…ファーレンハイト 艦橋にて  
「・・・はい、これが今日の分の報告書です」  
「うむ、ご苦労だったぞビュウ。今日はもう寝てよし!」  
報告書といっても、今日も特にこれといった出来事はなかったのだが。  
それでも、毎日毎日リーダー気取りのマテライトに敬語を使ってこんなことをしなくてはならない。  
秩序のためだの規則のためだのと言っているが、正直堅苦しいだけと、ビュウの深層心理は語りかけてくる。  
 
だが、これさえ終われば思う存分休めるのだ。  
やっとのことで、決して心地よい訳ではないがベッドに横になれると思うと、気が楽になる。  
ビュウは、べっとりとしたような、心配されているような、そんな視線をセンダックから受けながら階段を下りていった。  
 
「…だから!何度言ったらわかるのよ!」  
「そういう君だって!何度言ってもわかってくれないじゃないか!」  
「(…ん?)」  
階段を下りると、廊下に響く賑やかな男女の口喧嘩。  
それは、毎日のように衝突するバルクレイとアナスタシアの『ヘビーアーマーとウィザードどっちが強いか』談義。  
これに巻き込まれると、ビュウやラッシュのようなナイトはもちろん、ルキアやフレデリカや…  
早い話、ヘビーアーマーとウィザード以外の人間は『どっちが強いか』を無理やり言わされる羽目になる。  
以前巻き込まれたトゥルースが『二人が喧嘩してるときは終わるまで姿を出すな』と言うので・・・  
ビュウは階段の壁に背中を寄りかからせ、喧嘩が終わるのを待つことにした。  
 
「もういいわよ!あんたみたいなウスノロはどーせ戦場のど真ん中で『はどうほう』食らって死ぬのがオチなんだから!」  
「ふん、堅いヘビーアーマーの後ろから魔法撃つことしかできないくせに。頼りになる壁がいなくなったら困るんじゃない?」  
「…自惚れないで!別にあんたのことなんか頼りにしてないわ!」  
そう言ったアナスタシアは、一瞬ぐっと下を向いた後、すっと息を吸って大声で叫んだ。  
 
「あんたなんかよりね、ビュウ隊長のほうがずっと、ずっと頼りにしてるんだから!!」  
 
…その言葉に、一瞬であるが、時間が止まった…気がした。  
へー、俺って頼りにされてるんだなーと思っているビュウを尻目に、バルクレイは小馬鹿にしたように話し出した。  
「ふ〜ん、そうかぁ、そうだったんだなぁ〜」  
「なっ、なによ…その目は」  
「いやぁ〜、べっつに〜」  
兜の向こう側でにやにやと薄ら笑いを浮かべるバルクレイは、勝ち誇ったように鼻歌を歌いながら部屋へと入っていった。  
「あ!ちょっと、バルクレイ!待ちなさいよっ!」  
もう後の祭。男の部屋に入られては、女の部屋にビュウ以外の男が入れないのと同様、女が入れるわけがない。  
悔しさと恥ずかしさを胸に、いつものように苛々しながら部屋に戻るしかなかった。  
…が  
 
「…それで、ビュウ隊長?いつからそこにいて、どこから聞いていたの?」  
 
「!!!」  
その、冷酷そうな口調の言葉が、壁越しにビュウの心臓を貫く。  
バルクレイには気づかれなかったが、アナスタシアにはバレていたようだ。  
 
「ビュウ隊長…そこにいるんでしょう?」  
その言葉に、ビュウは…  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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