「マテライトが、オレたちに戦いの基本とか、教えるんだってさ。」  
戦艦ファーレンハイトを取り戻した反乱軍一行。  
奪還作戦はみごと勝利をおさめ、ファーレンハイトは歓声であふれていた。  
そして、今は無きカーナ王国の重鎮マテライトによる規律演説へと移ったのだが…。  
 
「では、これはどうじゃ……まわれ!!」  
 
ポカーンと立ちつくすビュウを尻目に、他のメンバーたちは回る回る。  
どうやら、ビュウだけがマテライトの妙な規律演習についてゆけなかったらしい。  
 
「ガハハハハ!! ビュウ!!  
 規律と秩序というものがまぁ〜だ、分かっとらんようじゃな!!  
 リーダー気取りかなんか知らんが、おまえはせいぜい軍の雑用係じゃ!!」  
 
ビュウを貶めるセリフをはくと、マテライトは意地悪な笑みを浮かべ去っていった。  
去ったマテライトに代わり、タイチョーが小隊編成のつかみを手短に話し、  
それを最後に長かった演説会から解放された反乱軍の面々は、  
マテライトへの不満を口にしながら船室へと向かっていった。  
 
そんな中、一人だけ膝をついてうなだれている者がいた。  
白いローブを羽織り、きれいな金色の髪に小柄な顔が似合うプリースト、フレデリカだ。  
彼女はもともと体が弱く、薬に頼らなければならない体質なのだが、  
先ほどのマテライトの無理な回転訓練(?)が追い打ちをかけたのか、  
苦しそうに床にへばりついている。  
 
「フレデリカ、大丈夫?」  
 
そんなフレデリカを気遣って話しかけたビュウ。  
「ああ……ビュウさん…お気になさらないで……いつものことですから……」  
そういいつつ、彼女は震える手で茶色の薬瓶を取り出す。  
「でも…、ビュウさん、おねがい……このくすりを……」  
 
錠剤を口に運ぶことすら困難なフレデリカに代わって、  
ビュウは薬瓶から白粒を取り出し、彼女の口に含ませる。  
「……ありがとう。ビュウさんは優しいのですね」  
 
 
「ビュウ…。わしの部屋、船員室より近いから……。彼女、ベッドに寝かせてやって……」  
と心配性のセンダックの提案に従い、ビュウはフレデリカに寄り添い艦長室のベッドに連れていく。  
「センダック艦長…、ありがとうございます」  
「どういたしまして…。お大事にね、フレデリカ。  
 それとビュウ……、わし、クルーと船のメンテナンス確認…しておかないといけないから……」  
そう言い残し、センダック老師は艦長室を去っていった。  
 
さてフレデリカもこのまま休めばよくなるだろうし、と部屋を去ろうとしたビュウの背に声がかかる。  
「……あ、あの…ビュウさん…。…実はもう一つ……副作用をおさえる薬……が…ぁぁ」  
 
弱々しい声をあげたかと思うと今度は熱にでもうなされるように、  
フレデリカは苦悶の表情でベッドに突っ伏せてしまった。  
 
「…ぅぅう、ビュウ…さん、この、くす…り……」  
 
なにやらもう一つ薬を飲ませてあげないといけないようだと悟ったビュウは、  
ベッドの前までもどり彼女の様子をうかがってみる。  
はぁはぁと息づかいが荒くなったフレデリカの頬は軽く赤みをおび、  
その唇は冷たい空気をもとめるかのように甘くうごめく。  
ビュウはその様子に内心ドキリとしたが、今は彼女の介抱が先と不純な気持ちを押さえ、  
彼女の指をひとつひとつ開いていき、その手に握られた薬をとりだす。  
 
(これって、粉薬、だよな)  
 
それは白い紙包みにくるまれた粉末状の薬だった。  
粉薬を飲ませるためビュウは水を一杯もってくるが、そこでまた考えさせられることになる。  
今、フレデリカはうめき声をあげるばかりで、意識は朦朧とするばかり。  
 
(こんな状態で粉薬を飲ませようとしても、咳き込んでちゃんと飲み込めないんじゃあ…)  
 
と、そこまで考えたビュウは、その先にある方法に思いたどりつき、顔を赤くする。  
 
 
 
「くちうつし……しかない、か……」  
 
 
チャッ  
 
と艦長室のドアの鍵をかける。  
操舵士のホーネットは、操舵室の椅子に座って鼻歌まじりに日誌かなにかを読んでいた。  
多分、気づくことはないだろう。  
ほかの者も完全に出払っている。大方、甲板か船員室あたりで騒いでいるはずだ。  
これで、だれもこの部屋に勝手に出入りはできない。  
 
そう心の中で確認すると、ビュウはベッドに腰掛け、粉末と水を口にする。  
そして、うなされるフレデリカの頭を片腕で抱きよせるように軽くもちあげ、  
彼女の顔に自分の顔をそっと近づける。  
 
「はぁぁ…んっ………」  
 
唇が重なりあうのを最後にフレデリカのうめきは止み、  
かわりに口内に流れ込む液体を静かに受け入れる音が聞こえる。  
彼女のほのかな香り、すべらかな肌の感触、心臓の鼓動がはっきりと感じとれるその距離で、  
水に溶けた薬を少しずつ少しずつ、彼女の口内へと移してゆく。  
薬を求めての無意識下の動きなのか、赤ん坊のそれに似た人の本能によるものか、  
彼女の柔らかな桃色の唇はビュウを離すまいと吸いよせる。  
その大胆で熱烈な刺激と、彼女に断りなく不純な行為を行っているという背徳感で、  
ビュウの心臓は激しく脈動し、唇はさらなる刺激をもとめ揉みしだくように少女の唇にのしかかる。  
 
そうして甘美な陶酔に浸ること一時。  
ちょうど薬を流し終えたころ、彼女が苦しそうな顔をさせるのを見て、  
ビュウはその行為をいったん止める。  
呼吸をするために間を離した男の唇と女の唇に、  
ねっとりとした透明の橋がかかる。  
「ん、む……はぁ……」  
フレデリカの唇がなごりおしそうに空を食み、ビュウを誘惑する。  
彼とて、すでにその甘い感触の虜となっていた。  
 
(まだ、フレデリカも気づいてないかも)  
 
一度その行為に魅せられたビュウは、彼女の息がある程度整うのを見て、  
再びその唇に重なろうと軽く触れたのだが………。  
 
やや苦しそうな表情のフレデリカのまぶたはうっすらと開き、  
透き通るようなその瞳がビュウをぼんやりと見つめている。  
視線と視線が交わること、約3秒。  
「ビュウ……さん…」  
「え? ぇぁあああ!!!! ふ、ふふフ、フレデリカ!!!」  
「ビュウさんの顔が………私の顔と…近づいて………」  
「え、ち、違う!!! あ、違うと言うか、そ、そう!!! 薬を飲ませていたんだ!!!  
 フレデリカ急に意識失うもんなぁーいや〜よかったよかっ……」  
しかし、言い訳を取り繕うのを遮るように、フレデリカの腕がビュウの顔を抱き寄せる。  
 
二度目のくちづけ。  
 
一度目とは異なり、フレデリカ自らの意思でのくちづけ。  
ビュウもそれに答えようと、フレデリカを抱きしめ接吻を始めるが、  
すぐさま彼女の腕が二人の間を引きはがすように動く。  
 
 
「フレデリカ…どうしたの?」  
「ごめんなさい。ビュウさん…、手、震えてます………」  
「…あ………俺、こういうのなれてなくて……ごめん」  
フレデリカはその言葉を否定するように、強く首を横に振る。  
「ちがいます……。やっぱり、ビュウさんは、こんなことすべきじゃない……。  
 私、わかります。………ビュウさん。ヨヨ王女のこと、考えてる。  
 ……いつも嬉しそうにヨヨ様を見ていたから。…私はわかってます」  
己の心の迷いを見透かされたビュウは、つなぐ言葉が浮かばない。  
「……だから……、私はヨヨ様が戻るのをまちます。  
 だって、そうしないと、わたし、ヨヨ様と対等になれませんから………。  
 じゃないと……、ビュウ…さんは、わたしの…方を……向いてくれませんから………」  
最後の方は途切れそうなほど、か細い声。  
悲しいながらも、それでも天使の笑みを見せる顔を静かに涙が伝う。  
そして、ゆっくりと決意の言葉を紡いでゆく。  
 
「わたし、ビュウさんが好きです。  
 ……ビュウさんが私を選んでくれるか、わからないです。  
 けど、ずっと……ずっと、まってますから」  
 
 
「アニキィーーー!!!」  
 
怒声とともに砕け散る鍵付き扉。  
バチバチと火花飛び散る剣を携え、反乱軍の攻撃の要、  
ナイトのビッケバッケが部屋へと飛び込んできた。  
どうやらカーナ戦竜隊騎士の秘技『サンダーパルス』をわざわざ使ってまで、  
ドアをブチ破ってきたらしい。  
「おい、ビッケバッケ!! 帝国兵はどこだ!!」  
「ちょ、ちょっとお二方!! もっと慎重に…」  
ビッケバッケに続いて残りのナイト、ラッシュ、トゥルースが飛び込んできた。  
「あ、あれ? ビュウ隊長? 敵は〜???」  
「おいおい、おまえまさか…」  
「はぁ……だから私はちゃんと様子見し作戦立てから、と言ったのです!!」  
ビッケバッケの疑問に続いてあがる彼らのあきれ声。  
「だ、だってぇ、エカテリーナさんが  
 『ああ!! きっとビュウ隊長は、隠れていた帝国兵から不意打ちを受けて!!! 無念!!!』  
 なんていうんだもん!!!」  
どうやら、艦長室に潜む残存兵にビュウがつかまったという、エカテリーナの妄想を真に受けてしまったらしい。  
 
「なぁんだ、そうならそうと鍵なんてかけなけりゃいいのに…」  
 そうぼやく3騎士の目が、ベッドの上のフレデリカをとらえる。  
「ん? あ、フレデリカ。具合でも悪かったのか?」  
「…プリーストとクロスナイト。……男女2人。………鍵のかかった艦長室………」  
「なに言ってるんですか、トゥルース先輩。ビュウのアニキがそんなことするわけないじゃないですかぁ〜!!」  
少し発想力のとんだビッケバッケらの発言に、ビュウはビクリとするが、  
フレデリカのポツリと漏らした言葉で、そんなことを言ってられない状況であることに気づく。  
 
「あ……火が、燃えてる……」  
 
 
「おいビッケバッケ!! さっきのパルスの火花が延焼してるぞぉー!!!」  
「うわぁ〜〜!! どうしよどうしよ、アニキィ〜〜!!」  
「ちょおーーっと!! 二人とも叫んでいる暇あったら、早く助け呼んでくださいィイーーー!!」  
 
この後、艦長室に駆けつけたウィザードの氷魔法でことなきを得たが、  
その原因の予期せぬ乱入者のおかげで、二人の秘密の行為は知れることなく、  
うやむやになったとさ。  
 
 
 
もちろん、あとでカーナいちの金色鎧騎士に、こってりと搾られたことは言うまでもない。  
 
 

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル