ガラスが擦れ合う音――要するに不快な音でしかない叫び声を画面の中の人物が張り
上げる。
「……」
「……」
ジョウは頬杖をついて気だるそうな眼でテレビに見入り、恭平は少し離れてソファの手す
りに腰を下ろし、テレビに背を向けつつもちゃっかりと首は後ろを向いていた。
画面には凶悪な鋭器を構える原住民のような裸の男たちが一人の女性を取り囲んでい
るシーンが映し出され、ジョウの空いた右手はテーブル上の皿に伸びる。皿にはたっぷり
とシロップがかけられたイチゴが山盛りになっていた。
「どんな感じのパーティかなぁ」
叫び声と荒い息遣いと上の咀嚼する音しかないことに耐えられなくなったのか、恭平が
ぽつりと口にした。
「出される料理も、きっと特別なやつなんだろうね」
凶器がねじ込まれ、叫び声はさらに増していく。 ジョウの指先がイチゴを捉え、これでも
かと言わんばかりにシロップをイチゴですくい取る。
「参考までに見たかったなぁ」
料理を学ぶ者として、その機会に巡り会えなかったことを心底残念に思っているために
恭平の声には少し元気が欠けていた。彼を見かねたか、それともただの気まぐれか、
「食うか?」
先ほどのイチゴを手にしてジョウが訊ねた。ジョウが声をかけるとは滅多な事だが、口の
端から垂れる一筋のシロップくらいは拭おう。
「うえっ……」
「遠慮するな」
画面では、鋭器を突っ込まれた秘穴から白濁の液が噴き出すところだった。
「いや、今はちょっと性欲が……」
画面では先刻嬲り尽くされた女性が両手を上に縛りつけられているところだった。呻いて
いるところをみると意識はあるようだ。するとそこに、彼女をいたぶったのとは違う人種の男
性が現れた。彼女を助けに来たようだ。だが彼は気づいていない。背後に彼女を辱めた男
たちがいることを。
「あああっっ! ダメだ、後ろにいるぞ!!」
いつの間にのめり込んだのか、恭平がテレビのすぐ正面で大声を出していた。
助けに来た男性が男達に組み伏せられ、ズボンとパンツを脱がされる。
「あぁ……バッカだなあ」
エキサイトする恭平に対し、彼に向けられるジョウの瞳は冷ややかだった。
これは実話に基づいたストーリーを映画にしたものである・・・・
「……え? これで終わり?」
そして唐突なエンディング。週刊少年誌の打ち切り漫画の如く突然な最後に肩透かしを
食らった気分にさせられる。終わると同時にタイミングよく電話が鳴り響いた。ジョウが電話
を取るのだが、その時初めてジョウがまな板娘だと知った。今までナイスバデーエンジェルだと
思い込んでいたので泣きたいくらいショックだった。
「もしもし、ジョウ?」
「ああ、エイミーか」
「大変なの、早く来て!」
「どうした?」
「三こすり半のイケ面がセイを裏切ってメグを拉致ったの! そしたら変なおじいちゃんが
メグを男にして巨チンつけてんの!」
「……エイミー。あたしは頭悪いんだ。分かるように話せ」
「とにかくセイがピンチなの! すぐ来て。港にある亀の頭が着いたお船だよ」
「なに? 短小早漏がどうとか……」
「……表の三角木馬、お前んだろ?」
訊かれた恭平は従順に頷いた。
「鍵、よこせ」
そしてジョウは恭平の三角木馬に跨り、港へ向かうのだった。
「まだローン残ってんだからね!!」