「メグ……可愛い、可愛い……メグ」  
 ジョウはぶかぶかの黒シャツ一枚だけを身に付け、秘密の場所で自慰行為に耽っていた。  
おかずはもちろん日々妄想しているメグと自身の絡み合い。いつの日かメグの身体にこの  
手で触れてみたい……と思うのだが、なかなか機会が見つからず、こうして募った思いを  
発散させているのだった。  
「そんな……舐めるな、あぁッ!」  
 M字に開いた脚の間に伸びた指に翻弄され、少量の潮を噴き飛ばしながらあっけなく達  
してしまう。  
 最近、感度が上がってきたな。濡れた指先を恍惚とした表情で見つめながら実感するの  
であった。  
 
 
 トレーラーの中へ戻るとそこにはメグしかいなかった。  
「あ、ジョウお帰り」  
「…………ああ」  
 自慰後の倦怠感から気だるそうに答えながら訊ねる。  
「セイと、エイミーは?」  
「なんかねぇ、用事があるからとか言って出て行っちゃったよ。帰りは遅くなるから料理は  
二人  
分にしといてもらいなさいって」  
 時計は三時前を指している。ということは、今から数時間はメグと二人っきりということだ。  
 これは四人共同生活の中で訪れる数少ないチャンスである。それとなく誘うか、それとも  
強引に攻めるか、あれこれ思案するが、今まで一度とて実行したことはなかった。どうして  
かメグには手を出しづらいのであった。  
「そうか」  
 結局いつものように手を出せずにメグの傍を通り過ぎようとするが、  
「それとね、私も今から買い物に行くんだ。七時くらいに帰って来ると思うんだけど、ジ  
ョウも一緒に行く?」  
 思わぬ誘いにしばらく考え、答えが出た。  
「…………いや、いい」  
 
 
 恭平は走った。遅刻はできないと考え普段より三十分以上早くスクールを切り上げ、  
トレーラーに向かっていた。日の傾き具合からみてもまだ五時すら回ってないだろう。  
それでも恭平は走った。バイトを続けるだけではなく、一点のミスすら許されない気が  
していたからだ。  
 もし何か不備な点がジョウに見つかれば、その時は…………。  
 冗談の余地の入らない命の危機に顔色が悪くなる。急がねば。  
 トレーラーに着いた時にはもう汗だくであった。乱れる呼吸を整え中に入る。  
「こんにちは……?」  
 トレーラー内のリビングに相当する場所に人の気配がないことに眉を寄せる。早く来す  
ぎたせいかなどと思索していたところに衣擦れの音がし、身体をびくつかせてそちらを振  
り仰いだ。  
「…………ん?」  
 死角になっていたソファの影から人影がのっそりと現れた。ぼさぼさの銀髪に寝惚け眼、  
シャツ一枚の姿の女性。  
「ジョ、ジョウ……」  
「ああ…………来たか」  
 先日の一件以来妙にジョウを――そういった意味でなく――意識してしまう恭平は無意  
識に数歩下がった。  
 
「ば、バイトに……来たんだ」  
「ああ……」  
 ソファの背もたれに腕を乗せ、そこに顔を埋めて半開きの赤眼でじぃっと恭平を見つ  
めている。  
「ほ、他の人たちは? セイとか、エイミーは……?」  
 メグの名は出さない。何がジョウに触れてしまうか分からず、とにかく触れる単語、行  
動はしないようにと心がけているのだった。  
「全員出かけた。メグだけ早く帰ってくる」  
「そ……う」  
「残りの二人の飯はいらない、だと」  
 なら二人分作ればいいのか!じゃあさっさと作って帰ろう、うん!意気込んで彼は仕  
事場に向かった。なるべくジョウの方を見ないように。  
「…………」  
 恭平の背を見送ったジョウは立ち上がり、ドアに近づくと設定をロックにした。これで誰  
かが帰ってきても多少の時間は稼げる。念のための処置であった。  
 
 キッチンに立ってからはたと気付いた。今トレーラー内には二人。もし銃を突きつけ  
られれば止めてくれる人もいない、逃げる場所もない。絶体絶命……?  
 しかし、そうだしかししっかり仕事をこなせば大丈夫なはずだ。だって俺辞めてない  
じゃん!バイトしてるじゃん!  
「よ、よしっ。やるか」  
 再び意気込み少し早めの調理に取り掛かる。帰りが遅いメグのことも考えると、温め  
ても美味しく食べられる料理が、  
「ああ。やるか」  
「ぎゃああぁぁっっっ!!」  
 キッチンの入り口からかけられた声に冗談抜きで飛び上がった。部屋の隅まで慌てて  
逃げた。  
「ジョ、ジョジョジョジョウ!? 何? 俺何かした!? 待って何もしてないよ!!」  
 銃も携えていないシャツ一枚の女性相手に必死になって弁明する恭平の姿は情けない  
のだが、それもこれも命が関わっている事項であるから致し方ない。  
「お前は何もしなくていい。あたしがするんだ」  
 不機嫌に吐き捨てる。恭平は震え上がる。ジョウは脱ぎだす。  
「ハウっ!?」  
 突然現れた女性の裸体に狼狽し、錯乱しそうになった。ジョウは本当にシャツ一枚しか  
身に付けていなかったのか。その事実に頭が行く余裕もなく、ただただ泡を吹いて騒いだ。  
 
「動くな。騒げば後で」  
 その先の言葉には耳を閉ざした。聞かなくても分かるからだ。分かってしまう自分が  
憎いだろう。  
 シャツを投げ捨て、すっかり大人しく震える恭平の前に跪きズボンのファスナーを開けた。  
 ああ、また辱めを受けるのか……。観念した。今までえっちなことに興味がなかったわけ  
ではない。童貞なので人一倍強かったはずだ。本郷先生を何度おかずにしたことか、セイ  
をエイミーをメグを何度おかずにしたことか。ちなみにジョウがいないのは貧乳のお姉さん  
という対象外の属性であったからである。  
 それがしかし、この前の一件で恭平の性に対する意識は一変してしまった。セックスは  
あんなに恐ろしいのだと深層意識に刷り込まれてしまっていた。故に勃起こそすれどもそ  
こから先の妄想にまでいかず、とんと自慰もなくなっていたのだった。  
「相変わらず小さいな」  
 ぽろりとこぼれ出たコックは萎えに萎えていた。当たり前である。最近自慰の回数が目覚  
しく増えたジョウは、メグをおかずに行為に耽っていても何度これのあのサイズを思い出し  
ていたことか。妄想中の自分、もしくはメグの股間にこれが生えていた回数は少なくない。  
「まあいい。言ったとおり、あたしが何度でも立たせてやる」  
 久しく快感という刺激を忘れていたそこに、ジョウの柔らかな唇が近づくのであった。  
 
 ジョウの唇が恭平のコックを捉える。しばし使っていなかったためにひどく蒸し臭い匂い  
を有しているが、ジョウは意に介すどころかそれすらも悦んでいるようだった。表情に変化  
はないのでなんとも分かり辛い。  
「うわぁぁ……っ」  
 恭平の声は快楽に喘いだものではなく、何で俺はこんな瀬戸際に立たされた状況でこん  
な不条理な責めをされなきゃいけないんだという嘆きの声だった。  
「――ち、相変わらず反応が悪い」  
 口に含んだところでまったくもってぴくりとも反応しない。だが恭平が勃たないということは  
前回の一件からしっかり学んでいる。予想の範疇である。  
 恭平も何とか勃起しようと思っている。思ってはいるのだが、やはり勃たない。これはもう  
初体験が悲惨だったからとしか言い様がない救い様がない。下手をすれば一生インポテンツ  
になる危険さえある。素人にはお勧めできない。  
 しかしそこはさすがジョウ。亀頭を舌で愛でながら手で茎を捻るように攻め立てる。  
「ぅっ……」  
 ようやく恭平もそれらしい反応を見せる。まだインポではないらしい。  
「早く勃たせろ。それとも」  
 ジョウの親指が血液が集まり始めた鈴割を、尿道をくりくり虐めたおかげで恭平の呻きは  
強まった。  
「このまま手だけで天国に連れてってやろうか?」  
 弱者を虐げるのを愉しんでいるのか、ジョウの瞳がわずかに細まった。手の中で萎えて  
いたものは見る間に逞しくなっていった。握る手の倍三倍はあろうかというものを目にし、  
ジョウはまたわずかだが口の端を吊り上げた。  
 
 調理台の上に置いてあった器具や食材を乱雑に退けてそこに尻を乗せ、恭平に自身の  
割れ目がよく見えるよう左足を上げて挑発する。  
「バイト。ここを見るのは初めてか?」  
 指で押し広げられたそこは色黒のジョウの肌の上で艶やかな真紅の花を咲かせていた。  
恭平は正直に頭を下げる。亀頭は上がる。  
「なら近くで見ろ。舐めさせてやる」  
 完全に上からの物言いだが恭平に不満を漏らすことはできない。というより不満を抱く心  
のゆとりさえない。思い足取りで近づいて跪き、ジョウの花弁眼前二十センチというところに  
来る。初めて女性の部分を接視し、思わず喉を鳴らしてしまう。  
「さっさとしろ。いいと言うまで止めるな」  
「は、はいっ!」  
 見惚れていたいのだが、如何せん余裕を与えてはもらえない情況であった。脅迫されて  
いるような思いで多少酸味のある美臭を放つそこにむしゃぶりつく。  
「んッ、いいぞ……もっとがっついてみせろ」  
「ふぁ、ふぁひぃっ!」  
 命じられるままに行動する様はまさに奴隷である。下僕がご主人様を満足させるべく一心  
に秘所に喰らいついている。いつの間にか口の周りは唾液とそれとは別のものでべっとりと  
なっていた。  
「ふぅッ……そろそろいいぞ。入れろ」  
 まだもっともっとむしゃぶりついていたいのだが、そこは絶対の命令の力に素直に従わざ  
るをえない。よくできた主従関係である。  
 
 ジョウに向けられた恭平の巨木は以前より幾分大きくなっている、気がする。初体験を  
済ませて以来永らく使用されていないこと、初めて女性器を口で味わったことが要因か。  
 改めて見るとその天晴れな姿に鼓動が昂ぶる。あれ以来何を使っても十分な満足を得  
られていなかったかもしれないと今になって思い至る。  
「今日はお前が動け。いいか、あたしがいいと言うまで絶対に出すなよ」  
「はいっ!」  
 ちょっぴり、本当にちょっぴりの昂奮と多大な恐怖に突き動かされ、恭平は一息にその  
天を斬り裂く巨大な剣を柄まで突き立てた。  
 嬌声とは違う苦痛の呻きを潰した声を上げ、ジョウの身体が大きく波打った。デカチン  
を呑み込んだおかげで下半身が攣るのではないかと思えてしまう。  
「っか、加減しろバカ!」  
「ひぃぃッ! ごごごめんなさい!」  
 ジョウの叱咤に怯えたために胎内のものが萎縮していく。  
「おい、萎えるな」  
「う……うん」  
 これはまずいといつもの調子に戻すと、恭平も落ち着いた。萎縮は途中で止まり、それ  
でも常人以上のサイズをジョウの中で保っている。  
「……よし。お前の好きに動け。どう突こうが構わない」  
 ただし絶対に出すなと念を押す。つい先日まで童貞だった恭平には辛い注文だが文句は  
言えない。ちょっと涙なんか出ちゃうが、いきますと告げて熱く潤うジョウの中でぬぷぬぷと  
己が分身を動かすのであった。  
 

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