思春期。  
 
人はその時期に、自分の存在意義というものについて、ひとり思い悩んだりすることがある。  
その悩みは十数年後に振り返ってみると、とても人様に披露することなどできない、口にするのも恥ずかしい悩みであることが多い。勘違いと早合点に基づいた妄想と言い換えてもいい。今このトレーラーハウスの中で、アップルパイを焼いている少年もその一人であった。  
 
「こらっ、恭平! いつになったらできるのよ! あたしを飢え死にさせるつもりなの!?」  
「おなかへった〜」  
「茶が冷める。早くしろ」  
「今やってます、今……」  
「あら、それって日本のラーメン屋の決まり文句じゃなかった?」  
 
立場無恭平、御歳18歳。現在、美女と美少女と美幼女の巣窟で、奴隷的労働に酷使されている人物の、それが名前だった。  
 
スプーンでカップの縁をチンチン叩いて、メグがやかましく催促する。  
 
「ほらほら、アップルパイぐらいさっさと焼きなさいよもう! バイト代減らしちゃうよ!」  
(お前にそんな権利があるのかよ! この巨乳!)  
 
と、言えたら天国。そして次の瞬間地獄に違いない。うまい話につられてバイトに来てしまったのが、我が人生最大の過ちであった。あの歳不相応な巨乳娘に、最初は甘酸っぱい夢を抱いたりしたものだ。料理の上手い男はモテるなんて、一体どこの詐欺師が言ったんだろう。  
正直もう辞めたい。女の城で尻に敷かれてこき使われるのも、危険な厄介ごとに巻き込まれるのも、もううんざりだ。  
 
 
『自由への逃走』  
 
 
なんと響きの良い言葉か───僕はあらゆる束縛から逃れ、エデンの東を求めて旅立つのだ。ようやく焼きあがったパイを切り分けながら、彼は夢想する。  
が、彼には自由へと逃走する自由が無かった。  
いや、あると言えばあるかもしれないが、もし逃走したらば間違いなく追っ手がかかるに違いない。それも、美味いお菓子の供給源を逃してたまるかという極めて低次元な理由の元、捕縛されて百叩きの刑の後、鎖つきで監視されるのだ。  
そうなったら料理学校への通学はどうなるか。下手をすれば連絡不能のまま退学、そして永遠にこのトレーラーの陰惨な三畳一間で飼い殺しの羽目になりかねない。恐怖は、人の妄想力を膨張させるスパイスである。恭平の想像は、果てもなく飛躍していった。  
 
「はいはい、お待たせしました〜」  
「やった〜! いただきま〜す」  
 
いかなる恐怖に苛まれていようとも、営業スマイルだけは一人前。それが厳しい大自然で生きるための知恵だと恭平は信じていた。実際、この四人娘はあらゆる意味で彼に遠慮をしない。  
バスタオル一丁で通路をうつろく、下着はあちこちに脱ぎ散らかす、いきなり部屋に呼びつけては、ブラのホックを掛けろと命令する。これらの諸現象は、彼女らが恭平を一人の男としてではなく、そこいらの路地をうろつく犬猫同然に見ていることの証明ではないか。  
 
 
「ふ〜う、ごちそうさまっと」  
 
お茶とアップルパイを堪能した面々は、腰を上げた。食器を片付けるのは、当然恭平の役目である。皿とカップをシンクの上に並べ、蛇口をひねって黙々と洗い物を片付ける肩が、不意に叩かれた。  
 
「恭平君。お菓子、美味しかったわよ」  
 
恭平は、自分の耳を疑った。まともにアップルパイの礼を言ってくれる者がいないことを、今更寂しいとも思っていなかった彼の耳に、天使の歌声がお花畑を紡いだのだった。  
 
「セ、セイさん……」  
「いつも頑張ってくれてるわね。ありがとう」  
 
恭平は、胸の高鳴りを覚えた。いつになく、セイの声音に蟲惑的な響きを感ずる。その肉感的なボディの向こう側には、どんな天国が待っているのだろうか。それにしても、下腹部が大きく開いたファッションと、はみ出した下乳はあまりに目の毒だった。  
その格好で間近に迫られた上に、こうもしっとりとした空気で話しかけられると、あらぬ妄想が頭をよぎる。もしかしてオトナの階段に誘っているのだろうか? だとしたら……  
 
(いやでももし僕の勘違いで、セイさんが怪しい中国カンフーとかやってたら、それこそ骨の一、二本へし折られるかも……)  
発音にうるさいマニアが聞いたら、カンフーではなくクンフーと言わんか貴様、と襟首をねじり上げそうな述懐を漏らす。セイはそんな恭平を、幾分面白そうに見て言った。  
 
「ふふっ、どうしたの? 変な顔して」  
 
なぜか、カッときた。本人は意識してないようだが、その小首をかしげる仕草と、口元の余裕ある微笑が、今の恭平にはひどく侮辱的に映る。“可哀想に、あなたは私たちに逆らえないのね”と言いたげな、その思いあがりくさった態度!  
結局このクールな美女も、あの暴走巨乳娘と同類ではないか。  
 
(あるある探検隊ッ……! あるある探検隊ッ……! あるある探検隊ッ……!)  
 
それは、昔の日本で流行ったバラエティ番組の再放送チャンネルを見て、彼がひどく印象付けられた台詞だった。なぜかわからないが、この台詞を心の中で連呼していると、妙に腹に力がこもってくるのだ。  
積もり積もった憤懣が、恭平に表向きもっとも親切な態度を取ったセイに対し、一気に破口を開く。  
 
「どっか〜〜ん!!!」  
「え!?」  
 
古人曰く、『思春期は爆発だ』。泣き出しそうに歪んだ顔に、狼の本能をスパイスして、恭平はセイに飛びかかった。  
 
「うぉぉ───んっ!!」  
「きゃあっ!!」  
 
突然のタックルに、セイはテーブルの上に押し倒された。  
 
「感謝してもらえて嬉しいっス! ついでに、ボーナスください! ええもうお金じゃなくて、セイさんの身体で! 分割払いじゃなくて一括で!」  
「ダメ、落ち着いて恭平君!……あうっ!」  
 
腐っても鯛であり、恭平でも男である。とても抵抗できない力で押さえ込まれたセイは、露出した下腹部に恭平の手が当たったのを感じた。それがすぐに下乳に伸び、熱い指先が肉とハーフオープンブラの境目をまさぐり出す。  
何を言う間もなく布地がめくり上げられ、次いで激しい愛撫が始まった。  
 
「ああ! いやあっ! 離して、そんな……あ……!」  
「ふうっ! はっ……! セセセセイさん、俺うまくイケてますか? イケてますよねっ!?」  
「うっ、あ、そんな強く握らないでぇ……んぁっ!」  
 
自他共に認めるボリュームのため、小さい乳房よりはある程度ショックを緩衝できるが、それでも男の握力で力まかせに握られると痛かった。  
わずかに残った理性の間隙によって職業意識に目覚めた恭平は、慌てて無駄な力を抜き、ケーキ生地を泡立てるような愛撫に切り替えた。これぞパティシエ見習いの真骨頂である。  
 
「あっ、あ……んんっ……いけない、こんな……はっ……」  
 
しばらく続けるうちに、セイの反応が変化してきた。吐息が熱く、荒くなり、声に棘がなくなってまろやかな味わいを帯びてくる。かき混ぜ方が大事という点において、乳房とパイ生地には、何か相通ずる極意があるらしい。  
 
「そういや、どっちもパイだし……いえ、なんでもないです。すいません……」  
「ううん、なに……? ああ、ううっ……」  
 
こんな時でもどこか弱気な恭平は、無駄口をやめて調理に専念することにした。セイの抵抗が、次第に弱まってきたのがわかる。彼の腕を振り払おうとするその力が、少しずつ抜けていく。やや余裕を取り戻した恭平は、ちょっとした悪戯心を起こした。  
セイの胸に彼女自身の手を当てさせ、彼の手がその上に乗る。セイの細くしなやかな指がしなり、拒まねばならないはずの快感を、自らの手でその肉体に強制され始めた。  
 
「あぁんっ……こんな、こんなことさせて……許さない、ぜったい……うっ」  
「セイさんもやっぱりオナニーとかするんですか? 彼氏とかいないみたいですから、健康な女の人なら当然しますよね?」  
「いやぁっ! そんなこと誰が……んんっ」  
「ああ、やっぱりこういう質問には答えづらいですか? ですよねえ、女性ですから」  
「そうよ……だから、あっ……も、もう、やめなさい……」  
「ええ。ですから、言っても恥ずかしくないようにしてあげますね」  
 
そう言うが早いか、恭平はセイのベルトのバックルを外し、中に手を差し入れた。つるりした感触からして、下着はシルクであるらしい。これもまた男心をそそられるアイテムである。  
 
「あっ!? だ、だめ! そこはいけないの!!」  
「そうですか? じゃあこっちならいいんですね」  
 
狼狽するセイの言葉尻を捕えて、恭平は再びその豊かすぎる胸を愛撫してやる。  
 
「あっ、もう、もうやめ……」  
「いやもうセイさん、いっそ下もしてあげましょうか? かなり欲しそうですよ」  
「んふぅ……あ、う、ううんっ……!」  
「“うん”ですか? はいはい。それじゃ言われたとおりに」  
 
再び秘密の花園に手を突っ込む恭平。未経験の彼には通常そうなのか、それとも彼の手によってそうなったのか知らないが、彼女のその部分は妙に熱く、そして湿っている。しばらく指先で探ってから手を抜くと、微妙な粘り気を帯びた液体がその手を濡らしている。  
 
「これはもう少し攪拌が必要ですね。期待度は現状で……当社比35%というところでしょうか」  
「あ、やめ……も、もう……」  
 
意味不明な独り言を呟きつつ、恭平は三度その部分に手を延ばした。考えてみれば、彼だけでなくセイもそんなに経験豊富とも思えない。主導権を握っている以上、利はこちらにあるはず。  
自分の肝の座り具合が、どんどん大胆になってゆくのを恭平は自覚していた。調理を開始する。  
 
「このぐらいで、どうですか?」  
「う、ううっ……く」  
 
セイの反応がいまいち弱い。  
 
「う〜ん、じゃあこのぐらいかな」  
「いあぁっ!!」  
 
今度は力が強すぎたようだ。幾分弱火にする。  
 
「う、はぁう……ああ、あぅぅぅ……!」  
「おっ、ちょうどいいみたいですね」  
 
食材を不必要に痛めず、かといって生煮えにもさせず、バランスよく調理してゆく恭平の手付きは、すでに匠の道に臨んでいた。  
 
「うわ、どんどん濡れてくる……女の人のここの機能って、男とは違うんですね」  
「あはぁっ!あっ、いっ、やめ、て……ゆるしてぇ……うふぅ」  
「びちょびちょのヌルヌルですよ。しかもすごいあったかい。火に掛けた鍋みたいにグツグツです」  
「う、うぅ……」  
 
今指を抜いたら、さぞかし凄いことになっているに違いないと思いつつ、恭平はセイの最も敏感な部分をいじり続けた。が、時と共に何とない物足りなさが広がってくる。  
 
(料理で言えば、これは鍋をお玉でかき混ぜてるだけみたいなものだな。料理人なら、実際に味見をしてみないと)  
 
そう思い当たった彼は、次の調理段階に移行した。もはや抵抗の意思を失いつつあるセイをテーブルに寝かせ、着衣を全て脱がす。さらに厨房のドアをロックすると、彼も思い切りよく全裸となった。  
そしてテーブルに脚を伸ばして座ると、彼女を自分の身体の上に上下逆向きに乗せる。ここでセイがうつ伏せになっていればシックスナインの体勢になるが、彼女も恭平と同じく仰向けになっていた。つまりセイの蜜壷が恭平の面前にあり、一方的に責められることになる。  
恭平が特に深い考えで取った体位ではなかったが、結果としては正解だった。もし今ここでセイの目の前に恭平の男性の象徴があったら、最後の気力を振り絞ったセイに噛みつかれるか、手でひねられるかして悶絶したかもしれない。  
 
「ああ……こんな、こんなのって……いぁぁ」  
 
ごく偶然の選択が恭平の身体的危機を回避し、セイの精神にさらなる追い討ち───屈辱感と敗北感とを与えることとなった。まな板に乗せられた鯉のように、セイは下腹部から脳天を直撃する衝動に耐えようとした。これは自分が望んで得た感覚ではないと。  
が、雪山で遭難した人間が身体機能の低下に伴って、極低温のはずの外気を逆に暖かいと錯覚して永遠の眠りにつくように、彼女のそうした理性の叫びも吹き荒れる嵐によってかき消されてゆく。  
己の存在の全てが、この冴えない年下のバイト少年によって喰い散らかされ、呑み込まれてゆくのだ。  
 
「んっ、じゅるっ……む、微妙にしょっぱいような、それでいてまろやかなような……」  
「あぁ……あぅぁ……らめぇ……あはっ!」  
 
ざらついた舌と固い指先が、交互にセイの花園を刺激して止むことがない。救われない事に、彼女がその快楽から逃れようと───あるいは反射的に腰をよじっても、男の力でしっかりとその両腿を抱き止められているため、逃れることができない。  
むしろ、余計に刺激が増して彼女を苛むだけであった。  
 
「あ、ああっ、だめ、あぁんっ、あっ、あぅぃぃぃぃぃっ!!」  
 
じっとりと汗で濡れた女体が、恭平の上で激しくうごめき、ビクビクと痙攣する。少し驚いたが、どうやら一度絶頂に達してしまったようだ。となると、そろそろメインの料理にかかってもよいのではないか。恭平は、そろそろとセイの身体の下から抜け出した。  
 
「うーん……」  
 
テーブル上に横たわるセイの肢体を、しげしげと観察する。おおよその構想は整った。あとは、どれだけ上手く、いや美味くやれるか……考えがまとまると、ピタピタとセイの頬を叩く。  
 
「ほらセイさん、起きてくださいよー」  
「う、うう……」  
「大丈夫ですか? まだまだこれからなんですから」  
「な、なに……まだ何かする気なの……? もう、十分でしょ……」  
「いえ、料理はまだフルコース出来上がってませんよ。次はですね……」  
 
セイの眼前に、それがぬっと突き出された。  
 
「ひっ……」  
「いよいよ、これの出番です。オリンピックに望む代表選手の心境です」  
 
無論、男のそれが何のためにあるか、理解できないセイではない。  
 
「や、やめて……それだけは、許して」  
「うーん、許してと言われると、許してもいいような気になるから不思議です」  
「ほ、本当に……?」  
「本当です。ただ……魚心あれば水心とも言います。頭のいいセイさんなら分かってもらえると思いますが……」  
「ど……どうすればいいの」  
「下の口よりは上の口。大の虫を生かすために小の虫を殺すのもまた、将たる者の心得かと思うのですが、どうでしょう」  
 
自分でも何を言っているか分からない恭平だったが、セイにはなんとか理解できたらしい。暫時のためらいの後、それをしやすいように身体を反転させ、その女に対する凶器を口に含む。  
 
ちゅぱっ……じゅる……ちゅる……  
 
 
唾液の音が大きくなるにつれ、恭平は呼吸を止め、眉をしかめてゆく。痛みをこらえているような顔だが、実際にはかなり気持ちがいい。セイの舌先が、男の最も敏感な部分を上下左右から愛撫しているのだ。  
が、それを声や態度に出したら負けかなと思っているのか、彼なりに必死で表面を取り繕おうとしている。時々セイが上目使いにこちらの様子を伺っているが、仕方なさそうにそのまま舌での奉仕を続ける。  
いらぬ真似をして恭平につむじを曲げられるより、このまま黙って事を終わらせるのが得策と判断したようだ。その顔色を見た恭平は、だしぬけに言った。  
 
「はいストップ!」  
「ん……え?」  
 
虚を突かれたように、セイは舌の動きを止めた。  
 
「いやどうも、ご苦労様でしたセイさん。お蔭様で夢が叶いました」  
「え……あの」  
 
実のところ、もう少しで暴発するところだった。そういう事情を押し隠し、恭平はひょいとテーブルの上に乗り、セイの腰の脇に座って続ける。  
 
「まあ、さっきも言ったとおり、これで僕としてはもう不満はありません。これで恨みっこなしです。今まで色々と行き違いもありましたが、これで水に流しましょう」  
「あ……そう、なの? その、私も色々と……」  
「いやいや、気にしないで下さい。なにしろ、女の城に男一匹。こき使われるのは当然です。顔で笑って背中で泣く。それが男の美学ですから」  
 
何やらなごやかな空気の変化を感じ取ったセイは、ほっとした表情で身を起こそうとした。が、それを恭平が押しとどめて言う。  
 
「ところがですね。ここでまた新しい問題が生じました。極めて深刻かつ重大な問題です」  
「え……?」  
 
渋面を作って腕組みをする恭平に、セイはまた不安げな様子になる。  
 
「ええ、それは僕じゃなくて、セイさんの問題なんですが」  
「私の?」  
「セイさんは、今すごく困ってるんじゃないですか? 今までのお礼に、僕が強力に協力しますよ」  
「……あの、ごめんなさい。何の話か分からないんだけど」  
 
困惑気なセイに、恭平はニヤッと笑って手を伸ばした。  
 
「これですよ」  
「え……あうっ!」  
 
その部分は、以前とはまったく様相を異にしていた。腿の付け根までがセイの分泌液で濡れそぼり、テーブルに透明な水溜りを作っている。今の恭平の一撃で、また少し垂れ流されたようだ。  
 
「つまりこれは、セイさんが僕のコレを欲しがってると解釈してよろしゅうございますか?」  
「ち、違うわ!」  
「いやでも、普通こんなにはならないと思いますけど……」  
「だ、だって……これは、あなたが……」  
 
急に先刻までの行為の恥ずかしさが甦ってきたらしい。顔を背けるセイに、恭平はなおも畳みかける。  
 
「ということは、もしかして僕の責任でございますか?」  
「そ、そうよ……」  
「うーん、そうかあ……だとすると、これは責任を取らないといけませんね」  
 
そう言うが早いか、恭平は素早くセイの腰を取り、テーブルに突っ伏せさせた。これから何が起こるかを悟ったセイが、うわずった声で抗議する。  
 
「そんな、だめっ! 許さないから! うっ!」  
 
また、彼の手がそこに伸びた。引いてみると、べっとりとセイの愛液が付着している。  
 
「どう見ても許可してます。本当にありがとうございました」  
「や、やぁ……」  
「それじゃいきますよ……むっ」  
 
無防備にさらけ出された、柔肉で彩られた秘部。充血したその中心からは、蜜が誘うようにトロトロと滴っている。聖書で言うところの約束の地とは、つまりここかもしれない。恭平は、敬虔な心境で猛り勃った一物をかの地に沈めた。  
 
「うわっ、これは……おおっ!」  
「あ、ああ……あはぁっ」  
 
五体の全神経が下半身に集合したように感じられ、背筋が痙攣した。温かく濡れた淫肉の中で、刺激的な閉塞感のもとに一物が締めつけられる感覚は、彼には当然未経験のものだった。慎重に腰を動かすと、その感覚はまた膨れ上がる。  
風呂に入っている時とは違い、その部分だけが圧迫されて熱く、しかもえもいわれぬほどに心地良い。海綿体が愛液とぬめり合う淫靡な響きが外に漏れ、ステンレスが銀色の光を放つ厨房に反射した。  
 
「つぅ……や、やばい……これ、すげぇ、いいっす……!」  
「うう……あっ、だめぇぅぅ……!」  
 
夢中だった。この初めての獲物を逃してなるものかという思いを、全身から血が吹き出るような勢いで下半身に込め、肉が弾けるほどに突き入れる。その度にセイが放つ悲鳴にも似た閨声が、恭平の熱情を駆り立てた。  
自分は今、支配される側ではない。支配する存在なのだ、と。  
 
「ひゃぁっ……んぅ、う、うふぅ……」  
「うっ! まずい! そろそろ……っ!」  
「い……ああああああっ!!」  
 
それが、彼の凶器の忍耐力の限度だった。熱いほとばしりの充実感に恍惚とする恭平と対照的に、自身の秘奥を汚されたことを自覚したセイは、虚無とも絶望ともつかぬ様子で、ただその切れ長の眼を見開いていた。征服感に満足した恭平は、  
 
「いやぁ〜〜〜〜気持ちよかったぁ〜〜〜」  
 
満面の笑顔で、セイの滑らかな背に頬ずりする。以前想像していたより、本物の快感はずっと素晴らしいものだった。そうして呼吸を整えていると、海綿体がまた充血してきた。  
まだまだ自分の精力に余裕があることを確かめた恭平は、ばね仕掛け人形のように飛び起き、再びセイに挑みかかった。ここまで来たら、この身体を思う存分味わい尽くさねば点睛を欠くだろう。  
 
「さあさあ、まだまだいきますよぉ〜っ」  
「そんな……たすけ……あぅぅっ……!」  
 
挿入当初の異物感の入り混じった感触がより洗練され、今では一挿しごとに双方の性器が一体化しつつあるような高揚感が高まってくる。  
 
「あっ、あぅっ、んはぁぁっ……ひっ、あっ、あふぅあっ……!」  
「つっ……くっ」  
 
突けば突くほどに、セイの声が淫靡さを増してくることも一つの快感だった。またその一連の行為の中で、恭平はふと推測する。自分が動かなくても、セイの方から悦楽を求めて動くということはないだろうか?  
 
(いや、さすがにそれは……まさかね)  
 
が、一旦気になると、どこまでも試したくなるのが青春白書というもの。がっついてナンボの普通の童貞青少年には到底無理だったろうが、彼は腐っても料理人である。  
弱火でトロトロと煮るように、腰の前後運動のペースを落としていき、戸惑った様子で恭平の反応を窺い、もどかしげに腰を微妙に動かす。  
 
(あれ……)  
 
初めは気のせいかと思った。が、今や彼女ははっきりと、そのはちきれんばかりに張った臀部を、グイグイと彼の股間に押しつけてきている。  
 
「おおっ、やっぱり快感フレーズだったんですねセイさん? うれしいですよ、俺」  
「ううっ……あなたのせいよ、全部、あなたのせい……」  
「はいはい謝罪謝罪賠償賠償。愛国無罪ならぬ性欲無罪なんちゃって。それそれっと」  
「あっ、くぅぅん……あはぅんっ……!」  
「さあ、そろそろフィニッシュ! それそれそれっ!!」  
「あはっ、ううぁっ!! はっ、ああ、んっあっはぅぅんっっ……!!」  
 
力を失ったセイを、ごろりと仰向けに転がしてみると、失神したのかどうか、目を閉じて身動き一つしない。恭平は、この隙にあの巨乳でパイズリをしてみようと思いついてその身体にまたがったのだが、しばし思案してみて、反応がないのではつまらないと感じ、やめた。  
相手が動かないのをいいことに、その身体をセルフサービス的に使って楽しむのは、自慰行為と大差ない。彼女に自発的にそれをさせてこそ、男子の本懐ではないか。  
 
(うーん……)  
 
一思案の後、アイディアがひらめいた彼はテーブルを下り、冷蔵庫を探った。すぐに目当てのものが見つかる。コンデンスミルクだった。あの貪欲で無慈悲な牝犬どもに俺様製お菓子を供給するための、必需品のひとつである。  
それを鍋に移してコンロに掛けると、弱火で煮た。時々、味見して温かさを確かめる。冷たいとリアリティに欠けるし、熱すぎても困るのだ。  
 
(よし、あとは……)  
ボウルにぬるま湯を汲み、男女の体液にまみれた自分の一物を丹念に洗浄した。このあたりの配慮の細かさは、やはり未来のパティシエであろう。そして、煮上がった鍋と刷毛を取り、再びセイの上にまたがる。  
意識を取り戻しかけたセイの上で、恭平は己の男性自身に刷毛でコンデンスミルクをまんべんなく塗りたくった。温かさとくすぐったさで、思わず笑い声が漏れる。ややあって、有り様だけは立派に放射直後の状態になった。セイが目覚めると、にやりとして恭平は言う。  
 
「いやあ、セイさんのおかげでこんなになってしまいましたよ。どうしてくれるんです?」  
「ひっ……」  
 
セイが怯えるのも無理はない。間近で見ると、かなり異様な物体である。白昼に亡霊でも見たような彼女に、恭平は畳み掛けた。  
 
「さて、この困ってしまった僕の息子を、セイさんの身体で癒してもらっていいですか」  
「い、癒すって……」  
「こうするんですよ。よっ」  
「あんっ!」  
 
恭平は、その圧倒されるボリュームの谷間に、分身を埋めた。両の乳房を掌でしっかりと握り、円状に揉む。彼の専門ではないが、うどんの生地か餅をこねているのに近い感覚があった。  
 
「うぉっと……これもまた……」  
「や、やぁん……」  
 
ふわふわで柔らかい脂肪に海綿体が包まれる感覚、それにコンデンスミルクがローションの役割を果たし、膣内とはまた違った快感一本背負いである。また何より、セイの身体を上から下まで征服したという実績が、さらなる満足感120%を提供してくれる。  
ただし、これではまだ十分ではない。  
 
「さてセイさん、僕が一人でこんなことしてたら馬鹿みたいです。続きはお願いしますよ」  
 
その言葉の意味がすぐにはつかめず、ただこちらを見ているだけのセイに、恭平は彼女がすべき事を説明してやった。当然ながら最初は拒否したが、先刻の彼女の痴態を持ち出してあれこれと脅しすかされると、結局従うしかなかった。  
セイは嫌々ながら乳房を両手で押さえ、自分を陵辱する男の肉欲のために奉仕する事を強いられる、その屈辱に震えた。  
 
「ううっ……ひどい……ケダモノよ、あなたは……」  
「ケダモノはモンブランも苺のタルトも作ってくれませんよ。神と恩人には日々感謝の心を忘れずに。オブイェークト」  
「なによ……バカぁ……ぐすっ」  
「おおっ、やっぱりセイさんのおっぱいは最高だぁ……っ」  
 
ジュルッ、ムニュルッいう音が、恭平の耳にゴスペルのごとく響き渡る。しかし、いつまでもこの甘美な喜びに満足してばかりはいられない。わざわざ手の込んだ仕込みをした成果を見てみたい。恭平は、名残惜しいながらもペニスを双乳の間から抜き、セイの口の前に突き出す。  
その所作で、彼女は何を要求されているかが分かる。  
 
「い、いや……そんなもの!」  
「ああ、つまりセイさんは上の口より下の口の方がお好きってことですか?」  
「そんな、もうやめて……それだけは……!」  
「じゃあ、どうするかは決まってますよね」  
「う……」  
 
やむなくその白くデコレーションされた肉棒を口に含んだセイは、明らかにその不自然な甘さに驚いたようだった。そう、まるでこの男が作る砂糖菓子のような……  
 
「どうかしました?」  
 
セイはその問いかけに答える代わりに、目の前に突き出された巨根───少なくとも彼女の目にはそう映った───を、余すところなく舐め始めた。  
首が痛くなる苦しい姿勢ながら、その白濁液の甘さだけが、淫猥な拷問部屋と化した厨房における、唯一の救いの象徴であるかのように。  
 
「んんっ、はぁっ……ちゅぱっ、んちゅっ……」  
「うおっ、セイさんてば……パイズリもいいけど、フェラも上手いじゃないですか。ううっ、たまんね……」  
 
一度放出してやや耐性が出来たと思ったが、また絶頂が近づいてきた。もっと楽しみたいところではあったが、もう我慢が利きそうにない。  
 
「うううっ、や、ヤバいっ! で、出るっ!!」  
「ああっ!……あ……」  
 
セイは自身の口蓋から胸の谷間までを派手に汚したその白濁液が、今まで夢中でしゃぶっていたものと違い、生ぐさい臭いと苦みばしった味を持つことに気づいた。  
ああ、やはりこれが現実だったのか、と……酩酊に似た意識の混濁の中で、恭平の満足げに去ってゆく足音だけが、セイの耳に冷たく響いていた。  
 
 
恭平が大いなる冒険を果たした翌朝、文字通り一皮剥けた彼がいつも通りトレーラーに出勤してパイ生地を練っていた。すると、厨房に入って来たセイが熱い息を漏らしながら、耳元でこうささやいた。  
 
「ねえ、もう一度してちょうだい。お願い。あれ以来、身体が疼いてたまらないの……」  
 
露骨に媚びるような流し目と共に、セイは恭平の腕をその豊満な胸に押し付ける。恭平は、努めて平静を装いながら答えた。  
 
「そうですかあ。しょうがないなセイさんは……じゃあ、今夜に」  
「うれしい。待ってるわ」  
 
これは思わぬ拾い物をしたと、恭平は内心ほくそえんだ。窮鼠が猫を噛むつもりでセイに襲いかかったら、今度は猫の方から貢物をしに来るという。もしかすると、自分はその気になれば結構なジゴロなのかもしれない。  
とりあえず、鬼娘どものリーダーであるセイとねんごろの仲になれば、今後色々と美味しい思いもできるだろう……相も変わらず四人のおやつを作りながら、彼はそんな自信に満ちた胸算用をしていた。  
昔のえらい人の言葉に、暗い暗いと不平を言う前に、進んで明かりをつけなさい、という。けだし至言である。鬼娘たちにアゴでこき使われ、罵倒され、四畳一間の長屋暮らしに甘んじてきた彼の人生に、今日初めて明かりが灯ったのだ。  
素晴らしき哉、人生! やがて夜がくると、セイは彼に仕事をあがっていいと告げ、去り際にメモを握らせた。  
 
“ 本日19:30  私の部屋で ”  
 
疑いもなく逢引きのお誘いである。しかも、男女の終着駅行きまでが保証された切符。恭平はそのゼロ・アワーまで悶々とした時を過ごした。今度はどうやってセイを悦ばせてやるべきか……、様々な妄想を脳内シミュレートしていた彼が、ハッと気づくともうその時刻である。  
逸る心を抑えながら廊下を進み、セイの部屋のインターホンを押した。  
 
「開いてるわ。どうぞ、お入り」  
「どうもどうも、失礼しま〜っす!」  
 
ベッドサイドにたたずむセイは彼女の民族衣装、つまりチャイナドレス姿だった。薄桃色に金の鳳凰の刺繍が施され、腰には深いスリットが切れ込んでいる。わざわざセイが彼のためにそんな格好で待っていてくれたことに、恭平は無邪気に感激した。  
 
「どうかしら、これ……?」  
「さ……最高ですよ! すごいセクシーで魅力的ですっ!」  
「ふふ、ありがとう……」  
 
そう言うが早いか、セイは首に腕を回し、唇を重ねてきた。とっさの事で驚く恭平の硬直が解ける前にその唇を離すと、微笑と共に彼の手を取り、ベッドへと誘った。奇襲の連続に、主導権を完全に奪われた恭平は、夢遊病者のようにそれに従う。  
セイは、恭平の首を抱いて倒れつつささやく。  
 
「さあ、私をまた満足させてちょうだい。朝まで……」  
 
それ以上、言葉は無用だった。恭平は年相応の貪欲さで、セイに挑みかかった。  
 
「ううんっ、アアッ!! そこよ……もっと突いて、もっと激しくぅっっ!!!」  
「う、ふぉっ! せ、セイさんっ!! スゴいっすっ!!」  
 
野獣のように尻を振るセイの柔肉に、負けじと必死で取りつく恭平。あっという間に二人は全裸となり、恭平がセイの左脚を両腕で抱きながら、ペース配分を考えずにピストン運動を熾烈化させていたその時、後頭部に激烈な痛みを感じ───  
最初の射精とともに、意識が消失した。  
 
 
 
「ああ、気がついたみたいね。頭、大丈夫?」  
「う……あた、た……」  
 
何が起こったのか分からなかった。ただ、後頭部が異様にズキズキする。幾度も頭を振り、状況を把握しようとする。そうか、あの時頭にガンと来て───そこまで思い至った時、恭平は周囲の異常さにようやく気がついた。  
 
「………え?」  
 
部屋の中にいるのは、自分の他にセイだけではなかった。メグ、ジョウ、エイミーたちが、あられもない下着姿でベッドの周りにたむろしている。その中央で、当のセイは艶弥な笑みを浮かべ、こちらを見ている。  
説明しがたい危機感に襲われた彼は裸を隠す事も忘れ、当然の質問をした。  
 
「あ、あの、セイさん、これは一体……?」  
「これからが本番よ恭平クン。昨日のお礼に、今夜はみんなで歓迎してあげるわ」  
「こらっ、恭平!! アンタここから五体満足で帰れると思うんじゃないわよっ!!」  
「パンにはパンを、血には血を……恭平、お前はやりすぎた」  
「うう、ドキドキしてきちゃった……あたし、はじめてだからやさしくしてあげるね♪」  
 
天国から地獄へ突き落とされた咎人は、回らぬ舌でセイに慈悲を乞うた。しかし、地獄の女大王は実にわざとらしい淫らな声音で、無慈悲に宣告した。  
 
「うふふふ……惜しかったわね、恭平クン。あのまま私を厨房で責め続けていたら、あなた無しじゃ生きていけない牝奴隷に出来たかも知れないのに……詰めが甘かったのね」  
「あ、あは……はわわわ……」  
 
まさに彼女の言うとおりであった。元々弱い立場である恭平が、その蛮勇とも言える攻めの手を止め主導権を放棄した時、すでに勝敗は決していたのだ。  
 
「でも安心していいわ。あなたの失敗は、私が教訓として完璧にカバーしてみせるから」  
 
都心郊外の大型駐車場に停められた防音、対爆仕様の大型トレーラーからは、豚を絞め殺したような悲鳴を含め、他人を怪しませるような音は何一つ聞こえなかった。ただ、エンジンが切られているトレーラーの車体が、なぜか長い間小刻みに揺れ続けているだけであった。  
 
 
−終−  
 

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