〔今からでてこれるか?少しドライブでもしないか?〕
帰宅してしばらくして、航河からメールがきた。
あっちも忙しい身なので、こうやっていきなり会えるようになるととても嬉しい‥
すぐに返事を送る。
〔私は全然大丈夫だよ!支度して待ってるね。〕
送信…
〜♪すぐに返事が返ってきた。
〔わかった。あと5分ぐらいで着く。〕
大急ぎで支度をして外に出る。
するともう見覚えのある、黒い車が止まっていた。
ドアを開け助手席に乗り込む。
「ごめんなさい!遅くなって‥」
「いや、来たばかりだから大丈夫だ。それに‥急だったからな。とにかく気にするな、行くぞ。」
「‥ありがと。」
シートベルトを閉めると、車が走り出した―
「いきなりだったけど‥大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫。航河は‥大丈夫なの?」
「ああ。今日はミーティングだけだったし、早く終わったんだ。それで‥お前の顔、見たくなったから。」
「そ、そっか‥‥」
そんなことを面と言われて照れてしまい、航河のほうを見れなくてうつむいてしまう。
口数が少ない航河だから余計言葉が重く感じ、嬉しいようなくすぐったいような気持ちで一杯になる。
「あ‥そういえばどこに行くの?」
照れているのをごまかして質問する。
「海が見たいんだ。ちょっと季節外れだし、夜だけどな‥」
「夜の海って好きだから楽しみだな‥」
それからオングストロームの皆さんの話や、食べ物の話などたあいもない話をしていたら、いつのまにか到着していた。
車から降りると、波の音が聞こえて目の前には海が広がっていた。
暗闇の中に溶ける海―果ても見えなくて夜空と区別がつかない。
数えきれないほどたくさんの星と波だけが白く輝いている。
「‥‥‥綺麗‥」
「‥‥ああ‥」
しばらくは何も話せなかった。
波の音だけが周りに響いて―
目も次第に慣れてきて小さな星まで見えるようになる。あまりのすごさに上を見上げてしばらく動けなかった。
―一瞬、風がすりぬけ寒気を感じて、体がブルッと震える。
「寒いか‥?」
それを見て航河が心配して聞いてくる。
「少しだけ、ね‥でも全然平気だから気にしないで。」
そう答え、また夜空を見上げると体にふわりと温かさを感じた。
航河に後ろから被さるように抱きしめられていた。
「こうすれば‥少しはあったかいだろ。だから…悪いが、もう少し‥‥」
「もう寒くないから‥私の事は気にしないでいくらでも見ていって。ありがとう、航河‥」
航河の気遣いが温かくて、心にしみる。抱きしめられて温かいのも事実で。寒さは感じられなかった。
そうしてまた沈黙がひろがった。
それなのに私の心臓だけがうるさくて。
航河に聞こえないか心配になる。
―突然、航河の腕に力が入る。頭が肩にのっかってきたのを感じた。
「航河?‥どうしたの‥?」
「………お前が‥お前が、この闇に消えていなくなってしまいそうで‥恐く、なったんだ…」
一層、航河の腕に力が入る。少し痛いくらいに締め付けられた。
「‥私、ちゃんとここにいるよ?…ね?」
そう言って手を、少し冷たくなっていた彼の手の上に重ねる。
少しは不安がとれたのか、航河の腕が緩まる。
航河のほうを見上げると、次の瞬間には唇が重なっていた―