「い、いやああああああァ!」
トレーラーハウスを震わせて、ものすごい悲鳴が響きわたる。
ゴキブリでも出たかと、ジョウが声のした、リビングまでおっとり刀で駆けつけると。
そこではメグが愛用のケイタイを握りしめ、ソファの上にて真っ白に凍りついていた。
「なんだ?」
「あのね、データと、オープンパスワードが送信者不明で送られてきて……それで中身、落ちものゲームだったの……
ヒマだったんでつい、全面クリアしたら……出てきた」
途切れ途切れにそう話すと白い手をひねり、携帯の、液晶画面をこちらに向けてきた。そこに表示されてある画像は。
(あちゃー)
粒子は荒めながら、顔見知りならばハッキリと個人を判別できるレベルの写真だった……ジョウと、セイの。
二者の上半身のみが写った、互いに裸で抱き合っている、映像だ。
――ちょっ。
(セイにしかできない悪魔の所業だな、こいつは)
なんてこった。いまさら掛けられた。最悪の罠に。
あの日の行為は死んでも口外するつもりはなかったし、あれからはさりげない誘いにもいっさい乗らずに、
二人きりになることさえ避けていたが…
――そのせいでかえってセイの奴、退屈したか!
ここで動揺なんぞを見せずに、知らぬ存ぜぬどうせコラだろうと押し通してしまえばよかったのだが、
あからさまに青ざめたジョウの表情を前にしたメグの疑惑は、すでに確信への状態変化を終わらせていた。
「浮気した…」
メグはぽそり、地獄から響いているような言葉を吐くや手の中のケイタイを音もなくとり落とし、
居間じゅうの空気を恐ろしいほどの沈黙の中に沈めた。
やがて、突然。
隠されていたテンションに火がともり、足をばたばたと踏み鳴らしてわめく。
「ジョウが、うわきしたー! もー信じられない! ほんとにほんとに、もういやぁっ!
ずるいー! 不潔ー! イヤイヤイヤ、ジョウのくじら馬鹿ぁー!」
「うるさい…」
ジョウは低く呟くなりソファへのしかかり、斜め下から顔を近づけてメグの唇を奪った。
体重を乗せ、暴れまわっていた腕の力を封じ込める。
閉じていた歯の間へと無理矢理に舌を割り入れ、掬い上げるようにして口中を撫で回した。
背中へと腕を廻し、二人の身体の間で、メグの豊かな胸が潰れるほど抱き寄せてキスを続けた。
濃密な時間のあと。かすかな糸を引いて唇がゆっくりと離れていく。
テクで黙らせた彼女を見下ろし、
「だいたいな、そんなことでいちいちキレるなよ」
開き直った仏頂面のジョウは、人さし指で額の上を掻きながら言う。
「人が誰と寝ようが、勝手だろ。別に、死ぬわけじゃなし」
「だって…!」
メグがせっぱ詰まった声を出した。
「ジョウはあたしには、『浮気するな』っていつもうるさいのに」
腕組みしているジョウは即答。
「あたりまえだろ」
あごをツイと振り、言い切った。
「お前は浮気すんな。他の奴に目もくれるな」
「そんなの、ふこうへい……よのなか、民主主義なのに……」
「そんなもんは幻想だ」
「ジョウの、浮気もの…」
しょんぼりとそれだけを言うとうつむき、べそべそと目尻をぬぐう仕草をするメグ。
かもしだされるあまりにも湿っぽい雰囲気に、業を煮やしたジョウがバン!
とソファテーブルに拳を打ちつけるやドスを利かせる。
「いったい、どうしろっていうんだ」
肩をいからせ問い詰めた。
「セイとはもう、絶対にしない。それじゃ駄目か。何が不満だ、さっさと言え」
「だって、だって、ジョウはニブちんだからわかんないかもしれないけど、
あたし、すっごく、すっごくくやしいんだからね!」
明るい色の赤毛を振り乱し、ヒステリー直前状態でわめきちらしたあと、
メグはふと、力の抜けたかすれた声を出す。
「だって、判るもの……あたしだって、セイがライバルじゃ勝ち目ないもん」
両手をグーにしてジョウに向き直り、涙目とともに訴えた。
「セイが本気で手、出してきたりしたら、ジョウはメロメロになっちゃうだろうって、想像つくもん!」
ぎくっ。
心臓に見えない矢を突き通されたジョウは、机によりかかり鎖骨の上に手を当てて、
「あんまそのあたりをツッコむな。…リアルに思い出したくない」
重ったるい呼気を肺の底から、しみじみと吐きだした。
メグが目をあげ、その横顔へと声をかける。
「ジョウ。ほっぺた、赤くなってるよ」
「……」 的確な指摘にぐうの音もかえせず、ジョウはしばらく、黙りこむ。
「……ったく、もぉ、」
メグの両の眼がすうっと細く変わり、やがて。
戦端は再び開かれた。
「ジョウのバカー! 下半身チェンジャー! 根性なし! うらぎりもの!」
叫びながら腕をめちゃめちゃに振り回してぶつけてくる、いわゆる《ぽかぽかパンチ》を片手であしらいつつ、
ジョウが紅い目をすがめて怒鳴り返す。
「じゃあ、カタキをとってやればいいのか!?」
両の腕を大きく広げ吼えた。
「この部屋に鍵をかけて、猫の子いっぴき入れないようにして、二人っきりで三日三晩、水とクラッカーだけで暮らして。
十回も、三十回もぶっつづけでお前を犯してやれば気が済むか!」
「……」
メグの動きが、しゃっくりをしたみたいに急に停まる。
「どうした」
「…濡れちゃった」
「アホか」
二人で入った狭いシャワー室で、熱い湯の雨に打たれながら抱きあった。
濡れた唇をむさぼりあい、サービス過剰に首筋と乳房を集中的にせめる。
一時間近く壁に圧しつけて抱きすくめ、舌と指とで弄りつづけていた身体を、
かかえこむようにしてベッドルームに運んだ。
組み敷いて足を開かせ、正常位でゆっくりと入れていく。
じらした果ての挿入のせいか、メグの中はひどく熱く、入れている途中でもう、びくびくっ、と締めつけてきた。
慎重に、上壁をこするようにして揺すりあげはじめる。
「早さ…、このくらいでいいか」
動かしながら、そう訊くと、
ぎゅっと目を閉じながら、メグは甘い声をたててうなずく。
「うん……すっごい、気持ちいい……んっ……」
かすれる言葉。
ジョウも汗の滴を垂らしつつうめいた。
「く…キツ……」
膣内の感度が凄く、少し動くだけですぐに反応がかえる。締まりすぎて痛いぐらいだった。
「……あ。ん、んんっ! あ、あぁ! あっ!」
叫んで、メグの身体が跳ねるたび、自分自身の怒張から今にもほとばしろうとする欲望をじりじりしながらこらえ、
ジョウがゆっくりと腰を使っていると、
「ジョウ、ジョウ…」
顔のすぐそばで、彼女がぱくぱくと口をあけたてしているのに気付いて、
(ん?)
耳をすます。と。
「ジョウ、すき……好きだから、ねえ…」
甘い睦言が耳を打った。
「ちゃんと、中に出してね、ジョウ…」
答えるかわりに、唇へキスをした。
湿って冷たいシーツの上で。
肩を抱きながら聞いてみる。
「キゲン、直ったか」
「ん。ちょっとはね」
メグはにこにこと微笑むと、ジョウの肩に額をすりつける。
「夜になったら、ゴハン食べに行こうね。着替えて」
「んあ?」
「うーんと、ゴージャスなレストランにしよ。セイにないしょで」
いまの発言、“ないしょ”って処に、ちょっと力入ってたな、と思いながら、
「ん」ジョウは頷く。
額の汗を手の甲でぬぐい、言を継いだ。
「しっかし、暑いなあ。メシに行くんならベイエリアだな。ここよりちょっとは涼しいだろ」
メグが笑顔でトリビアを言い出す。
「あれでしょ? ほら、『フェーン現象』!」
しかし間違っている。
「ヒートアイランド現象だ」ジョウが訂正。「NYで習ったろ」
「そうだっけ?」
「ま、なんでもいいけどな。涼しくって、景色が良くって、メシが旨けりゃ」
「そうそうそうそう! そーだよねー」
「チョーシ良すぎるぞ、お前」