神竜の住まう地アルタイル。いや、「住んでいた」地と言うべきか。
カーナ旗艦にしてオレルス救世軍旗艦、ファーレンハイト。
突如として空に現れた亀裂──そう、まさに「亀裂」としか形容しようがない空間の裂け目に吸い込まれたその艦は、今その空に漂っていた。
そして、彼らは今より決戦に赴こうとしている。
敵は己以外の神竜を姦計によりアルタイルの空より追いやり最強の力を手にした暴君。
名を「神竜王」アレキサンダー。
そして、この話はその決戦の少し前に起こった、一組の男女の物語である。
フレデリカの心は、乱れていた。
言った。言ってしまった。あの人に、告げてしまった。
今までずっと隠し続けていたこの思いを。
あの人が傷ついてるのを知っていながら、まるでその傷につけこむようにして。
なんという醜悪さ。
なんという浅ましさ。
そんな自責の念に駆られながら艦内の自分の部屋に隠れるように閉じこもる。
もとより無理な事だったのだ。彼に振り向いてもらう事など。
「……なんで私はあんな事を言ってしまったの……」
きっと彼が眩しかったからだ。
傷ついてもなお、前を向き歩き続ける彼が。
だから、自分の弱さも省みず彼に想いを伝えるような事を言ってしまったのだ。
所詮、自分は月。太陽に振り向いてもらうなど不相応な事だ。
「フレデリカ。少しいいか?」
フレデリカが自分を責め続ける中、「彼」がノックの音とともに彼女に声をかけてきた。
「ビュウ……さん……?」
「あぁ……悪いが開けてもらっていいか?」
いつもながらの、落ち着いた声。
愛しき彼の声に、フレデリカの心が高鳴る。
だが、すぐにその首を振ってその想いを否定した。
彼は優しい。だからきっと彼女に自分の答えを伝えにきてくれたのだ、と。
なにより──彼が自分など選んでくれようはずがない。他にも彼を慕う同僚は沢山いるのだ。
「あ、はい。わかりました」
内心の動揺を隠していつもどおりの様子を装い、フレデリカはビュウを迎え入れる。
……奇跡など、信じてはいけない。そんな事を考えながら。
奇妙な事に、ビュウは部屋の中に入った後もしばらく言葉を発さなかった。
それどころか、差し出されたお茶に手を触れようともしない。
きっと彼の事だ、どう伝えたら私を傷つけないかと考えているんだろう──フレデリカがそう考えていると、ビュウが唐突に口を開いた。
「フレデリカ。この間の、一緒に薬屋をやらないかという話だが……」
「……はい」
思わずビクリと肩を震わせる。答えはわかっているのに。奇跡など起こらないと知っているのに。
「あの後、色々考えてみたんだが……」
「はい……」
それでも、彼の口からその答えを聞くのは、とても、辛い。
だが、これは、私の罪。そう、彼の想い人を知りながら、彼に心を伝えてしまった私への──罰。
そして、彼は続けて言葉を口にした。
「俺は……フレデリカと一緒に薬屋をやってみたい」
──その言葉を聴いた瞬間、思考が、停止した。
ビュウは、そんな彼女に再確認するように、言葉を続ける。
「もちろん、フレデリカが嫌でなければの話だが……構わないか」
「ビュウさん……意味が分かって言ってるんですか?」
彼が、私を選んでくれるわけがない──そんな冷静な思考が、想いを無視して口から言葉を発する。
「分かってるつもりだ」
思考は、なおも抵抗する。
「私は体が弱いですよ」
「なら、俺が支えるまでだ」
「私はヨヨ王女みたいに美しくないですよ?」
「フレデリカだって美しいよ。ただ、美しさの種類が違うだけだ」
「私と一緒にいたって楽しくないですよ?」
「それは俺が決めることさ。俺はフレデリカと一緒にいるだけで楽しい」
フレデリカの言葉は、出すそばからビュウに否定される。
「……ビュウさんは、卑怯です」
どんな言葉を言っても引かないビュウに、思わずそんな言葉が口に出た。
「何をいきなり……」
急な言葉に戸惑うビュウに、フレデリカが言葉を続けた。
「だって、そうじゃないですか。どうして……どうしてそんな冷静にいられるんですか!
私がこんなに驚いて、ドキドキしているのに!」
言葉があふれ出す。──感情が、止められない。
「俺だって、ドキドキしているよ」
「だったら、どうしてそんな冷静な顔で……ッ」
フレデリカがビュウに反論をしかけるが、それを遮るようにビュウが答えを返す。
「俺は感情を表に出せないだけさ。戦竜隊の隊長としてそういう訓練を続けてきたからな」
「そんなの……信じられません……」
フレデリカが意固地になったように言い返す。
すると、ビュウは少し迷うような様子を見せた後──彼女を自分の胸元に抱き寄せた。
「え……?」
フレデリカが戸惑ったように、ビュウを上目で見上げる。
「……心臓の音が聞こえるか?」
照れているのか目線を外してそう言い放つ。
「はい……」
とても不器用で、だからこそ純粋な愛の伝え方に。
荒ぶっていた心が不思議なほどスゥッと収まっていく。
少しの間そうしていただろうか、唐突にフレデリカがビュウに囁きかけた。
「ねぇ、ビュウ。キスして、くれる……?」
「………………ダメだ」
フレデリカの言葉に、ビュウはしばらく悩んだ後に否定の言葉を口にする。
すると、彼女は悲しそうな顔をして呟いた。
「やっぱり、私を愛してるっていうのは……」
「そうじゃない……そうじゃないんだ。
今、キスをすると、その……行き着く所まで行っちゃいそうだから……」
普段のビュウを見慣れているものなら目を疑ったことだろう。
彼は耳たぶまで真っ赤にしながら、そう答えていた。
そんな彼が、フレデリカにはすごく愛しくて……そして、思わず答えていた。
「それでも……いいです」
「……済まない」
フレデリカに一言謝罪すると、ビュウは彼女の唇に唇を重ね合わせる。
「んん……んむ……んはぁ……んん……んふ……」
ビュウの舌とフレデリカの舌が互いに絡み合い、吸い寄せあうようにしてお互いの口内を蹂躙する。
「んはぁ……んふぁ……んふ……ぅん……ぷはぁ」
長い長い、恋人同士のディープキッスが終わり、互いに空気を求め合う。
そしてフレデリカが恥ずかしがるように言った。
「その……ビュウ、続きはベッドで……」
「……や、やっぱり、恥ずかしいです」
ローブを脱ぎ、ベッドの上で生まれたままの姿になったフレデリカが恥じらいを見せる。
「恥ずかしがる必要はない。フレデリカは綺麗だ」
そう言いながら、ビュウは彼女にキスをする。
「んん……」
そうして、フレデリカを安心させるように髪を撫でると唇を首筋に──そして、胸の膨らみにと移動させていく。
「ん、ふぁ、んぁ……なんだか、変な……感じです」
「どんな?」
「んん……なんか、体の……んふぁ……底から上がってくるような……あぁ!」
みなまで説明する前にビュウが乳頭を甘噛みすると、フレデリカが叫びをあげた。
「フレデリカの声は可愛いな……」
「ん、んはぁ…………し、知りません……ん、そ、そこは……あ、あぁ……」
フレデリカは照れたように反論するが、すぐにそんな余裕も無くなった。
ビュウの指がフレデリカの秘所に到達し、胸の膨らみと共にその場所を攻めはじめた為だ。
「ぅん……んん……んふぁ……ひぁ……んん……ふぁ……」
甘い声が部屋に響き、ビュウの指の動きと共に徐々にそのペースが上がっていく。
「んん、んふぁ、ぅんん、んふぅ、んぁ、あ、あぁ、ぁぁぁ……あぁぁああぁぁぁぁ!」
フレデリカが叫びをあげ、体から一瞬力が抜ける。どうやら一度果てたようだ。
「ん……ビュ、ビュウさん、ばかり、ず、ズルイです」
直後、フレデリカ鼻にかかったような甘い声でそう言うと、ビュウの股間に倒れこんで逸物を口に含んだ。
「ん……んふ……んむ……ろ、ろうれふか、ビュウふぁん……」
モノを口に含みながらビュウを上目遣いで見つめて、フレデリカが問う。
……その様子に、ビュウの理性が焼き切れかける。
「もう……少し……、裏を……吸い上げるように……む、むぅ……んく……」
ビュウの要望にフレデリカは従順に答えていく。
彼女の熱心な奉仕は、逸物に強力な快感を一方的に送り続ける。
「はぁ……はぁ……フレデ……リカ……一緒に」
危うく射精をしかけたビュウだが、理性を総動員してそれを押しとどめる。
「ん、ふぁ、ふぁい……」
フレデリカが逸物から口を外して横になると、ビュウがその足を掴み逸物を一気に突き入れた。
「んぁぁぁァァァァァぁぁぁッ!!」
フレデリカの喉から叫びが漏れる。同時に、その股間から鮮血が流れ落ちる
その声に、ビュウの動きが止まる。
──彼女の体を考えたなら止めた方が良いのではないか。
だが、ビュウの心を見透かしたようにフレデリカが語りかけてくる。
「やめないで……ください……これくらいの痛み、私は……慣れてますから」
「…………わかった」
あれだけの声を上げて、大丈夫な筈がない。
だが、彼女の想いを無駄にする事はできない。
ビュウがゆっくりと、そして静かに腰を動かす。
「んくぁ……ふぁぁっ……んひゃぁ……んぁぁぁ……んん……」
「く……はぁ……ぅ……くぅ……くぁ……」
だが、フレデリカの締め付けは非常にきつく、まるで搾り取るように彼の逸物を包んでくる。
「くッ……フレ……デリカ……もぅ……」
「はぃ……ビュウ……私も……」
共に高みに駆け上がっていく二人。
「ん……ぁ……あぁ……ビュ……ビュ……ウッ……あぁァァぁあぁァァァぁッ!」
フレデリカが果てるのとほぼ同時に……
「く……で、出るッ……!」
ビュウが彼女の中に精を解き放った。
「すまん……中に出してしまったな」
性交の余韻に浸っていたフレデリカに、ビュウが声をかける。
「……もし、子供ができたら一緒に育ててくれますか?」
「当たり前だ。……むしろ、育てさせなければ許さない」
軽い気持ちでフレデリカがそういうと、ビュウは間髪いれずに答えると彼女を抱き寄せる。
彼の腕の中で、フレデリカは思う。
──彼と共に生きて帰ろう。あの、懐かしいオレルスに。
──大丈夫、彼と一緒なら敵がどんなに強大だろうが負ける気はしないから。