未だ感じたことの無い気だるさを感じながら、少女は覚醒する。  
意識は泥のように重く粘り、まるで肉体が自分の物ではないかのようだ。  
目覚めてから30秒、まず自分の体が何かで縛られていることに気づく。  
手足が、体全体か動かない。  
腕は後ろ手で縛られ、足はまるで分娩台の妊婦のように両側へ開かされ、足首が何かに縛られている。  
そして40秒後、視界が何かで塞がれていることに気づく。  
目は開いている。でも、何も見えない。  
50秒後、体の下に柔らかい物が敷かれていることに気づく。  
しかしやはり、自分のベッドのマットではないこと以外は分からない。  
1分後、自分のいる空間に、何人かの人間がいることが分かる。  
 
そこで、急激に頭部へ血液が流れ始める。  
ここは自分の部屋ではなく、そして周りには知らない人間がいて、その上拘束されている。  
この状態が異常であることに何かの力で弱まった脳がようやく気づく。  
思い出そうとする。  
体の動かぬ今それしかできないから。しかし、思考がうまくまとまらない。  
 
なぜ、あたしはこんな状態に……。  
 
いつものように家へ帰る道を歩いていて、背後から車の近づく音が聞こえ、  
そしてまるで全身に火花が散るような痛みを覚えた後から、どうしても思い出せない。  
いや、あの瞬間、意識を無理矢理途絶えさせたのではないだろうか。  
今、あたしの周りでうごめく人たちが。  
口を塞ぐものは無い。  
一縷の望みにかけ、見えない集団に問いかける。  
 
「すいません、誰かあたしの体を自由にしてください」  
 
発された声は、出した本人が驚くほど震え、掠れていた。  
心よりも、体のほうが危機を察しているのか。  
そして、しばらくの沈黙。  
そしてそれを破ったのは、次々と湧き上がる少女を囲む者達の嘲笑。  
だれも、彼女の戒めを解く気は無いらしい。  
そして、ようやく少女は理解した。  
 
自分の身に今からなにが起こるのか。  
そして、この状況から自分が助かる可能性がどれだけ低いのか。  
彼女は……川添珠姫は、いやというほど理解した。  
しかし、彼女は知らなかった。いや、彼女の周りで笑う男達も知らなかった。  
身動きの取れない少女と、それを囲む陵辱者達を影から見張る第3者がいることを。  
 
口元に、何かが押し付けられる。そして鼻をつままれる。  
押し付けられた物で口からうまく呼吸ができない。鼻からはもちろん無理だ。  
どうすればいいのか考えようとするが、すぐに口から呼吸するしかないとわかる。  
しかし、口元に感じるのは冷たい液体の感触。口元に瓶の口を押し付けられ、  
呼吸ができず零しながらもムリヤリ何かを飲まされるタマキ。  
正体不明の液体を嚥下するのは怖い。でも、飲まなければ呼吸できない。  
何とか液体を飲み込み、そして彼女は怯える……いつのまにか自らの胸へ押し付けられた物の感触を感じ。  
いや、胸だけではない。それは力づくで割り開かれた太ももの付け根…  
もっともな神聖な、そして脆弱な女の部分へ、蠢動する何かがあてがわれる。  
 
その機械的な振動は、少女の体を面白いように弾ませる。  
まるで急所の上を、何十本も足を持つ蟲たちが這いずり回るようで。  
むずがゆく、こそばゆく、みだされる。  
 
「中学生?」  
「いや、高校。ムロエだっけ?このブレザー。身長も体重も小学生クラスだけど」  
「おお、燃えるじゃん」  
「鬼畜だねー」  
「薬効いた?」  
「まだみてー。でもそろそろじゃね?」  
 
胸の先端を、排泄器官の周囲を、舐めまわすように、触れるか触れないかの距離で。  
機械仕掛けの蟲達が少女の上でダンスを踊る。  
「……いやっ……」  
汚される恐怖に、辱められる嫌悪に、内側から彼女を狂わせ始めた薬物に。  
少女の体は震え、そしてソレの名前すら知らぬ身で快楽の頂点へと押しあげられる。  
「……ぃゃゃぁぁぁぁぁっぁっ!!!」  
 
「おーすげーイッた?」  
「イった、イッた。初めてみてーだし」  
「うおっ、マジで?めっけもんじゃん!初めてはどうでしたかー、…えーと」  
「タマキちゃんだって、ほら生徒手帳」  
「初めてで痛いけど、ごめんねー。俺らも仕事だし」  
「趣味も半分だけどね」  
 
その時、耳元で金属が合わさる「ジョキジョキ」という音を聞いてタマキは理解した。  
自らのショーツが、ハサミによって切り取られたことを。  
 
「……!っ」  
恥ずかしさで顔が赤くなるタマキ。  
しかしその後、自らの秘裂をなぞる指で今度は真っ青になる。  
 
と、突然タマキ以外の悲鳴が上がる。  
「うぎゃーーーーあっっ、腕がーーーー」  
「てめえ、誰だ!?」  
 
タマキはヒーロー物に憧れてはいても、  
自分が危機に陥った時に自分を助けてくれるような都合のいいヒーローが現実にいる、  
と信じるほどロマンチストではなかった。  
 
「うああああっっ、鼻がっ、鼻がっっ」  
「やめ、ちょっと待てうげぶぅっっっ」  
 
しかし、自分がもうどうしようもないほどのピンチに襲われている今、  
助けに来た人がいる。この人はヒーローだろうか…薬で鈍った頭で  
タマキはそんなことを考えていた。  
 
「ぎぼえぇぇぇっ」  
 
突然タマキの顔に生暖く鉄臭い液体が飛んでくる。  
未だ視界がふさがれ見えないが……この感触と匂いは……血?  
 
もしかしたらこの人は。  
私を襲おうとした人達を打ち倒すこの人は。  
正義の味方なんかじゃないのではないか。  
 
そしてタマキの悪い想像は、見事に的中する。  
 
 
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※  
 
その少女を一目見た時から惹かれてしまった。  
彼女は最初の出会いを知らないだろう。  
武道館で出会った時がお互い初見だと思っているだろう。  
しかしそうではない。  
もっと前から、自分は彼女を知っていた。  
 
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※  
 
 
「だ……れ…………ですか……」  
機械が生み出した快楽が残っているためだろうか、  
さっき声をあげた時よりさらに小さく弱弱しい声で尋ねるタマキ。  
「……………………………………………………………………………」  
しかし、闖入者は何も答えず、タマキの周りをゆっくりと歩き回る足音だけが響く。  
そして時折カチッとかガチャッとか何かの物体を弄る音が聞こえる。  
 
「すみません…………あたしの体を自由にしてください…………」  
一縷の望みに賭けてもう一度呼びかけるタマキ。  
「……いやっ……」  
突然、女性のくぐもった悲鳴が漏れる。  
「……ぃゃゃぁぁぁぁぁっぁっ!!!」  
「どうしたんですか!?」  
あたし以外に捕らえられている人がいるのかと驚くタマキ。  
しかしその声はタマキの良く知った人物だった。  
その悲鳴の背後に、多くの男達の嘲笑が混じった。  
 
「おーすげーイッた?」  
どこかで聞いた声。  
「イった、イッた。初めてみてーだし」  
つい最近聞いた声。  
「うおっ、マジで?めっけもんじゃん!初めてはどうでしたかー、…えーと」  
そこまで聞いて、ようやく視界の塞がれたタマキも理解できた。  
「タマキちゃんだって、ほら生徒手帳」  
これは、今さっきの自分と、陵辱者たちのやり取り。  
「初めてで痛いけど、ごめんねー。俺らも仕事だし」  
そしてそれらが再生されているということは……録音?いや、録画!?  
「趣味も半  
そこで、ピッという音とともに再生は終わる。  
 
……再生が終わったということは、新たに録画するということか……?  
「……いやっ、やめて下さいっ!!」  
上着ははだけさせられ、ショーツははさみで切り刻んで剥ぎ取られた状態。  
自分が今半裸状態であることを思い出し、タマキは叫ぶ。  
しかし、闖入者は何も応えない。  
ただ黙ったまま、タマキのことを見下ろしていた。  
 
 
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※  
 
自分の異常性に気付いたのは小学生高学年になる前からだろうか。  
そしてその感情は誰かにぶつけるべき物ではないと知ったのは中学生になってからだ。  
自分が思いを、いや、行為をぶつけた少女は心に大きな傷を受け、  
加害者になった自分とその家族は逃げるように町を引っ越した。  
 
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※  
 
 
沈黙を破ったのは足音だった。  
今度は周りを歩き回らず、ゆっくりとタマキのほうへ近づく。  
縛られたままのタマキにはどうすることも出来ない。  
ただ、恐怖と嫌悪に呼吸を荒げるだけだ。  
そして、何かが顔に触れた。  
「ひあっ?」  
思わず引き攣った声をあげるタマキ。  
しかしその顔に触れたのは柔らかな布の感触だった。  
(ハンカチ?)  
その柔らかい布は、タマキの顔についたままだった鉄臭い液体を丁寧に拭き取る。  
 
(この人は……悪い人じゃないのかな……)  
ハンカチは、滑るようにタマキの頬、鼻、唇の汚れを拭き取り、そのまま首筋へ移動する。  
「あ……」  
首筋を撫でるきめ細かい布の感触に思わず声が出た。  
(別に……この人は普通なことをしているのに……)  
それはまるで、さっき体中を機械でもてあそばれた時に発したような声だった。  
そんな声を上げた事にショックを受けるタマキ。  
血潮を浴びてから時間が経っていたため、顔についた赤黒い体液はタマキの白い肌を伝い  
彼女のはだけたシャツから除く胸部をも汚していた。  
その血痕を綺麗にしようとしてくれているのに、変な声を出してしまった。  
しかし、そんなタマキの衝撃をあざ笑うように、ハンカチはさらに降下する。  
「ふぁ……」  
そこは、先ほど合成樹脂の振動がもたらした疼きの炎がいまだ消えぬ場所だった。  
 
 
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※  
 
新しい町に来てからはもう誰も傷つけないように心をコントロールできた。  
出来ると信じていた。  
でも、それは思い込みだった。  
理性で蓋をした欲望の中では確実に歪んだ愛が対象を求め始めていた。  
そしてついに高校生なった時、欲望は獲物を見つけた。  
 
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※  
 
 
いたわるように胸の上をすりあげるハンカチの動きに、タマキの体はフルフルと戦慄きだす。  
奥歯を噛み締め、必死に声を殺すタマキ。  
無理矢理飲まされた薬物のせいで体中の感覚が暴走している。  
控えめな胸の頂をハンカチが優しく包み込む。  
「ぁあっ……」  
思わず首を仰け反らせ、身体を震わせるタマキ。  
その動きは、機械の生み出す振動に比べればあまりに遅くて緩やかなはずなのに。  
あの時以上の甘い炎をタマキの胸へ発生させる。  
(こんなことで……こんなエッチな声出したら……この人に、エッチな子と勘違いされちゃう……)  
必死に耐えようして唇を噛み締めるタマキ。  
 
しかしそんなタマキの耳元に、狂おしくなるほどこそばゆい吐息が吹きかけられる。  
――――――――気持ちいいか?――――――――  
というほとんど聞こえないほど小さな問いかけとともに。  
その声は、タマキはどこかで聞いている気がした。  
「いや、ちあぁっ!」  
鳴きそうな声で否定しようとするタマキの声はすぐにかわいらしい喘ぎへと変わる。  
ハンカチの上から2本の指が豆粒のよう肉の塊をそっと摘んだからだ。  
 
あっという間に反抗しようとした精神が萎えさせられる。  
そして、2本の指は、コリコリと桃色の健康的な乳首をいじり始める。  
あくまでも甘く優しく柔らかく。  
摘んで、捻って、捩って、引っ張って、押しつぶす。  
経験値のないタマキにはもう耐えられるはずもない。  
 
「ああっあ、あぁあ!?」  
あられもない声を上げ始めたとしても誰も彼女を責められないだろう。  
その声が責め手の血をたぎらせるほど艶やかでも仕方がないだろう。  
胸をいじる手と逆の手が何処へ伸びているか想像できなくても仕方がないだろう。  
手足を縛られ体を割り開かれた少女には、何の抵抗の術もないのだから。  
 
「こじろー……せんせぃ……」  
タマキは無意識に、思いを寄せる男の名を呟いた。  
 
 
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※  
 
自分の歪んだ感情を周りに悟られるわけにはいかない。  
表に出すわけにはいかない。  
そうすれば中学生の時のように相手を不幸にさせる。  
だから適度に発散させた。  
同じ部内の、どうでもいい女子達に。  
 
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※  
 
 
「いやあぁっ!?!!」  
また、タマキの秘裂に何かが触れる。  
「……ゅ……び………………」  
誰かの人指し指の腹が、彼女の閉じたままの入り口に蓋をするようにして触れる。  
そしてそのまま、ゆっくりと上下に移動を開始する。  
 
「ひ……ぃあっ……やあああっ」  
タマキの毛の生えぬ陰部とすべすべな肌は、その摩擦運動をスムーズに行わせてしまう。  
閉じきった割れ目の上を、何度も何度も人差し指が往復する。  
まるで木材をノコギリでひくように。  
 
「いあ……いあぁ……ぃああぁぁぁっ」  
そしてその場所から何かかが噴き出して来る。  
ノコギリでひけばひく程ひいた場所からおがくずが出るように、  
タマキのそこからはこんこんといやらしい液体があふれ出てきた。  
 
「いやぁ……いやあ……いやいやいやああぁっ」  
恐怖と緊張で堅くなった筋肉は、恐怖と緊張を超える快感で堅さが取れ始め、  
やがてタマキの全身の血行はよくなりその全身は桜の花びらのような淡い桃色へ変わる。  
そして血が通い始め柔らかさを取り戻した膣口は押し付けられる人差し指の力でわずかに窪み、  
摩擦運動で擦れる肉の表面積が増加し、快感の強さはさらに高まる。  
そして次々と湧き出る愛液が潤滑油の代わりとなり、指の速度はさらに上がる。  
 
「いやいやだめえぇっ!!」  
少女の血と肉と蜜と神経その全てが主であるタマキを裏切り、  
自らの精神を高みへと昇らせる。  
指が柔肉を穿ちながらしゅっしゅっと往復するたびに  
今は出口となった入り口からまるで飛沫のように蜜が飛ぶ。  
 
「いやいやいやいやいやあぁ―――――――――――――っ」  
そして少女の心はもう一度白く染め上げられた。  
 
 
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※  
 
発散の対象となったどうでもいい女子達は部をやめた。  
しかし、そんなのは遊びだった。  
もし自分が本当に好きな相手にこの欲求をぶつけたら。  
相手も自分も壊れるだろう。  
 
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※  
 
 
グッタリと力なくうなだれ、荒く息を吐くタマキ。  
(ま……た…………イか……された…………)  
呆然と余韻を感じ呆けるタマキは気付いてない。  
足音の主が、何かをごそごそと探し、そして取り出しているのを。  
 
(このひとの…………声…………どこかで……聞いたような……)  
そんなタマキの思考が、近づいてくる足音で中断される。  
その足音とともに近づくブウンという振動音を聞いてタマキの全身が恐怖で固まる。  
(また……あの機械……?)  
近づいてきた気配がタマキの正面でしゃがみこむ。  
ごくりと唾を飲み込み、身構えるようとするタマキ。  
と言っても、両手両足を縛られているため何も出来ないのだが。  
なにかが、額に触れる。  
「ひゃっ!」  
しかしそれは、とても暖かく柔らかかった。  
(くち……びる?)  
 
優しいキスが、タマキの顔を蹂躙する。  
タマキは顔を振り接吻の嵐を振り切ろうとする。  
突然目の前からブウンという空気が震える音が消えガガガっという音が発生する。  
機械が床に置かれ、気体ではなく堅いコンクリートを振動させ始めたからだ。  
そして自由になった両手が左右からしっかりとタマキの顔を固定する。  
額を舐め、耳たぶを啄ばみ、口の端から垂れる涎を啜り上げ、その唇を奪おうとした時、  
タマキははっとして叫んだ。  
「やめて、口は、口にするのはやめてっ!!」  
 
それはつい1週間前、いつもの武道館で、更衣室へ忘れ物を取りに行く時  
タマキは始めて生のキスというものを見た。  
顧問と部長の、知識のないタマキでも解る長く情熱的な愛し合う者同士のキス。  
その光景はタマキが始めて他人の情事を眺めた物であり、  
恋愛感情に鈍いタマキが顧問を好きだったと自覚させてくれた物であり、  
同時にタマキの初恋が終わる風景でもあった。  
それでも。たとえ初恋の相手にすでに恋人がいたとしても。  
その唇を、誰とも知らない人物に奪われたくなかった。  
 
 
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※  
 
限界は近かった。  
どうでもいい女子を自らの性癖の捌け口としても、満たされなくなってきたのだ。  
その他大勢では、手の届く距離にいる唯一無二の彼女の代わりにはもうならない。  
そんな時に、まるで天からの贈り物のように、  
彼女とよく似た雰囲気の少女が目の前に現れ差し出された。  
 
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※  
 
 
タマキの拒絶は受け入れられた。  
唇へのキスは静止して、不思議な沈黙が辺りを包む。  
ただ機械の振動音だけが響き渡る。  
 
「ふ……」  
静寂は、タマキの悶える声で破られる。  
キスが降下した。  
首筋を。鎖骨を。脇下を。腰骨を。乳房を。  
全身が桜色になった少女の身体の触覚は熱暴走を起こし、破滅的な快楽信号を脳へと送り続ける。  
もう、粘膜を擦る必要もないほどに出来上がった肢体で、それでも声を極力上げないよう耐えるタマキ。  
そんな時、ふとキスが止まり変わりに指先で優しく腹を愛撫し始めながらあの小さな声が響く。  
 
――――――――感じないふりしても無駄だよ――――――――  
快楽でのたうつタマキにはその声を聞いても誰だかは分からない。  
しかし声色ではなくその言葉を聞いてタマキは理解した。  
出来なくなったキスの代わりに慈しむよう触れてくる指先を感じて納得した。  
 
なぜ、自分を簡単に絶頂へと導けたのか。  
なぜ、辱めながらも同時に優しく触れてくれるのか。  
なぜ、やろうと思えば出来たのに無理矢理唇を奪わなかったのか。  
なぜ、こんな状態でも純潔を奪われないのか。  
 
「あなたは……女の人?」  
タマキは不意に尋ねた。  
 
 
 
沈黙が答えだった。  
 
「なんで…………女の人が……こんな…………」  
「何でだと思う?」  
少女は始めてタマキに答えた。  
「それはアタシが女の好きな変態だからさ」  
 
 
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※  
 
なぜこんなことになったのだろう。こんなことをしているのだろう。  
それは自分も知りたい。  
自分の生まれた時から特殊な性癖を持っていたためか?  
あの時彼女に一目惚れした時からか?  
彼女と同じ部活に入った時からか?  
彼女とよく似た雰囲気の川添珠姫に出会った時からか?  
タマキが拉致されるのを偶然目撃した時からか?  
そして拉致を目撃した時自分が携帯を持たず木刀を偶然持っていたためか?  
拉致され縛られ怯える少女が彼女に瓜二つだったためか?  
 
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※  
 
 
ガガガっ、という振動音がブウンという音色に変わる。  
それは、機械が床から持ち上げられたということ。  
それがどういう風に使われるのか、タマキはさっき知った。知らされた。  
「いや…………」  
「いいね、その怯える雰囲気。無敵の剣道少女も、抵抗できない時はそんな感じになるんだ。  
……なんかワクワクするね、犯してるって感じで」  
やはり、この人をあたしは知ってる。そしてこの人もアタシを知ってる。融ける脳でタマキは確信する。  
 
少女は機械をゆっくりとタマキの頬へ押し付ける。  
それは、合成樹脂の球体が十個以上棒状に連なりネチャネチャした蠢動する物体だった。  
「ふあぁ…………」  
「……すごいよな、女って。上手くしてあげれば、経験のない子でも全身が性感帯になる。  
まあ、女の悦びを知り尽くしてるアタシだから出来る芸当だけど」  
そう言うと少女はその物体をタマキの肌に押し付けながら降下させる。  
 
「さて、タマキちゃん。この機械、最初のものとは形状が違うよね。……何処がどう違う?」  
まるで保育士が幼児に呼びかけるように少女はゆっくりとタマキへ語りかける。  
「ああぁ……」  
しかし、よがるタマキには応えられない。  
とたんに、機械を持たぬ手がタマキの乳首を摘みあげた。  
 
「やいやああぁぁっ」  
目隠しの下から流れ落ちる涙を舐め上げ、少女は問う。  
「どこが違う?ほら答えて、タマちゃん?」  
また急所を摘む手に力が入ったのを感じてタマキは必死に答える。  
「これはボールみたいなのがついていて、棒みたいになっていて……」  
そこで、棒状の物体が下腹部で止まる。  
「そう、これはさっきのとは違い『棒状』だ」  
 
タマキはそこで気付き、顔色がこれ以上ないほど青ざめた。  
 
 
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※  
 
アタシはずーっと彼女とこうしたかった。  
彼女をこうしたかった。  
出来るはずがないと分かりながら。  
しかしその夢は今かなう。  
彼女に良く似た身代わりを使って。  
 
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※  
 
 
室江高校でタマキがメガネをかけた姿を見た時から、  
彼女の中の何かが壊れ始めていた。  
そして恐ろしい偶然が重なり、彼女の前に無力なタマキは差し出される。  
 
「小夏……」  
 
横尾は呟きながら棒状の物体をタマキの性器の上へ移動させる。  
「いやっ、いやっいや―――――――――」  
タマキは生まれて今まで出したこともないような悲鳴を上げる。  
しかし、横尾はにっと笑うと、遠慮なく棒状の物体を突き入れた。  
 
「痛い!いたいっ!!いたぃぃーーーーーー!!!」  
 
タマキはわずかに自由になる首を振り回し半狂乱になって叫ぶ。  
もう、涙すら出ない。  
しかし蠢く機械は生き物のようにタマキの穴へと侵入した。  
「ふう。ローション山ほどたらしてもやっぱ初めては辛いね。  
で、どう、お尻の穴とはいえ始めてを奪われた感覚は?」  
「いやいやいやああぁぁ、ぬいてええええぇぇぇ」  
 
その叫ぶタマキをぎゅっと抱きしめる横尾。  
彼女の叫びが消えるまで、ただ抱きしめる。  
ぐすっぐすっというしゃくりあげる声だけが響く。  
少しだけ落ち着いたタマキが横尾に語りかける。  
 
「なんで……なんでこんな……酷いことを……」  
タマキの目隠しを取り、横尾は自嘲気味に笑いながらタマキの耳元で答える。  
「そうさ。ひどいことを本当に好きな人には出来ないだろう!」  
タマキの顔が悲しみと絶望で歪む。  
「だからあたしで代用するんですか……」  
そうさと横尾は短く答えた。  
 
「さあ、最後にもう一度気持ちよくなろうか?」  
「気持ちよくなんか……気持ちよくなんかない!!」  
頭をぶんぶんと振って否定するタマキ。  
しかしそんなタマキの震える腰をひと撫ですると、とたんに  
「ひゃあぁっ」  
と喘いで黙り込む。  
まるでこのまま喘ぎ続けたら自分の負けだといわんばかりに、唇を噛み締め喘ぎを止めるタマキ。  
そんなタマキを見て苦笑いを浮かべる横尾。  
 
「耐えても無駄。我慢しても無駄。……同じ女だよ?  
感じてないか、感じているかなんて一目で分かる……」  
そう囁きかけると、タマキのお尻を優しく愛撫する。  
「ふぅ……ひぃっ…………」  
「もう、お尻の穴もほぐれてきただろ?まあ、気持ちいいと感じるかどうかは分からないけど。  
でも、熱くて、戦慄いて、むずがゆくって仕方ないだろう?  
そんな内側を外側から優しく撫でてあげれば…………」  
「ひぃっあああっ、あっ、あああぁぁぁっ」  
そのいやらしく表面を撫でさする指に悶え狂うタマキ。  
 
しかしもちろんそこで横尾の責めは終わるわけもなく。  
タマキのもっとも敏感な部分がついに標的となる。  
先ほど責めた割れ目の上部にある肉の蕾にそっと触れる横尾。  
「っ っ っ っ っ ! ! !」  
声にならない声を上げ、タマキは悶絶する。  
 
しかし、縛られ逃げることも抗うことも出来ぬタマキは、  
ただただ声なき声を上げ続けるしかない。  
ただの接触でそうなる少女を満足げに見下ろしながら、  
横尾は少しずつその指を滑らせ始める。  
「ぃぁぁぁぁああああああっっ!!!」  
感覚神経の密集地帯は触れるだけでも尋常ではない快楽を与えるというのに。  
横尾は知っていた。どんな速度で、どういう方向で、どれだけの圧力でそこを擦れば  
女性を狂わせるかを熟知していた。  
 
自分が女だから。そして女が好きだから。  
切磋琢磨する機会も相手も十分に恵まれた。  
そしてその待てる限りの技と知識を、タマキへとぶつける。  
「ふあぁ、ひぃっ、いやあぁ、ああぁぁ、いやっ、いゃ、いやいあいやいあ」  
少しづつ、だが確実に、タマキの呼吸が荒くなっていく。  
今まで感じたことがないほど強い絶頂感に恐怖を覚え、  
もはや耐えることすら忘れ汗を振りまきながら奇声のような喘ぎを上げる。  
そんな風に怯えながら喘ぐ彼女を見て、横尾はいつもどこか控えめで節目がちな少女を重ね合わせる。  
小夏……  
呟きながら、陰核を摺り上げるスピードを上げる。  
それが、止めとなった。  
「いや、いやっいやいやいやああああああああぁぁぁぁぁっ――――――――――――――」  
大きな声を上げ、タマキは絶頂へと登りつめ、  
きらきらと輝く愛液を噴出させながらイった。  
 
 
そこは、町外れにある廃ビルの十数階の空間だった。  
あたりの壁はところどころ劣化したのか破壊していて、部屋と呼ぶより空間というほうが相応しい。  
空間の中はいたるところに瓦礫や鉄パイプが散乱していて、混沌とした雰囲気に一役買っている。  
横尾は夕日で顔を赤く染めながら、壁すらない空間の端っこで空中に足を突き出し腰掛けていた。  
 
(このままほんの数センチ前に進むだけでアタシの体はぐしゃぐしゃになれるな)  
 
そんなことを考えながら遠くの町なみを見下ろしていると、背後で誰かの気配がした。  
「何でこんなことをしたんですか」  
その問いには答えず、横尾は笑って答える。  
「こっち来て座んない?すごく景色がきれいだ。まるでこの世の終わりみたいに。  
ちょっと身を乗り出すだけで真下まで見える。まるで吸い込まれるみたいだよ……」  
しかしそれには答えず、タマキはもう一度問う。  
「なんで、こんな酷いこと……」  
その声はたとえ荒げていなくても哀しみに満ち満ちているのがわかった。  
 
ふぅとため息をつく横尾。  
「同じ質問に何度も答えるのは好きでじゃないけど、しつこいから答えてあげるよ。  
アタシは何年も好きな奴がいるけど、告白したらそいつの側にいれなくのが嫌であんたを  
捌け口にしたんだ。彼女と雰囲気が似てれば、誰でも良かった。それだけ」  
 
なんて最低な人間なんだろうねアタシは。  
こんな自分が嫌で嫌でたまらなかった。  
いつも回りの誰かを傷つけ、卑怯で臆病な自分。  
けして報われない思いを抱え込んだ悲劇の人を気取っている自分。  
 
何もがうんざりだ。  
 
でも、それも終わる。あと数秒で。あと数センチで。  
 
タマキはゆっくり横尾の後ろへ近づき、その背中に両手を触れる。  
 
ああ、ようやく終われる。  
これは罰だ。アタシを解放してくれる、アタシの望んだ罰。  
夕日を見ながら、横尾はにっこりと笑った。  
 
タマキの手に、わずかに力が込められた。  
 
 
蒼ざめた顔で西山は夜の校庭を武道館へと向かっていた。  
そんな彼女を背後から呼び止める声があった。  
「西ちゃん先輩も来たんですか?」  
後輩の声に、ビクッとした西山はそのまま襲い掛かるような勢いで  
振り返り彼女の手を取った。  
「浅山さん!!!!横たんがっ!!!横たんふがぁっ」  
あまりの勢いに舌を噛む西山。  
「先輩落ち着いて!!あと淺川淺川!!!!って舌から血でてるし!!!!!!」  
 
しかし傷を負っても西山は言葉を続ける。  
「横たんが……横たんが……」  
目を潤ませて今にも泣きだしそうな西山を見て、淺川はごくりと唾を飲み込む。  
(こんなに取り乱して……予想以上に横尾先輩の具合は悪いの……?)  
取り乱す西山を見てその混乱が淺川にも伝染する。  
「とにかく、武道館へ行きましょう!!」  
そう叫ぶと、淺川は武道館へ駆け込む。  
 
すると、玄関でうつむく原田の姿が目に入った。  
「副部長!!」  
「原ちゃん!!」  
「……皆……」  
泣きはらした原田の顔を見て、二人の顔が蒼ざめる。  
「そんな嘘でしょ……」  
「横たん……横たん……うわああああんん」  
とたんに、西山が泣き崩れる。  
それを見て、他の二人も涙が溢れ出す。  
「横尾さん……」  
「横尾先輩…………なんでっなんで」  
3人の泣き声が、まるで地鳴りのように共鳴しあたりに響き渡る。  
 
「うるせーぞてめーら。ゆっくり休めねーだろーが。こっちはふらふらだっての……」  
武道館の中からたまらず横尾が顔を出して注意しようとする。  
が、3人が錯乱状態で泣く異様な姿にぎょっとして固まる。  
 
「大将!!何て冷たいことを!!!!先輩が死んじゃったのに!!!!」  
「そうだよ横たん!!そんな酷いこというと横たんが浮かばれないよ!!!!」  
もう、ムチャクチャだ。  
唖然とする横尾の後ろから、安藤が顔を出す。  
「きっとここまで思われていることを知って、横尾先輩もあの世で涙を流していますよ……」  
その言葉を聞いて、3人がさらに激しく涙を流し始める。  
 
ぴくぴくと青筋を立てながら横尾は安藤の胸ぐらを掴む。  
「お前、何てあの二人に伝えた」  
西山と淺川を顎でさして尋ねる。  
「そりゃあもう、言葉どおりに。『大勢のレイプ犯に襲われそうな川添さんを助けるために戦った  
横尾先輩が血まみれで武道館に寝っころがって先生と副部長が大さわぎ』って。  
何か間違ってましたか?」  
携帯にその時のメールを表示させ横尾に見せながら安藤は問う。  
「間違っちゃいないけどよぉ。字面では。……ただ、色々修飾語が足りなくないか?」  
 
血にまみれていたのは(タマキとの行為後に)仲間を連れて引き返して来た  
レイプ犯達をタマキと一緒に鉄パイプや木刀でしばき返した時付いた返り血だし。  
寝っころがっているというのも戦い(と行為の)の疲れが出て休んでいただけだし。  
 
「大体『レイプ犯に勝った』って文章がなければこっちが負けて犯されたとも取られかねない文章じゃねーか」  
すると、安藤はぽんと手を叩き  
「ああ、確かに」  
と呟いた。  
(こいつ、ぜってーわざとだ)  
 
「大体小夏も小夏だ。なんであたしが生きてるの知ってて泣いてんだよ」  
そんな横尾の後ろからぬっと石橋が顔を出す。  
「そりゃお前、副部長なら涙も出るぞ。このまま大会出れないままになるかもしれないんだからな」  
「えっ、大会に出れなくなるってどういうことですか?!」  
ようやくわれに返った浅川が素っ頓狂な声を出す。  
 
頭をぽりぽり掻きながら横尾は呟く。  
「過剰防衛って奴だ……」  
「ええっ、でも相手はレイプ犯で複数だったんでしょ?いくらこっちに武術経験有りでも  
普通正当防衛になりません?まさか大将何人か再起不能に……?」  
「再起不能というか……不能に、だな」  
思わず浅川は顔をしかめる。  
西山は何のことか分からず首をかしげる。  
 
「しかたねーだろー。相手は卑劣な犯罪者だぞ。こーいう奴から身を守るため武道があるんだろーが」  
「まあ、一理あるわね」  
泣き腫らした目のまま不能の意味が分からない西山は分かったふりをしてうなずいた。  
「だろ佳恋!それをまあ、なんか知らんけど大事になっちゃって大変だよ。  
さっきまで学校のお偉いさん達と30分近く話してもうくたくた」  
「まだ終わりじゃねーぞ。これからすぐに警察だ」  
石橋の言葉に、やれやれとため息を吐く横尾。  
 
「でも、川添さんは無事だったの?!」  
心配そうに問う西山の言葉に、はっとする横尾。  
「……やだなあ、無事に決まってんだろ?なんせあの子の強さは練習試合で確認済みだろ?」  
すると、それもそうだね、と晴れやかな顔で安心する町戸剣道部女子の面々。  
しかし、横尾の作った笑顔と別にその心中は重く曇っていた。  
 
 
 
そっと横尾の後ろに回した手を前に回し、その体を抱きしめるタマキ。  
思わず横尾が叫ぶ。  
「なんでそんな……優しくするんだ!!!アタシのこと……突き落としたくないのか!!!」  
しかし、タマキは黙って首を振る。  
「だってあたしも分かるんです。好きな人がいてもそれを告げられない気持ちが。  
あたしの好きな人に……恋人がいるから」  
はっとして振り返る横尾。  
まるで泣くような顔で喋り始めるタマキ。  
「あたしは1週間前に自分がその人を好きな事に気付いて……そして同時に恋が終わって。  
たった1週間だったけど……それだけでもとても辛くて。  
だからそんな想いに何年間も耐えてきたあなたを…………憎むことが出来ないんです」  
「でもそれじゃあ……かわいそうだ。こんなことして……  
アタシが警察に行って罰を受けても……そんなんじゃ全然償えない。  
だってアタシはあんたの魂を…………殺したんだから……」  
目からはらはらと涙を流す横尾。  
人前で泣いたのは何年ぶりだろう。  
そうだ。アタシは罰して欲しいかったんだ。  
 
そんな横尾にタマキははっきりとした良く通る声で告げる。  
「もちろん罰は受けてもらいます。……でもそれは、体を傷つけるとか、  
警察に行く事とか……そんな罰ではありません」  
 
「どうした、横尾?」  
「ァ、いや、なんでもないっすよ」  
「しかし、大将と川添さんがばったばったと男どもをなぎ倒す光景は見てみたかったなー」  
「はは、つってもアタシはあの子の10分の1も活躍できなかったけどね。  
つーか最初こそ不意をついてあの子助けられたけど、  
その後仲間連れて帰ってきたレイプ犯どもを大方倒したのはあの子だからね」  
しかも、行為でさんざん疲労した体でだ。  
「アタシにはあの子が倒したレイプ犯の金的を潰して回るぐらいしか」  
石橋が顔をしかめて静止する。  
「それ以上はやめてくれ。その、男として聞くに堪えない」  
「あはは、そいつはすいませんでした」  
(つーか次々に金的潰していくおまえのほうがある意味活躍してるぞ)  
「じゃ、そろそろ警察行くか。送ってくぞ横尾」  
しかし横尾は親切な石橋に対しぺこりと一礼すると、  
「すいません、小夏借ります。すぐ戻って来るんで」  
といってきょとんとした原田の手をとり、そのまま武道館の外に出た。  
すぐに背後から石橋の声がした。  
 
「うおい、横尾!!それは警察行くより大事なことか?!!」  
「ええもちろん!!とても大事な……約束があるんです」  
「そうか。……じゃあ15分待つ。その間に、かっちり決めて来い」  
そういって、石橋は駐車場の方に歩き出す。  
(かっちり決めてこい……?あの人は、気付いている?)  
目を丸くして師を見送る横尾の肩を、西山がぽんと叩く。  
「あたしにはそういう自分から告げる勇気がないから……ちょっと羨ましい」  
逆の肩を、安藤が叩く。  
「まあ、別に勇気なんていらないんじゃないですかー?  
そういうの認めてる国だって探せばないわけじゃないんですから」  
考えてみれば。この多感な高校生活を千時間以上もともにしているんだ。  
うまく隠していたなんて、自分の思い過ごしだったのか。  
もしかしたら、浅川も……?  
 
「じゃ、大将、明日尋問の様子聞かせてくださいねー。  
いやーまさか警察に尋問される人が身内に出るなんて。  
アイツに自慢してこよーっと」  
そう呟くと、淺川はスキップしながら帰っていった。  
うん、いつものただむかつく空気の読めない淺川だ。  
てかアタシは別に尋問されないって!!聴取だって!!  
多分……。  
 
横尾はさめざめと泣いた後が頬に残る原田を体育感の裏に引っ張ってきた。  
そして二人きりになったのを確認したところで、切り出した。  
「悪いな小夏。その、なんつーか、大会出れなくなるかもしれなくて」  
さすがに××××潰したのはちょっとやりすぎだったかな、と反省しながら横尾は謝った。  
 
「……うーん、いいよそんなの」  
「いいよってお前……」  
横尾は、いや、部の皆は知っている。  
原田がいかに努力してこの3年間剣道に打ち込んできたか。  
そして副部長になってからは苦労して皆をまとめてきたことを。  
だから、そんな原田が大会に出れない可能性があると聞けば  
ああまで泣くのは自然なことと思われた。  
 
「あれはね、大会の事に泣いたんじゃないの。  
アタシがすごく嫌な女だから泣いたの」  
「小夏が……?」  
当惑する横尾。  
「……横尾さんがね、血まみれであたしたちの前に現れたとき、  
あたしはまず『なにか問題があったら部活が大会に出れなくなる』って思ったんだ。  
でも、西山さんと淺川さんはまっさきに横尾さんのことを心配してた。  
それが普通だよね。なのにあたし……だから、あまりにも自分が浅ましくて泣いちゃったんだ」  
そう告白するとまた原田の目に涙がにじみ始める。  
 
「わっこら馬鹿、泣くなって」  
慌ててそう言うと原田の顔を両手で掴みぎゅーと左右に伸ばす横尾。  
「ひょっと、横尾さん??!!」  
「ああ、わりー」  
急いで手を離す横尾。  
むー、と小さくうなり頬をさすりながら涙目で横尾を見上げる原田。  
「何するの」  
「いやなんつーか、ほら、こっちもやりすぎたし、  
結局アタシのせいで小夏に気苦労しょいこませた事に変わりないみたいだし、  
だからアタシが笑わせてあげようかなーと」  
 
かすかな静寂。それを破ったのは、原田の笑い声だった。  
「ふふふ、変なの」  
「そうだな、やっぱ小夏は笑ったほうが可愛い」  
「ふふ、なんだか男の子におだてられてるみたい」  
髪をかき上げながら笑う原田があまりにも愛しく、美しく感じられて。  
横尾はその両肩をがっしりと掴む。  
「横尾さん……?」  
 
 
タマキの罰はシンプルだった。  
「横尾さんの想いを、原田さんに告げてください」  
それは優しくて、厳しくて、正しい罰だった。  
 
 
多分この思いを告げれば、答えがNOであれ、万一YESであれ、  
きっともうもとの二人の関係には戻れない。  
 
だけど、これが一番自分に相応しい罰なのだ。きっと。  
 
「ずいぶん遠回りしてきたけど、小夏に伝えたいことがあるんだ。  
アタシは小夏のことが―――――――――――――――――――――――――――――」  
 
 
 
終わり  
 

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