走り込みを終えたキリノは武道館へと足を踏み入れる。  
一人きりの武道館は広すぎて、とても寂しく物悲しい。  
(というか、部長一人の部活動ってどうよ)  
剣道着に着替えながら、キリノはふあああーとだらけた溜息をついていた。  
そんな時、武道館の中へ人の入ってきた気配がした。  
(おお、ようやく来たよあのセンセー!)  
しかしどうも今日は様子がおかしい。  
いつもなら大声で部員の確認をするコジローの声が聞こえてこない。  
(外山君か岩佐君かな?でもあの二人がいまさら部活に顔出すなんてありえないし)  
不思議に思ったキリノが扉の隙間から覗き込むと、  
挙動不審な顧問がポケットに片手を突っ込んだまま人目を忍ぶようにして  
荷物入れの棚の前へ移動していた。  
 
とたんにキリノの目にいたずらっ子のような光がピカーンと灯る。  
(じゃあ今日最初の練習は、  
いかに相手に気付かれず背後から不意打ちをかませられるかにけってーい)  
にんまりと笑うと、物音を立てずに更衣室から出て  
ひっそりと気配を殺しながらコジローの背後へ近づいてゆくキリノ。  
「まあ、俺も学生のころは興味はあったしそればっかり考えてた時があったけど、  
普通こんなもんまで学校に持ってくるか?」  
独り言をつぶやくコジローのすぐ後ろで、突然キリノが声をかける。  
「こんなもんってどんなもんですか、先生?」  
「うわああああああ」  
 
まるで遺体を発見した探偵アニメのヒロインのような声を出すコジロー。  
「あはははははは、女の子みたいな声出して凄いびっくりしてる」  
コジローの期待以上の反応に、キリノの溜飲も下がる。  
「馬鹿、キリノ…いきなり声かけるからだろーが!  
てかどっから湧いてきた!」  
顔を真っ赤にしてうろたえるコジローの反応が面白くて、笑いの止まらないキリノ。  
「いや、普通に更衣室に居たんですけど。つーか遅刻してきてなんで切れてるんですか。  
小テストの採点、10分ぐらいで終わるんじゃなかったんですか?」  
「あっ、しまった」  
その言葉を聴いたとたん、キリノの胸に嫌な予感が走る。  
「やべぇ、すっかり忘れてた」  
そう言うが早いか、回れ右をして武道館から出て行こうとするコジロー。  
「って先生、稽古は?」  
武道館に入ってから1分とたってないのにもう出て行こうとするコジローはめんどくさそうに答える。  
「一人でやっとけっつーの。俺には大事な仕事があるんだよ」  
こちとら防具一式身につけてあんた待ってたのに放置ですかい。  
軽く殺意を覚えたキリノが後方からコジローの頭へ突きを放とうとした瞬間、  
彼女の視界の端に、学校には似つかわしくないピンク色の隠微な玩具が目に入った。  
 
 
一瞬、彼女の思考は止まった。  
 
 
「おい、キ…」  
 
そんな彼女の異変に気付き、コジローが何かを言おうとした瞬間、  
キリノははっと我に返った。  
「あれえぇーどうしてまだいるのなかなー、大事な仕事があるんじゃないんですカー  
どうせ部活動なんて2の次ですもんねーだ」  
と少なからず動揺しているキリノは早口でそうまくし立てると、  
わざわざ面をはずしてベーと舌を出して、そのまま面をつけていつものように素振りを始めた。  
なんというか、いつもの雰囲気を作りたかった。  
なぜかはキリノ自身でもわからなかったが、動揺していることをコジローに悟られたくなかった。  
キリノを見て苦笑いすると、コジローはそのまま職員室へと向かっていった。  
 
(…もうそろそろ大丈夫かな…)  
 
コジローがいなくなってからたっぷり20回は素振りをして時間を稼いでから、  
キリノは素振りを止め荷物入れの棚へ近づく。  
いつもコジローが使っている棚の中にある鞄の下から、  
さっきキリノが見かけたものがひょっこりと顔を出していた。  
 
(これって…アレだよね…?)  
 
キリノに性体験は無い。しかし、それでも眼前にあるソレが  
女性を慰める特殊な機械であることは知っていた。  
少女漫画やら、電車のつり革広告やら、ネットの怪しげなリンク先やらで、  
いくらでも『セックス』なんて言葉を目にするこの時代に、  
処女の彼女がソレの存在を知っていてもなんら不思議は無い。  
 
(ただでさえ、ろくに指導もしないくせにこんなものを武道館に持ちこむなんて……)  
 
ふつふつと、キリノの中にコジローに対するフラストレーションが溜まってゆく。  
そしてそれは、10代の少女の青い好奇心と結びついてありえない行動を彼女に選択させる。  
 
(だったらあたしも、まじめに部活なんかしない……)  
 
それは一種の反抗。普段とは逸脱する行為をすることで、  
「どうせ一人でも勝手に練習するだろう」  
と考えるコジローの思惑を裏切るためのもの。  
もちろん、それは部活動に不真面目なコジローには直接ダメージを与えないだろう。  
というか自己満足に近い。  
だけど、このまま一人真面目に練習をするのは、なんだか間抜けで惨めだ。  
そして何より、今キリノの注意と興味はもっぱら目の前の桃色の物体に注がれ、  
正直練習に集中できそうに無い。  
 
キリノは目の前のソレを手に取った。  
 
(てか、結構小さいなあ。こんなのがほんとに気持ちいいのかな…?)  
しかし、彼女が手にとってもソレは微動だにしなかった。  
(あれ、おかしいな。確か震えるんじゃなかったけ?)  
四苦八苦してソレの色んな部位を押したり引いたり回したりしていたが、  
いつまでも動かないソレにキリノはついに諦めて鞄の下へ戻そうとする。  
すると鞄の下へソレを押し込もうとした瞬間、  
彼女はソレと同色の楕円形の機械を鞄の下に発見する。  
 
(もしかして…リモコン?)  
 
棚の上に震動する方(と思われる物)を置き、鞄の下からその機械を取り出し、  
右上の赤いボタンを押した瞬間、突然キリノの眼前にあるソレが  
ガガガガッとけたたましい音を立てて振動しはじめ、  
その振動の力でスライドしてそのまま床へ落下した。  
 
心臓が飛び出すぐらいビックリしているキリノの足元で、  
ソレはガガガガガガガガガガガガガガッとまるで道路工事現場のような騒音を撒き散らす。  
驚いたキリノはすぐに赤いボタンを押して電源を切り、  
直後に呼吸を止めあたりの物音に耳を澄ます。  
 
何も聞こえない。  
 
足音を立てないよう武道館の出口まで移動し、そーっと武道館外の様子を伺う。  
茜色に染まったあたりには誰もおらず、  
遠くの運動場から野球部員の掛け声がおぼろげに響くのみだった。  
武道館の周りに誰もいないことを確認し、胸を撫で下ろすキリノ。  
そしてほとんど闇に溶けた館内へ真っ赤な顔で戻る。  
 
(よかった、誰にも聞かれなかった…)  
 
ほっとした後棚の前に移動しキリノはあらためて拾ったソレを見つめる。  
日が沈んでゆく中ほとんど光源が無く床や壁や扉など武道館内全ての物の輪郭がぼやける中、  
目の前にあるピンク色の玩具だけはその派手な色合いで暗闇の中でも視認することが可能だった。  
 
(て言うかあの振動……普通に身体に当ててたらやばかったかも……)  
 
よく見ると、リモコンの真ん中に目盛りつきのダイアルがあり、  
その目盛りがMAXに合わさっていた。少し躊躇した後、  
キリノはその目盛りをMINに合わせ、ソレを手の平へ置いた。  
そして深呼吸してから、赤い電源を再度押す。  
 
するとキリノの手の平で、微かな振動が始まる。  
(あ、コレぐらいなら全然大丈夫かも……)  
キリノの手の平の上で震えるソレは振動が弱いせいか、  
それとも振動のエネルギーが全て柔らかなキリノの皮膚と肉に吸収されるからか、  
さっきのようなやかましい音を立てなかった。  
時間が経つと、手の平がすこしづつ振動に慣れてくる。  
純粋な好奇心から、より強い刺激を求めキリノはリモコンのダイアルを捻り強くする。  
すると、とたんに手の平からブブブブブ…と僅かに低い振動音が漏れ始める。  
3分の1ぐらい強くすると、くすぐったさとむず痒さで耐えられなくなってキリノは電源を切った。  
まるで何十人もの人に無理矢理身体の一点をくすぐられるような感覚。  
 
(他の場所だと、どうなるんだろう……)  
 
もっと敏感な場所なら、どんな風に感じるんだろう。  
クラスメイトが持ってきたハイティーン向け少女漫画の主人公のように、  
『頭の中が真っ白になる』様な感覚に陥るのだろうか…。  
 
(おへそとか、どうなんだろう……)  
 
少しためらってから、ゆっくりとキリノはソレを袴の中へ入れ、  
電源を入れてソレをへそ上5センチの場所へ押し当てる。  
 
(大丈夫…これぐらいなら……)  
 
少しづつソレを皮膚にあてがったまま降下させてゆく。  
それと同時に、キリノ腰が少しづつソレから逃れるように後ろに引いてゆく。  
 
(もうちょっとで、おへそだ…)  
 
目をつぶって振動の感触を貪るキリノの耳に、突然コジローの声が響く。  
 
「おーい、キリノーいるのかー?」  
 
(何で…こんなタイミングで?!)  
キリノはマッハの速さでリモコンの電源を切り、棚の鞄の下へと押し込む。  
と同時に下駄箱で靴を脱ぐ音がする。だめだ、急がないと袴の中にあるソレが取り出せない。  
焦ったキリノは無理矢理袴を引っ張ってソレを取り出そうとするが、  
バランスを崩ししりもちをつくように後ろへ倒れてしまった。  
すると、武道館の中の照明が灯る。  
 
「あっ、コジロー先生、なんか早かったね」  
急な運動とそれまでの行為の恥ずかしさや背徳感と、  
何より振動がもたらした心地よさでキリノの呼吸が乱れている。  
「別に早くねーよ。遅れたぐらいだ。それよか灯りもつけず何やってたんだ?」  
訝しげな顔で見下ろすコジロー。キリノはあわててめちゃくちゃな言い訳をする。  
「いやー、ちょっと運動したら眠くなっちゃって…」  
徹夜明けの極限状態でもあるまいし、全身に防具をつけたまま眠る変人なんているわけがない。  
嘘をついた後キリノは心の中で下手な嘘をついたことを後悔していた。  
「で、防具つけたまま眠ったってわけか?器用なやつだな」  
しかし、コジローは納得したように頷いた。  
 
(お互い様だけど、この人あたしのことなんだと思ってるんだろう…)  
 
「まあいいや、とりあえず出るぞ。ほら、部活は終わりだ」  
 
(!このまま帰ろうとして鞄の下を確認されたら…)  
 
「えっ、えーと、その、でも、ほら、サヤ待ってるから。  
あとで鍵掛けるから、もう先生だけ帰っていいよ」  
またまたとっさに嘘をつく。  
 
「へーえ、サヤがくるのか。そりゃ久しぶりなあ、おい。  
…でも、今日の昼あいつに会って部活来いって言ったら、  
逃げるようにしてどっかいっちまったけど、何でいきなり部活に顔出す気になったんだ?」  
不思議そうな顔をするコジローに、必死でキリノは嘘を取り繕おうとする。  
「え?エーとその、あの、なんか忘れ物更衣室にしたから取りにいくって言ってたよ。  
えと、大事そうなものみたいだから。でもやっぱ、今日来ないかもね、  
私の聞き間違いだったかも」  
そこでコジローは何かを思い出したかのようにぴくっと身体を動かす。  
そして、そのまま身体を棚のほうへ向けてしまった。  
キリノの顔が青ざめる。  
「ああ、そうか、そうだなうん、じゃあ鍵は…」  
そこまで言うと、鞄の下をまさぐっていたコジローの言葉がとまる。  
そこにあるべきはずのものが無いことに気付いたのだ。  
 
(どうしよう、どうしよう、どうしよう)  
 
パニックを起こすキリノ。  
「おい、キリノ、俺がいないうちに男子来なかったか?茶髪でピアスのやつ」  
キリノは気づいていないが、コジローも慌てた様子でキリノに問いかける。  
「へ?ああ、ええと、その、誰も来てないよ」  
慌てて答えたあと、キリノは後悔した。  
(誰か来てたみたいって答えればよかった)  
参ったなぁ、と呟くコジロー。  
(誰も部屋に来ていないって事は、持ち出したのはあたししかいないって事じゃない…)  
とにかく、今はこの場所を離れよう。  
更衣室までいって、この袴の中にある物を取り出そう。  
そして、隙を見て鞄の下へ戻すんだ。  
そう決心して立ち上がろうとした瞬間、キリノの下半身に衝撃が走る。  
「あっ」  
思わずキリノの口から小さな喘ぎ声が漏れる。  
その声に反応しキリノのほうへ振り向くコジロー。  
 
(そんな…なんで?)  
 
しかし、今のキリノはコジローどころではなかった。  
 
(なんで…そんな所に?)  
 
キリノが自らの袴からソレを引っ張り出そうとして尻餅をついた瞬間、  
偶然にもソレは下着と彼女のお腹の間に挟まってしまったのだ。  
 
(何で…いきなり振動するの?)  
 
そしてその物体は、悪魔のような蠢動を開始した。  
キリノの顔が、快楽にゆがむ。しかし幸いなことに面をしていたので、  
コジローに表情を読み取られる事はない。  
ブブブブブブブブブブブッという低い音が自らの下半身から立ち上がり  
面の中で反響するのを聞き、キリノは理解した。  
 
(先生は……音で探そうとしている)  
 
このままだと、振動の音を聞き取られてしまう。  
そう思ったキリノは、音が漏れないようぎゅっと両手を握り締める。  
しかしここでさらに状態を悪化する事が起きる。  
音が出ないよう押さえつけられる力の加わった振動するソレは、  
まるで生き物のようにキリノの肌をなぞりながらスライドしはじめたのだ。  
 
キリノの下着の中へ向かって。  
 
(そんな…そんな……ひああぁぁ)  
 
ソレはまるでそこで留まるのが当たり前のように、キリノの性器の上でスライドを止める。  
必死に唇をかんで、割れ目への振動による刺激から耐えるキリノ。  
しかしその刺激は、処女にはあまりにもきつすぎる。  
もはや座る事さえままならず、キリノはごろんと横になる。  
 
「どうしたんだ、キリノ?」  
キリノの異状の原因に気づかず驚くコジロー。  
そんなコジローを恨めしく思いながらも、必死にキリノは言い訳を考える。  
「そ、…その、なんか、すごく今日は眠くて…」  
「だったらお前、せめて着替えてこいよ。てかここで寝んな」  
 
そういってキリノを立たせようと腕をつかむコジロー。  
 
意識が流されないよう自らの股間へすべての注意力を注いでいたキリノは、  
不意に腕に走った圧迫感と腕を引っ張られることによって起こった  
わずかな股間内の刺激から許容量以上の悦楽を感じてしまった。  
「ひゃぁっ」  
と甲高い声をあげ、キリノの身体が一瞬硬直する。  
「どうしたんだ?体の具合でもわりいのか?」  
驚いて手を引っ込めるコジロー。  
 
「別に…そんあことは…ただ、もう動きたくないんっ、です…  
それに、先生、言ってたじゃないですか…よく食べて、よく運動して、  
よく寝るのが体作りの基本だって…だから、少し眠らせて…」  
そう何とか言葉をつむぐと、硬直していた身体中の力が抜け動けなくなるキリノ。  
 
(いま、まるで……身体が……目の前が……)  
 
初めての絶頂に震え、放心するキリノ。  
しかし、イったばかりの彼女のひくつく性器を、止まることのない蠢動が襲い続ける。  
その絶え間ない振動は、傷口に塩を塗りたくる行為にも似ていた。  
 
(今…キタばかりなのに…びくびくしてるのにっ…)  
 
「ぁあ……」  
だめだ。もう堪えれない。嫌でも声が出る。  
面を取り、片手で口を、片手で下半身を押さえつけるキリノ。  
 
(これで…なんとか…声も……音も……でない…)  
 
しかし、そう安心したのも束の間、急に下半身を苛む振動が強まる。  
見つからない探し物に業を煮やしたコジローがソレの振動をさらに激しくしたのだ。  
 
「ふぅぅ…」  
 
苦しげな、切なげな声がまたキリノの口から漏れた。  
そしてその声はついにコジローの耳へと届いてしまった。  
「おい、どうしたんだよキリノ?様子が変だぞ!」  
面を取って表情が見えるようになったため、肉体の異常にも気づいてしまった。  
「大丈夫だからっ、ほっとい…て…」  
それだけ言うと、また口に手を当て、顔を背けるキリノ。  
しかし汗まみれの真っ赤な顔ではぁはぁと荒い息を吐くキリノは、  
どう見ても大丈夫には見えなかった。  
 
(だめえ…もう……たえらえ……ない……)  
 
さっき振動をあげられてから、もう2回キリノはイっていた。  
 
(お願い……とめて……とめて……とめて……)  
 
しかしそれは声に出せない。止めてと哀願すれば、  
 
自分がソレをしまいこんだ事を白状してしまう事になるのだから。  
 
(助けて……先生……助けて……)  
 
すがるような目で見上げたキリノは、コジローと視線が合った。  
その瞬間、キリノの血が凍る。  
 
 
そのとき教え子を見下ろすコジローの目は、獲物を前にした肉食獣の目だった。  
 
 
「なあ、キリノ。お前さあ、俺の物勝手に取ってねーか」  
「なっ、なんっの、ことですかっそんあ人の物なんか、かってにとるわけなっ」  
もはやまともな文章にすらなっていないが、それでもキリノは答える。  
自分の中にある矜持を守るために、平静を演じようとする。  
もうほとんど意味がないと自覚しながら。  
 
そんなキリノを襲う振動は、さらに激しさを増す。  
 
「あぁ、ひぃあ、ああ、だめっ」  
もはや、口を押さえる手が意味を成していない。  
腰を押さえる手も同様で、そこからは低い重低音がうなりをあげている。  
そしてそこから発せられるエネルギーのせいで、  
キリノの全身がまるで若葉を食む青虫のように怪しくくねる。  
 
「なんかなぁ。音がするなぁ。…どっから聞こえてくるんだろう」  
 
快楽に狂うキリノにも聞こえるようはっきりとした声量で呟くと、  
コジローはキリノのほうへ一歩近づく。  
 
(いや…気づかれる……きづかれちゃうっ……)  
 
キリノは必死になって自らの股間を両手でおさえつける。  
キリノの手と柔肉に挟まれて振動は空気を震わせる事ができなくなり音は小さくなる。  
しかし抑えられた音になるべき振動エネルギーはその分だけ  
キリノの肉芽と肉穴を震わせ波立たせ、キリノの体と心を狂わせる。  
 
「ああっいぃゃ、いやっいあぁぁっ」  
 
何度目か分からなくなったイく感覚に、キリノは悲鳴のような嬌声を上げる。  
とたんに自らの股間に押し付ける両腕の力が弱まる。  
すると挟み込む力が弱まり、それだけ肉へと埋まっていた  
玩具がまた空気に触れるようになり振動音が大きくなる。  
「…また、音がし始めたな。そっちからか?」  
また、わざと聞こえる声量で呟き、キリノの方へ近づくコジロー。  
ゆっくりと近づくコジローと目が合ったとき、込みあがる恐怖におののきキリノは叫んだ。  
 
「ひぃっあぁぁっ」  
 
(いやぁ、食べられる、たべられちゃうっ)  
 
その目を見たとたん、キリノはまた自らの股間を強く押しつけて音を消す。  
その瞬間を逃さず、コジローはリモコンの目盛りをMAXまであげた。  
肉にもっとも深く埋まった瞬間に起こった最大の振動に、限界が訪れた。  
 
「ああああぁぁぁぁっ、ひやぁああああぁぁぁぁぁっ」  
 
キリノの中をつま先から頭まで痺れる様な感覚が貫き、背をそらして絶叫をあげる。  
甲高い叫びが終わると、まるで何かが抜け出したようにキリノの体の力が抜ける。  
そして、そのまま肩で息をしながらぐったりと動かなくなった。  
そんなキリノを見下ろしながら、コジローはゆっくりとリモコンの電源を切った。  
 
 
そして次の日になった。  
 
 
「ほらー先生ー早く早く!ちゃッちゃと稽古つけて下さいよー」  
次の日、いつもの様に武道館で練習をしていたキリノの前に、  
昨日の獣のような目が嘘のようにいつもどおりのゆるーい目をしたコジローが現れた。  
しかし、キリノは感じていた。  
コジローの自分を見つめる視線に昨日までは無かった何かしらの恐怖と後悔と、  
そして獣性のようなものが含まれていることに。  
 
昨晩、快楽に震えるキリノが我に帰ったときすでにコジローはその場にいなかった。  
鞄の下にリモコンを残したまま。  
 
その残されたリモコンで結局5回ほどオナニーをしたキリノは家に帰るのが  
いつもより2時間も遅れ、家に帰った後しこたま両親に怒られた。  
しかしそんな風に怒られている時も、キリノの頭の中には  
あのコジローの獣の様な視線が焼きつき、ほとんどお説教は頭の中に入らなかった。  
 
「お前さ…警察行こうとかって、痛えぇぇぇーーー」  
コジローの後頭部にキリノは竹刀を打ち込む。  
「もーちゃんと指導してくださいよー」  
「て、馬鹿。お前のせいでもう無理。頭痛い。本と痛い。今日は終了」  
(頭が痛い?…ほんとに痛いのは、良心でしょ?)  
そう心の中で呟きながら、キリノはぶーぶーと文句を垂れる。  
しかしコジローは逃げるように身支度を整えて帰ろうとする。  
まるでキリノとの接触を怯えるように。  
ふぅ、と小さく溜息をついてから突然キリノは派手な音を立てて床に倒れこんだ。  
「おい、どうしたんだ?!」  
慌てて近寄るコジローを大の字で見上げて、キリノはゆっくりと微笑みかける。  
「運動したから一眠りしようかなーと。先生もどうですかー?」  
 
一瞬、不思議な間が武道館を包む。  
しかし、キリノは確信する。自分を見下ろすコジローの視線が、  
自らの下腹部へと向けられていることを。  
 
「…俺はもう帰らなくッちゃな。…じゃあ」  
「探し物」  
振り切るように呟いて逃げようとするコジローを引き止めるキリノ。  
「あん?」  
「…探し物あるんですよね。見つかったんですか?」  
「いいや」  
ソレはコジローに見つけられるはずがない。  
なぜならソレは今もまだ、キリノの下着の中にあるのだから。  
「じゃあ、探してください。今すぐに」  
コジローも察しているだろう。探し物がどこにあるのか。  
「何でそんなことする必要があるんだよ?」  
「だって、泥棒扱いしたじゃないですか人のこと。  
だから身の潔白を証明するためにも、先生には探す義務があります」  
 
どこにあるか分からないソレを探し出すということは、  
リモコンのスイッチを押すということ。昨晩コジローがやったように。  
 
「…じゃあ、お前も探すの手伝えよ」  
 
にっこりと微笑むキリノ。  
なぜならコジローの中に葛藤を見たから。  
理性と欲望が教師の中で揺れるのを見て取れたから。  
罪の意識がコジローの理性を弱らせ、淫らな心が欲望に火を灯らせる。  
10近く歳の離れた社会的にも肉体的にも自分より強い青年男性を翻弄しているのは、  
自分の言葉、仕草、表情。  
そんな風に相手を翻弄できることに、今まで感じたことのない優越感を感じるキリノ。  
 
「言ったでしょ、一眠りするって。その間、探しておいてくださいねー」  
言うや否や、キリノはそのまま目を閉じてしまった。  
その言葉の言外にある意味はただ一つ。  
 
−私が目をつぶったら、リモコンのスイッチを押してもいいんですよー  
 
コジローはしばらく逡巡してから、すごすごと棚の前に行きリモコンを取り出した。  
気配だけでそのことを感じ取ったキリノが、満足げに笑いながら呟く。  
「警察…?行くわけないじゃないですか」  
彼女の手が、そっと下腹部へと添えられる。  
コジローの突き刺さるような視線と、コジローを誘導し教師としての道を踏み外させてゆく悦びに、  
彼女の膣口に何かがにじんでゆくのが感じられたから。  
その感覚はコジローのいなくなった後の5回のオナニーでは、決して得られなかったもの。  
 
「だって昨日…私は寝てただけ。そして、先生は探し物をしていただけ。  
いけないことなんて、何一つしてないじゃないですか…」  
 
−だから先生が罪悪感なんて感じる必要はないんですよ−  
 
罪悪感を弱めることで、コジローの理性が揺らぐ。  
この言葉が引き金になったのか。コジローはリモコンの電源ボタンに指を添える。  
 
「そしてこれからも…、部活が終わったら私は眠って先生は探し続ける…。  
探し物が見つかるまで、永遠に…」  
 
−この学校にいる限り、私と先生の関係はいつまでも終わることなく続いてゆくんです−  
 
淫猥なえさを与えることで、コジローの獣性が解き放たれる。  
 
 
 
ふたきりの静かな武道館に、低い振動音と少女の喘ぎ声が響きはじめた。  
 
 
 
終わり  
 

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