ーポツリ  
と頭の上に冷たい物が降り注いだ。その冷たさに思わず空を見上げる。 
朝から曇ってはいたが遂に降り出してしまったのか。 
「降って来たか…」 
そう呟きながら持って来ていたカサを開いた。 
そうこうしている間にどんどん雨足は強くなって来る。 
「たまの寄港日ぐらい降らなくてもいいだろうに…」 
そんな風にぼやきながら歩いていくと、町の中心部にある広場に差し掛かった。 
天気の良い日には町の住人達の憩いの場になっているのだろうが、 
今は人影もなくただ雨の音だけが響いている。 
「ん…」 
その時、広場の中心にある植え込みの所に誰かが雨宿りしているのに気付いた。 
「あれは…」 
あの長い金髪と何処か儚げなあの姿。間違い無い。フレデリカだ。 
どうやらカサを忘れてしまったらしい。 
「フレデリカ」 
木の所まで近付き、フレデリカに声をかけると、 
フレデリカはこちらに気が付いてなかったらしく、 
一瞬、ビクッと震えてこちらを向いた。 
「あ…ビュウさん…え…えと…どうしたんですか…?」 
「いや、フレデリカが雨宿りしているのが見えてさ。 
カサ忘れちゃったんだろ?だから、この雨で困ってるだろうと思って」 
そう言いながら、カサをたたんでフレデリカに渡そうとした。 
だが、フレデリカは一瞬受け取ろうとしたが、すぐに手を引っ込めてしまった。 
 
「どうした?」 
「や、やっぱり…いいです。ビュウさんの迷惑になっちゃうし…」 
「いやいや、そんな事言わずに使いなよ。俺は別に気にしないから」 
「でも…」 
そう言ってフレデリカが何か言おうとした時、不意にフレデリカがくちゅんと  
小さなくしゃみをした。 
「ほら、このままだと風邪引くしさ。艦で返してくれればいいから」 
それにかこつけて半ば強引にカサを渡し、そこから立ち去ろうとした…のだが。 
その時、背中の方の服をぎゅっと握られているのに気が付いた。 
振り返るとフレデリカが俯きながら小さな今にも消え去りそうな声で何かを呟いている。 
「え、えーと。どうした?フレデリカ」 
「あの…その…二人で…使えば…良いんじゃないでしょうか… 
カサ…一本しかないですけど…」 
「でもそれって…」 
それは男同士とか女同士とかでやるもんじゃないだろうか。 
男女というのは何か色々とマズい気がする。 
そんな事を考えていると、フレデリカが少し焦った表情で言った。 
「あ、あの…ビュウさんがイヤじゃなければの話ですけど…」 
「俺は別に構わないけどさ…フレデリカは大丈夫なのか?」 
そう言うと更にフレデリカは俯いて、ますます声はか細くなった。 
「わ、私は大丈夫です…」 
「じゃあ行くか」 
そう言って俺はカサを再び開く。それと同時にフレデリカがカサの下に入ってくる。 
更に酷くなってくる雨の中。フレデリカと並んで俺は再び歩き出した。 
 
その後、その町のとある道では、 
顔を真っ赤に染めたプリーストが、顔が赤いのを風邪かと思って本気で心配するような鈍くて鈍くて仕方無いクロスナイトと幸せそうに、 
並んで歩く姿が目撃されたという。 
 
そして、その姿を不気味な笑みを浮かべながら眺める悪魔のごとき  
噂好きのプリーストの姿も。 
 

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