くすんだ金髪の男の股間に顔をうずめて、口いっぱいに彼の陰茎を頬張るのは対照的に  
きらめく金髪の女。  
 その彼女の薄い唇からこぼれる唾液が陰茎をてらてらと濡らしていた。  
 肉厚の舌の先っちょでカリをこそぎ落とすように舐め回し、鈴口から溢れ出す先走り汁  
を唾液と混ぜ合わす。舌でカリを何周かさせるとすると少し頭を離して亀頭へと舌を移し  
た。  
 最初はちろちろと焦らすように。やがて青年がじれったさに腰を浮かすと、それを待ち  
かねたかのようにまずごく軽く甘噛みして陰茎に唾液をさらにまぶしてねっとりと亀頭を  
舐めあげた。  
 頭上から堪えるようなうめきが聞こえると嬉しそうに顔を前後に揺らし始める。いつも  
は束ねてお下げ髪にしている髪も今は戒めから解き放たれ、汗とともに大きく閃いていた。  
淡いピンク色の唇は皮に吸い付いて陰茎を強くしごく。それだけでなく往復のたびに咥内  
を締め上げたり緩めたりして陰茎への刺激に変化をつけて、射精を促す。  
 それが数回も繰り返されると、青年の腰からは力が抜け、ガクガクと小さく震えだした。  
それを合図にラストスパートのように口でしごく速度をあげると咥内で陰茎が膨れ上がっ  
た。  
「うぉ……!!」  
 その叫びと同時に青年の鈴口からは大量の精液があふれ出して彼女の咥内を満たした。  
大きく頬を膨らませても堪え切れなかった精液は咥内からあふれ出して、唇の端からたら  
りと一筋の黄ばみがかった白濁汁の跡を作った。  
 こぼさないように注意深く咥内から陰茎を引き抜いて、ゆっくりと精液を嚥下する。彼  
女は喉に絡みつくようなこの味は最初の頃はどうも好きになれず男に促されて渋々飲んで  
いたが、今では美味しいものだとすら感じるようになっていた。  
 残った最後の精液をごくりと飲み干すと、ぷはぁ、とイカ臭い息を吐いて、  
「おいしかったです。ごちそうさまでした」と微笑みかけた。  
 青年も満足したのだろう。微笑を返して彼女の頭を優しく撫でた。フレデリカは嬉しそ  
うに目を細めた。  
 徐々に萎えだした陰茎。その鈴口から覗くぷっくりと表面張力で丸みを帯びた精液を目  
ざとく見つけると、ちゅっ。と亀頭に口付けをしてまた陰茎を咥内へと誘った。そして頬  
をすぼめて中に残った精液を吸い上げて嚥下した。  
「えへへ。おかわりもいただいちゃいました」  
 ラッシュはそんな彼女に大笑いをして、くしゃくしゃとその艶やかな金髪を撫でた。  
 
                   ◆◆◆  
 
 そもそも彼らがこのような関係を結んだのはつい最近のことだ。  
 それは全ラグーン、そして空の向こうすらをも巻き込んだ戦乱もようやく終結を迎え、  
それぞれが思い思いの道を選び出してそれなりの時間がすぎた頃でもある。  
 ラッシュはかつての戦友たちと商売を始めて、行商に交易にと様々なラグーンを駆け巡  
っていたし、フレデリカだってかつての軍のリーダー的な存在とそれなりの結婚をして、  
故郷にそれなりに小さな薬屋を開いていた。  
 ――彼らはいわゆる不倫という関係なのだ。  
 
 時間を少し巻き戻そう。始まりは些細なことだったのだ。そして悪意に満ち満ちていた  
のだ。  
 この話の主役の一人でもあり、そして薬屋の店主であるフレデリカだけでなく、その夫  
もまたラッシュの馴染みであり、そしてある意味恩師でもあったので彼らの店の仕入れは  
ラッシュらが一手に引き受けていた。そのため随分と仕入れ値は勉強してやっており、フ  
レデリカらもラッシュには信頼と感謝を覚えていた。  
 そんな折、ラッシュが彼女の夫――名はビュウという――に招かれて薬屋に立ち寄ると、  
当の本人は店先のカウンターで何か冊子と睨めっこしていた。  
 「珍しいじゃねえか」と挨拶するラッシュにビュウは「ああ。バハムート様にちょっと  
暇を貰ったからな」と笑った。  
 ふと、店を見回したがいるべき人がいなかった。どうやらこの薬屋の女将は近所までち  
ょっと買い物に出かけているらしい。女の“ちょっとした買い物”ほど当てにならないも  
のはないということはラッシュ自身が経験上、一番良く分かっていた。  
 戦後、神竜バハムートの寵愛を一際受けたビュウは全ラグーンを見守るという大役を任  
じられ、毎日忙しくラグーンを駆け巡っており、この薬屋――つまりは自らの家だ――に  
立ち寄るほうが稀なのだ。  
 ラッシュがさっそく用件を問いかけると帳簿を見てくれるように頼んできた。  
 とにかくビュウが言うにはいくら互いに理解があるとはいえ新婚夫婦がほとんど一緒に  
いないのは健全ではない。ましてや愛する妻が今どのような状況にいるのかを知らないと  
いうのは異常だ。そう考えた彼は少しでもフレデリカの近況を知ろうと帳簿を開いてみた  
が、どうも見方が分からない。そもそも薬屋が盛況なのか、それとも閑古鳥が鳴いている  
のか、それすらもよく分からないからちょっと見て欲しいというのだ。今から思えばかつ  
て軍にあっては雑務の全てを引き受けていた男には似つかわしくない言葉だったが、その  
時のラッシュはさほど気にも留めなかった。  
 
 ラッシュが帳簿に目を通すとすぐにおかしなことに気が付いた。それは自分が納めたも  
のとの計算が合わない品目があるということだ。たとえばラッシュが十納めたはずのもの  
が、八しか仕入れなかったというようなことになっているのだ。それも中毒成分が強い類  
ものばかり。中には強い麻薬的なものまであった  
 収支自体は自分が相当勉強してやっているから、一応帳尻は合うようになっている。  
 つまりフレデリカが商品を横流しているか、もしくは自らの懐にいれているということ  
に繋がっていく。  
 ラッシュはおそらく後者だろうと思った。なんとなくだが。  
 そもそもフレデリカは戦中から薬に依存しているケがあったのは有名な話だが、それは  
結婚と同時にきっぱりと断ったはずであり、なおかつ絶対に店の商品には手を出さないと  
夫と約束しているはずなのだ。  
 これは以前にビュウ自身から聞いた話であるのでほぼ間違いないはずだ。  
 しかし何の依存にしても、一旦頼り切ってしまったものから抜け出すのは並大抵のこと  
ではないのだ。もしかしたらフレデリカも逃げ切れずにとうとう約束を破ってしまったの  
かもしれない。  
 
「なあ、フレデリカ、お前の奥さんは最近身体の調子はどうなんだ? 薬依存とかまだ治  
り切っていないのか?」  
「あいつはそんなこと全然言ってないけどなあ。それに悔しいけどお前の方が詳しいはず  
だろ。仕入れでうちに結構来ているんだろ? まあ、薬依存に関してはもうきっぱりと止  
めたはずだ。――約束したしな。だけどどうしたんだ? 突然」  
 ――フレデリカはその約束を反故にしている! しかもそれを旦那には隠して!  
 確証は無いが、ラッシュにはなぜか確信が生まれた。不思議そうな顔をするビュウにラ  
ッシュは努めて平静を装って、  
「いや、別におかしなところは無えよ。実際、客も結構入っているみたいだしな。他のラ  
グーンでも噂は聞くだろ?」  
 ラッシュの言葉にビュウはにんまりと笑って「実はそうなんだよ。聞いてくれよ。前な  
んて――」とそれから小一時間は続くような惚気話を話し始めた。それをラッシュは適当  
に相槌を打ちながらも聞き流して、別の“あること”を考えることに夢中になっていた。  
 ――これをネタにすれば、なかなか面白いことができそうだ。と。  
 下腹部にどろどろとした鬱屈した血のようなものが降りていく。そんな気がした。  
 
 今から思えば、当初は別にラッシュにとってフレデリカ自身は大した興味の的ではなか  
ったのだろう。彼女への横恋慕なんてさらさら考えてもみなかったし、彼にとってフレデ  
リカはあくまでビュウの妻。あるいは昔馴染みの取引先。それだけだったのだ。  
 しかし、だからこそ今回のような考えを企てたのだとも言える。  
 決して、追いつけない背中、到達できない高み。その鬱屈した劣等感の解消。それこそ  
がラッシュがもっとも望んでいたことだったのだ。  
 そういえばラッシュはヨヨがパルパレスと結ばれたことを知った日、自らの初恋が破れ  
た悲しみと同時に笑い転げたい衝動にも苛まれたことがあった。それと同じだ。  
 
 数日後、遠くのラグーンに深い藍色あるいは漆黒の巨竜が飛び去っていくのを確認する  
とラッシュはあの薬屋へと竜首を向けた。ばさばさと翼をはためかせて降りていくと、戻  
るはずのないビュウが帰って来たのかと勘違いしたのだろうかフレデリカが慌しいように  
店から顔を覗かせてきた。  
「ラ、ラッシュでしたか。ビュウさんから思っちゃいましたよ」  
 鞍から降りて、竜を繋ぐラッシュに息を切らしたフレデリカが笑いかけた。その所作、  
あるいは笑顔はどこか人を和ませる雰囲気で、その上可愛らしかった。中にはこの笑顔を  
拝むために来る常連客もいるらしい。それを今から崩すのだ。  
 そう考えるとラッシュは妙に興奮してくるのを感じていた。  
「ところで今日は何のようですか? 仕入れならまだ余裕がありますし、注文期限もまだ  
猶予があるはずですよね?」  
 フレデリカにラッシュは深く深呼吸をして、ただ一言「帳簿、読ませてもらったぜ」と  
言った。  
 一瞬、きょとんとラッシュを見やるが、みるみるうちに顔色が変わっていった。笑顔は  
単に顔に張り付くものになり、やがてそれも崩れて消えてしまった。  
 そして搾り出すように「そ、それがどうかしたんですか?」  
「誤魔化すならそれでいいさ。ビュウに全部話すだけだからな。……あーあ、あいつ怒る  
だろうなあ」  
 震える手を隠そうともせずにフレデリカは俯き、「――何が望みなんですか?」と言っ  
た。彼に密告せず、イの一番で自分に告げてきたということは何か取引を望んでいるとい  
うことなのだ。  
 認めたも同然の言葉に内心、ガッツポーズを掲げながらラッシュは「分かるだろ。男が  
女に望むことなんて」  
 にやにやと笑う彼にフレデリカは背を向けて、付いて来て下さいと言った。そのとき小  
さく「最低」と言ったのをラッシュは聞き逃さなかったが、特に何も言い返さなかった。  
 
 薬屋の店先に閉店の札を掲げて、そこを抜け、台所脇の階段を上った先の突き当たりが  
夫妻の寝室だった。国を挙げての盛大な結婚式の際にカーナのお抱え宮廷画家に描かせた  
『仲睦まじい新婚夫婦』の肖像画が二人を出迎えた。  
 ほとんどフレデリカの独り寝にしか使われない寝台はしかしダブルベッドだった。ご丁  
寧に枕も二つ仲良く並んでいた。  
「へえ。なかなか綺麗にしているんじゃねえか。感心、感心。お、これあの時描かせた肖  
像画か。二人とも若いなあ」  
 ラッシュはあくまで扉の脇に立ち、無言を貫くフレデリカを部屋の中心へと誘った。念  
のため逃げられないようにするためだ。  
 自らの身体をまるで隠すように背を向けながらフレデリカが口を開いた。  
「あ、あの。まずは湯浴みでも……」  
「必要ないぜ。別に。俺は気にしないから」  
「でも、あの、やっぱり汚れていますし……。あの、ラッシュもドラゴンに乗ってきたん  
ですし……」」  
 見え見えの時間稼ぎにラッシュは内心苦笑しながらいちいち否定の言葉を返してやった。  
「俺のドラゴンは躾がいいからな。どっかの奴のとは違ってよだれを撒き散らさないから  
大丈夫だぜ」  
 かの人を小ばかにするようなラッシュの言葉に一瞬、フレデリカが目を剥いたが彼がに  
らみ返すとすぐに目を俯かせた。  
「さあて、納得してもらったところで、……まずは服を脱いでもらおうか」  
「……命令するつもりですか?」  
「いや、違うぜ。これはお願い。あくまでお願いだ。別に嫌なら脱がなくてもいいんだぜ。  
こっから先はお前の判断に任せるぜ。まあ、もしここで嫌われたら、悲しくて俺の口も軽  
くなっちゃうかもしれないけどなあ」  
「人の弱みにつけこんで……、最低……」  
「最低なのは『愛する旦那様』とのかたーい約束を反故にして、薬でアヘるどっかの奥様  
だと思うぜ。へへ」  
「最低……。最低……」  
 まるで自らを隠すように震える身体を掻き抱いて涙を流す人妻をラッシュはにやにやと  
眺めていた。  
 それから数分。  
 フレデリカは呼吸を落ち着かせ、鼻をすすると、のろのろと身を肌蹴させていった。  
 まずはフリルが可愛いエプロンドレス。水色の上着。そしてスミレ色のノースリーブの  
ローブ。徐々に病的なほどの白い肌があらわになっていくのを見ていると、確実に血液が  
下腹部へとたぎっていくのがラッシュにはありありと分かった。  
 最後に残ったのは上下の下着。清楚な彼女に似つかわしい純白。あるいは似つかわしく  
ない淫靡な透かし模様付のものだった。ラッシュは上ずる声を隠しながら「へえ。中々い  
い趣味しているじゃないか。それ高かったろう?」  
 部屋の中は陽光により暖かいくらいだったがフレデリカの身体はすでに震えを隠さなか  
った。そして「もう、お願い。何でもしますから。お願い。もう許して……」とついには  
板張りの床に膝をついて哀願を始めた。  
 ――何を今更……!  
 とは思ったがラッシュは「だから何度も言っているだろ? 別に俺は止めないぜ。お仕  
舞いにしたかったらすればいい。……そしたらお前とビュウとの仲もお仕舞いになるかも  
しれないけどな」と平静さを装って、言った。  
 フレデリカは弱弱しく立つと「最低……。最低……」と呟きながらまずはプラジャー、  
そしてショーツを脱ぎ捨てた。  
 
 ――フレデリカは美しかった!  
 少々、痩せぎすで少々骨が浮き上がって見えるのを覗けば彼女はほぼ完璧だった。桜色  
の小さな唇。大きすぎず、かといって小さすぎない乳房。ほどよくくびれた腰。そして何  
より形のいい尻。生憎、乳首と陰部はフレデリカの腕によって隠されていたが、その陰に  
あるものもきっと特筆すべきものであろうことは充分に予測できた。  
「それじゃあ、その手も外してもらおうかな」  
 その言葉に一瞬、びくりとして、泣きそうに潤んだエメラルド色の大きな瞳で見つめて  
きたが、ラッシュが言葉を翻す気がまったく無いと悟るとおずおずと隠していた裸体を、  
夫となった者以外の男に初めて晒した。もちろん彼女は初婚だ。  
 形の良い乳輪にぽつりと芽吹く桜の蕾。きらめく金色の茂み。たまらない羞恥に身をく  
ねらす所作が艶かしさを倍増させていた。その姿にラッシュはもう全てを放り投げて、そ  
の裸体にしゃぶりつきたいという衝動に襲われていたが、なけなしの理性で無理矢理抑え  
ていた。  
 ラッシュもダフィラのハーレム以来様々な女を抱いてきたが、フレデリカほどの女はい  
まだかつて出会ったことが無いようにすら思えた。こんないい女を物にしておきながら、  
ほったらかしにするような男はやっぱり馬鹿なのだとラッシュは思った。  
「……脱いだわ」  
「へえ。まだ綺麗な色してんじゃないか。やっぱり場末の娼婦とは比べ物にならないな。  
ま、比べるのも酷って奴だな。もしかしてビュウにあんまり抱かれていないんじゃないの  
かよ」  
「!!……そ、そんなこと無い!」  
 ラッシュが笑みを浮かべながらフレデリカににじり寄っていくと彼女は怯えるように後  
ずさり、思わずベッドへと倒れこんだ。それを追いかけるようにラッシュは彼女に覆い被  
さっていった。  
 ラッシュが彼女の桜色の唇を求めて顔を寄せたがフレデリカは最後の抵抗とばかりに顔  
を背け、一切目を合わせようとしなかった。ラッシュは嘆息すると幅広の舌で彼女の頬を  
舐めあげた。先ほどの涙のせいか塩辛い味がした。  
「ひぃ……!」  
 強張る頬に舌を這わせたままラッシュは乳房へと手を伸ばした。拒むように置かれた腕  
を片手で頭の上にねじり上げた。  
 実際、乳房はなかなか柔らかく、かといって弾力を失っていなかった。かなり心地よい  
もみ心地だった。白い肌もラッシュが揉みあげたところは紅潮して、フレデリカの呼吸も  
乱れ始めていた。やがて掌の中央に感じるこりこりとした感触。  
 ラッシュは一旦乳房から手を放すと。乳首を口に含んで唇でしごき始めた。それが何回  
か往復すると、口の中で固くぴんとたったしこりへと変わった。  
「くっ……。くひぃ……!」  
 迫り来る性的刺激をいくら下唇を噛んで抗しようとも隙間隙間からこぼれ落ちる煩悶の  
声は隠し切れなかった。その声にラッシュは勝ち誇ったように笑うと標的を変えた。乳房  
への愛撫を無骨な掌に任せて、ラッシュは乳房からヘソへと舌を這わせていった。  
 この頃にはフレデリカの腕から戒めは無くなっていたが、彼女の手は悩ましそうにシー  
ツを握り締めるばかりだった。  
「く……あひ……いやぁ……」  
 心地よさとも嫌悪感とも違う、むしろ両方が入り混じったねっとりとした感触にフレデ  
リカはたまらず声をあげ、すぐに口をつぐんだ。しかしその感触は確かに彼女の脳髄を侵  
食し続けていた。  
 陥没したヘソにすぼめた舌をねじ込み唾液を垂らしていく。見る見るうちにヘソは唾液  
に沈んだ。  
「ビュウさん……助けて……」  
 かすれたフレデリカの声にラッシュは猛然と顔を上げて、フレデリカの頬を掴んで無理  
矢理自分の方に向けた。  
「何、言ってんだ? 約束を破ったお前なんかを助けてくれるわけないだろ。それに考え  
てもみろよ。こんな場面を見られたら、お前タダじゃ済まないだろ? ここは割り切って  
愉しもうぜ。そっちのほうがお前も気持ちよくなれて得だぜ」  
「くう……、最低……。やっぱりあなたなんて最低よ……」  
「それはお互い様だぜ」  
 もちろん、ラッシュ自身だってタダでは済まないだろうがそれはあえて言わずにおいた。  
 
 それでもいまだ唇だけは拒もうとするフレデリカの頬を掴んだまま、無理矢理その瑞々  
しい桜色の唇を奪い、すぐに舌をねじ込んだ。  
 奥で縮こまっているフレデリカの舌に無理矢理、自らのそれを絡ませて、ついでに唾液  
もじっとりと絡ませた。それでもフレデリカは顔を背けようとしたため交じり合った唾液  
がこぼれ落ちていく。それでも抗しきれない刺激にラッシュの身体の下でびくん、びくん  
と時折彼女の身体が跳ね上がる。  
 やはり感度がいい女だと思う。  
(……こんな『いい女』をほったらかしにして果たすべき役目なんてあるのかよ)  
 唾液を絡ませながらラッシュはそう考えた。  
(やっぱり、お前はのろまで間抜けな男だぜ。お前の愛しい人は俺の下でこんなにも足掻  
いているんだぜ。それも知らずにあいつは……)  
 ラッシュは勝ち誇った、あるいはどこか優越感を感じさせる笑みを浮かべた。  
 戦時、ビュウに露骨に邪険に扱われても怒り一つ浮かべなかったパルパレオスのことが  
何故か頭に浮かんだ。  
(ああ、きっとそうだ。あいつに共感したのはきっと二度目だ。一度目はヨヨ様の虜にな  
ったこと。そして、いまこの瞬間だ)  
 
「くひぃ……あぁ……。もう、もう……」  
 もじもじと太腿をこすりあげてフレデリカが切ない声をあげた。ラッシュは愛撫を始め  
て以来、秘所には指一本触れてはいないのだ。たまらずフレデリカは白魚の指先をそっと  
秘所へと這わせたが、すんでのところでその指先はラッシュによって遮られた。  
「“もう……”。なんだよ?」  
 彼女の細い腕を掴んだラッシュがにやついた笑みを浮かべた。  
「くっ……、くうぅ……!」  
 悔しげに呻いても、じくじくと脳髄を蕩かす衝動は動きを止めずにフレデリカを苛んで  
いる。それを見越しているのだろう、ラッシュは唇、乳房、そしてヘソあたりには甘った  
るい愛撫は続けながらも決して秘所へとは手を伸ばそうとはしなかった。  
「触って……触ってください……」  
「へぇえ。どこにだ?」  
「くぅ……。ひどい……。最初からこれが望みだったくせに焦らすなんて……」  
 恨みがましい目でラッシュをにらみ付けるが、すぐに目を伏せ震える唇でおずおずと  
「お……おまんこ……です」  
「へへ。あいつはおまんこって言わせているのか」  
 ラッシュは優越感の笑みを浮かべたまま、秘所へと指を伸ばした。  
「あひぃぃいいいい……!!」  
 歓喜の叫びが部屋を満たす。固く勃起した肉芽は、もさもさとしたあるいはべっとりと  
淫汁にまみれた陰毛の中でもはっきりと分かった。  
「あひい。ひい……! やっぱり気持ちい。気持ちひいいいい!!」  
「へえ。結構弄っているのか? 中々大きいじゃねえか」  
 こりこりと肉芽をほぐして、数回しごきあげてやればフレデリカは口角から唾を飛ばす  
勢いで激しく喘ぎ声をあげていた。べっとりとした掌を服の裾にこすりつけ、柔らかな尻  
に両手の指を沈めると、ラッシュはフレデリカの下腹部へと顔をうずめた。  
「あ……? 止めちゃうんですか……」  
 一瞬、愛撫を中断された物足りなさからフレデリカだったがすぐに「あひぃ……!!」  
と悦びの声を張り上げた。ラッシュが肉芽を甘く噛んだからだ。  
 じゅるじゅると淫汁をすすり上げる音が部屋に響き渡る。秘裂はもじもじとしてラッシ  
ュの愛撫を待ち望んでいた。すぼめた舌の先端をちょっとだけ入れたり、抜いたりを繰り  
返した。そのじれったさにフレデリカは切なげに哀願の喘ぎ声を上げ、膣口からはさらに  
甘ったるい匂いを吐き出した。ラッシュは指先で淫唇を押し広げると、パックリと開いた  
膣口は男を誘うようにひくひくとしていた。ラッシュが息を吹きかけてみると  
「あひぃいいい!! 冷たいよおおおお。こんなの、こんなの、初めて……っ!!」  
「へへ。ビュウはこんなことやってくれないのか?」  
 『愛しい夫』の名前を聞いたフレデリカはハッ! と一瞬口をつぐんだが、答えるまで  
ラッシュが愛撫を中断するであろうことを感じ取ると「え。ええ。こ、こんなことはあの  
人はまるでやってくれないわ……っ!!」と絶叫した。それに気を良くしたラッシュはじ  
ゅるじゅると淫液をすすって、舌をすぼめて膣口に挿入した。人妻とは思えないほどに狭  
いその中は熱く彼の舌を締め付けた。  
「あひっ……あひっ。ひぃぃいいいいいいいい!! 気持ちいいよおおおお……ッ! 何  
これ! 何これ! こんなの知らないよぉ!!」  
 絶え間ない刺激にガクガクと腰が揺れる。しかし意識しているのか、それとも無意識な  
のか更なる刺激を求めるかのように下腹部をラッシュの鼻先に押し付けていった。それは  
びんびんに勃起して敏感になった肉芽がラッシュの鼻に押し潰される結果ともなり、異常  
なほどの快楽をフレデリカに与えていた。  
「ひ。ひ。狂う。狂う。狂っちゃうよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」  
 今まで以上にフレデリカの身体がガクガクと揺れると、ビクリ! と弓なりにしなり、  
一瞬硬直した。どうやらイってしまったようだった。ラッシュはにやりと愛液にまみれた  
顔を上げた。  
 
「はぁ……はぁ……。こ、これで約束通り、黙っていてくれますよね……」  
 荒い息を整えながら、フレデリカはベッドに横たわっていた。玉のように浮き出る汗が  
美しかった。しかしラッシュはニヤリと笑うと  
「何言ってんだよ。俺はまだイってすらないぜ」と言って立ち上がって服を脱ぎだした、  
するすると現れる裸体はビュウまでとは言わないまでも整っていた。筋肉だけをみるなら  
ばならばラッシュの方が逞しいだろう。指揮官を兼ねていたビュウとは異なり、常に最前  
線で剣を振るっていた彼の身体には数多くの傷が見えた。  
「あ。あぁ……!」  
 切なげな吐息を吐いたフレデリカだったがそれはすぐに驚きの声に変わった。現れたの  
は勃起してヘソまで反り返っているような逞しく雄雄しい陰茎。  
 どう見積もっても彼女の夫のものより遥かに大きかったのだ。  
 実際。ラッシュのは平均よりは充分に大きいし、加えてビュウのは平均よりもほんの少  
し小さいということを補足しておく。  
「あ、ああ。お、おおきい……」  
「へへ。ビュウのとどっちがでかい?」  
「それは……、それは……」  
 古い馴染みだ。連れ立って立小便をしたことや共に湯屋を訪れたことも一度や二度では  
ないので、自分のそれのほうが彼女の夫のものよりも遥かに大きいことは知っている。し  
かしその事実をフレデリカから聞きだすことはラッシュの歪んだ自尊心をくすぐるには大  
きく作用するのだった。  
 フレデリカは頬を染めて、言葉を濁したが、ねとついた唾液でごくりと喉をならして、  
爛々と期待と不安に打ち震える深い緑の瞳は一瞬だってラッシュの勃起した陰茎から放れ  
なかったのを彼は感じ取っていた。  
 ラッシュがフレデリカの上に覆い被さった。ラッシュの陰茎はフレデリカのヘソの窪み  
に引っ掛かっていた。彼は応えを期待せず、フレデリカの唇を求めた。しかし今度のフレ  
デリカは顔をそらすことなかった。それどころか、積極的に舌を絡め合わせてきた。これ  
には当のラッシュが一番驚いた。  
 しかし一瞬の逡巡のあとで得心した。  
(別に不思議じゃないな。こんなに若くて女盛りの器量よしがこうも亭主に放置されてち  
ゃ溜まっちまうのも当然だな。それを解消してやってんだ。実際、感謝されてもいいかも  
な)  
 ラッシュもようやく積極的に舌を絡めだした。ねちゃねちゃと二つ唾液が混じりあって  
いった。そして互いにごくり、ごくりと嚥下して腹に収めていった。  
 フレデリカのヘソに当てられた陰茎から先走り汁がどんどんとあふれ出す。先ほどの唾  
液とで、彼女の腹部はラッシュの体液でてらてらと輝いていた。  
 フレデリカのとろんとした瞳から頃合を悟ったラッシュが腰を引き、どろどろとして、  
まるで溶けてしまったような秘所へと狙いを定めた。彼女もそれを認識して、股を開いた。  
今まで以上の女の匂いが部屋を満たす。そしてラッシュの亀頭が蕩けきった膣口に触れた。  
「あふ……っ!」  
 異常なほど敏感になっていたので思わずフレデリカから声が漏れた。彼女はやがて来る  
であろう瞬間に備えて長い睫毛をまたたかせて目を瞑った。  
 一秒……十秒……三十秒……。  
 やがて、  
「あふうううううううううううううううううううううううう!!」  
 訪れた歓喜の瞬間。ラッシュの陰茎がフレデリカの膣を押し広げて侵入してきた。  
「あひいい……! おっきい……おっきい……。おっきいよぉ……! しかも長い……。  
こんなの初めて……! 裂けちゃうかも……!」  
 彼女の肉壁は強くラッシュを締め付けたが、それは決して不快、苦痛といった類のもの  
ではなく、間違いなく快感だった。それはフレデリカも同じだった。  
 侵入に屈せずに締め付けると思えば、誘うようにざわざわと陰茎を撫でる。そして温か  
くラッシュを包んでいた。  
 亀頭がこつん。と膣内の最奥を突付いた瞬間、ラッシュはこれまで以上の征服欲を感じ  
ていた。いつも自分より上にいて、そして決して追いつけなかった何かを叩き伏せた快感。  
自然と笑いが漏れた。  
 
「なあ、そういえば、さっきの質問に答えてもらってなかったな」  
「え……」  
「お前の旦那のものと俺のどっちがでかい?」  
「え……そんなの……」  
「別に応えなくてもいいぜ。それならもうこれでお仕舞いだけどな」  
「う……えっと、えっと」  
 ラッシュが腰を引いた。その瞬間、「あ、あなたのほうよ。……ラッシュの方がずっと  
大きい! ビュウさんよりおーきい!」  
 そう言うと、羞恥に今まで以上に頬を紅潮させ、フレデリカはぷいと顔を背けてしまっ  
た。  
 ――勝った! 俺は完全にあいつを超えたんだ!  
 ラッシュは今まで以上に笑い転げたくなるような衝動を抑えて、一旦、陰茎を最奥まで  
挿入しなおすとずちゅずちゅと水音を響かせて抽送を始めた。  
「ああああぁぁ。深くて、大きいぃいい! すごい。すごいぃいいい。こんなに気持ちい  
いの、私、知らないぃいい!!」  
 きらめく金の絹糸の一筋が汗で額に張り付いている。抽送しながらそれを外してやる。  
悦楽をだらしなく開かれた半開きの口からヨダレをたらしながら享受するその顔はたまら  
なく美しかった。  
 この頃にはラッシュの腰にはフレデリカの艶かしい足が絡みついていた。背中には白魚  
を思わせる指で爪を立てて。  
 ガンガンと腰を振りながら、ラッシュはもう一度、フレデリカの耳元に囁きかけた。  
「なあ。ビュウとどっちが凄い?」  
「も、もちろんラッシュ、あなたですうう……! あひい! もっとぉ……ッ!!」  
 即答するフレデリカに苦笑しつつ、ラッシュはまた抽送に意識を集中させていった。そ  
して思いついたように目の前で揺れる乳房にしゃぶりつき甘く乳首を噛んだ。  
「あひっ!」  
 その突然の痺れにフレデリカの身体が一際強くしなった。だがすぐに物欲しげにラッシ  
ュのぼさぼさ頭を自らの乳房へと押し付けていった。  
「あああぁ……!! こんなに、こんなに、セックスが気持ちひいものだったなんてええ  
……!」  
「そうだ。それはお前の亭主じゃない、この俺が教えてやったんだぞ。分かっているよな  
あ……!?」  
「はいいいぃ。あああ、素敵、素敵ぃいいぃぃ。ありがとうございますうううう!!」  
 互いの汗と体液でぬめる二人の身体はまるで溶け合った一つの身体のようだった。ラッ  
シュが唇を求めれば、フレデリカはそれと同時に彼の舌を求めた。舌が、唾液が糸を引い  
てぐちゃぐちゃとまみれあう。  
 ラッシュの陰茎が一際、奥に叩き込まれる。ラッシュは下唇を噛んでやがて来るであろ  
う射精を堪えていたが、このぐしょぐしょに蕩けきった、しかし心地よい締め付けを忘れ  
ない膣内にあってはそれも時間の問題だった。  
「くぅう! そろそろ出すぜ」  
「あひいいいい。出して、出して……膣内(なか)にたっぷり出してくださいいい!」  
 フレデリカが絶叫する。もはや自分でも何を言っているのか分かっていないのだろう。  
浅ましく恥を知らない願いを口にした。  
「出すぞ……!! たっぷり、孕むんだ。ビュウの子じゃない、俺の子をぉぉなあ!」  
 陰嚢からしぼりだされた滾りが陰茎の先端からほとばしって、フレデリカの膣内をそれ  
だけで満たし出した。それとほぼ同時に弓なりにしなり、そして崩れ落ちる彼女の身体を  
抱きとめて、ラッシュは満足げに笑った。  
「出てるぅう。いっぱい、いっぱい熱くて臭い汁がああ……。こんなに濃いの初めて……。  
これじゃあ、絶対に孕んじゃいます……。ビュウさんのじゃない……他の人の子を、ラッ  
シュの子を孕むんだわ……。いっぱい、いっぱい……。でも気持ちいい……」  
 収まりきらなかった精液がごぷりと膣口からこぼれて、シーツに消えた。  
 
                   ◆◆◆  
 
「これでもう黙っていてくれるんですよね……?」  
 気だるげにベッドに伏したままのフレデリカがぽつりと言った。どこか名残惜しい声色  
が混じっているのは気のせいだろうか。  
 シーツを一枚腰に巻いただけのラッシュは椅子から立ち上がり、窓から空を見上げた。  
白い雲が棚引いていた。その傍らを竜が一頭飛んでいた。  
「別にお前がそれでいいなら、それでいいぜ。……本当にそれでいいのならな」  
「ど、どういう意味ですか……」  
「そのままの意味さ」  
 ラッシュはベッドに近づいて、身をかがませるとフレデリカの細くなめらかな顎に手を  
やって、その唇を奪った。  
「え? ちょ……!」  
 フレデリカは身を強張らせたが、すぐに唇を放すと  
「それじゃあな。――そうだ。また明日の夜にでも立ち寄らせてもらうぜ。勝手口の鍵を  
あけておいてくれよな」  
「は……?」  
 そう言うとラッシュは手早く服を着ると部屋から出て行ってしまった。それからしばら  
くしてラッシュの騎竜の鳴き声と羽ばたく音が聞こえて、やがて小さくなって消えた。  
 独り残されたフレデリカは呆然と空を見上げていた。そしてやがて小さく頷いた。それ  
が意味するところは彼女にしか分からなかった。  
 
                   ◆◆◆  
 
「遅くなっちまったな……」  
 思わぬ商売上のトラブルで予定していた時刻を大幅に超過してしまったし、予定外の損  
失を蒙ってしまった。それは主にビッケバッケのキノコによるものだったが。  
 それでも大切な義兄弟を見捨てておけるほどラッシュは商売において冷酷になり切れな  
かったのだ。それはラッシュの甘さであり、そして美点でもあった。だからこそ彼の実直  
なところに惚れた人々が自然と集まってくるのだろう。しかし彼らは知っているのだろう  
か。ラッシュが弱みにつけこんで女を犯すような男だということを。  
 
 なめらかに夜を駆ける騎竜の上、ラッシュは目を瞑った。思い出されるのは昨日のフレ  
デリカの痴態。清楚で優しく幸福な夫人だった。しかしその実、歳相応の情欲をもてあま  
す哀れな女でもあった。  
『マジで惚れちまったのかもしれないな』  
 ――自然と苦笑が漏れた。  
 果たしてフレデリカはもう寝てしまっただろうか。それとも拒んで鍵を締め切ってしま  
っているだろうか。少なくともビュウは今、カーナにいる。それは確かだ。以前本人から  
聞いたし、なおかつ商売仲間のツテからも同じ情報を仕入れているのだ。今夜、あの薬屋  
にはフレデリカ一人のはずだ。無論、誰かが訪ねてきているかもしれないだろうが、その  
時は自身の“負け”だ。ラッシュには何となくそう思えてならなかった。  
 
 ――見えた!  
 夜の闇の向こう、ぼんやりと二階建ての建物の輪郭が見えた。しかし騎竜の上からでは  
明かりは見えなかった。  
 汗ばむ手綱を強く握って、一層スピードを上げる。鼓動も早鐘のように鳴っていた。  
 脇の空き地に降り立っても、まだ薬屋からは人の気配を感じることはできなかった。来  
客者用の竜舎には何もお繋がれていなかったし、店先はすでに締め切られていた。  
(まさか、どっかに出かけちまったのかよ……! ちくしょうめ)  
 おずおずと忍び足で裏に回ってもそれは同じだった。どこからも物音は聞こえては来な  
い。ただ、近くの藪からの虫々の声だけが聞こえていた。  
 そしてやがて目の前には勝手口の扉。銀色のドアノブがやけにぴかぴかに光って見えた。  
呼吸を整え、ゆっくりと手を伸ばした。  
 ――ガチャリ。  
 やけに大きな音と共にあっけなく扉は開いて、ラッシュを出迎えた。  
「く、くくくく……。なんだ。なんだ。くくく……」  
 腹の底からの笑い声を漏らしながら、ラッシュは扉の向こうの闇へと身を滑らせていっ  
た。  
 

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