もし今が昼だったならば、もし今、太陽が昇っていたのならば彼女は目の前にマボガ  
ニーの扉を見たことだろう。  
 しかし夜の闇はその美しい木目を隠し、そしてその向こうで彼女を待っているであろう  
未来を感じさせなくしていた。  
 だからその未来が彼女に幸福をもたらすものなのか、それともそうでないのかは分から  
ない。それでも、この扉を開けたならば、彼女を取り巻く世界は変わる。  
 それだけは漠然とだが彼女には何故か感じられていた。  
 だから結局のところ、信じるしかないのだ。加護を祈るしかないのだ。胸元からロザリ  
オを取り出し、小さく神へと祈った。  
 しゃらりと鎖が鳴って、それが元の位置に戻ったとき彼女の瞳には迷いが感じられなく  
なっていた。  
 
 手を伸ばした。息を吸った。そして吐いた。頬を上げた。  
 微かな、それでもはっきりとノッカーが扉を叩いて音を立てる。  
 ――そして一瞬の間。  
「はい」  
 扉の向こうから聞こえる彼の声。ディアナは今度も小さく頷くとノブに手をかけて、扉  
を押し開いた。その途端に押し寄せる橙色の光の粒子たちに目を細めながら、ディアナの  
瞳はソファに深く腰を下ろした青年を捉えていた。独りだった。  
 傍らのテーブルにはガラス瓶や、グラスが置かれていたのできっと晩酌をしていたのだ  
ろう。  
「こんばんわ。ね、ちょっとお邪魔してもいい?」  
「なんだ。ディアナか。どうしたんだ。こんな夜更けに」  
「なんだ、とは何よ。……まあいいわ。それより、ちょっと話したいことがあるの。今、  
時間貰える?」  
「別に構わないぞ。ちょうど独りで飲んでいるのも飽きてきていたところだったんだ」  
 ディアナはほっと胸を撫で下ろしながらも、悪戯っぽく微笑むと「で、レディーをいつ  
までこんな寒いところに立たせておくつもり?」と言った。  
 その言葉にビュウは苦笑とともに立ち上がると、すでに半身は部屋に滑り込ませたディ  
アナを丁重にエスコートして先ほどまで青年が座っていたソファの向かいへと誘った。  
 
「ふふ。ありがと。ビュウ」  
 ビュウも元のようにソファへと腰を下ろして、グラスの中の液体をちょっと喉に流すと  
「で、結局何のようなんだ。まさか夜這いでもしにきたわけでもないんだろ」  
 ――“夜這い”  
 その余りに直接的で、肉感的な言葉にさっと頬を紅潮させるとディアナは「ば、馬鹿な  
こと言ってんじゃないわよ」と可愛らしく俯いた。  
 そしてすぐに頬を上げると「ちょっと話したいことがあるってさっき言ったでしょ!」  
「何だ。ちょっとガッカリしたぞ。はは。……まあいいや。それで話って何だ? こんな  
夜更けに来なきゃならないほど大切な話か?」  
 その言葉でディアナは途端に小さくなった。言い出しにくそうにもじもじと身をくねら  
す。  
「うん。とても大切な話。だからどうしても話したかったのよ」と呟くと、また俯いてし  
まった。このいつにない挙動にビュウは訝しげに眉をひそめた。  
 
 そして数分。  
 ディアナは無言だった。ビュウも無言だった。ただ時計の針音だけが聞こえていた。  
「――ね、お酒。お酒貰ってもいい?」  
 唐突な言葉にビュウは微かに首をかしげた。  
 なぜならディアナは酒をやらないはずだったから。それは年齢的な問題などでも、いわ  
ゆる戒律からでもなく、単に彼女がそういった性質(たち)であることを、ビュウもよく  
知っている。  
 しかし今、この年下の幼馴染はその飲まないはずの酒を要求している。きっとこれから  
彼女が切り出すこともただ事ではないのだろう。そんなときにわざわざその理由を問い詰  
めたり、無下に断ったりするほど、彼は愚かな男ではなかった。  
 ただ、彼女がここまでせねばならないほどの悩みに気付いてやれなかったことが残念で  
ならなかった。  
「ああ、分かった。水割りでいいよな?」  
 彼が立ち上がって、グラスを取り出そうと背を向けようとした瞬間、ビュウは思わぬ異  
変の気配に振り向いた。ディアナは酒瓶を掲げており、いわゆるラッパ飲みをしていたの  
だ。飲み込みきれずにこぼれた酒が白い喉を艶かしく濡らしていた。  
 
「おい。馬鹿! そんな飲み方する馬鹿があるか!」  
 驚きに目を剥いたビュウが彼女から酒瓶を取り上げたとき、ディアナの顔はこれ以上な  
いほど紅潮し、そしてつややかに濡れた瞳が彼を見返していた。  
「――ね、座って」  
 予想外にしっかりとした言葉が薄紅の唇から漏れた。ディアナはビュウに着席を促した。  
 しかし彼はそれを無視すると「“座って”ってお前、大丈夫なのかよ。気持ち悪くない  
か? 吐き気はないか? それとも頭は痛くないか?」と慌しく動き始めた。  
 少女はそんな彼に嘆息すると、頬の色に似つかわしくないほどに落ち着いた口調で  
「――ね、座って。話したい事があるって言ったでしょ?」と繰り返した。  
 渋々腰を下ろすビュウを確認すると、少女は小さく一呼吸つけた。頬の赤みも若干引い  
てきた。  
 そして。  
「私は――あんたが、ううん、あなたが、好き」  
「え」  
「うん、やっぱり私は、ビュウの事が好きなのよ」  
「おい」  
「ずっと、ずっと。多分、初めてお城で会ったときからずっと。陛下が亡くなる前も、後  
も、そして今も。――私はあなたが好き」  
「お前酔っ払っているだろ。だからこんな――」  
「こんな……。何よ!? 何だって言うのよ」  
「だから、こんな冗談が言えるんだろ。さっき、夜這いなんて冗談言ったのは謝る。だか  
らお前もあんまり俺をからかわないでくれよ。ちょっと趣味が悪いぞ」  
「――からかってなんかない! からかってなんかないよぅ……。私は別にからかってな  
んかないよぅ! どうしてそんなこと言うの!?」  
 途端、空色の瞳から溢れる雨色の涙。それはポロポロと下界へと降り注いでいった。白  
く滑らかな掌で顔を覆ってもそれは留まることを知らない。時折、その向こうから鼻をす  
すり上げる音や、喉をひくつかせる音に混じって、からかってなんかない。からかってな  
んかない。そればかりが聞こえていた。  
 呆然とそれを見続けていた青年もようやく我を取り戻すと急いで今、自分が何をすべき  
なのだろうかと頭を巡らした。  
 ディアナ。幼馴染。戦友。告白。などなど。  
 取り留めも無い単語だけがくるくると踊る。彼女に何て声をかけるべきなのか、間抜け  
で、不器用な彼には見当もつかない。  
 それでも心をただそれだけで染め上げる色があることだけははっきりと分かった。それ  
は彼女の告白と同時に現れた色だった。  
 その色の名は――。  
 
(ええい! ままよ!)  
 先ほどの少女と同じようにグラスを介さず、直接酒を喉に流し込んでいく。熱を持つ頬。  
さらに荒くなる鼓動。ぐらつく頭。目の前の美しい女。  
 そして酒臭いゲップを一つ吐いて、テーブルの上に乗り上げると、いまだ顔を覆って泣  
きじゃくる少女の片手を無理に取ってこちらを向かせた。  
 もう何を言うべきかなど、考えるまでも無かった。自然と口をついて出て来る言葉にす  
べてを任せるのだ。  
「――確かにお前ほど長く想っていないかもしれない。それも、ようやく今、気付いたく  
らいだから。……それでも俺はお前のことが好きだ、好きだ、好きなんだ」  
「嘘よ! ううん、嘘に決まっているわ。ビュウはヨヨ様のことがまだ好きなのよ。それ  
くらい私だって!」  
 恋慕の情は吐きつつも、それが受け入れられると否定する。そんな不可解な理屈を捏ね  
繰り回しながらディアナは彼の手を振り解こうした。その彼女が吐いた言葉にビュウは一  
瞬、眉をひそめたがそれでも怯まずにディアナを掴み続けた。  
 それは、この小さく震えるディアナがどうしようもないほど愛しかったから。自然と動  
き出す身体。ビュウはディアナの小さく、そして可愛らしい唇へと自らのかさかさで無骨  
なものを重ね合わせていた。  
 途端、静かになる少女。互いの頬の赤みが再び色を増したのは酒のせいばかりでは決し  
てない。そして、離れる唇。名残惜しそうに唾液の橋が二人を繋いでいた。  
 
「ね、ほんと? ね、ほんとに私のこと、好きになってくれるの?」  
「俺がお前に嘘ついたことなんてあるかよ」  
 ぶっきら棒に呟く青年にディアナは今更、照れたように「――うん、いっぱい」と笑っ  
た。ビュウは苦笑して、また彼女の唇を求めた。ディアナもおずおずとそれに応えた。  
「ん……。素敵……」  
 ふわふわとした浮遊感にディアナが陶然の声を上げた。  
「ね、このままで終わりなんてレディーに恥をかかせるつもりはないわよね?」  
「やっぱり、夜這いじゃないか」  
「ふふ、やっぱり無粋ね。あんたは。――でもそれも私たちにはお似合いなのかもね」  
 くすくすと酒臭い息で互いに笑いあった。  
 
「ね、ビュウ?」  
 抱き上げられ、その首に手を回すディアナの問いかけにビュウは「ん?」と応えた。  
「――好きよ」  
 何をいまさら、と苦笑する青年にディアナは頬を膨らませて、「いいじゃない。今まで  
言えなかった分も言いたいのよ。全部」と言った。その答えにビュウは何も言えず、ぷい  
と目をそらした。その頬は真っ赤だった。  
「ありがとう。嬉しいよ」  
 それからようやく呟いた一言にもディアナは嬉しそうに「うん。私こそありがと。私の  
事、選んでくれて、好きになってくれて」  
 無邪気に微笑む少女にビュウはまた苦笑するしかなかった。今夜は苦笑ばかりしている  
ような気がする。それでもそれは不快ではなかった。今までも、そしてこれからも、ずっ  
と自分はディアナに振り回されていくのだろう。ただそれが楽しみでならなかった。  
 
「ね、キス、して」  
 ベッドに沈みながらの願いにビュウは答えず、応えた。しっとりと触れる唇は柔らかっ  
た。  
「んふ。でもやっぱりお酒の力って凄いね……。ずっとずっと言えなかったことをこうも  
簡単に言わせちゃうんだもの」  
 眼前の愛しい人の頬を撫でながら、ディアナが呟く。青年はその手を取ると、  
(すまなかったな。気付いてやれなくて)  
 そんなわびの言葉を飲み込んで、ビュウはキスを落とした。詰まらないわびの想いなん  
かより、胸を満たす想いを伝えたかったのだ。そして自らの眼下で嬉しそうにくねらす美  
しい少女に欲情を覚えているのもまた確かで、わびの言葉で興が冷めてしまうことを恐れ  
たのだ。  
 それでも不器用な彼はたった一言。  
「――いいか?」  
 ディアナは目を泳がせ、逸らし、そしてまたビュウの瞳を射抜くと、静かに頷いた。  
(――だって、そのために来たんですもの)  
 
 ビュウの手がディアナの紺碧色の腰布にかかった。それはカーナの空に良く似た色だっ  
た。目を閉じるとディアナはふと幼い頃の影を見た。  
 あの頃、空を見上げればいつも彼がいた。  
 紺碧の空に紅い翼。その下で大きく手を振っていた幼い娘がいたことに彼は気付いてい  
てくれていただろうか。  
(無理だろうなあ。――だって)  
 彼女がビュウを見ていたように、彼にだって見ていた人がいたのだから。  
(でも、でも、今、ビュウは私のことだけを見ていてくれているのは紛れも無い事実なん  
だからそれで充分よ)  
 大きな頷きがディアナの顎を動かした。そして、腰布がはらりと解かれた。  
 そっと手を掲げて、彼の頬を撫でてみた。温かかった。ビュウはくすぐったそうに目を  
細めた。  
 ディアナの肩の突き出た山吹色のローブ。彼の指が肩をすべった。彼女の細く、白い喉  
が鳴った。それを合図とするかのように艶かしい肩にビュウが沈んだ。なめらかなそして  
弾力ある感触を彼に伝えた  
 
「愛している。――ディアナ」  
「……ありがと」  
 啄ばむようなバードキス。そして見詰め合って、深くゆったりとしたキスを交わす。し  
ばらくしてビュウの舌をそっとディアナへと差し込まれた。  
「ひう……!」  
 一瞬、驚きに身を固くしたディアナも、やがておずおずと応えるようになめらかな舌を  
返した。  
 初々しい恋人たちの舌がぎこちなく絡み合い、隙間隙間から唾液が漏れて頬を濡らす。  
それでも自分の腕の中に愛しい人がいて、愛しい人の腕の中に自分がいるという当たり前  
の事実が妙に嬉しくて、さらに腕に力を込め、そして舌で唾液を絡ませあった。ぐちゅぐ  
ちゅとした水音が部屋に響いて、やがて大気に溶ける。  
 自分の唾液に相手のそれを混ぜ合わせて嚥下すればそれは甘露。もしくは媚薬。みるみ  
るうちに身体は火照り、心はさらに相手を求める。  
「あ、あああ……、好き……、好き……。ビュウ、あなたのこと好き……!」  
 途切れ途切れに思いの丈を吐きつつ、交歓は続いた。  
 その激しい交歓もしばらくすると、やがてディアナは小さく痙攣を起こすと背筋を張り  
詰めさせた。そしてぐたりと弛緩する肢体。  
「はぁ……はぁ……。何……今の……?」  
 荒く息をつきながらディアナが戸惑いの声をあげたがすぐに「あれが達するってこと?  
 何だか頭が真っ白になっちゃって、何も考えられなくなっちゃって……。変な感じ。で  
も――気持ち良かった」と頬を染めて、頷いた。  
 
「ね、キスだけで、達しちゃうなんて私たちって相性いいのかしらね」  
 息を調えながら、にんまりと笑うディアナにビュウは頬をかくと「まあ、そうかも知れ  
ないな。でも誰に聞いたんだ? そんなことを」  
「ふふ、ひみつ。……女の子同士の間には色々あるのよ。分かった?」  
「ま、お前が言うならそうなんだろうよ。それより、続き、いいか?」  
「――うん」  
 話の間に呼吸も調った。仕切り直すようにまた甘く優しいキス。うっとりと吐いた息す  
らも甘かった。  
 まずは山吹色のローブを脱がす。現れるのは乳白色の艶かしい肌だ。緊張のせいか薄く  
汗も染み出て、更に美しさを際立たせていた。それから短い巻スカートも外せば、あとは  
落ち着いた色のキャミソールとショーツだけだ。ブラジャーはしていなかった。  
 肩紐を左右同時に外側にずらす。はらりと支えを失ったキャミソールをディアナがもど  
かしそうに脱ぎ捨てた。  
「恥ずかしいね。やっぱり」  
 もじもじと瑞々しい腿をこすり合わせながらディアナが照れ臭そうに笑った。酒のせい  
か、それとも媚薬のせいか、身体が火照っているせいで寒さはそれほど感じなかった。  
「――灯り、消すか?」  
 ビュウの心ばかりの提案にディアナは小さく首を振ると「ううん、止めとく。たしかに  
見られるのは恥ずかしいけど、でもそうするとビュウの顔が見えなくなっちゃうもの」と  
言った。  
 その言葉に一気に頬が熱くなるのがビュウにはありありと分かった。  
 どうしてこの愛しい人はこうも自分の心を掴むことばかり言えるのか。これでは――多  
分、勝てない。  
(とはいえ、負け続けるのは性に合わないからな。いつか勝って見せるさ。俺の生涯をか  
けてな)  
「ね、それより、ビュウも脱ごうよ。私ばかりじゃ不公平だと思わない?」  
 ディアナがビュウの服の裾をつまんで言った。ビュウも頷くとベッドから立ち上がろう  
としたが、すぐにディアナを半眼で見やると  
「おい、ディアナ。そこ掴んでいたままじゃ脱げないじゃないか」  
「へへ。私が脱がしてあげるから、ちょっと待っててよ」  
「いいよ。恥ずかしい」  
「何よ。あんただって私の服を脱がしたじゃないの。いいから、いいから」  
 にこにこと笑うディアナにビュウもそれ以上抗することは出来ず、彼女に誘われるまま  
ベッドに膝立ちになった。  
「ふふ。私に任せてよ。上手いんだからこういうのは。……多分」  
 ディアナも同じように膝立ちとなると彼女のオレンジがかったショートヘアはビュウの  
胸元のちょっと上あたりにあった。  
 
 ――ボタンを外す。「ね、ビュウ?」  
 ――ボタンを外す。「何だ?」  
 ――ボタンを外す。「……後悔してないよね? 私とこうなったこと」  
 ――ビュウに抱きすくめられた。「馬鹿言え。後悔なんてするもんかよ」  
「うん、うん……。――さ、放して。まだ途中なんだから」  
 少し涙ぐんだようなディアナがビュウの胸元から指を指し込み、シャツを脱がす。シャ  
ツは彼の背中側へと落ちた。  
 逞しく発達した身体、戦うために鍛えられた戦士の体躯だ。幾つか古傷が見えた。  
「傷跡、残っちゃってるね」  
「ま、しょうがないさ。それに勲章みたいなものだから、むしろ誇らしいよ」  
「そうなの?」とディアナの細くなめらかな指が無骨な胸元をすべる。  
「ああ。だって俺が傷ついた分、後ろにいるお前が傷つかなくて済むんだからな」  
「――馬鹿みたい。そんなの単なる自己満足じゃない。あんたが死んじゃったらどうする  
のよ」  
 でも。とビュウが笑う。  
「――お前が死なないほうがずっといい」  
 くだらないヒロイズムかも知れない。それでもそうせずにはいられらない。それこそが  
いわゆる男の本懐といえるものなのだ。ビュウはそんな風に思っている。  
「はか……」  
 ディアナは頬を染めていた。そしてぽつりと「――ありがと。でも、無理はしないでね。  
治癒魔法だって万能じゃないんだから」  
 そっとビュウの古傷に唇を寄せ、舌を這わす。  
「くう……、くすぐったいよ」  
 思わずビュウの喉から高い音が漏れた。  
「くす。可愛い」  
 舌は這わして、胸元からヘソを目指す。頭上から聞こえるくすぐったそうな声にディア  
ナは何だか嬉しくなっていた。汗の塩辛さと彼の匂いがした。  
 ベルトを外してズボンを下ろせば、陰茎はもう、すぐそこだった。  
 
 ズボンの上からでもはっきりとは分かっていたが、薄布一枚越しだとその迫力は段違い  
だった。丁度、隆起の頂点辺りの布は濡れていた。ちょっと怯みながらも思い切って、下  
着を脱がす。  
「ひっ……!」  
 思わず、目を背けた。想像以上に太く、そして長く、そして逞しかった。  
「ね、これ、舐めた方がいいのよね……? というか、舐めなきゃいけないのよね?」  
 おずおずとした上目遣いの問い掛けに思わず首肯を返しそうになったが、こらえてビュ  
ウは「いや、いいよ」と言った。  
「え? だって私が読んだ本じゃ……」  
「どんな本を読んだか知らないけど、今日はいいよ。それより早くディアナを感じたいか  
ら」  
 ――“今日は”  
 その言外に響く意味にディアナの頬に紅が走る。釣られてビュウの頬も紅潮した。  
 
「キス、もう一度いいか?」の問いに「もちろん」とディアナが膝立ちで答えて、キスを  
交わす。  
「んふぁ……!」  
 舌を絡ませながら、想いを絡ませながら、二人の身体がベッドに沈んだ。ビュウがそっ  
とディアナの肢体をまさぐりだす。くすぐったそうに目を細める少女。唇は合わせたまま、  
なめらかな太腿に手を這わす。  
「はうう……」  
 ディアナの脚から力が抜けた。そのまま太腿を撫で上げ、やがて指先が秘所にたどり着  
く。先ほどの交歓のせいか、濡れた布地が張り付き、淡い茂みが浮き出ていた。  
「ね、触るの?」  
 ショーツも脱がされ、いよいよ何もまとう物の無くなったディアナがおずおずと尋ねる。  
ビュウは頷く代わりにその行動で返した。  
「はひい……!」  
 生まれて初めての刺激に思わず甲高く可憐な声が漏れた。すぐに掌で口を押さえる。  
 ビュウの指が勃起した肉芽をショーツの上から転がす頃には、頬どころか顔全体を紅潮  
させて喘ぐ少女の姿があった。  
 小便の不浄なところ。子を産む神聖なところ。その二律背反ゆえに触れることすらなる  
べく避けていたところが今、男のいいように弄ばれて、知らなかった感覚、快感、悦楽を  
もたらし続けている。ディアナは考える暇すら与えらずに喘ぎ続けていた。  
「ああ……ひ、ひい……ああ! ひ、あ……! き、気持ちいひい……! こ、こんなの、  
こんなの知らない。知らない!」  
 ――達する!  
 そう思った瞬間、ビュウの指が秘所から離れた。爆ぜるタイミングを失った劣情はその  
ままディアナの肉の内にこもったままとなった。  
「え……。止めちゃうの? 止めちゃやだあ……!」  
 とろんとした瞳。だらしなく半開かれた口からよだれをたらしながらディアナが不満げ  
に声をあげた。  
 しかしすぐに、「あひい……!」  
 喘ぎ声が上がった。ビュウが乳首を甘噛みしたのだ。  
「いやあ……、食べちゃやあ……」  
 ディアナの切なげな抗議も意に介せず、ビュウは乳首だけでなく乳房をも咥内へと誘い、  
存分になぶった。心地よい弾力の中に若々しい固さを残していた。  
「ああ……いやあ。そんな……、やめてえ……、気持ちいい、いいよぉ!」  
 絶え間なく上がる嬌声。下腹部から燃え上がる劣情。ディアナはビュウの頭をかき抱き、  
悶え続けていた。  
 
 ビュウが愛撫を中断して、ディアナの耳元に囁いた。  
「俺ももう限界なんだ。だからお前の中に入りたいんだ、いいよな?」  
 ディアナは、もやのかかった、あるいは白い閃光が瞬き続ける思考の中で、訳も分から  
ず頷いた。  
 『ビュウがそうしたいと望んでいる』  
 だたそれだけが彼女を促したものだった。  
 ビュウが一旦、ディアナの肢体から離れる。  
「あ……」  
 ディアナの名残惜しそうな声が彼を追いかけた。その頃にはディアナも幾分平静さを取  
り戻していた。  
 ビュウの陰茎がディアナの秘裂へと狙いを定める。ゆっくりと鈴口が、膣口に触れた。  
もわもわとして濡れた淡い陰毛に潜んだそこは、熱く蕩けていた。  
「いくぞ」  
(ああ……主よ。この喜びをありがとうございます)  
 いよいよディアナは小さく神に感謝を囁いた。そして、目を瞑り覚悟を決めた。  
「うん。お願い……」  
 ――そして、ビュウがディアナの中へと押し入ってきた。  
 
 
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