上った少女はまるで聖母のように安らかな笑顔をその顔に浮かべた』  
こいつを突っ込まれてイッたお前がどんな顔するか、俺と岩佐に見せてくれよ」  
笑いながら外山はベッドの上に登った。  
がくがくと震えるサヤの体をさすりながら。  
 
(なんというか、普通はブブブだよな)  
岩佐は、ベッドの上に新聞紙を敷く外山を見ながら心の中で今まで見てきたAVのバイブを思い出す。  
(だけどあれ、ズガガガガッだったな)  
そう、まるで削岩機のような音だった。  
(これ、マジでサヤ死ぬかもしれんね)  
「いやっ、いや、絶対いやあっ」  
怯えるサヤは両足をピッタリとくっつけ悲鳴を上げ続ける。  
そんなサヤに構わず、ベッドの上に黙々と新聞紙を敷き続ける外山。  
「その新聞紙には何の意味があるんだよ」  
「……前にこれ突っ込んだ時にこいつ滅茶苦茶感じやがって人のベッドの上でくそ」  
とたんに今までわめいていたサヤが後ろ向きに頭突きをして外山を黙らせようとする。  
どうやらそれを入れられるのは一度目ではないらしい。  
まあ、だからこそこの怯えようなのだろう。  
 
しかし相手の見えない状況で放たれた頭突きはサヤの方がダメージが大きかったらしく、  
後頭部の痛みで顔をしかめサヤは動きを止める。  
その間にするりとサヤの体の下へ入り込む外山。  
まるで外山の上に座り込むような形になったサヤの秘部はもう風前の灯だ。  
「さて、それじゃあ始めようか」  
「ほんと、漏らすよ?前みたいに漏らしちゃうよっ!?」  
もうほとんど切れた声で外山へ最後の抵抗の言葉を投げかけるサヤ。  
しかしそんな形ばかりの威圧的な態度が外山に通じるわけも無く。  
「別にいーぜ?でもそんなもの見せられたら、岩佐もたまったもんじゃねーだろうな?」  
(いや、もう今の状況でもたまったもんじゃねーって)  
 
自分が人様の前で漏らしてはいけないものを漏らしたところを岩佐に見られる姿を想像したのか、  
サヤは僅かに沈黙しその顔を青くしたり赤くしたりしていた。  
そしてしばらくして外山のほうをチラッと振り向きながら、観念したようにサヤが呟く。  
「……お願いだから、弱いのにして……強くされたら、あたしまた半日ぐらい動けなくなるから……」  
両手でサヤのズボンの後ろをびりびりと破り、穴を作りながら外山は答える。  
「俺だってお前のことを大事にしたいさ……」  
その口調は本当にすまなさそうな声で、その顔に浮かんだえげつない笑顔との落差で岩佐は冷や汗をかいた。  
「でもよう、しかたがねーよな。お前の小説をよくするためなんだからよ」  
声のトーンが笑顔と同じぐらいひどくなくなった。  
「俺も泣く泣く心を鬼にするぜ」  
 
下肢の入り口に蛇腹の先端を押し当てられたサヤはビクンと体を震わし周りの筋肉に力を入れて進入を食い止める。  
「おいおい、つまんない抵抗してんじゃねーよ」  
外山は自由な左手でサヤの左胸を捏ね回し始める。  
発育しきった美しい半円型の柔肉を、螺旋を描くように撫ぜ回し、  
肌色と桃色の境を人差し指でくるくると刺激する。  
その優しい愛撫に今まで性感を開発されてきたサヤはただただ生まれてくる快楽を受け入れ続けるしかない。  
そして、肉体が求め始めるタイミングを外山は予測し、ひくつき始めた穴へ削岩機を一気に突き入れる。  
「ああっっっっっっ」  
まだそれは地獄の振動を開始していないというのに、挿入の動きだけでサヤは果てた。  
しかしそれはまだ始まりに過ぎない。  
サヤの左胸を揉む手を離し、外山は機械のスイッチへと手を伸ばす。  
「……ぃったからぁ……」  
半分舌を出しながら、悦楽にふけった顔を岩佐に隠そうとせずサヤは呟いた。  
「……もう、ぃっちゃったから……もぅ……ゅうひて……」  
馬鹿だなあ、と岩佐は思った。  
サヤのおでこをよしよしと撫でながら、その手をまたスイッチに戻して外山は言った。  
「許すわけ無いだろ」  
あんな顔で、声で言われたら、俺でもスイッチを押す。  
そう考える岩佐の前で、ズガガガガッという音とともにサヤの体が爆ぜた。  
 
 
「あひいいぃぃぃっああああああいああああぁぁっ、  
いやああっいやいやいあやああああっ  
いあさくんに、いわはくんにみられちゃうよおおおおおぉぉぉぉっっっ」  
よがり狂いながらサヤは叫んだ。  
もう、彼女には食い入るように正面で見つめる岩佐は見えていないらしい。  
「あひいいいいっふひいいいいいっっひやあああぁぁぁぁ  
いくぅいくううういちゃうああああああああああああぁぁぁぁぁ」  
そんなサヤの顔を見つめる外山の顔はなぜかとても穏やかに見えた。  
しかし岩佐には、そんな外山の気持ちが分るような気がした。  
「今のこいつはどんな風に見える」  
ああ、そういえば小説の表現を考えるためって設定だったな。  
最後までその演出に乗ってやるか。  
上半身を発狂したかのように揺さぶるサヤの両胸はその質量を忘れたかのように  
タプタプと滅茶苦茶に揺れ動き、青白い血管の浮かぶ白い肌を伝う汗はあたりに撒き散らされる。  
(こりゃ、う○こもらしてもしかたねえな……)  
「いくいくいっひゃういきゃあああああぁぁぁあぁぁぁっ  
ぁ、あ、ああああぁぁああああいくいあかあああああ  
いくもうらめあひあああああああぁぁぁぁぁっ」  
口から涎を吐きながら、目から涙を流しながら何度も何度もサヤは果て続ける。  
彼女に穿たれた機械が動きを止めるまで。  
背後の男が満足するまで。  
「『メス犬のような天使の顔で』ってのはどうだ?」  
外山が、イき続ける彼女の頭を撫でながら岩佐に提案する。  
たとえメス犬のような、などと付けながらも、『天使』ときたもんだ。  
(結局最後はのろけかよ!!!!)  
「それでいーんじゃねーの?」  
心の底からどうでも良くなって岩佐は答えた。  
岩佐の答えとともに、削岩機の音とサヤの絶叫は消えうせた。  
 
「ああっいいよ、とやま君、ふごいはんじるっ」  
「け、やっぱてめえはメス犬だなおい」  
「……ちがうもん、あんなことずっといわあくんのまえで、させらえて、  
ずっとひもちよくなるのっがまんさせられてじらされたからだもんっ!!」  
(いや、最後の方全然我慢してなかったじゃねーかお前)  
玄関で靴を履こうとしながら岩佐は毒づいた。  
といっても急ピッチでビールを空けたからもう指先がふらふらでさっきから全然靴紐が結べないのだが。  
そんなこんなでもたもたしているうちに、後ろのバカップルどもは第2ラウンドを始めやがった。  
……いや、むしろ今まで岩佐の前でしていたのが前戯でこれからのが本番なのかもしれない。  
「ふん、あんだけ喘いでおいていっちょ前に我慢してたとか言うのか?  
さすが淫乱だ、我慢のレベルが違いすぎるぜこの変態」  
パンパンと肉と肉がぶつかる音がし始め、たちまち上ずったサヤの声が聞こえ始めた。  
「あひぃ、だっふぇ、ひさしぶいなのにあんなあああぁぁ  
はずかしいことさせらえたら、だえだってええぇぇ」  
「よく言うぜ、岩佐に見られて興奮してたんだろうがこの変態!!  
お仕置きで今夜は一晩中突き殺してやる!!」  
 
(……なんでアルコール入ってねーのにあんなハイテンションなんだよ。……ああ、俺がいたせいか)  
岩佐という欲望を塞ぐ蓋が外れた後だから、あんなにハイテンションになっているのだろう。  
 
「いいよ、いいよっいっぱいいっぱいいっぱいついてついてついて  
いれていれぅぇいああええええぇぇぇぇっ」  
「早速イったかこの犬やろーが、あんだけイってまだイきたらねーのかド変態め」  
「へんたぃだからぁ、もっと、もーーーっとおしぉきっ、おひおきして、おしぉっ、  
お、ぉあああああぁぁぁぁっ」  
「は、入れてやるぜ犯してやるぜ、せいぜい朝まで叫んでなこの変態官能小説家!!!」  
「ぁああああ、あひいいいいいいぃぃっいく、いくいくいきゅぅぅぅううううっっ」  
「てめーと会ってねえ間一度も俺は抜いてねーからな、  
数ヵ月分の特濃精子を全部出すぜこの超変態女め!!!!」  
「だしてだしてこゆくえあつくてにがいのずぇんぶぜんぶだしてだしふぇだひてえええええぇぇぇぇえぇっっっ」  
ついてけねーや、と言いながらも、どこか淋しそうな顔をして岩佐は外山の家を後にした。  
「おれも彼女欲しいなあ……」  
 
「……サヤ、元気?」  
「……あんまり……」  
電話の向こうから聞こえる親友の声に、どこかほっとした、しかし疲れきった声でサヤは答えた。  
「あははは、外山君に苛められちゃったみたいだね」  
「な、な、な、何言ってるのよ!!別にあいつとは会ってないってば!!!!」  
「はいはい、そういうことにしときましょーか。でも、おかげで家に帰る決心がついたんじゃない?」  
サヤはぎくりとして答える。  
「……別に外山君とは会ってないけど、帰ることにはしました。……よくうちに帰る途中って分ったわね」  
「そりゃもうサヤのパターンじゃん。  
なんか家に帰れなくなって友達の家2、3日ぶらぶらして帰る決心するため外山君ち行くの」  
「……だから、あいつには会ってないってば……ていうか、  
なんか聞き捨てならないんだけどさ、あたしが『帰る決心するため外山君ち行く』 っていうの」  
 
別にそこまで外山のことを頼りにしてるつもりの無いサヤは本当に心外だという口調で答えた。  
すると、くすくすと笑いながらキリノは言った。  
「でもさあ、外山君ち行って帰ったきた時サヤ凄いすっきりした顔してるじゃない。  
まあ、何でか大抵目の下に大きなクマもできてるけど」  
「それは……」  
たしかに、その通りかもしれない。  
昨日も……というより昨日から今日にかけてだけど……めっためたに……  
それこそ朝までどころか昼までずーと、わけがわからなくなり記憶が混同するぐらいめっためたに、  
夕方目が覚めたら口の中から足の指先まで全身精液の匂いがするまでヤってしまった今となっては、  
家出した理由が小さな問題になったように感じられていた。  
 
まあ、本当に家に帰ろうと思い立ったのは風呂上りのサヤに  
「もう一晩泊まっていくか」  
とあの機械を持ってあざ笑う外山を見たときだが。  
悲鳴をあげ逃げるようにして外山の部屋を飛び出したサヤは、外山の部屋のベランダを見上げながら  
「鬼畜っ!!」  
と叫んで一目散に走ってサヤの家の前まで帰ってきたのだ。  
「まあ、結局家に帰るんなら一件落着って感じであたしは言うこと無いんだけどね。  
じゃ、あんまり家族心配させたらだめだよー」  
そう喋るとキリノは電話を切った。  
 
「心配か……」  
そう呟き、サヤは自らの家を見上げる。  
「下手したら、家族の縁切られてるかもしれないんだけどね……」  
あの日、サヤは自分の部屋で書きかけの官能小説の前で固まるかずひこを見た。  
その後、サヤは小説をかばんに入れ逃げるようにして家を出たのだ。  
(ねーちゃんみそこなったよ)  
(あんたをそんな子に育てた覚えは無いよ)  
そんな家族の幻の罵倒が聞こえてくる。  
家に帰ろうとした決意が鈍ったその瞬間、昨夜外山と交わしたやり取りを思い出す。  
(お前進級してからこんなのずっと書いてたのか?)  
(そーよ。書いてたもん、ずっと。でも言っとくけど、本気であたしは書いてるんだからね!)  
そう、本気で書いてたんだあたしは。そのことはだれよりも自分自身が知っている。  
深呼吸して、サヤは両手で自らの頬をぱちんと音がする強さで打つ。  
涙目になりながら、しかし決意したまなざしでサヤは玄関へと踏み込んだ。  
 
「何やってんだいこの子は、ゲーム機壊されたぐらいで家出して!!」  
「あたしは、……?」  
本気であの小説書いてるんだから、と続けようとしたサヤの言葉が詰まる。  
「ゴメンよねーちゃん、俺、足元見ずに部屋入っちゃって……」  
そう言ってすまなさそうに首をすぼめる弟の手には、サヤがお店で並んで買った新型の携帯ゲーム機が握られていた。  
その液晶画面は上下とも見事にひび割れていた。  
「かずひこが謝る必要は無いよ。こんなもの床に置いてた鞘子が悪いんだから」  
そんな風にいつものようにわいわいと騒いでいる家族の前で、  
気の抜けたサヤは尻もちをついていた。  
 
 
終わり  
 
 
おまけ  
 
サヤは家族が寝入った後自室でビデオデッキに岩佐が持ってきていたテープを入れた。  
「これでも見て勉強しとけ」  
と外山に渡されたものだ。  
衛星放送のアダルトチャンネルを録画したらしいその映像は、まさにサヤの度肝を抜くものだった。  
『百人抜き伝説』と名づけられたその内容は、  
タイトルの通り百人の男性を射精へと導く女優の超セックスが映し出されていた。  
(もはやこれってドキュメントなんじゃ……)  
手で、胸で、口で、お尻で。前から、後ろから、座りながら、跨りながら。  
一人と、二人と、五人と、二桁の男たちと。  
あらゆる方法で次々と男たちを絶頂へと導いてゆく女優の姿に、  
サヤは深い感動を受けインスピレーションを刺激させられる。  
「あいつに感謝しなきゃ……」  
今なら書ける。ミューズが降りてきた。  
「すごい、凄いものが書ける!!いける!!」  
と、画面が乱れて映像が変わる。  
どうやら、別の番組を重ね撮りしていたらしい。  
ぬいぐるみの鳥が出てきて、ナレーションのお姉さんが語り始めた。  
 
〜ぶんちょうのぶーちゃん〜  
ぶーちゃんのお誕生日の巻き。  
 
今日はぶーちゃんのお誕生日。  
でも、ぶーちゃんはあまり楽しくありません。  
なぜならインコのイーちゃんが、  
ぶーちゃんの大好きなクレヨンをぶーちゃんに何も言わず勝手に使ったからです。  
18色のいろんな色のクレヨン。  
赤青黄色、白黒緑、水色桃色紫色、橙黄緑こげ茶色、茶色灰色すみれ色、銀色金色ねずみ色。  
 
とっても綺麗なクレヨンで、使うのがもったいなかったぶーちゃんは、いつまでも使わずに  
大事に大事にとっていたのです。なのにそれを一番の友達のイーちゃんに勝手に使われて、  
ぶーちゃんはとっても悲しくてどんなプレゼントをもらっても嬉しくありません。  
「ぶーちゃん、君の大好きなシュークリームだよ」  
「ぶーちゃん、前から欲しがってたけん玉だよ」  
ぶーちゃんのお父さんやお母さん、友達たちがプレゼントを持ち寄っても、ぶーちゃんは全然笑いません。  
そんな時イーちゃんがプレゼントの箱を持ってぶーちゃんの前に現れました!  
「ごめんよぶーちゃん、このプレゼントを受け取ってよ」  
 
それはぶーちゃんとイーちゃんが楽しそうに笑っている一枚の絵でした。  
 
18色のクレヨンで描かれていたその絵には、  
『ぶーちゃん、いつまでもイーちゃんの友達でいてね』と書かれていました。  
「ごめんねぶーちゃん、ぶーちゃんにあげるプレゼントだから  
ぶーちゃんの好きなクレヨンで描いたほうがいいと思ったんだ。  
それにお誕生日プレゼントだから、ぶーちゃんに秘密にしてた方がいいと思ったんだ。  
大事なクレヨン、勝手に使ってごめん」  
 
謝るイーちゃんに、ぶーちゃんは首を振ってプレゼントを受け取りました。  
「もう謝らなくていいよ、だってクレヨンなんかよりもっと大切なプレゼントをもらったんだもん」  
そう答えるぶーちゃんの顔は、イーちゃんの描いた絵のような笑顔でした。  
その笑顔を見たら、イーちゃんもぶーちゃんのお父さんもお母さんも友達もみーんな笑顔になりました。  
 
おしまい  
 
次回は、いーちゃんとお別れ!?の巻きだよ  
 
 
「面白い……ていうかウルっときた……」  
幼児向けの番組だけど、それでも面白い。  
その心温まる脚本と、お姉さんの柔らかな語り口で、サヤは心の中の汚れたものが消え、童心に返ったような気分になっていた。  
そう、心の中の汚れたものというか、さっきまであったあれが……。  
 
「あんたのせいで小説のインスピレーションがどっかに行ったじゃないのさ!!!!  
どうしてくれるのよーーーーーーー!!!!」  
「……何の話だ?」  
携帯電話の向こうでまくしたてるサヤの剣幕に、重ね撮りしていたことなどすっかり忘れた外山はたじろぐ事しかできなかった。  
 
 
おまけ終わり  
 

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