「着替えを手伝ってくれないかい」  
 繭墨が唐突に言い出した言葉は正気を疑うものだった。  
「嫌です」  
「君は薄情だね。ボクが困っているのに助けてくれないのかい」  
「今まで一人で着替えていたじゃないですか。何で今更助けないといけないんですか」  
 いつものややこしいゴシックロリータの服が実際にどういう構造をしているのか僕は知らない。  
 繭墨はそれをいつも一人で着替えている。少なくともここにいるようになって、僕が知る限りずっと。  
 それなのに今になってそんなことを言い出すのは当然ろくでもない理由に違いないのだった。  
「ボクも体型が少し変化してきてね。最近一人で着ようとすると服を破いてしまいそうになるんだよ」  
「チョコレートばかり食べているから太ったんでしょう。これを機に節制に努めて下さい」  
「君は女性に対してとてつもなく失礼なことを言うね。増加したのは腰回りではなく胸囲だよ」  
 当たり前のことであるはずなのに、それはひどく現実味の薄い回答だった。  
 ふつうの女性に対する礼儀など気にするまでもないと一笑に付せば良かったのに、そのことの意味を考え込んでしまった。  
 繭墨は少女だ。  
 十四歳の。  
 本当に聞いたとおりの年齢であるのなら、第二次性徴がきても当然おかしくない。来ていないとそろそろおかしい。  
 でも普通の人間ならば普通のことであるはずのその事実は、繭墨の場合はひどく異常なことのように思えた。  
 出会ったときの繭墨は少女で、これからもずっと少女でいるように錯覚していた。  
 飾りの多いゴシックロリータは体型を隠すには優れているが、繭墨の身体にはさしたる起伏があるようにも見えなかった。  
 なぜか、ずっとそのままであるように思っていた。  
 その思いこみを、あっさりと粉々に破壊された。  
「君は今かなり失礼なことを考えているだろう」  
「いえそういうわけでは」  
 我ながら説得力の皆無な返答だった。  
「そんなわけだから小田桐君、手伝ってくれるね」  
 後ろめたい返答をした心の隙をすかさず突いた問いかけに、僕は思わず頷いてしまっていた。  
 悪魔だ。  
 
 そこで、目の前を唐傘が舞ったような気がした。  
 
 唾を飲み込む音が頭蓋に反響した。  
 目の前の光景は退廃的で美しく、いつぞやの夢のように現実感が欠落していた。  
 白が黒に映えていた。  
 普段全身を黒衣に覆っているためか、繭墨の肌は抜けるように白かった。  
 服の下から現れた肩から腕にかけての線はか細く、普段唐傘を自在に操ることが奇跡にように思えた。  
 人間の肌というよりは、良くできた白磁を見ているようで、落としたら簡単に壊れそうだった。  
 その儚さに、目を背けることができなくなる。  
 細い体の線を視線がなぞる。  
 自分の意志とは無関係に視線が泳ぐ。  
 凝視せずにはいられない。  
 繭墨の胸は、少女の膨らみをかすかに匂わせていた。  
 これで服が着づらくなるなんて絶対嘘だとわかるほどに淡く、だが確かに。  
 血の気のないその膨らみの先だけが、血を吸った桜のように紅かった。  
 視線を釘付けにしたその果実がゆらりゆらりと動く。  
 揺れるほどの膨らみではないから、繭墨が自分で動いていることはわかるのだけど、他のことが目に入らない。  
 ただ耳だけは、これ見よがしな衣擦れの音を捉えていた。  
 気がつけば、スカートも下着も靴下も脱ぎ捨てた裸身が目の前にあった。  
 胸だけでなく、腕や腿も大人の成熟からはほど遠い細身は、青い果実どころか白い果実というべきだろう。  
 だがそれ故に、怪しいまでに、危ういまでに美しかった。  
 傷一つ、シミ一つとてない身体は、何かに傷つけられるということが一度でもあったのだろうか。  
 以前渡された、ガラス球に入った血は、どこから流れたものなのだろう。  
 あらゆる怪異をはね除けるその身体は、物理的な衝撃にはひどく脆いはずなのに。  
 その完璧な身体に、二つだけ裂け目があった。  
 その一つ、なだらかな腹部の上にある臍は、繭墨が母胎から生まれた人間であるということを申し訳程度に主張していた。  
 説得力はまるでない。  
 生まれたときから繭墨あざかだったという少女に、母親の乳を吸っていた時代があったということすら信じられない。  
 果たして本当に母胎と繋がっていた痕なのかということすら疑わしい。  
 そして、もう一つ、臍から下腹部を下った真下、身体の中心に、生々しい裂け目があった。  
 繭墨の身体の奥深くへと通じているはずの、折り込まれたような、色の無い唇のようなそれは、血を流していない傷に見えた。  
「傷と言えなくもないね。ここから流れた血で君を助けたこともあるんだから」  
 
 魅入られたように跪き、傷口に手を伸ばそうとしていた僕の心の中など完全に読みきって、面白そうな声が降ってきた。  
 見下ろしているのか、見下しているのかわからない視線は、あざ笑うように歪んだ唇と相まって、凄絶な笑顔を形作っていた。  
 ただ、咎める色がまったく無い。  
「ここ……から」  
 あのガラス球の中にあった血は、ここから流れ落ちたものだということか。  
 その意味がわからないわけもなかった。  
 いくつも作るわけにはいかないというのは、月に一度しか作れないからに他ならない。「どうしたんだい?」  
 愉快そうな声は、飼い犬の躾をしているかのように優しかった。  
「触りたいんじゃないのかい」  
 おあずけをくっていた犬が主人の命令で動き出すときの快感とはこういうものなのだろう。  
「は……い……」  
 震える手を伸ばし、少女の傷口にそっと触れる。  
 余分な体毛など一筋たりともなく、精緻な白磁そのもののような造形は、触ってみると不思議なくらいに柔らかい肉でできていた。  
 繭墨の身体が、生きた人間の身体であることを、不意に理解した。  
 生きた人間の、女の身体であることを。  
 傷口の両側に指を当て、そっと広げると、今にも血が吹き出しそうなくらいに紅い入り口が覗いた。  
 今なお不可侵であることを示す襞で狭められたそこは、繭墨の玲瓏な肌表とは正反対の、生々しい花弁のような美しさを漂わせていた。  
 いつも繭墨が身に纏っているチョコレートの香りとは明らかに異なる、鈍く甘い匂いがした。  
 その重い匂いは、吸い込んだ脳髄の芯から脊髄を貫いて下半身まで痺れるような甘さで染みわたってくる。  
 どくり、と鼓動が心臓から下半身の一点に血液を送り込むとともに、腹の中で雨香が楽しそうに蠢いた。  
 暗い情念を食って、喜んでいる。  
 誰の情念か、考えるまでもない。この場には僕と繭墨しかいないのだ。  
 他ならぬ、宿主であるこの僕が、雨香が大喜びするほどの、暗い情念に侵されていた。  
 何をすべきか、何をしようとしているのか、今更のように自覚する。  
「ここまで背中を押さないと駄目とは、君のトラウマもなかなか深刻だが、ようやくその気になったかい。それじゃあ始めたまえ」  
 その言葉は、文字通り背中を押すようなものだった。  
 半ば無意識のうちに立ち上がると、にこやかに微笑む繭墨の顔が間近にあった。  
 身長の高い僕を見上げているはずなのに、紅い綱玉のように透き通る瞳は、僕を馬鹿にするように見下ろす気配でいっぱいだった。  
 息がかかるほどの至近距離で、ここまでまじまじと繭墨の顔を眺めたことは初めてだった。  
 わかっていたことだが、あまりにも、余りにも、人間の域から余るほどに、美しい。  
 鮮やかな睫毛に彩られた紅い視線だけで人の心を蕩かすには十分すぎて、普段は血の気の薄い唇は誘うような唾液に紅く濡れていて。  
 壮麗すぎる容貌に魅入られて、その引力にあらがえずに顔が近づいていく。  
 キス同然の距離になっても、繭墨は瞼を閉ざすことなく、僕の顔を、もしかしたら脳を見据えていた。  
 近すぎてピントが合わなくなった視界で、繭墨の左右の瞳がブレて、一つの瞳のように立体視される。  
 瞳の迷宮に閉じ込められ、世界から隔絶されたような気配を覚えた瞬間、最後の躊躇いが霧散した。  
 その紅い唇を食らうように唇を押し当てながら、たやすく折れそうなほどに細い両肩に手を掛けて、繭墨の身体を背後のソファに荒々しく押し倒した。  
 肘置きに膝の裏を救われた格好になった繭墨は、ほとんど開いたことが無いはずの両足を合わせきれず、両膝の間に割り込んだ僕の身体を止められなかった。  
「か……はっ」  
 背中をしたたかに打った繭墨の口から珍しく漏れた苦悶の吐息を、余すところ無く吸い尽くす。  
 繭墨の身体の中を巡ってきた大気が、僕の肺から全身を浸していく。  
 チョコレートまみれの身体を巡ってきたというのに、その大気は菓子の甘さではなく、花のように甘かった。  
 食欲にも似た本能的な衝動に駆られて、唇を貪り、間に舌をねじ入れて、ねぶるように味わった。  
 そうしていると、押し込んだ舌に大量の液体が乗せられるように流し込まれ、僕は反射的にそれを飲み込んでいた。  
「!?」  
 飲み込んでから、考えるまでもなく、それが繭墨の唾液だったと知る。  
 繭墨の血は神の血にも近しいと言われていたが、その唾液もれっきとした彼女の体液だ。  
 そんなものを嚥下してしまったという事実がどれほど恐ろしいことか、今の僕ならわかっているはずなのに、そのことを考える頭が麻痺して、喉の渇きのようなものに駆られてきた。  
 もっと欲しい。  
 もっと味わいたい。  
 もっと貪りたい。  
 
 唇から唇を離すと、顔といわず身体と言わず舐め始めた。  
 汗をかく機能がほとんど無いと言っていた通り、塩気はほとんど感じられなかった。  
 その代わりに、生々しい素肌の感触を舌先で余すことなく味わうことができた。  
 首筋から肩にかけての線を、舌でなぞるように舐めても、傷一つ無い肌は滑らかで、すべらかで、もっともっと先へと味わいたくなってくる。  
 左肩の丸みをこえて細い二の腕にたどり着くと、肌の下にある肉が堪能できる。  
 舌で軽く押すと弾むような感触があり、その細さも、中に骨が入っていることが信じられないほどに柔らかい。  
 不思議なほどに繭墨は抵抗一つせずに大人しくされるがままになっていた。  
 腕の内側に舌を這わし、右手で左手首を掴んで上にあげさせ、腋の下へと鼻先を押しつける。  
 そこだけはわずかに汗をかく機能があるらしく、かすかな塩味が舌をとろかす。  
 最上の舌触りに、上品な味付けがされた天上の料理となっていた。  
 唾液を飲み、汗を舐め、もっともっと繭墨の身体を味わいたいと渇きに駆られる。  
 気がつけば、左手は、繭墨の左胸を押さえていた。  
 そこには、極上の飲み物を供するはずのものがあった。  
 淡く、小さく、乳房というにはあまりに不足していても、そこは繭墨が、もしかしたら次代の繭墨あざかに与えるべきものが溢れてくるはずの場所だった。  
 今でも、それを吸えば出てくるのではないか。  
 そう思わせるほどに、先ほどまでは大人しかった桜色の果実は、ほんのわずかに、先を尖らせていた。  
 それは、舐めて、舐って、吸うためのものだ。  
 境界さえわからない低い丘の膨らみを舐めて確かめながら、腋から口元を動かしていく。  
 薄紅色の環のすぐ近くまで来たとき、間近でまじまじと見るために一時だけ口を離した。  
 人の身体の造形であることが信じられないほどに、その場所は蠱惑的で、そこに喰いつくという原初の衝動を煽らずにはいられなかった。  
 それがどれほど幼く、青いも同然の果実であっても、その衝動を止めることは不可能だった。  
 涎を零れ落としながら、舌を思い切り伸ばす。  
 本来なら純白の飲み物を溢れさせるはずの先端に何滴も液体がこぼれ落ちて、灯りを反射して目を焼くような光を反射させた。  
 限界だ。  
 顔から繭墨の胸に押しつけるように、その乳首に、むしゃぶりついた。  
 唇で挟み、出るはずのないものを出せとばかりにねだり、思い切り吸い付く。  
 欲しい、欲しい、欲しい、欲しいのに、出ない、出ない、出ない。  
 吸い方がわからなかった赤子の頃にそうしていたように、何度も咥え直してみるが、当然出るはずもない。  
 我慢できなくなって、思わず歯を強く立てた。  
「ん……っ!」  
 それまでどこを舐めてどういじくっても無反応だった繭墨の唇から、わずかに呻きが漏れた。  
 感じたわけではなく単に痛かっただけだろうが、それでも、今弄んでいるのが人形じゃなくて繭墨の身体だと改めて実感する。  
 そして、予期せぬことが起きた。  
 歯を強く立てすぎたのだろう、桜色の突起の先端から、その桜色よりも遙かに鮮やかな、真紅の乳が滲むように溢れてきた。  
 おそるおそる舌を伸ばし、舐める。  
 いつぞやに飲まされた狐の血に似ているような気がしたが、その美味さは別次元だった。  
 甘美だ。  
 チョコレート漬けになっているはずの繭墨の身体から溢れたというのに、その甘さは少しもくどくなく、さわやかで、まろやかで、やわらかく、わずか一滴で舌先から口腔全体に溢れるほどの芳香で、甘く甘く脳髄をとろかした。  
 母乳は血から作られると、どこかの雑学で見たような気がする。  
 ならばこれは、本当の意味で、原初の乳をすすっているようなものだ。  
 我慢できない。  
 ルビーにも似た雫が形を整える前に、乳首に吸い付いて、今度こそ、思い切り吸い上げた。  
 一滴でも脳をとろかすその血を、飲み込むほどに口にして、もう正気など保てない。  
 いや、正気など最初から失っていたのかもしれない。  
 赤子に戻ったかのように、貪欲に吸い尽くそうとする。  
「ボクは君の母親になったつもりはないのだけどね」  
 冷や水を通り越して、液体窒素でもぶっかけるような声が静かに響いた。  
 子供返りした僕の痴態を楽しんでいるのか蔑んでいるのか。  
 僕に蹂躙されている真っ最中だというのに、その瞳はどこまでも見下すものだった。  
「やはり不能の君には赤子のまねごとが関の山というわけかい。それはそれで深刻だが仕方がない。せいぜい赤子のように泣きわめくことだね」  
「誰が……不能だ……!」  
 赤子返りしていた頭に妙な火が灯る。  
 身体が中から燃えるように熱い。  
 
 以前から繭墨は僕のことを不能呼ばわりしていて、もはや聞き慣れた罵倒のはずだった。  
 どこまで本気で言っているのかはわからなかった。  
 密室の事務所に男一人女一人の環境にありながらまったく警戒していなかったところを見ると、本気でそう思っていたのかもしれない。  
 確かに、不思議なことに、これまで繭墨に欲情したことは一度もなかった。  
 心の中身は外道だからといって、常世離れしたその容貌と、艶やかに着飾った容姿に、少しくらいは情欲を抱いてもおかしくないのに。  
 いや、そもそもだ。  
 僕はいつから、女性に欲情しなくなった。  
 勃つことは勃つが、機械的に抜いて処理を済ませるようになってどれくらいになる。  
 振り返ってみれば、僕は果たして、静香にさえ欲情したことが一度でもあったか。  
 あさとが何かしたのかと真っ先に疑ったが、そうなったのはあさとに会うよりも前のような気がする。  
 だとすれば……、僕はもしかして、初めて、女に欲情しているのか。  
 組み敷いて、抑え込んで、手の中に収めているこの美しい身体を、自分のものにしたくて仕方がない。  
 繭墨が不能だと思うのなら、その間違いを身体で教えてやろう。  
 乳を弄ぶのをやめて、その下へと指を這わせていく。  
 下へ、下へ行き、たった一つだけ、繭墨の身体に刻まれた傷口のような割け目に、再び両手をかける。  
 入れてやる。  
 突っ込んでやる。  
 引き裂いて、突き込んで、一生消えない傷を刻んでやる。  
 ズボンの中では、これ以上ないというくらい堅く大きく膨らんだ肉の塊が、鼓動に合わせてひくついていた。  
 その直接的な衝動を味わっているのか、雨香が再び嬉しそうに蠢いた。  
 静香と僕の子供である雨香だが、どうやら浮気を咎める気はないらしく、むしろさっさとやれと煽るように腹を蹴った。  
 ズボンとトランクスを破り捨てるように脱いで、露わにした肉の杭を右手で掴み、繭墨の傷口に位置を合わせて狙いを定めた。  
 押し当ててみると、どう見積もっても、繭墨の割れ目の大きさは僕の膨らみきった亀頭より小さく、本当に入るかどうか疑わしいほどだった。  
 しかもお互い、まったく濡れてもいない。  
 だがいちいち愛撫などする余裕もなかったし、そんな優しいことをしてやるつもりもなかった。  
 僕を不能だと思った繭墨が悪い。  
 組み敷いたまま、亀頭の先端を繭墨の割れ目に押し当てたまま、両手で繭墨の両肩を押さえつける。  
 逃がさない。  
 泣こうがわめこうが、お前の身体は僕のものになる。  
 あるいは、ここで繭墨が泣き叫んでいたら、僕は止まったのかも知れない。  
 それとも、むしろ驚喜していたかもしれないが。  
 どちらにしても、もう止まらないところまで来ていた。  
「小田桐くん……」  
 繭墨が最後に、感情の読めない声で僕の名前を呼んだ。  
 その言葉を合図にしたかのように、僕は思い切り一切の容赦なく、自分の分身を繭墨の中に突き入れた。  
「うあああっ……!!」  
 紛れもなく、繭墨は堪えきれなかったらしい悲鳴を上げた。  
 何か大切なものを無残に引き裂いた感触があった。  
 引き裂いた後には小さく狭い感触が続き、そこへ無理矢理に押し込み、押し広げ、蹂躙する感触が続く。  
 性交にあるような滑らかさは欠片もなく、刃を肉に突き立てて無理矢理に身体の中に侵入しているのと大差なかった。  
 僕の肉にも締め上げるような痛みがたて続くが、それを凌駕するほどに素晴らしい天上のもののような達成感があった。  
「あ……ああああああっ!」  
 繭墨の身体が二三度跳ねた。  
 白い喉がのけぞり、苦痛に染まりながらも美しい悲鳴をあげて、彼女は僕に串刺しにされた。  
 そうして、傷口は、本物の傷となった。  
 破瓜の血が僕の肉杭を伝って流れ落ちようとするのを、繭墨は悲鳴を上げた唇を食いしばり、上半身を僅かに動かして、手近にあったコップで人ごとのように受けた。  
 繭墨あざかの破瓜の鮮血など、異能者にとっては百万の黄金よりも価値があるだろう。  
 月のもので僕を助けたように、何かに使うつもりに違いない。  
 しかし、そんな彼女の予定調和など、今の僕にはどうでもよかった。  
 下半身で串刺しにしたまま、繭墨の両脇から背中に両手を回して抱きかかえた。  
 いつも土台代わりに使われて走らされているので、これくらいのことは簡単にできる。  
 そうとわかるくらい、何度も繭墨の身体を抱きかかえてきたことに、その時は違和感を覚えなかった。  
 美しい早贄は自分の体重でさらに僕の杭を押し込まれ、痛みに耐えかねて背中を美しくのけぞらせる。  
 真紅の雫が、突き出された胸の先端で鮮やかな宝石のように輝いていた。  
 
 そうして、押し込めるだけ押し込んだ。  
 この小さい身体の中に、よくあれだけのものが入る。  
 自分の肉杭が繭墨の内臓を裂いてしまったのかと思うほどに、不思議な光景だった。  
 亀頭の先端に不思議な感触があり、繭墨の子宮の入り口にまで押し当てているのだと直感した。  
 子宮。  
 そうだった。  
 破って入れることはただの過程だ。  
 本当にやることは、この女体を孕ませることだった。  
 そのために、神のようにさえ崇められる少女の胎内に、僕の精液をありったけ注いでやらなければ。  
 細く狭く、まるで濡れていない少女の狭洞だが、破瓜の血で濡れて少しだけ滑りがよくなっていた。  
 これなら十分だ。  
 繭墨の身体を両脇で支えて、ぐいと一旦身体を持ち上げ、すぐに引き下ろす。  
 繭墨の内臓を掻き出すかのように途中まで引き抜かれた杭が、すぐにまた一番奥まで叩き込まれることになる。  
 それくらいは楽に出来るくらいに、繭墨の身体は軽い。  
 一度、二度、三度と、生きた自慰道具のように繭墨の身体を上下させる。  
 やがて、少女の身体は神ではなく人間らしく、最低限の自衛本能を働かせて潤滑液を分泌させ始める。  
 並の強姦よりもひどいこの扱いに、快感など覚えてはいないだろう。  
 打ち込んで快楽を貪ろうとする僕の動きを受け止めようと、せめてもの慰めで蠢動しようとする。  
 そのけなげな精一杯の抵抗が、なおさら僕の快感を煽る。  
 いつもならとっくに射精しているほどの状態なのに、繭墨の中が狭すぎて、なかなか解き放つところまでたどり着かない。  
 早く到達したくてなお一層繭墨の身体を上下させ、それにカウンターでも撃ち込むように機械的に腰を打ち付ける。  
 自分が杭の付属品になったように、がむしゃらに最奥を突く。  
 彼女の身体を貪っているつもりだった。  
 ほとんど無意識になりつつある寸前で、繭墨の表情に気づいた。  
 苦痛にあえいでいるかと思ったのに、まったく違った。  
 繭墨はまるで好物のチョコレートを噛み折る直前のような笑顔で僕に突かれていた。  
 喰っているのは、繭墨の方なのか。  
 咥えているのが上の口ではなく下の口だというだけで、彼女にしてみれば、チョコレートバーを味わっているようなものなのか。  
 美味そうに涎を垂らしている下唇だけが、いつもの彼女らしくない。  
 突いているのか喰われているのか、  
 掻き出しているのか、逃げようとしているのか  
 飲み込まれているのは身体の一部なのに、身体全体が繭墨の身体の中に飲み込まれているかのように感じる。  
 腰を打ち付けて肉を掻き分けるときに、杭の先を生々しくしごかれる快感が、脊髄から全身を走って頭まで焼き切れそうだ。  
 焼き切れてしまいたい。  
 焼き切って、身体の中にあるものをありったけ全部繭墨の中に解き放ちたい。  
 できることなら、全身を走る快感の通り、身体全部を繭墨の中に入れてしまいたい。  
 その願望を満たしたいという灰のような願望が、ますます腰の動きを駆り立てる。  
 奥へ、奥へ、もっと奥へ。  
 繭墨の身体を犯し足りない。  
 こんな狭いところじゃなくて、僕を弄ぶのならもっと広い部屋があるだろう。  
 開けろ、開けてくれ。  
 僕を、中に入れてくれ。  
 突いて、叩いて、こじ開けようとして、この姿勢では足りないとわかって、繭墨の身体を再び背中からソファに押しつけ、彼女の両脚を掴んで持ち上げ、全体重を繭墨の一番奥の入り口に叩きつける。  
「く……あ」  
 文字通りの暴行にあえいだのか、繭墨の中の口があえぐように蠢動して、僕の全身全てである先端を、とどめのように嬲った。  
「で……るっ……!」  
 
 焼き、切れた。  
 溜めに溜めたものが猛烈な勢いで肉筒を駆け上がり、膨れあがった杭の先を爆発させて、繭墨の中にぶちまける。  
 あの、繭墨の中に。  
 今まで味わったどんな快感も遙かに遠く及ばない、天上まで突き抜けて身体が解放されるような達成感が脳髄と全身を焼いた。  
 だがそのとき、吸い込まれたような気がした。  
 繭墨の中の口は、好物のホットチョコレートでも飲み干すように僕が吐き出した熱いホワイトチョコレートを、さも好物であるかのように、ごくごくと飲み込み、胎の中へと収めていく。  
 その嚥上する動きは、貫いているはずの僕の杭を搾り取るかのように摺動し、蠢動し、ついぞ記憶にないほどの回数長く、延々とした射精の継続を僕に強いていた。  
「うあああああああああ!」  
 10回か、20回か。  
 気持ちいいなんてものを突き抜けた強烈な至幸感が、いったいいつまで続くのか。  
 僕の身体からありったけの体液をホワイトチョコレートに変えて飲み込ませているようだった。  
 天上まで突き抜けた開放感の果てに、この身全てが繭墨の子宮に飛び込んで跳ね回っている幼稚で原初の幸福感へとたどり着く。  
 どれほど大量に注ぎ込んでいるのか、繭墨の細くなだらかだった下腹が、心なしか膨らんで見えるほどだった。  
 止めることを許されない射精が続き、やがて視界が真っ白になって気が遠くなる。  
 力尽きて、繭墨の身体の上に倒れ込む直前に、満腹までチョコを味わったような繭墨の笑顔が間近に見えた。  
「ごちそうさま、小田桐くん。美味しかったよ」  
 
 
 
 
 目の前に、紅玉があった。  
 一旦映像が頭に巡り、意識が再び遠くなってから、もう一度戻ってくる。  
 紅玉だと思ったのは、繭墨の美しい両眼だった。  
「ようやくお目覚めかい。君が肉布団で寒くはなかったが、さすがに重いよ」  
 重い瞳をゆっくりと巡らせてみれば、僕は全裸のままの繭墨の上に倒れ込んでいた。  
 肉布団とはよく言ったもので、繭墨の細い身体は手足の先まで僕にのし掛かられていた。  
 しかし、慌ててどいて動こうにも、身体の中心が拘束されたように動かない。  
 それは、ずいぶん萎えているはずの僕の男性器が、未だに繭墨の下唇にがっちりと銜え込まれていたからだった。  
 どれほど狭く細い中を無理矢理にえぐっていたのか。  
 入れたというよりも撃ち込んだようなものだ。  
「繭さん……」  
「なんだい」  
……謝ろうかと考えてから、その思考を振り払った。  
「いえ、なんでもありません」  
 どう考えても、繭墨は最初から僕を嵌める気だった。  
 嵌められた結果嵌めたわけだが、それで謝るのは癪だった。  
 たとえ、言い逃れできないほど暴力的な少女強姦をやった後だとはいっても。  
「そろそろどいてくれるかい。さすがに身体を流したいんだよ」  
 汗をほとんどかかない繭墨でも、僕の汗をなすりつけていたようなもので、さぞかし不快なことだろう。  
「わかりました……」  
 まだぼうっとしている頭を振り回して覚醒させ、ぐっと腰を引いて撃ち込んだ杭の名残を引き抜こうとする。  
 既に小さく閉ざされた繭墨の身体の内側を掻き出すかのように、ゆっくりと。  
 離れるのが名残惜しい。  
 繭墨の中にずっと浸っていたいという子供じみた衝動を振り払うように、力任せに腰を引く。  
 絡みついていた繭墨の下唇が、残念そうに僕の下半身をようやく手放し、名残惜しそうな音を立てて抜けた。  
 あれほどの暴行を受けたはずの割れ目は生々しく閉じて、処女であった先ほどまでと変わらないようにさえ見える。  
 ただ、その上のなだらかな下腹だけは、ありったけ注ぎ込んだ感触が夢で無かったことを物語るように、淫らに膨らんでいた。  
 それを証明するかのように、すらりと立ち上がった繭墨の内股を、白と紅が混ざった粘つく液がゆっくりと滴り落ちる。  
 繭墨はそれを軽く指で掬って、上の唇にパクリと加えた。  
 舌先でしばらく転がしてから、ごくりと喉を鳴らして嚥下する。  
「苦いね。上で味わうと美味しくないよ、小田桐君。  
 糖尿病患者の精液は甘くなるというから、君、いっそ糖尿病になってくれないか」  
「いやです」  
 断固としてお断りだ。  
 食材になるつもりはない。  
 大体、糖尿病になるとしたら僕より圧倒的にアンタの方が先だ。  
 
 繭墨は身体を洗い流すと、水気を拭いただけで服も着ずにソファーに座った。  
 精緻な少女体型を淫らに崩すように膨らむ下腹からは、もう白濁液が漏れてはいなかった。  
 あの強烈な狭さと締まりで、子宮に飲み込んだ僕の精液をほとんど逃さないでいるらしい。  
 さきほど滴り落ちたのは、僕が飲ませ損ねた、あるいは繭墨が飲み損ねたわずかな残りであったらしい。  
 裸身で座る繭墨と、その傍で真っ白に燃え尽きて座り込んでいる裸の男……僕だ。  
 いつもの事務所の光景が、それだけで異様すぎる。  
 脚を優雅に組み、その間から割れ目をかすかに覗かせている様はそれだけで扇情的で、全身全霊を注ぎ込んだはずの僕の杭はまた立ち上がってきたが、それを打ち込むための身体がまともに動いてくれなかった。  
「繭さんは……、なんでこんなことをしたんですか?」  
 当然と言えば当然の問いは、異様な光景の中で酷く間抜けなものに聞こえた。  
「何でとはまた妙なことを聞くね。理由なんて一つだろう」  
「そんなに欲求不満だったんですか」  
「ひどいね。それじゃあまるでボクが誰の男根でも受け入れるような淫売みたいじゃないか」  
 確かに違う。ビッチもあばずれも逃げ出す、腐れ外道だ。  
「君の男根ならば受け入れても構わないと思ったけど、他の男根を受け入れる気はさらさら無いよ」  
「僕のだから、入れた、ってことですか」  
 意外を通り越して疑わしい台詞だった。  
 繭墨が僕に恋愛感情など抱くはずもない。  
 そんなまともな思考回路が成立するような人間じゃないことはよくわかっている。  
「ひどい疑い様だね。これでも君をその気にさせるために僕はかなりの力を使ったんだよ」  
 力、というのは繭墨自身の異能の力だろう。  
 いつもの自分じゃないとは思っていたが、やはり繭墨は僕を罠にかけたのだ。  
「何しろ、君には性欲が無いからね、無いものを植え付けるには苦労したよ」  
 
 繭墨はまたとんでもないことを言った。  
「バカにしないで下さい。僕が不能でないことは今証明してみせたでしょう」  
「不能だよ。精神的には君は不能と言っても過言じゃない」  
「繭さんが僕をどういじくったのかは知りませんけど、僕は中学のころから勃起も射精もしています!」  
「確かに、君は生理的現象としては勃起していた」  
 また何か不穏なことを言われた。  
「僕のその……身体のことをよく知っているみたいですね」  
「何を言っているんだい。君の男根など見慣れているよ」  
「え?」  
 何か恐ろしいことを言われたような気がした。  
「裂かれた腹を治すときに服を着たままではできないこともあったからね。興奮状態で意識を失ったまま、男根だけが勃起していたこともあったよ」  
 嘘ではないだろう。  
 そもそもこういうことで嘘をつく繭墨じゃない。  
 だがこれはもう、男として泣きたい。  
「じゃあ不能じゃないってことはわかったでしょう」  
「とんでもない。君は女を犯したいと思ったことが一度でもあるかい」  
「犯したい、なんてそんなことは……」  
「抱きたいでも入れたいでも孕ませたいでも、言葉上の表現はなんでもいいさ。とにかく、女の身体に欲情したことが無いだろう」  
「そんな……」  
 ことは、ない。とは、言えなかった。  
 人並みに自慰もして、射精もしていたつもりだった。  
 だけど、同級生の男子とはどうしても話が合わなかった。  
 ヌード写真をやりとりし、付き合っている女との経験を自慢し、学校の女を品定めするような会話にはまったくついて行けなかった。  
 だからこそ、そんなどろどろした感情から離れて、あさとと静香と過ごした時間は、僕にとってはかけがえのないものだった、はずだった。  
 静香といえば、僕は、静香と交わったことはない。  
 静香に欲情した、覚えも、……ない。  
「兄上が言ったことの意味をボクなりに解釈してみたんだよ。兄上は、君だけが自分に何も望まなかったと言った。  
それは特別なことだったんだよ。余りにも特別なことだった。まともな望みを持った人間なら、あの力の誘惑に耐えられるはずはない。だとすれば答えは自ずと導かれる。  
君は、元より何も、望んでいない、欲望というものをまともに持ち合わせていないんだよ」  
 愕然となった。  
 繭墨と出会って、僕は様々なものを捨てて、それでも生きることを選んだはずだった。  
 そうですらなく、僕は最初から、生きていること以外に、何も持っていなかったということか。  
「自分で欲望を持っていない。だから人のため、人の望みのために動こうとする。  
自分がもたない欲望を他人の欲望で埋めていたようなものだよ。  
だからこそ、ここに来てからの君の活躍は縦横無尽になったのだろう」  
 なんて、ことだ。  
 この地獄に生きていくあの決意はなんだったのか。  
 僕は最初から何も捨てていなくて、ここにたどり着いただけだったのか。  
 こんな僕をかけがえのない者と思っていたあさとが、今更ながらに哀れに思えた。  
 特別でもなんでもない。  
 空虚で何も無い僕という影に囚われて、あさとは狂ってしまった。  
 笑いたくなった。  
 その笑いすら、精液を搾り取られた後の疲労でまともに顔が動かなかった。  
「理解してもらえたかい。そんなわけで、僕も目的のためにかなり苦労したんだよ」  
「目的?」  
「君も頭が悪いね。いや、生物としての本質を最初から持っていないから無理もないのだけど、せめて一般常識として知っておくべきだろうに。性交の目的は詰まるところ、子供を作ることじゃないか」  
 何だって。  
 つまりそれは、繭墨は、妊娠するために僕と交わったということだ。  
 繭墨が本気で計画して動いたのだとすれば、安全日である可能性はゼロだ。  
 排卵日きっちり、もしかしたらもう受精して妊娠しているかもしれない。  
 いや、繭墨のことだから、排卵さえ自分の思い通りに出来てもおかしくない。  
 超一級の美少女を犯して孕ませたという暗い事実に一瞬だが黒い達成感を覚えたが、  
その結論はこの歳で二児の父親になるというとんでもない事実だった。  
「何を考えているんですか!腹の中の肉に振り回されるのは御免だと言っていたじゃないですか!」  
 思わず叫びが口をついて出た。  
 先日、本家が女としての機能を期待しているという話があったとき、  
繭墨がそう言って全力で拒否していたことをよく覚えている。  
「惜しくなったんだよ。君を失うのがね」  
 繭墨の口から出たことが信じられない言葉だった。  
 繭墨にとって僕の存在は、便利で面白い道具以上のものであるはずがなかったからだ。  
 
「繭さん、……大丈夫ですか?」  
「ずいぶん失礼なもの言いだね。もちろん正気だよ。でなくばここまでお膳立てを整えてことに及んだりはしない」  
 それは確かにそうだろう。  
「今回僕は自分の死を偽装したけどね、歴代の繭墨あざかは全て殺されてきているという話は覚えているかい」  
 忘れられるはずもない。振り返れば繭墨と会ってからの日々がなんと鮮明なことか。  
「だからボクも遠からず殺される。そうなると君の腹を治すことができなくなって、君は寿命まで生きられないからね。  
ボクの後継を作っておく必要があると判断したんだ」  
「後継?」  
「繭墨あざかの娘が繭墨あざかであってもおかしくはないんだよ。元より繭墨の一族とはそういうものだ。  
少なくともボクの娘ならば、繭墨あざかにはなれなくても、君を治す力くらいは持っているだろう」  
 なるほどだが、しかしそれは結果であって目的ではない。ますますわけがわからなくなった。  
「繭墨の一族は近親相姦を重ねて血を維持していたように、異能の力は、人から外れるほど発現しやすいからね。  
ボクの娘の繭墨あざかが死にそうな歳になる前に、第二次性徴が出たところで、また君はその繭墨あざかを犯して娘を生ませるといい。  
その娘が死にそうになったらまた犯して次の繭墨あざかを生ませればいい」  
 繭墨は実に淡々と、およそ地上で想像しうる限り最悪中の最悪と呼べる非道にして外道にして鬼畜極まる所行を、僕に推奨した。  
 反吐が出るなんて言葉を通り越して、言葉だけで思考が停止しそうだ。  
「どうして……?」  
 辛うじて口が動いた。  
 繭墨が善意でそれを行うなどというたわけた幻想を抱けるほどお人好しではない。  
 繭墨が僕に好意を持っているなどとキチガイじみた想像を抱く余地もない。  
 繭墨は徹頭徹尾、自分が面白いかどうかを堂々と考える。  
 それに対する回答は、明確だった。  
「ボクのために生き、ボクのために死ぬようにと約束したはずだよ。  
寿命を使い切ることなくさっさと死ぬなんて楽な道を君は選んだわけじゃないだろう。  
それは、次にボクが生まれたときも、ということさ。  
次も、君が傍にいた方が面白そうだからね。  
ボクの娘、ボクの孫娘が子を孕めるようになったら速やかに次を作るようにしていけば、君の寿命が尽きるまでにあと四代か五代は稼げるだろう。  
そうしていけば、初代から隔世遺伝でボクが生まれたように、何代か後にまた、真の繭墨あざかが君の前に現れて再会できることもあるだろう」  
 紅玉の瞳が、楽しげに笑った。  
「そうすれば、ボクは次も君を傍に置ける」  
 地獄を抜けても地獄。  
 地獄が死してもなお地獄。  
 
 だがそれは、なんと甘美な地獄であることか。  
 
 
 
 繭墨の妊娠が知れ渡ることにより、僕の周囲はその地獄もかくやという修羅場になるのだが、それはまた別の話だ。  
 
 
終  
 
 

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