恭平はリビングに入ると、後ろ手にドアを閉めた。
ジョウはホラービデオに見入っていて、来訪者を気にとめた様子もない。そのまま立ちつくした恭平は、居心地悪そうにジョウを見たり、うつむいて考え込んだりしている。
リビングに流れているのは、B級ホラーのチープな音楽だけ。
この状態のジョウに声をかけるのは、恭平にとっては銃撃戦に飛び込むことの次に勇気がいることだった。まして、これから話そうとしている内容が内容である。
「ジョ……ジョウさん! お、お話がありますっ!」
「後にしろ」
「あ、あははそうですよねぇそれじゃ失礼しま〜す」
あっさり引き下がる軟弱野郎。
「……っ? あ、あれ!?」
後ろ手のまま開けようとしたドアが動かない。何度か押したり引いたりしてみたが、ビクともしない。
明らかに外からロックされたようだ。
(ウソだろぉ〜、くっ、このっ)
悪戦苦闘しているうち、ふと恭平は、背筋に寒気を覚えた。おそるおそる振り返る。
(ヒイッ!!)
ジョウが睨んでいる。
ジョウにとって唯一と言っていい娯楽のホラービデオから目を離してまで、恭平を睨んでいる。
その眼光の鋭さはまさしく、敵との銃撃戦を前にしたそれだった。
「何遊んでやがる」
「ごっごめんなさいもうしません静かにしてますから命だけはっっ!!」
「……チッ」
舌打ちすると、ジョウは続きを見始めた。年季の入った恭平の土下座には、ジョウも毒気を抜かれるらしい。
とりあえず難を逃れてホッとした恭平だが、状況は好転していない。
退路は断たれている。ビデオが終わればジョウと一緒に出られるかも知れないが、それまで待つのはさすがに胃に来そうだ。だが、あのセリフを言ってしまったが最後、どんな目に遭わされるか見当もつかない。
迷ったが、とうとう男・立場無、覚悟を決めた。
「ジョウさん! ぼっ、僕の……!
僕 の 子 供 を 産 ん で く れ っ !!」
反応がない。
言い終わってからすぐさま顔をかばって身構えていた恭平も、意外な間に戸惑った。そして、チラリと様子をうかがうと……。
「うひぇっ!!」
目の前にジョウの顔があった。思わずひるんで下がろうとする恭平。だが、ジョウの手は恭平の頭の後ろに回り込んでいた。
そしてそのまま引き寄せると……有無を言わさずキスをした!
「ンッ!」
ぶつけるような強引な、しかし青臭いキス。ほんの一瞬だったが、恭平はただ呆然としていた。改めて見ると、ジョウの頬もほんのり赤みが差している。
「あたしにそんなことを言った男は、お前が初めてだ……」
そして彼女は、上着を脱いだ。
「ちょっと待ってよ! なんでそんな展開になるのよぉ!?」
モニターの光景に我慢ならないのはメグだ。
元々、ポーカーで負けた人の罰ゲームとして、ジョウにとんでもないセリフを言うように提案したのがメグだった。しかし、こんな状況は予想もしなかった。
「大体エイミー、何よあのセリフは! 一体どこで覚えてきたのよっ!」
「えぇ〜? メグ姉だってノリノリだったじゃん」
「これは全員一致で決まった罰ゲームなのよ。今さら何があっても、中断は認められないわね」
「そんなの横暴よ! 放してよセイ! あのバカコックの毒牙は私が阻止するん……ムグッ!?」
メグの口には一瞬のうちに、猿ぐつわがかまされていた。
「聞き分けのないメグには大人しくしていてもらうわ」
「そ〜ゆ〜こと、ガマンしてね〜メグ姉。でもセイ姉、まさか私たちがメグ姉を拉致することになるなんて、思わなかったよ」
「フフッ……まあ、お約束というヤツね」
「ン〜! ンン〜!」
恭平は、ジョウの美しさに見惚れていた。
セイの肉感あふれる姿態や、エイミーの小悪魔的な可愛さとも違う、無駄を削ぎ落とした精悍な造形美。
「いつまでボーッとしている」
その言葉で、恭平は我に返った。
「産むためには、あれだ……仕込む必要があるんだろ?」
いつもと違い、ぶっきらぼうながらも恥ずかしげなジョウの言葉。
「あっ……あ! いやこれは……!」
罰ゲームで言わされただけです、と口まで出かかって、あわてて飲み込んだ。ここまでさせておいて、そんなこと言えるわけがない。
ここまで来たら、本当にするしかない!
「わ、分かりました、ともかく……脱ぎます」
と言ってはみたものの、手が震えてボタンを外すのも一苦労だ。
「……やってやる」
見るに見かねたのか、それとも女としての思いか、ジョウが恭平のボタンを外し始めた。
(うあ、ジョウさんがこんなことをしてくれるなんて……)
それだけで、恭平はとんでもない興奮を覚えた。
上着が脱がされ、ベルトもスルリと外された。そしてジッパーを下ろす。
「……あ」
ジョウの手が止まった。ズボンの生地越しに、大きく膨らんだモノの感触があったからだ。二人の呼吸が徐々に荒くなってゆく。
そして、ズボンがずり落ちた。
ドクン。二人同時に、心臓が跳ね上がった。
そこには、拘束から解き放たれ、パンツに収まりきらずに先端を覗かせるほどの、巨大なモノがあった。
ジョウはその巨大な肉棒を、恐る恐る指先でなぞる。
「こ……こいつを……ハメるのか……」
ジョウは恥ずかしそうなのだが、どこで知識を付けたのか、ストレートで俗な物言いをしてくる。
「うあっ……ジョ、ジョウさんっ……!」
なめらかな指の刺激に加え、その言葉のギャップがまた、恭平を燃えさせた。
少しその手触りに慣れてきたジョウは、思い切って手の平全体で掴んでみた。
「うはぅっ!」
たまらず恭平も声を上げる。そのままゆっくりと撫で上げる動作が、たまらなく気持ちいい。
ジョウも不思議な興奮を味わっていた。銃身ほど重厚ではないが、銃にはないしなやかさと熱さを感じる。
病みつきになりそうな感触。手で触るだけじゃなく、その赤桃色の先端に、口づけしてやりたくなる。
ジョウは思い切って、それを実行した。
「あひあぁ! 出る、出ちゃうぅっ!」
瞬間、ジョウの口の中に奇妙な液体が、喉の入口まで一気に押し込まれた。
「ゲホッ! エホッ、エホッ」
突然のことに、思わず吐き出した。あの魅惑的な肉棒から出てきたのに、酷く不味い。
自分の唇から垂れ下がる白いしずくを見て、ジョウはそれが何かを理解した。
「……こいつは、ハメた時に出すもんだ」
恭平はへなへなと座り込んだ。
「どうした?」
「ダ、ダメです、もう、膝に力が、入らなくって……」
それは女が言うセリフじゃないのか、とジョウは思った。
「続きは出来るんだろうな……と、聞くまでもなさそうだ」
本体とは裏腹に、恭平の巨根はますます脈を速め、ヒートアップしている。心なしか、もう一回り大きくなったような感じさえする。
恭平の男らしい部分は、もしかするとこの化け物が全部、吸い尽くしているんじゃないだろうか。
「とはいえ、こいつだけが相手ってのも味気ないな……少しは元気になれよ、恭平」
恭平の頭を抱え上げ、バストに文字通り押し当てる。意外なほどの弾力。
着痩せするせいであまり意識されないが、ジョウのバストも平均よりは大きいのだ。むしろ普段から鍛錬しているおかげで、その手応えはサイズ以上に豊かだった。
(こっ、これが、ジョウさんのおっぱい……!!)
恭平はたまらず、そのふくらみにむしゃぶりついた。
「いいぞ、その調子だ……んっ」
恭平の舌が乳首をくりくりと転がす。これはこれで気持ちいい。けれど、なんというか、赤ん坊のおしゃぶりだ。
ついつい、セイの指先が織りなす妙技を思い出してしまう。
ここはギブ&テイクだと割り切って、甘えさせてやろう。
最初はそう思っていた。
「ん、あっ……ん、んはっ、ああっ、あうぁっ!?」
いつのまにか吸い付きが強くなってきている。舌の動きも乱暴なくらいに激しい。おまけにもう片方の乳房まで、恭平の手で鷲掴みにされてしまっていた。
今までにない刺激に、ジョウは悶えた。だが同時に、ジョウは別の意味で興奮してきていた。
(恭平も男だったってことか……おもしれぇ! 負けられるかよ!)
「ジョウさん、ジョウさん!」
ひたすら乳房への責めに徹する恭平。
ジョウは身悶えしながらも、反撃のチャンスをうかがっていた。
「ああっ、ジョウさ……うひいっ!?」
「ヘヘッ……お返しだぜ!」
ジョウの手がおもむろに、恭平の玉袋を鷲掴みにする。そして、揉むというよりはシェイクするかのように激しい手つきで、恭平を一気に責め立てた。
「す、すごいよ、ジョウさん……っはぁっ! んあっ! あっ! あふぅ!」
恭平が悶える。悶えまくる。男の恭平が、ジョウよりも色っぽく鳴いている。
一時は征服欲を満たしたジョウだったが、すぐに恭平の痴態が癪に障った。女なら仕方ないとしても、男に色気で圧倒されるなんて……。
(クソッ、あたしだって、こっちを弄れば……)
そうして自分のパンツに手を伸ばして、ジョウは初めて気づいた。
インナーを通り越して、パンツから滴り落ちるほどグチョグチョに濡れていたことに。
「うわ……ウソだろ、こんなに……」
ともかくベルトを緩め、インナー越しに状態を確かめようとしたその瞬間。
「ヒ! アッ……ハアァァーッ!!」
なんだ、コレは。
ジョウの背筋が、一気に限界まで引きつって――――つまり、エビぞりの状態になっていた。
それを一言でいえば、脊髄に電撃が走ったような感覚という奴だろうか。しかしジョウは、自分の身に何が起こったのか、理解するまでしばらくかかった。
ほんの少し触っただけでこんなにも敏感に反応するなんて、想像もしていなかった。
「うぉぉ……すっごくいやらしい匂いじゃないですか、ジョウさん」
気がつけば、恭平がジョウのパンツを膝まで下ろしていた。そこに鼻をつけて、染みこんだ愛液をしゃぶりながら、匂いを吸い込んでいる。
「なっ、何してるっ!?」
恭平はその言葉に応えない。
「うっわあ、こっちは、も、もっと凄そうじゃないですか」
「え!? まっ待て、まだ準備ヒグウッ!?」
恭平の指が無造作に、インナーを撫でた。ちょうどクリトリスがある位置だ。またしてもエビぞってしまうジョウ。
それにしても、こんなに敏感になるなんてあり得ない。メグのいたずらはもちろん、セイにしてやられた時でさえ、ここまで凄いことにはならなかった。
男のフェロモンって奴は、こんなにも強烈なのか?
「こ、こんなに濡らしといて、準備できてないなんて言わせませんよ」
そう言って、恭平は指についた粘液をジョウに見せつけた。親指と人差し指の間で、恭平の精液に負けないくらい丈夫そうな糸を引いている。鼻息もイノシシのように荒い。
もはや男の本能が、生来の気弱さに勝っているようだった。
「クッ……分かったよ……そのグロいブツを、さっさと、ブ、ブチ込みやがれ!」
言葉は悪いが不安を隠しきれないジョウ。その声が思いのほか可愛らしい。
恭平の鼻息は、機関車級に高まった。
「そっそっそっ、それじゃ失礼しますっ!」
手早くインナーを取り去ると、恭平はジョウの秘所に肉棒をあてがった。
「アンッ!」
ジョウが声を上げる。それはその瞬間の刺激というより、この先に待ち受けるだろう新しい世界への、期待の声だ。
その余韻に、もう少し浸りたい。そんな気分だった。
だが恭平は、それにも構わずとにかく入れようとする。
「あっ……ま、待った! 少し、待ってくれ……」
「え、あ……うん……」
ジョウらしくない、不安を隠さない姿に、恭平も少しだけ正気に返った。
息を整える。ここから先はノンストップの超特急。始まったら最後、もう後戻りは出来ない。
そして時間が経過する。二人の息遣いだけが、空間を支配する。体は落ち着いてくるが、心は水面下で暴走し続けている。
普段の勇ましさからは想像もつかない、綺麗で可憐なジョウを汚してしまう背徳に。
いつもの頼りなさの奥に秘められた、逞しい恭平に身も心も捧げてしまいたい衝動に。
何十秒経ったのか、それとも数秒も過ぎていなかったのか。
二人の視線が、再び交錯した。
「い……行きます!」
「あぁ……来いっ!」
それを合図に、凶悪な肉の剣が、男を知らない柔らかな襞を切り裂いてゆく。
「ウアッ、アッ、グ、オ……ンンンッ!」
ゆっくりと、しかし容赦なく蹂躙されてゆく。その数ミリの侵攻のたびに、あまりのサイズの違いのために、強烈な痛みと快感が襲ってくる。
唇を噛んで耐えるジョウ。やがてそれも、完全にジョウの中に収まってしまう。
「アッ、アアッ、ハアッ……」
彼の熱がおなかの中に留まっているのを感じる。それがとても幸せに感じてしまう。
ジョウはこの瞬間、たしかに恭平を愛していた。
ゆっくりと動き始める恭平。強烈なフィードバック。
「ア、フアッ、ク、ングッ」
突進していた間も極上の柔らかさに燃えたぎったが、こうして引いている時には、くわえ込んだお宝を放すまいとする攻撃的な締め付けに翻弄される。
密かな自慢だった巨根さえ、そのうねりの中ではひどくちっぽけに感じる。頭とペニスとの距離が、とても遠く思える。いっそ全ての感覚をそこに託して、全身を包まれてしまいたい。
「はっ……初めて、だ、こんな、の……す、すげぇっ、よ、恭、平……」
吐息混じりに言葉を紡ぐ、ジョウの唇の、舌のなまめかしさ。
もっと欲しい、しっかりと味わいたい。
「ンッ」
何の前触れもなく口づけをする恭平。それなのに、ジョウは驚くことなく、すんなりと迎え入れた。説明できないが、何となく、それが予感できていた。
「ン、ンンッ……ンフッ」
濃厚なディープキス。ねっとりと舌が絡む。互いの口は塞がれ、鼻息だけが表現手段。
けれどそれも十秒足らず。もう腰が走り出したくて、うずうずしていた。もっと早めにキスし直すんだったと、ちょっとだけ後悔しながら、名残惜しく互いの唇に別れを告げる。
二人の間に、透き通った濃厚な糸が引かれる。それが一瞬、素敵にきらめいた。
「……フウッ!」
恭平が始動する。一気に半分ほども抜き差しする、大胆な前後運動。
「ハッ、ックウッ、ンッ、オッ、アアァッ!」
「ンクッ、ウォッ、ガアッ、ハ、ンフウゥ!」
その獣じみた叫び声は、ジョウのものであり、恭平のものでもあった。それがどちらの声なのか、もはや複雑に絡み合って判然としない。
しかしまもなく、恭平が吼えた。
「アッ、ウアアァッ! イクッ、イクよッ、ジョウさんッ!!」
「ン、なっ?、ま、待て、まだ、こっちは……!?」
「ア、イ、イッ、イク、イクウウゥゥ!!」
「ッ……」
ジョウのおなかの中に、ひどく熱いものが放たれる。恭平の精だ。間違いない。
けれど、このままじゃ染み渡っていかない。こんな、こんな中途半端に出されても、困る。
「よ、良かったよ、ジョウさん……」
こっちの気も知らず余韻に浸る恭平。
「……バカ」
「えっ?」
「バカ野郎! まだだ! お前一人だけ一仕事終わったような顔してんじゃねぇ!!」
「えっ? ええっ!?」
ジョウは恭平の逸物を入れたまま、器用に態勢を入れ替えた。何をどうやったのか、あっという間に騎乗位になっていた。
「まだいけるな?」
「でっ、でももう2回も出し」
「い け る だ ろ!!?」
「はっはいぃ!」
脅されながら、膣の強力な筋肉にぎゅっと締め上げられる。もう何がなんだか分からない。
たまらず恭平も勃起を再開した。
「よし、それでいい……ンッ」
腰を沈めるジョウ。まだあふれ出る愛液と、既に空間を埋め尽くしている精液が混ざり合い、襞にからみつく。そこを巨大な雁首が通り過ぎて乱暴に攪拌されるたびに、襞の一つ一つが溶け出していくような錯覚に襲われる。
それに加えて、自分自身のペースであることも、感じ方をいやが応にも高めてくれる。
「オアッ、な、なんなんだ、これ……ウオッ、ふ、ふげぇ……ウハッ!」
早くもジョウの呂律が回らなくなり出した。
「うぎっ!! 痛い! 痛いよジョウさんっ!」
「うっ、うるはい、はまんひろ(がまんしろ)……オ、オオォッ!」
行き場のない白濁液を、余さず子宮へ押し込もうとするかのように、ジョウのピストンは激しさを増してゆく。
恭平はといえば、出し尽くした後の勃起による痺れるような痛みと、それでも襲ってくる究極の快感の板挟みで、必死に耐えていた。
が、若さゆえの回復力か、それとも規格外の名器のなせる技なのか、すぐに痛みは治まってゆく。
自分の痛みから解放され、ジョウを観察する余裕が生まれた。
「う、あ……きれい……きれいだよ……ジョウさん……」
肌は上気し、薄桃に染まっている。あの入れ墨までも綺麗な桜色に変化し、彩りを添える。
獣そのものの咆吼を放っているとは思えない、小さく可愛らしい唇も素敵だ。
けれど一番惹かれてしまうのは、その真っ直ぐな瞳。色香に染まり、悦楽に泳ぎながらも、なおも豹の輝きを失わない。
それに魅入られると、後ろめたい思いに囚われがちなセックスが、自然で崇高な営みなのだと思い知らされる。
ジョウの想いに答えるために、恭平は最後の力を振り絞った。
「ジョウさん、ジョウさん!!」
「あっ、ああっ……恭平いぃ!」
恭平の手が太腿に触れる。掴むでも撫でるでもなく、激しい動きに振りほどかれない程度の力で、ただ添えられるのみ。
具体的なアクションはそれだけ。けれど、その手の平から伝わってくる熱さが、どんな愛撫にも負けない豊かな愛情を与えてくれた。
「いっ、一緒に……一緒にいこうっ、ジョウさんっ!!」
その言葉で、快楽に押し流されそうだったジョウの魂は、瞬時に燃えたぎった。
「あぁ、そのつもりだ! 連れてってやるぜ、天国にな!!」
ジョウの腰の律動がなおも速まり、ついに最高潮へと達しようとしている。
「ウオォ……オオオオォォォォォッ!!!」
二人が揃って、天を仰ぐ。
そして――――
静止。
その秘部が深く結合したまま、まるで稀代の芸術家による彫像のように。
呼吸さえも、時間さえも止まったような、長い長い一瞬。
まさに、絶頂。
「…………」
声もなく、崩れ落ちるように、身体を投げ出すジョウ。それを黙って受け止める恭平。
弛緩し始めた互いの肉体が、ゆっくりと離れる。その場で二人、横たわる。
「あ……ありがと……な……」
「いえ……僕こそ……」
手が触れた。
何もためらわず、自然と握りあっていた。
「出来ましたよ! 今日のメニューは自信作なんです!」
恭平の料理が、所狭しとテーブルに並ぶ。
「待ってましたぁ!」
エイミーが飛びつく。メグが後に続いて取り合いになり、セイがなだめる。このあたりはいつもと変わらない。
だが、以前はメグの横で知らぬ間に黙々と食べ始めていたジョウが、恭平の手が空くまで待つようになった。
以前よりもワイルドな味付けになったが、その腕には格段に磨きがかかっていた。そこら辺のレストランにも負けていないと、セイは思う。しかし恭平は相変わらず、他の店で働くつもりはないのだという。
「どうです、ジョウさん?」
「ああ……悪くない」
「しっかり食べてしっかり仕事して、無事に帰ってきて下さいね! これからも僕、ジョウさんのために料理を作りますから!」
恭平が帰った後、珍しくジョウからセイに話しかけた。
「困った奴だろ、あいつ。もう主夫気分でいやがる」
「ジョウ……そうね、まだ子供が出来たと決まったわけでもないのに」
「出来ないだろうな。まともな身体じゃないからな」
「!」
確かに、セイはそれを知っていた。最初の契約の時、素性を聞かない代わりに綿密な身体能力テストをやっている。その時のメディカルチェックで判明したことだ。
しかし、本人には伝えなかったはずだ。
「あたしだって、他人とどこか違うってことくらい気づいてた。それで、潜りの医者に診させた。
生殖能力が遺伝的に弱いんだってな……きっと、闘うための力にされちまってるんだろうぜ」
「ジョウ、あなた……」
「けど、あいつは言ったんだ。あたしに産んでくれってな。だから、あたしも賭けてみる気になった。それ以上、何もいらない。違うか?」
ジョウの精悍な、曇りのない笑顔。セイは得心した。
「そうね……それで充分よね」
その自由さが眩しい、羨ましい――
セイは心から、そう思った。
「さて……行くか」
「ええ。気をつけてね、ジョウ。今度の仕事の相手はかなりの」
「後で聞く」
そしてトレーラーを出る間際、ジョウが振り返った。
「帰ってくるぜ……敵が何者だろうとな!」