「俺にナンパ再開して欲しいってか?」  
「そ。そんなことは言ってないでしょ!結婚したのにナンパなんて」  
「だろ?」  
「けどさ…まさかダーリンがナンパしない日がくるだなんて考えたことなかったし」  
「なんだよそりゃ」  
「う…嬉しいのよ!これでティラもあたしも変な心配しないで済むようになったんだから!」  
「な〜にムキになってんだよ」  
 
テーブルに肘ついて余裕げにしてるダーリンと、ツンツン怒るあたしと、端から見れば  
単なるカップルの可愛い痴話げんか(=イチャイチャしてるのと変わらない)なんだろう。  
けれど、あたしの胸の内側はそんなカワイイもんじゃなかった。  
 
いま、まさにダーリンの好みのウェイトレス、童顔なのにボンキュボンの女の子が  
テーブル拭きにきててさ、屈んだ胸元から谷間のレースがあたしにも見えてるってのに  
ダレーンって顔で見てるだけ。その反応だけはナンパ全開のときと変わらずまーーーーったく同じ。  
あたしが目の前に居るからナンパをうずうず我慢してるって風でもないのよ。  
 
そんな、前はあたしたちが居てもナンパしてたのに、でもって速攻ダーリンの後頭部をどついて  
ダーリンのおでこでカフェテーブルは真っ二つ、そんでお店に弁償。ってな事よくやってたんだけど。  
 
なんだかあたしは意外にショック受けたことに気づいて、それがまたショックだった。  
ダーリンが結婚したらナンパはそりゃダメだろ、ってのは私ら姉妹にとっては大歓迎よ。  
でも、でも結婚してもナンパし続けるんだろーなーハァ。ってな心の覚悟はできてたのよ?  
…なのに。  
つまり、ということは…その先はなんでだか考えたくなくなっちゃうんだけどさあ…  
いいやいっちゃえ!  
ダーリンのナンパ心を抑えちゃうほど、ティラはダーリンにとって大きな存在ってことよね?  
ああ結論出しちゃった。なんだろ、この悲しいような気持ちって。  
って、そんな風に妹を羨んじゃうあたしの気持ちのがヤバイんじゃない?ってアハハハ…  
 
「さて!ショコラに捕まっちゃったしな、じき夕飯の時間だしよ、家に帰るとすっか!」  
おとなしく座っている外観とはおよびもつかない内面の嵐に翻弄されてたあたしは  
ダーリンから差し出された手もボケーっと見てるだけ。  
いつもなら手をつなぐどころか腕を絡ませるあたしだってのに…  
「ショコラ?」  
さすがにダーリンも不思議そうな声をかけるけど…  
もう、いいわ!これ以上難しいこと考えるのなんかパスよパス!よし決めた!  
「いいの、だってシチューだもん、明日にでも食べれるからいいの!さ、いこいこ!  
 今日はパーっと飲みたい気分なの!ダーリンだって、そういうのひさびさでしょ?」  
陽気な声をあげたのは、ダーリンの不審をごまかすためか、あたしの暗い靄を消すためなのか。  
どっちかよくわかんないまま、ダーリンの腕を引っ張って居酒屋通りに歩いていったんだ。  
 
―てきとーに入った店は、かなりの当たりだった。  
カリカリに焼けた皮のチキンソテーやひと味工夫したマッシュポテト、そしてビールにワイン。  
自分でもモグモグしながらダーリンの反応のいいメニューをしっかりチェックするあたし。  
ふふーんそうか、あれが好みなのね?覚えとこ。  
そしてあたしたちはバカ話をしあったり、残った一切れをめぐって軽く口げんかしたりした。  
 
…そういう風に、した。  
でないと、さっきのカフェで心の底に押し込めたナニかが膨れ上がりそうだったから。  
 
そうやって陽気に過ごすためのワインだったのに、ちょっと飛ばしすぎちゃったのね。  
回ったアルコールはあたしの心の鍵をいつのまにか弛め、とうとう蓋があいてしまった。  
それに触れちゃダメって警報は頭のどっかでずっと鳴ってたのに  
 
「…そこまでティラの存在が大きいってわけ!ねえ!だから、なの??」  
「?」  
「あたし、そんなんじゃなかったんだ、ね」  
「ったく、この酔っぱらい。いったい何言いたいんだかちゃんと言えって」  
「だ・か・ら!結婚したらナンパストップだなんて、そんなこと、そんなこと  
 よっぽどティラのことを愛してるっていうことでっしょ!」  
「なーにいきなりキレてると思ったら、キレてる理由もわかんねえよ…っておい!」  
「もーうバカバカバカ!知らない!」  
ワインを掴んでラッパのみ。で、そのままあたしの意識は途切れてしまった。  
 
頭に冷やりとした感触がして、うっすら目を開けるとダーリンのホッとした顔が見えた。  
…あ、そうか…  
いまだにぐるぐる回る脳みそだったけど、ここにいたるまでの状況は想像できた。  
ワイン一気飲みして後ろにひっくり返ったあたしを手近の宿の布団に寝かせてくれたんだ。  
「えへへ、いつもならダーリンがあたし達姉妹に世話かけさせてんのにね」  
「そりゃちげーよ、お前たちが俺をかまってくる、ってのが正しいんだからな?」  
 
ダーリンったらかーわいくなーい。  
ぷぅと頬を膨らまそうとして、でもやっぱりここまでしてくれたのは本当に嬉しかったから、  
そんなこと思うと鼻の奥がツンとしてきた。  
「ありがとね」  
そう声に出してみると、今度は目の奥がグーっとしてきた。あれ?あれ、おかしい、な。  
なんだかダーリンがまじまじとあたしの顔を見てる。  
 
「ちょ、やーだダーリンったら!なにマジな顔つきになっちゃってんのよ!」  
「…」  
「さすがに今日は飲みすぎちゃったけどさ、めったにあることじゃないし」  
無言が続くダーリンに向かってあたしは手を顔の横で振りながら続けて言った  
「前ならもっと飲めたんだけどさ、さすがにもうアレね、  
「!…」  
 
―目の前に、ダーリンの黒髪が見える。サラサラ髪のマロンとは違ったツンツンした癖毛。  
そしてあたしの上半身はダーリンの熱い身体を感じている。  
「お前…」  
「え?あたしがどうかしたって…?」  
さっきまでの状況と、今ダーリンに抱きしめられてる状況がまったく繋がらなくって  
あたしは自分の声をずいぶん遠いところから聞いてるような変な気分だった。  
「そんな表情(かお)して、んな話なんかするなよっ…」  
「そんなかおって言われても」  
 
乱暴な手つきであたしの目の下をダーリンが拭って、ようやくあたしはあたしが泣いてる  
ってことを知った。  
「あ、れ?なーんだろこれって、やっだもーあたしってばもしかして泣き上戸?」  
「…いいから!」  
さっきよりも近く抱き寄せられて、ダーリンはあたしの目をまっすぐに見て言った。  
「ここは俺とお前二人きりなんだから、別に恥ずかしくねーよ。いいから泣いとけ」  
「だからっつってそんなすぐに泣けるもんじゃないわよっ」  
「いちいちうっせーな。この俺様が肩を貸してやるってんだ、素直に借りろってんだ」  
「…じゃー借りるわよ、借りたらいーんでしょ。遠慮なく使わせていただきまーっす」  
 
ダーリンの肩にアゴを乗っけて、しばらくそのまま。  
まだ酔いが残ってるからグルグルポワポワしてるしダーリンはあったかいし  
泣くよりそれより…気持ちよくて寝ちゃいそう。  
それに、なんだか昔を思い出す…ホーディックの霊山にあたし達とダーリンとマロンと  
日がな一日じゅうくっついて転げまわったあのあったかい日々。  
 
そんなことを思い出すと、さっき引っ込んだ涙が今度はスルスルと零れてきた。  
あたしもティラもダーリンが大好きで、ただそれだけの気持ちで毎日ダーリンが  
外に遊びに連れて行ってくれるのを楽しみに待っていた…  
こんな残酷な分かれ道が最後に待ち受けているだなんてあの時は考えもしなかった。  
最初は静かにポロポロ涙をこぼしていたのが、ダーリンの落ち着いた鼓動と  
背中をあやすようにポンポンとたたかれるのとで、あたしはしゃくりあげ始め  
最後には声をあげて泣いてしまっていた。  
 
どれくらいたったのか。頭の芯がしびれたようになっていて考えがまとまらない。  
頬に当たるダーリンのタンクトップが濡れて冷たくなっているのがわかるくらい。  
「落ち着いたか?」  
「…ウン。」  
「なんかよ、俺上手く言えねえし、ふさわしいセリフかどうかもわからね。  
 けどさ、俺ショコラのことす。す、すっすう〜〜〜すー。すす、す。  
 っぷは〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!ゼイゼイ。あのな、つまりだな…ゴニョ、だよ。  
 ティラと比べるったってんな次元じゃねえ。  
 他の誰とも取っ換えきかねえんだよ、おまえ、ショコラって女はよ」  
 
(…そんなこと、最初っから知ってるわよ)  
惚れた男に嫌がられ光線発射されてんのに気づかないほど鈍感な女じゃない。  
それでも、それでもあたしとティラと、いったいどこでどうダーリンにとって  
違ってたの?自分でも分かってる、こんな誰の所為でもないことについて  
綺麗に正解なんて出ないことぐらい、それぐらい分かってる。  
ティラとダーリンとの婚約発表の後、嫌になるほど繰り返したあの問いに  
またあたしは足を絡め取られていく。  
 
「だ。だからな。もし、もしもだな…。あ〜〜〜〜〜!だから!もしもだな?」  
「なに、よ…」  
「もしおまえを嫁にしてたら!ティラは、あいつはよ…あいつのことだから」  
そこまで言ってダーリンは頭をたれた。伸びかけた髪がパサリとゆれる。  
でもあたしはダーリンの言いたいことが分かった。  
(きっと…泣いて泣いて、でも最後には「姉さん幸せにね」とか身を引いて…遠くに)  
 
「だからよ、俺もなんとしてでもティラって確信が断固としてあったかというと  
 自信があるかっつったら無いっつうか、いや、ある!無いわけじゃねえからな!」  
いきなりの“もしあたしをお嫁さんに選んでたら”なんて内容に頭の中真っ白だけど  
言いだしっぺのダーリンも同じみたい。照れ隠しなのか、わざと乱暴に鼻をこすってる。  
 
「本音はさ、いままで通りってのが一番良かったんだ」  
ダーリンがそう思ってたのはあたしたち姉妹も感じてたけど、あたし達の限界のが先にきた。  
つまり、今の結果を招いたのはあたしたち姉妹の覚悟の上のこと。  
そしてダーリンが現時点で精一杯応えて考えて出した結果なんだから恨みっこは無しにしようね  
ってティラと約束したんだっけか。  
―それで姉妹の絆がほどかれるような未来になってしまったとしても。  
 
でも本当はティラと離れる覚悟なんて固まってなかった。たぶんティラも同じ。  
きっと、ダーリンはそのことまで感じ取ってたのね。  
ティラがお嫁さんなら、あたしたち姉妹の絆が切れるって事態にはならない。  
どうにも器用に立ち回れないあたしたち三人のトライアングル。  
あたしにとっては最高の関係なの。どう見えてようがそんなこと知らない。  
だってあたしがこれがいいんだって選び取った運命なんだもの。  
 
ちょっとしんみりして、そしてよっくよく考えてみると  
「じゃあなによ?あたしならそれに耐えられると思ったの?それなりにしっかり  
 傷ついたんだからね!本当にあたしだったから良かったようなものの…」  
とまで言って、さらに気づいた。  
(ティラをお嫁さんに選んだ本当の理由を知ってるのはあたしとダーリンだけ…!)  
 
当のダーリンはといえば、なんとも言えないような照れたような、バツが悪いような  
そんな表情をしてる。目が“バレタか”なんていいたげな感じで笑ってる。  
 
その瞬間から、あたしとダーリンの関係は彼氏彼女じゃなく共犯者、へと変化した。  
ティラにさえ知られない壁一枚ほどのすぐ裏で、あたしとダーリンは秘密を結ぶ。  
姉としてティラの幸せを心から願ってる。この気持ちには嘘は無い。  
けれどその気持ちと、この感情にはなんら矛盾がないってのがなんか、不思議な感じ。  
「ふふっ」  
「なんだよ」  
 
―そして、秘密をさらに重ねるかのようにダーリンと唇を、あわせた。  
 
あわせた唇が、あ、ダーリンのって以外に弾力あるのね…  
そういえば半裸の胸にダーリンの顔を強引に埋めたことはあったけど  
本当にマジでこういう接触すんのってこれが初めてだなあ…  
って!  
「キャーーーーーーご、ごごごめんね!あ、あたしってば」  
「…」  
「あ、その、ホントごめん。ってか、その、もう忘れてッ」  
なにかなんだか分からない恥ずかしさと居たたまれなさで  
ガバリっとダーリンの胸から身を離すと、ベッドから降りた。  
一刻も早くこの部屋から逃げ出したかった。  
 
「おい、ちょっと待てよ」  
そんなダーリンの声も振り切るようにあたしは身を翻したんだけど  
酔いはまだあたしの中にしっかと居残ってて、あっさり二の腕を  
ダーリンに掴まれてしまった。  
「は、離してよっ!」  
「嫌だ」  
「ダーリンが良くってもあたしが構うのよぉ〜離してったら」  
「ダメだ」  
「ね?もうあたし大丈夫だからキャロん家に帰ろ?だ、か、ら〜」  
 
(んもー!いったいなんなのよお)  
そうやってジタバタとダーリンの掴む手を離そうとしていると  
「ダメだ。帰さない」  
(は?え?)  
一瞬であたしの脳みそはショートした。  
 
(…んーっと。二軒目行こうってことかしら?なーんてね。アハ☆  
 って!一人突っ込みしている場合じゃないでしょー!)  
自分からしたキスにパニックになってさらにダーリンの衝撃のセリフで  
これで完全にあたしの思考は停止した。  
 
そうして棒立ちになったあたしを、ダーリンが後ろから抱きしめる。  
今度は逆に倍以上の速さであたしの鼓動が動き出す。  
「ショコラ……可愛い」  
溜息をつくようなささやきと耳にかかる熱い息とで、さっきまでの酔いじゃない  
別の陶酔がゆっくりとあたしの全身を回り始めた。  
「あんな、ちょっと口つけたようなキスで顔真っ赤にして泣きそうになって…  
 あやまることなんてないぜ、俺、うれしかった。マジで」  
(ほ、んと…?)   
「お前って、本当に俺のこと好きなんだなー」  
「そ、そうよ!ダーリンが結婚しても諦められないってほど大好きよっ!」  
―それが悪い?  
とは続けなかった。あたしがダーリンを好きなのは本当のことなんだから。  
 
「あのさ、ショコラ。俺はお前のこと、愛してるよ」  
ダーリンがさっきより強めにあたしを抱きしめるとそう告げた。  
もうあたしは胸がいっぱいになってしまって、そのままじゃ耐え切れなくって、  
くるりとダーリンの方に振り向いた。  
振り向いたら、もう二度と戻れない。それを分かっててあたしは振り向いた。  
 
「普通だったら、ここでプロポーズなんだろけどな」  
「…うん」  
「もうそのセリフ、別のヤツに使っちまったからよ」  
「うん」  
「俺以外の男と結婚するな。一生、だぞ?」  
 
―昔、ティラと二人でさんざん想像して話し合ったあのセリフ。  
今、あたしがダーリンから貰った言葉はその通りじゃないけど  
そのとき想像していた心情よりも、ずっとずっと熱く胸につのる。  
 
“あのね、プロポーズされたらね、あたちは喜んで。って言うんですの”  
“あたしならねー、そうねー、あたしならね。うふふふふ”  
“なあにー?教えてくださいましーお姉さまー”  
 
そうして、あたしはダーリンにもう一度、口付けをする。  
さっきとは違って、ありったけ全身の気持ちを込めたキスを。  
 
“あたしは、返事じゃなくってキス!をするの!素敵でしょ?”  
 
爪先立ちをしてたかかとを床につけると、ダーリンの顔を見つめた。  
ベッドサイドにある蝋燭の灯りが、瞳の中に揺らめく。  
「ショコラ…」  
「キャロ…」  
後ろに二歩下がると膝裏にベッドが当たり、そのまま二人で倒れこんだ。  
(いいのか?)  
(いいの。)  
ハンターの任務の時と同じように眼を交してお互いの気持ちを確認すると  
それを合図のようにシーツの海へ二人、泳ぎだした。  
 
ダーリンの身体の重さと熱さを量るように、あたしは身体を開いて  
腕をダーリンの首に回す。  
 
ん…ちゅ  
 
ぎこちなく首を傾けあってキス。けどもまだあたしの中は  
どこかが上の空で。  
望んで、望んでこうなっているはずなのに、なぜか足踏みをしている  
自分の心をじれったく思ったあたしはダーリンの顔を引き寄せて  
唇を深く摺り寄せたんだけど、その違和感は立ち去ってくれなかった。  
 
身体はダーリンの熱を感じてもっと求めたくって先に進みたがっているのに  
心は逆に冷えていって、その冷え込みの急さにあたしは大きくうろたえた。  
 
「ショコラ」  
 
ダーリンがあたしの名前を呼ぶ。  
恋人同士が初ベッドインの時ならば、胸がいっぱいになる甘い瞬間なのに  
あたしは、今の気持ちが全部バレてしまったかと思ってダーリンと  
視線を合わせることが出来なかった。  
 
「辛かったら、俺に言ってくれ。俺に、全部ぶちまけろ。一人で抱え込むとか  
 んな、無茶すんな」  
そしてあたしの耳元にこそっとささやいた。  
―なんかの時は、ティラには俺が言うよ。悪いのは俺なんだしな。  
 
あたしの中で冷えた心がみるみる解けて和らいでいく。  
さっきはカッコ良く自分ひとりで全部背負う覚悟を決めていたはずなのに  
本当の自分はまったくのビビリだった、ってことにも気づいちゃったわ。  
 
あーあ。  
自分に、呆れる。  
 
そんなあたしだってのに、ダーリンは一緒に危ない橋を渡るって言うのね?  
堕ちるなら一緒だって、言うのね…ほんっとうにもう、これ以上ない…  
 
「バカ。」  
「んだよ、これでも男の覚悟決めてっンム」  
 
ダーリンを愛しく思う気持ちが急激にあふれてその気持ちのまま  
唇を押し付けながらあたしは今度こそ心を決めた。  
“なんかの時”なんて、絶対にあたしが起こさせない。  
あたしが、ダーリンを守ってあげる。  
惚れた女にはとことんバカで、そして底抜けに優しいこの男。  
 
今は、あたしだけのもの。  
 
「ダーリン、愛してる♪」  
「ん。」  
ようやくあたしの心と身体がしっかり合わさる。  
証拠にあたしの唇は饒舌だ。  
ダーリンの唇を這い、舌は追い追われてせわしなく動く。  
離れた口をつなぐ糸が蝋燭の灯りにきらめいて、切れる。  
 
―あとは、どう服を脱いだのかはよくわからなくって  
噛み付くようなキスをして、押し倒されたら倒し返して  
いま、あたしはダーリンの膝の上に座ってる。  
胸を吸われて舐めあげられて背中が反っても、腰に回された  
ダーリンの腕に押さえられて逃げられない。  
視界がにじむと同時にあたしはものすっごく幸せだった。  
こんなに気持ちのいいことを、それもダーリンからしてもらえて。  
「いいか?」  
「ウン…すごく。いい。気持ち良い、よ」  
だから素直に応えてしまう、もうイイ女☆ぶる余裕なんてない。  
 
ダーリンが眼の端で笑ったように見えたと思ったら  
「ん!ああっあ、やあぁあぁ」  
声を上げて、身体を全部開いて、もっとダーリンの指をねだるように  
敏感な部分を押し付けるように腰が揺れてしまう。  
「すっげ…ヤラしー」  
…あたしは返事しないでダーリンの肩を突いて馬乗りになってやる。  
 
そのままダーリンの首に舌を這わして、薄いけれども筋肉がついた胸へ  
痩せたわき腹へ…そして。  
今度はダーリンの番よ、とばかりに男の部分にまで顔を下げて、口に含む。  
「っう……くぅ…………うう」  
細かく震える腹筋とどうしても洩れる、という反応に頭の芯がジンジンして  
罪もなにも、もう考えられなくて、あたしはその行為に熱中した。  
「だ、めだ、出…もう」  
一瞬膨れ上がったと思ったら溢れてくるそれをそのまま受け止めると  
思わず、っていうかぜんぜん汚いとか感じなかったから、コクンと。  
大きく肩で息をついて脱力しきったままダーリンは目を丸くさせて  
「こんな気持ちいいもんだとは…は、初めて、」  
(…そっか。あたしが初めて、か。)  
「ねね、あたしも初めてだったんだけど、そんなに良かった?ね?」  
「にゃろ!そーだよすっげ良かったよ!お返しじゃあ!」  
「きゃー♪」  
 
ガバリッとそのままダーリンに襲われて、今度はあたしがウサギ。  
背後から回された両手は胸とあそこに延びて首すじは強く吸われて  
膝がくだけたあたしはベッドにへたりこんでしまう。  
「脚、広げて」  
そう言われてのろのろとその姿勢をとると強烈な快感が背筋を駆け上った。  
指を差し込まれて、中を探られて、前には口を付けられて  
「あ、や!そこま……まって」  
「ひゃめ(だめ)」  
「いっ!く、んんんんんん!!」  
 
やった!ってな表情であたしの顔をのぞきこむダーリンのダーリンは  
すっかり大きくなっていて、それを見たあたしの内はぞわめく。  
もう、止まれない。  
 
もう蝋燭はすっかり燃え尽きて、半月の月明かりが窓から差し込むだけ。  
青白く光った白いシーツとダーリンの裸身は夢の中で見る光景のよう。  
(これは、一夜の夢よ…)  
(夜が明けたら、この奇跡はおわる)  
でもこの身体に感じる全部はあたしだけの真実なんだから覚えておこう。  
だから、お願い。ダーリンの全部をちょうだい。  
それなのに、入り口にグッと押しあてたままダーリンは動かない。  
 
「目、開けてくれよ。……嫌なのか?」  
「ううん!」  
そんなこと言われてびっくりして、でも、そうね。  
思いつめて暗くなるだなんて、そんなのもったいないわ。  
あたしは、ダーリンが好き。ダーリンもあたしが好き。  
それが一番大事よね。その時には、その時考えたらいいのよ!だから  
「…きて。」  
 
じっくり差し込まれて、あたしの中はぴったりと満たされる。  
揺すられて、イイところを何度もじらされてあたしはダーリンにしがみつく。  
初めてだから、頭が真っ白になるとか分からなかったけど  
入れられながらされるキスが素敵でイヤらしくってとっても、いい。  
ガクガクと早くなるリズムにあたしも翻弄されていく。  
「もう……だめ…や…あんっ…はあ…んんっ……んあ…っ…!」  
「いくぞ…!」  
「いいよ、きてダーリン…キャロ!」  
 
ぐっすりと眠り込んで無防備な寝顔をしたダーリンを見つめる。  
あたしの男、でも妹のダンナさま…。  
(でも、もうあたしは大丈夫)  
明日からはまた、以前と変わらない三人の関係に戻るんだ。  
これからもずっと先までも「ダーリン、好きよ♪」  
 
 
翌日ダーリンちに帰ると、手紙が一通届いていた。  
「ティラからだわ。んーどれどれ」  
『アプリコットお義母さまのお陰で、得意料理が出来ました!』  
「ティラにしては頑張ったじゃな〜い」  
『ゆで卵を半熟にゆでるのはバッチリマスターしましたわ!』  
「…えっと」  
『お掃除洗濯についてはこれからもじっくり教えてくれるそうですわ』  
「…」  
『キャロ、ううん旦那様(キャ 楽しみに待っててくださいな ティラ』  
こ、これは…さすがのアプリコットおば様でも難しかったのね…  
「あのさ、ショコラ。ちょっと、これからも頼まあ」  
「…いいけど、ね。」  
本当、これまでと変わらないのね。変わらなくって、いいのよね?  
「じゃ、さっそく昨日のシチューいただくとすっか!」  
 
 
で、数ヵ月後あたしは店を出した。簡単な家庭料理の店よ。  
だってダーリンが他の男と結婚するなっていったから  
じゃあそうしたら一人立ちしなきゃでしょ?  
それに、あいかわらず料理苦手なティラが気兼ねしなくていいように。  
―へえ夜も営業するようになったんだ。  
―そう、お酒が出ると売り上げもいいしね。  
 
―女の子の従業員増えてない?  
―ドーターちゃんが職場探してたから雇ったら評判良くって  
 
―これって、スナック?  
―うーん、なんかこうなっちゃったかなー?アハハハ☆  
 
ま。これも人生としてアリってことよ!  
「女は強いってねえ」  
「るっさい!ガトー!」  
 
end  
 

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