「もうあの頃には戻れないの・・・」  
「それでもあなたは私にとって大切な存在・・・」  
 
かつて好意を寄せ、また寄せられていた相手からの言葉  
残酷とも言えるその仕打ちを青年は微笑み返す  
心に受けた衝撃を微塵も顔に出さず  
 
愛し合う二人が祝福の階段を登る  
その様子を途中まで見守っていた青年はそっと教会を立ち去る  
二人を祝福するかのように 二人の邪魔をせぬように  
右目に涙を浮かべ 左の頬を濡らしながら 淡い恋心と決別するように  
「俺は・・・うまくできたのかな・・・?」  
最後にそんな言葉を漏らした  
その様子を見守る少女が一人  
 
少女の名前は フレデリカ  
 
 
 
「はぁ・・・」  
自室で一人回想に耽るフレデリカ  
3人の様子が気になって教会に行ってみれば予想通りの、尚且つ予想外の光景を見てしまった  
ヨヨ様がバルパレオス様に好意を持っている事は一部の人を除き知れ渡っていた  
だからあの二人がこうなるであろうことは予想に難くなかった  
ただ自分にとって信じられないものが目に映るまでは  
「・・泣いて・・・」  
自分の想い人が泣いている  
国が滅びようと、どんな大怪我をしようと、センダックさんにセクハラを受けようと  
ただ前を向き進み続けてきた人が初めて後ろを向き泣いた  
その光景を見て自分の胸が締め付けられた  
そして私の中から囁く声が聞こえる  
「今駆け寄れば慰めてあげられるかもしれない  
 今駆け寄れば自分の事を見てくれるかもしれない  
 今駆け寄ればアイシテクレル      」  
 
「ハァ・・ハァ・・ハァ・・」  
私の中の色欲の声に耳を貸すまいと走った  
私の体のことなどお構いなしに全力で  
私の初めての全力疾走は随分滑稽だった  
自室に戻り息を整え天井を仰ぐ  
するとまた囁かれる  
「あの時駆け寄っていれば私の事を見てくれたかも知れな」  
「それは無いですよ・・・」  
頭を振って囁き声を振り払う  
あの時の自分の顔は醜かったに違いない  
人が傷ついた時を見計らって自分の欲を満たそうとする人の顔が美しいはずが無い  
そんな自己嫌悪と戦っていると何時の間にか日は沈み夕食の時間になっていた  
気だるい体を引きずりながら食事に向かう  
 
パンを齧りながらあの人を見る  
仲間と一緒になって和気藹々と食事をしている  
事あるごとにもう大丈夫なのかと聞いてくる仲間に  
「俺ならもう平気だからそんなに気を使わないでくれ」  
「本当に大丈夫だって」  
「みんな本当に心配性なんだから」  
「やめてください、ジジイ」  
と普段どおりに返していく  
私にはそれがたまらなく切ない  
辛くないはずがない 大丈夫なわけが無い  
笑っている顔を見るたびに泣いていた顔が鮮明に思い出される  
そんな堂々巡りをしていると  
「フ〜レデ〜リカ〜♪」  
「ひゃっ!?」  
いきなり後ろから抱きつかれた  
恥ずかしい程素っ頓狂な声をあげてしまった  
私にこんなことをする人は一人しか居ない  
「もう、びっくりするじゃないですか」  
「びっくりさせるために抱きつくんじゃないの♪」  
こっちの心境などお構いなしにあっけらかんと笑っているディアナが居た  
「あいつに随分と熱っぽい視線を送るもんだからなんか妬けちゃってさ」  
「いえ・・別にそんなつもりで見ていた訳じゃ・・」  
「おやぁ、見つめてた事は否定しないんだね」  
「あ・・うぅ・・」  
抗議しようとして一瞬で玉砕した  
彼女にはかなわないと思いながらもそれが不快だとは思わない  
「ところでさ」  
と言いつつ私の顔をむぎゅっと掴み  
「食事が終わったら話があるから自分の部屋で待ってなさい」  
「は、はい・・」  
声に怒気が混じっていたので私は素直に頷いた  
「よしっ、それじゃぁまた後でね  
 薬もちゃんと飲みなさいよ」  
そう言いながらディアナはあの人のところに駆けていった  
「私、何か怒らせるようなことしたのでしょうか・・・」  
記憶の糸を辿りながら少し硬くなったパンに齧りついた  
 
「まぁいくつか聞きたいことはあるんだけどね」  
「な、なんでしょうか?」  
自分の部屋で就寝の準備をしながらディアナを待っていると程なくして彼女は入ってきた  
約束していたとはいえノックくらいして欲しいと思いつつもなんとなく怒っているようなのでその言葉は飲み込んでおく  
そして尋問が始まった  
「まず一番目の質問」  
「はい、なんでしょう?」  
「・・・なんで走ってたの?」  
「・・・・・え?」  
自分が何かしてしまったのだと思っていた私は質問の意図がよく分からなかった  
確かに私は体が弱い  
貧血なんていつものことだし薬が無ければ普通の生活もままならにくらいに  
本来なら走るなんて論外  
そんな私が脇目も振らず走っていたのだから目立つのは考えてみれば当たり前だった  
そして私の体のことをよく知っている彼女がそれを目撃すればこの状態になるのは更に当たり前だった  
「え、えと・・あの・・・その・・・」  
私があの時の自分の状態をどう言おうかと考えていると  
「あたしはさ」  
突然ディアナが私の顔を見つめながら言った  
「フレデリカは頭が良いと思ってる」  
「頭がいいってどういう・・・」  
「あんたは自分の体のことを考えて行動できる娘だと思ってるってこと  
 周りに居た人の目もあるんだろうけど自分が倒れそうなことはしない  
 自分の体を無理に追い詰めたりはしない  
 そういう匙加減の出来る賢い娘だと思ってるの」  
確かにその通りだと思う  
私はこんな体だから周りにいる人は私のことを気にかけてくれる  
みんなには感謝しているし迷惑をかけたくないとも思う  
だから自分の行動を抑制するようになった  
「まぁその努力が結果に結びついてるかどうかは別としてね」  
「・・・///」  
「だからさ、安心してたの  
 仕方の無いところは別としても自分の命に関わるような無茶はしないだろうって  
 でも、ね・・」  
なんとなくディアナの顔色が悪い  
多分あの時の私のことを思い出しているのだろう  
「あんたが自分の体のことも省みずに走ってる姿を見て心臓が止まるかと思った  
 本当に・・・」  
ディアナの顔色がみるみる蒼ざめていく  
「何があったのか・・・話してくれるよね・・・?」  
私はこくりと頷いた  
ここまで心配させておいて何も言わないままなんて私のほうが耐えられなかったから  
 
私は自分の見たもの、感じたもの全てディアナに話した  
いや、ぶちまけたと言ったほうが正しいのかもしれない  
あの人の事を思い出すだけで胸が苦しくなる  
自分の感情の先走った説明をディアナは黙って聞いてくれていた  
そして一期後感情を吐き出していると少しだけ胸が軽くなった  
私はゲンキンなのかもしれない  
「そっかぁ、なるほどね」  
全て話し終えた後にディアナは一言そう呟いた  
「つまり今告白すればあいつを自分に振り向かせられるけど  
 そんなずるいやり方はしたくない、とそういう訳ね」  
「多分、そう・・だと思います・・」  
もっといろいろと渦巻いていたと思うのだけど掻い摘むとそういうことになる  
自分の中のもやもやを簡潔に要約してくれた友人に心の中で感謝しながら頷いた  
「でもさぁ、それってそんなにいけないこと?」  
ディアナは少し不思議そうに私を見る  
「心の穴を埋めた人とくっつくなんて別に珍しくも無いじゃない」  
「あの時の私は・・そんなに献身的じゃありませんでしたよ・・  
 もっと利己的・・と言いましょうか・・  
 自分で自分が嫌になる位自分勝手な事を考えてました・・」  
「それこそ考えすぎだと思うけどなぁ  
 そういう打算も恋愛には付き物だと思うし  
 とは言ってもあたしも経験あるわけじゃないからよく知らないけど  
 でもあんたが深く考えすぎなのはよく分かるわ  
 もっと単純でいいのよ  
 好きなら告白する その前のことも後の事も考えちゃダメ」  
「ちょっ・・まっ・・こくは・く・・な・んて・・」  
私はその光景を浮かべるだけでハルマゲドンを喰らったのかのごとく頭が真っ白になる  
「だから考えるなっちゅーに」  
と、頭にチョップを繰り出すディアナ  
痛いです  
「告白・・・してみようかな・・」  
「おりゃ?いきなりどしたの??」  
自分でも唐突だと思う  
でも考えて、煮詰まって、それで他の方に迷惑や心配をかけるくらいなら潔く砕け散ろうかと思う  
「前向きになったかと思えば随分後ろ向きな覚悟ねぇ  
 ま、でも悩むだけよりはましだわ」  
そういうとディアナはすっと立ち上がり  
「じゃ、明日に差し支えないように今日はもう寝ないとね・・・フフフ」  
「?」  
なにやら不適な笑みを浮かべながらディアナは自分の部屋に帰っていった  
少し怪訝に思いながらもこれ以上体を冷やすのよくないと思い私も眠る事にした  
 
 
「ハァ・・・ッ・・アッ・・ハァ・・」  
体が熱い 焼ける様に熱い  
 
ディアナが帰った後、私はすぐにベッドに入った  
するとしばらくして体に違和感を覚え始めた  
まず始めに動悸が少しずつではあるが速くなってきた  
ディアナと長話をしたしその時にあれだけ感情を吐き出したのだから興奮が残っているのだろうとあまり気にしなかった  
またしばらくして次に感覚の違和感  
いつも被っている毛布に、いつも着ている就寝服に、いつも身に付けている下着に  
全てに違和感があった  
全く感じたこの無い感覚に戸惑うが理由には心当たりがあった  
「ハァ・・ハァ・・や、ぱり・・いつも・の・ッァ・・りょっ・に・・」  
薬  
思い当たるのはこれしかない  
私はいつも食後に薬を飲む  
ただ今日は昼間の無理のことも考えて多めに飲んだ  
調合の比率は変わらないように細心の注意は払ったが多めに飲むのは初めてでどんな副作用がでるかはわからなかった  
それでも命に関わるようなものではないことだけは分かっていたので飲むことにした  
飲まなければ命に関わるのだから  
とはいえこの体の熱さは尋常ではない  
感覚も麻痺してきた  
「そぉ・・だ・・か・んぱ・・んに・・」  
甲板にでて体を涼ませれば楽になるかもしれない  
そう思ってベッドを出ようとした刹那  
「イッ・・クッ・・アッ・・ハァア!?」  
毛布 シーツ 服 下着  
その全てが私の体に一斉に刺激を与えた  
得体の知れない感覚が私の体を支配し全身の力が抜けていく  
「な・・に・?今の・・は・・」  
そう呟きつつも私は自分の体に起こっていることを理解していた  
恐らく、私は今絶頂というのを体感したのだろうと  
私だって年頃の女の子だ  
性に関する興味だってあったし実践したこともある  
全部ディアナに教えてもらったことだけど  
それでも《感じる》とか《イク》とかはよく分からないままだった  
「ハァ・・ハァ・・ハッ・ア・・ハァ・・」  
私は唐突に訪れた快感に呆然としながら余韻に浸った  
 
以前、もっと自分の体に効く薬はないかとディアナと一緒に資料を漁った事がある  
といっても半ば強引に立入禁止の書庫に勝手に入ってしまったのだけど  
私自身も冒険気分で楽しかったのは秘密  
私はそこでいろいろな本を見た  
体の傷を治す薬、体の傷が治らなくなる薬、神経を麻痺させる薬、体は麻痺させても感覚だけは残す薬  
薬と言うものは一歩間違えば毒になると聞いたことがあるけどその本には意図的に毒を作る方法が記されていた  
用途については思い出したくも無い  
唯一つだけ自分が調合している薬と材料や調合比率が似通っているものがあった  
「媚薬?」  
効果に関しての説明はいたって単純に  
「相手を壊し従順にする」  
とだけ書かれていた  
意味はよく分からなかったがこんな本に書かれているくらいだからきっとものすごく危険な薬に違いない  
私は自分の薬と媚薬とやらの相違点を探した  
すると一つだけ違いがあった  
材料の量だ  
この媚薬とやらを作るには私が一回で作る薬に使う量のおよそ10倍  
更に特別な機械で圧縮し濃度を高める必要がある  
自分一人で今の10倍の材料を取るなど到底無理だし  
仮に材料が集まったとしてもこの機械が無ければ媚薬自体が完成しない  
この事実を確認し私はほっと胸を撫で下ろした  
媚薬に関するページを読み終え本を閉じると  
「フレデリカ」  
ディアナに名前を呼ばれた  
「そろそろ警備の奴が来る頃だよ  
 あんまりあんたの体に効きそうな薬の本もなさそうだしそろそろ退散しよ」  
「そうですね  
 見つかったら怒られちゃいます」  
「そゆこと♪  
 それじゃ行こうか」  
「はい」  
「鉢合わせするのも面倒だし窓から出よ」  
ディアナと私は警備の人に見つからないようにそっと窓から出て家路に着いた  
私はもう少し意識的に見ておくべきだったのかもしれない  
最後のページの最後の行  
 
 
     尚、例え濃度が低くても常時服用すれば効果が現れるので注意すべし  
 
 
「ハァ・ハァ・・・ハァ」  
私は先の余韻に浸りながら自分にとっての初めての冒険を思い出していた  
最後の一文もしっかりと  
「もっと・・・ちゃんと・・みとく・・べきで、し・・た」  
後悔先に立たず 覆水盆に帰らず 後の祭り  
形容すべき言葉いくらでもあるがそれこそ後の祭りである  
それよりも今はこの状態をどうにかしたい  
一回イッたくらいではこの体が鎮まらなかった  
鎮める方法を私は知っている  
あとは実行するだけ  
ただそれだけなのに私は躊躇っていた  
「ハァ・・ハァ・・どうしよう・・声・・でちゃう・・」  
我慢するという選択肢は無い  
私の頭が 私の心が 私の欲が 先程味わった快感がその選択肢を一瞬で消去したからだ  
「そ、いえば・・たしか・・・」  
ディアナに聞いたことがある  
部屋と部屋の間の壁には防音材というものが組み込まれていて隣同士であろうと決して音が漏れない仕組みになっているという  
機密保持のための仕様なのだそうだ  
「ハァ・・ハァ・・」  
その事を思い出した私に最早躊躇いは無かった  
あとはこの体を鎮めるべく快楽に身を委ねるだけ  
そんなことを考える私はいけない子なのかなと思いつつも体は勝手に動いていく  
「ハァ・・アッハァ・・・」  
まずは右手で右の胸を揉む  
「ァハァァッ・ン・・ク・・フゥ」  
左手でもう片方の胸も揉む  
「あ・はぁあ・・・んっ・・ふぅん・・」  
両方の胸を揉みしだく 乳首が下着に擦れる それだけで意識が飛びそうになる  
「ああぁ・・んんっ・・・ひっ・・っくぅ・・」  
アソコから愛液が流れるのが分かる  
クリトリスが勃起し愛液で濡れた下着に擦れる  
私がイクまで時間が掛からなかった  
「アッ・アアッ・・ンッ・・イッ・・クゥ・・フゥン・アッアッアッアァアァアァァァァ!」  
 
 
「ァッ・・ハァ・・ハァ・・」  
私は二回目の絶頂を迎えた  
でもまだ体の疼きが止まらない  
私は後何回イケばいいのだろう  
不安と一緒に確かな期待が私の胸の内にあった  
 

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