「ああああああああ…………ッ!!」  
 ディアナの純潔がこそぎ落ちていく。  
 まるで焼けた鉄棒かなにかで腹をえぐられているようだ。苦痛だけが全身を駆け巡った。  
(こんなのに痛いだなんて……ッ!)  
 確かに処女を失う時、初めて男を迎え入れる時、痛い、痛いとは人づてだが知っていた。  
しかしこれほどまでとは想像していなかった。もう少しどこか甘いものがあると漠然と考  
えていた。しかしその考えこそが甘かったのだ。身を包むのは、ただ苦痛だけ。  
 フラッシュバックのように瞬く白い光が次第にディアナの頭に広がって行った。  
 
『――確かに痛かったわ。でもね』  
 忘我の中、ふと耳に響きだしたのはあの言葉。誰よりも敬愛してやまない女性のたおや  
かな微笑み。あれはいつ、何について話した事だったろうか?  
 ああ、あれは確か――。  
 
 ふと気付くとつんざくような痛みは止み、鈍痛に取って代わっていた。おずおずと薄目  
を開けてみるとビュウは心配げに見下ろしていた。  
「おい、平気か? ……止めるか?」  
 優しく髪を撫でながらの男の声にディアナは目尻に涙をためたまま首を振った。まだ、  
自分は『――』になっていない。  
 しかし、ビュウは無言で腰を引こうとした。そして逆立つ膣壁。しかしディアナはビュ  
ウの逞しい尻に脚を絡めると、力強くビュウを引き寄せた。  
 その時の鋭い痛みは何とか耐えられた。  
 ビュウは彼女の行動に驚きに目を丸くしたが、やがて嘆息して、  
「分かった。でも、我慢できなくなったら、すぐに言えよ」と言った。ディアナは固く目  
を瞑りながらも、再び、いつかの日を思い出していた。  
 
『――その痛みが収まったときこそ私は彼のもの、彼の女になれる。そう思えば耐えられ  
ないものじゃなかったわ』  
 あの方はティーカップを置くと少し前のめりになって『いつか、あなたにもそういう時  
が必ず現れるはずよ』  
 その言葉を聞いて、温かなティーカップを両手で包むように持ちながらディアナは曖昧  
に笑った。紅茶の色はどこかルビー色に似ていたのを妙にはっきり覚えている。  
(――なら、私だって耐えられるはず、耐えなければならないはず。大丈夫。だってずっ  
とずっと待ち望んでいたことだもの)  
 
「お願い。だから、続けて」  
 そして途切れ途切れの呼吸の間にかすれた声。  
 腰を押し出して、ディアナへと再び挿入が始まると、やはりディアナの喉からは隠し切  
れないほどの苦悶の声があがった。しかしビュウは黙って挿入を続けた。  
 ぎちぎちと裂けて、道を拓く膣内。  
 誰も足を踏み入れたことの無い処女地を踏みしだく。自らの下で苦悶に喘ぐ美しい少女。  
その征服欲は堪らないものがあった。  
 ――このまま彼女を思うがままに蹂躙してしまおうか。  
 そんな邪な考えがふと浮かんだが、すぐに打ち払った。  
 今まで、愚かで、間抜けで、鈍感な自分をただ待ち続けてくれた、このひたむきな少女  
を苦しめることなどしてはならないのだ。  
 やがて、――こつん。  
 最奥に達した。  
 まるで図っていたかのように彼の陰茎はディアナの膣内にすっぽり収まった。抱き合っ  
たそのままでどちらともなく長く、柔らかなキスを交した。  
 ゆっくりと唇が離れていくと、ディアナがふう、と一息ついた。そして潤む瞳で、  
「これで、私は、ビュウの『女』になれたんだよね」  
「何だよ、それ……?」  
 眦にはいまだ涙をためたまま、ディアナは微笑んで「だからひみつ。女の子同士には  
色々あるってさっきも言ったでしょ? 忘れちゃったの?」  
「そうだったっけ? ――忘れちゃったかもしれないな」  
 ビュウが苦笑に身をよじると「痛……ッ!」と声が上がった。  
「わ、悪い」  
「ううん。平気。でも、もう少しだけこのままでいてくれる? ごめんね。さっきからワ  
ガママばっかりで……」  
「いいさ。このくらいのワガママならいくらでも受け止めてやれるさ。だって俺はお前の  
“男”だからな」  
「じゃあ、ワガママついでに、――もう一度キスして」ディアナが唇をすぼめた。  
「お安い御用さ。お姫様」ビュウが唇をあわせた。  
 
 長く、甘く、それはきっと今日で一番優しいキスだった。  
 
「――動いてもいいか?」  
「ん、バカね。男ならそういう時、“動くぞ”って言うものよ」  
 ディアナの軽口にビュウは少しだけ安堵を覚えるとゆっくりと腰を引き、同じくらいゆ  
っくりと腰を押し出した。  
「ぐうっ……!」  
 ディアナからやはり苦痛の濃い音が漏れたが、ディアナはすぐに口をつぐむように下唇  
を噛んだ。  
 ビュウが幾回か抽送を繰り返すとぎちぎちとした膣内も次第にほぐれて、柔らかく包む  
ようにビュウの陰茎を撫でる感触が生まれた。それは甘美なものだった。  
 ディアナの顔が少しやわらんだ気がする。薄く目を開けてこちらを見ていた。ビュウは  
少々自分勝手だろうかと逡巡したが、やがておずおずと口を開いた。  
「少し、早くしてもいいか?」  
 ディアナからの返事は無かった。ただビュウの尻に白い足を絡ませることで応えた。  
 
「あっ……!」  
 それは紛れも無く甘い声だった。  
 ディアナはそれにすぐ気付いて頬を真っ赤に染めて口をつぐんだ。それが妙に可愛らし  
くてビュウは苦笑した。  
「声、聞かせて欲しい」  
「恥ずかしいよ、バカ、……ひぅ!」  
 語尾が甘く上ずった。ビュウは嬉しそうにディアナに腰を打ちつけた。じんわりと染み  
出た愛液が、ぎちぎちとしたディアナの中をどうにかビュウを滑らせる。少しずつ柔らか  
くほぐれてビュウを包み、彼の形に変わっていくのは気のせいではないだろう。  
「ひ、あひ、いッ! いい!」  
「ふっ、ふっ……!」  
 ビュウの呼吸が荒れてきた。どうやら射精が近いようだ。  
 忘我の中、それでもディアナを気遣いながら腰を振り続ける彼だったが本能的に自らの  
射精が間際であることを感じ取ると、一際、亀頭を押し込んだ。  
「ああああああっ!」  
 思わずこぼれたディアナの声を聞き届けたようにビュウは達した。  
 ディアナは子宮口に直接吐き出さ続ける熱い塊を確かに感じていた。やがてそれが治ま  
るとビュウはびくりと小さく震えて、ディアナの乳房へと顔を沈めると荒い息を吐いた。  
 
                   ◆◆◆  
 
「痛かったか? ごめんな」  
 ベッドに寄り添いながらビュウが申し訳無さそう言った。  
「……別に」  
 それだけ言うと涙をシーツで拭いた。  
 じんじんと痛む股間をなるべく動かさないようにしてビュウの胸に耳を開けると、そっ  
と眼を閉じた。確かな鼓動が彼女の身体に響いてきた。それはとても安心できるものだと  
ディアナは思った。  
「ね、ビュウ」と眼を瞑ったままディアナが言った。  
「私、幸せよ。――ふふ、それが言いたかっただけなんだけどね」  
 ディアナはポツリと言って、急に立ち上がるとベッドからひょこひょこと歩き出した。  
破瓜の痛みでまだ上手く歩けそうに無かった。  
 ビュウの慌てたような声が追いかけてきたがディアナは「ね、ハンガーどこ?」と振り  
返って言った。  
 ビュウは間の抜けたな声を出すと、やがて壁を指差した。  
「ありがと」  
 ハンガーに脱ぎ捨てられていた自らのローブやビュウの上着をかけて、その他の衣類を  
丁寧に畳んで置くと、にっこりと笑って「さ。寝ましょ」と言った。  
「え。寝るって?」  
 間の抜けたその言葉にディアナは頬を膨らませると「ちょっと。まさか、このまま私を  
部屋に追い返すなんてつもりなんてないわよね?」  
「あ、ああ。そりゃあ」  
「なら、いいじゃない。あ。ちょっと立ってくれる?」  
 先ほどの交歓でベッドから滑り落ちた掛け布団を敷き直すと「汚れちゃったからね」と  
言って、その上に身を横たえた。  
「へへ。あったかいね」  
 ディアナは笑いながらビュウの肌に自らの肌がくっ付くように身をよじらせた。しっと  
りと汗ばんだ気配が心地良く感じられた。  
 ビュウは訳も分からないままでいると「明日、買い物に行きたいの。もちろん付き合っ  
てくれるわよね?」と、ディアナが口にしたのでビュウは考えることなく、すぐに頷いた。  
 ディアナがビュウの腕枕の上で逡巡する。「――あと、一つ、明日、一緒に朝ごはんを  
食べること。いいでしょ?」  
「ああ。その程度なら」  
「なら、決まりね!」  
「どうしたんだ。そんなこと……」  
 悪戯っぽく笑うディアナは「ひみつよ」とだけ言った。  
 もうそれは彼らにとってはお決まりの文句だったし、この甘い空気を壊すほどビュウは  
無粋な男ではなかったので彼は曖昧に笑って「――お休み。ディアナ」と目を閉じた。  
 ディアナは最後にふふ、悪戯っぽくと笑うとそっと瞼を下ろした。  
 
                   ◆◆◆  
 
 ビュウに覚醒を促したのは、眩しいほどの陽光だった。  
(あれ。昨夜カーテンを閉め忘れたかなあ?)  
 まどろみながらそんなことを考える頭に鈍痛。この痛みには覚えがある。いわゆる二日  
酔いというやつだ。  
(ああ、晩酌したんだっけ? そんな飲んだ覚えはないんだけどなあ。まあ、ともかく次  
から少し酒量を控えることにするか)  
 それにしても忌々しい日差しだ。せっかくの心地良いまどろみが逃げてしまうではない  
か。片手を日差しを避けるように目の辺りに置いた。  
 あれ? それよりももっと大切な何かがあったような――。  
「ちょっと、ビュウ! もう朝よ、起きなさい!」  
 陽光よりもさらに快活に、そして爽やかな声が突然に頭上から降って来た。  
「え、ああ、え?」  
 驚きに薄目を開ければ逆光の中、一人の少女がいた。  
「え? 何でディアナがここに――?」  
 その言葉にディアナは頬を膨らませると「最低ねっ!」と言ってビュウに圧し掛かって  
きた。ぷよんと乳房がビュウにあたった。よくよく見れば二人とも全裸だった。  
「くうっ……!」  
 どちらともなく苦悶の喘ぎが上がった。ビュウは頭を押さえ、ディアナは下腹部を押さ  
えていた。  
「た、頼む。響いて痛いから勘弁してくれ」  
「そ、それはこっちの台詞よ。だ、誰のせいだと思っているのよ」  
 まるで抱き合うような格好のまま互いに息を整え合った。そして、ようやく落ち着いて  
くると「どう? 思い出した?」とディアナが口を尖らせて言った。  
「あ、ああ。そうだったな」  
 夜更けの訪問、告白、交歓が数珠繋ぎのように思い出されていく。ビュウは一通り思い  
出すと頷いて、「改めて、おはよう。ディアナ」と言った。  
「うん、おはよう。ビュウ。――でも、何だか恥ずかしいね。まるで新婚さんみたいなん  
だもの」  
 そして二人で笑い合って、「さ。じゃあさっさと起きて。朝ごはんの時間はもうすぐ  
よ」とディアナが言った。  
「ああ。ところでディアナは二日酔いとか無いか? 俺は頭が痛くてたまらないよ」  
「んーん。何か平気みたい。ふふ、お酒もたまにはいいかもね」  
 ビュウは頭を押さえながら起き上がってクローゼットから糊のきいた服を取り出すと手  
早く着込んでいった。  
 ふとディアナを見ると彼女もすでに衣服をまとっていたことにはまとっていたのだが、  
昨夜着ていた服そのままだった。きちんと整えられていたのでそれほど皺だとかいったも  
のは目立ってはいなかったのは幸いだった。  
「いいのか? それで」  
「へ? だってこれしか無いもの。まさか裸で食堂に行く訳にも行かないでしょ?」  
 けらけらと笑う少女だったが、これでは『昨夜“何か”ありましたよ』と喧伝して歩く  
ようなものだとビュウは思った。クローゼットに目を移して、ここから服を貸してやろう  
か。とも思ったがむしろ逆効果だと思い、すぐにやめた。  
「じゃあ、行きましょ! もうお腹ペコペコだもん」  
 ビュウに腕を絡めて笑う少女に、彼も苦笑いするしか他なかった。  
 
 目的地への道すがらもディアナはずっとニコニコと笑っていた。対照的におどおどして  
いるのは男のビュウの方で、自身の身体やディアナのそれを見やっては昨夜の残渣が残っ  
ていやしないかと気にしてばかりいた。  
 食堂の大きなドアをビュウが押し開けてディアナを先に入るように促したが、彼女はそ  
れを無視するとビュウの腕を引っ張って食堂へと足を踏み入れた。  
「みんな、おっはよー!」  
 朝一番聞いたのと同じくらい明るくディアナが声を張り上げた。食堂にあった瞳の全て  
が一瞬、こちらを向いた。そこに親しげに腕を組んだ男女(とは言っても、ディアナが一  
方的にしがみ付いていたのだが)を見ると徐々にどよめきが拡がっていった。  
「あら、おはよう。ビュウ、ディアナ」  
「お早うございます!」「お、お早うございます」  
 そんなふしだらなどよめきには加わらず、パルパレオスと向かい合ってスープを啜って  
いたヨヨがまず一番に二人に返事を返した。  
「ふふ、朝から仲がいいのね。――ちょっと嫉妬しちゃうわね」  
 ヨヨが含みをもったように笑ったがディアナも何のてらいも無く笑った。  
「そういえばヨヨ様。アレって本当だったんですね」  
「アレ? ――じゃあまさか昨晩? そういえば服も昨日のままのようだし……」  
「ええ!」  
 驚きに小さな瞳を丸くしていたヨヨもディアナの無邪気そうな笑みを見ると「おめでと  
う」と言った。  
「なあ、ヨヨ。アレとは一体何なのだ? そもそも昨晩彼女らに何があったのだ?」  
 ちぎったパンを持ったままのパルパレオスが話に割り込んできた。ビュウに視線をやっ  
たがビュウは気まずそうに目を逸らすばかりだった。  
「ふふ、女の子同士のひみつよね、ねえ、ディアナ?」  
「ええ。ひみつです!」  
 察しの良い者は彼女らの所作や会話から大体を把握したのだろう。ひそひそと話し合う  
声が聞こえだした。しかし当のディアナはどこ吹く風。さっさと配膳の列へ行こうとして  
いた。  
「あっ。ビュウはそこに座ってていいよ。私が持っていくから。――ミルクとコーヒーだ  
ったら、ビュウはミルクだったよね?」  
 途中、「なんだよ。まるで夫婦みたいじゃねえかよ」とラッシュにからかわれたが、デ  
ィアナは頬を染めて、はにかむと「えっ。やっぱりそう見えちゃうの?」と言った。思わ  
ぬ返答にラッシュは呆然と彼女の後姿を見送った。  
「おい! ディアナ、頼むから余計なことを言わないで、早く戻ってきてくれ!」とビュ  
ウは思わず叫んでしまった。悪いことにその声が自らの頭の反響して二日酔いの頭を揺ら  
した。うめき声と共にビュウは頭を抱えた。  
 その声にディアナは頬を膨らませて「だってしょうがないじゃない。あなたのせいで、  
まだ痛くて上手く歩けないんだから!」  
 一気にどよめきの色が濃くなった。これではすべてを白状したのと同じだ。しかしディ  
アナはニタリと笑うとビュウを見やった。  
「もしかして、これって失言だったりしました?」  
「ええ、すごく……」  
 ディアナのおざなりな問いにヨヨが首肯を返した。パルパレオスは訳も分からずパンを  
噛み締めていた。  
 
 食堂を満たすのはおおむね、この新しい恋人達を祝うような雰囲気だったが、その中に  
幾つか淀んだような恨みがましい視線が混じっていることにディアナは鋭敏に気付いてい  
た。  
 しかし、怯まずにそれほど豊かとは言えない胸を張って鷹揚に見返してやると、悔しげ  
な色を残してそれらの視線は消えてなくなった。  
(乗りたい風に乗り遅れた者は間抜け。――ええと、誰がそう言ったんだっけ?)  
 ふと、頭を抱えたままのビュウを見やると、自然と口元に笑みが浮かんできた。  
 
 
――――  
 

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