■登場人物  
法縁(ほうえん)……僧形のカリスマ指圧治療師。金こそが正義。  
妖ノ宮(あやしのみや)……法縁の奥方。妖と人間の混血児。やんごとなき生まれ。  
榊(さかき)……慈院に所属する指圧師。法縁の部下。  
 
「法縁先生の超絶技巧性感あん摩〜カネの次に愛してる〜」  
 
妖(あやかし)と人間とが共生する、極東の神秘の島国“八蔓(はちまん)”。  
「かつて、八柱のオロチが蔓のように絡まり合い生まれた土地」とされる伝承が呼び名の由来である。  
その八蔓において、国内の医療市場を独占する存在が“慈院(じいん)”であった。  
慈院とは、老若男女を問わず、広く八蔓中に顧客を抱える指圧治療師の組合。  
医療技術がまだ未発達な八蔓にとって、貴重な医の担い手と言えた。  
彼らを統率するのは、余酪(よらく)地方の領主にして慈院総元締め“法縁(ほうえん)”。  
この男はしたたかな野心家で、医療の独占状況を好いことに甘い汁を吸う小悪党であった。  
法縁は筋金入りの守銭奴。  
頭首が自らに代替わりしてからは、慈院の運営を金儲け主義に走らせる。  
脱税、贈収賄……あらゆる不正行為と、神技の域とまで称される“癒しの指”の技術を悪用し、  
勢力拡大に成功してゆく。  
その狡猾さで頭角を現した法縁は更に磐石の地位を得る。  
八蔓の亡き英傑“覇乱王”神流河正義の遺児であり、半人半妖の美少女  
“妖ノ宮(あやしのみや)”を妻に娶ったのである。  
ちまたでは「大妖を母に持ち、強力な妖術を操る」と噂され、畏怖の対象となっている魔性の姫君。  
この弱冠十六才の姫君に法縁が気に入られ、互いに利害の一致した結果夫婦の契りを結んだのだった。  
時期を同じく“四天王”による覇権争い“四天相克”の混乱も収束。  
法縁、妖ノ宮の二人は一致団結し、八蔓の弱き民草からカネを巻き上げ続けた。  
 
――余酪地方、慈院本部。  
広大な敷地に堂々と構えた、閑静な趣のある高床式の木造家屋。  
屋敷の立派な外観からも裕福な暮らしが窺える。  
悪徳領主とその奥方が、それなりに楽しく幸せな新婚生活を送る住まいである。  
新妻の妖ノ宮は脇息に体重を預け、ひとり文机に向かっていた。  
お上を欺く為のインチキ帳簿を付けているのである。  
こうした悪事にも平然と手を染める娘ではあるが、彼女は見目麗しかった。  
まさに立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。背に流した光沢ある髪は黒蝶真珠。  
容姿だけを見れば、蝶よ花よと育てられた人畜無害な深窓の美姫。  
しかしその小作りな白い“かんばせ”の皮の下には、間違いなく毒婦の気性を潜めているのである。  
妖ノ宮が筆を置いて一息ついた時、荘厳な襖絵をあしらった襖が引き開かれ、和室に入る者があった。  
僧形の青年……夫の法縁である。  
「ヌフフ……今帰った、妖ノ宮。いい子に留守番しておったか?」  
「あら。お帰りなさい、あなた」  
往診から帰邸した法縁に、妖ノ宮は可愛らしく飛び付いた。  
「おっと。ヌフッ、どうした、わしが居なくて淋しかったか? ヌフフフ」  
ヌフヌフと不気味に笑いながら、幼妻の頭を柔かく撫でてやる法縁。  
つるりと剃り上げた坊主頭に、蛇を彷彿とさせる切れ長の細い眼。  
その下には商魂の逞しさと我の強さを表す鷲鼻、常に善からぬ企てをしていそうな吊り上がった口角。  
絵に描いたようなふてぶてしい面構え。  
身に纏うのは紫の法衣と、贅沢な金襴の袈裟。見るからに胡散臭い人物である。  
 
新たな金蔓を掴んだらしく、法縁は上機嫌であった。  
「喜べ、妖ノ宮。資産家からまた暖かい“ご支援”を頂戴したぞ!  
 ほれ、これは土産じゃ。包みを解いてみろ、おぬしの好きな団子が入っている」  
「わぁい、お菓子大好き」  
嬉しそうに土産を受け取り、夫の為にお茶を淹れた妖ノ宮は微笑んで相槌を打つ。  
「まったく笑いが止まらぬなぁ! 我が慈院は、大いなるオロチの加護を受けているのやも知れぬ。  
 ……ヌフ、ヌフハハハハ!」  
妖ノ宮は、嫁いだ法縁にうなぎ登りの上昇運気をもたらしていた。  
俗に言う“あげまん”である。今や慈院は、政界にも多大な影響力を持つ揺るぎなき組織。  
自らも時勢に乗ろうと、八蔓諸地方の名士が法縁に取り入る為に躍起であった。  
「ヌ、おぬし」  
と、不意に何事か気づいた様子の法縁が、妖ノ宮の顔を眺めながら目を眇めて言った。  
「ははあ、ちと顔色が悪いなぁ。疲れが溜まっていると見える」  
「そう?」  
法縁を見上げ、妖ノ宮は小首を傾げる。  
本人は頓着していなかったが、実際のところ彼女は心身ともに疲労していた。  
地方領主の嫁、また慈院の女将として、大勢の門弟たちを養う大世帯を切り盛りしなければならない立場。  
新しい環境の慣れない仕事に戸惑うことも多く、無理が祟ったのである。  
「どれ、久しぶりに施術してやろう。湯で身体を温めてこい」  
「……でも。あなたも疲れているでしょう? 往診から戻ったばかりだもの」  
「なに、おぬしに体調を崩されでもしたら、わしが困るのでな。  
 ゆっくりと……時間をかけて……揉みほぐして……癒してやろう……ヌフフ!」  
夫を気遣い妖ノ宮は遠慮したが、彼は意に介しない。  
――どうやら法縁なりに、妖ノ宮のことを心配しているらしかった。  
 
妖ノ宮が湯浴みを終えて戻ると、座敷はよく暖められ畳の上には既に布団が敷かれていた。  
軽くお香も焚いたらしく、心安らぐ芳香が彼女の身体をふわりとくるむ。  
すると僧装を解き白衣(びゃくえ)姿となって待っていた法縁が、  
蝋燭の淡い照明によってぼうっと浮かび上がった。  
陰影がついた彼はどこか胡乱な気配を醸し出している。  
「ほれ、ここへ来い」  
法縁の手招きに応じて、布団にちょこんと正座をする妖ノ宮。  
湯上りの妖ノ宮は、烏の濡れ羽色の髪を高く結い上げて纏め人外の証である尖耳を露わにし、  
着衣は薄い寝間着のみである。  
男を魅惑する甘い体臭を、彼女は辺りに漂わせているのであった。  
袖をたくし上げ、法縁は襷(たすき)を結んで腕捲りをする。  
「ヌフフ……だいぶ肩が張っておるのう」  
膝立ちになり妖ノ宮の背後に陣取ると、彼は肩の触診を始めた。  
「んっ、そこ」  
夫の指に押し揉まれた部位が痛気持ちよく、目蓋を閉じた妖ノ宮は思わず小さく鼻を鳴らした。  
法縁の手指が眉上で切り整えられた前髪を掻き分け、こめかみを押さえると軽く円を描く。  
「わしの指は癒しの指。力を抜いて、わしに全てを委ねるのだ。  
 ヌフ……雲オロチの腕に抱かれているが如き、極楽浄土へと連れて行ってやろう」  
愛妻の耳元でそう囁き、法縁はほくそ笑むのだった。  
 
生命維持の源とされる、生気と血液を“気血(きけつ)”と言う。  
この気血の循環系として、人体の隅々まで巡る道筋が“経絡(けいらく)”。  
経絡には主に正経と呼ばれる十二本の経脈があり、六臓六腑から出発し、全身を一巡りして再び戻ってくる。  
これらの経路上に沿って点在する要所が、所謂ツボ“経穴(けいけつ)”である。  
健康に変調をきたすと、それが経絡を通って関連ある経穴に伝わり、  
凝りや凹み、皮膚のざらつき、黒ずみ、冷えとなって現れる。  
指圧とは経穴を刺激することによって、内臓諸器官に働きかけ気血の流動を促進し、  
自然治癒力を引き出す手技療法の一つである。  
 
妖ノ宮の華奢な四肢が敷布の上に俯せになっていた。  
少しでも力加減を誤って扱えば、容易く折れてしまいそうな身体である。  
法縁はその細身に馬乗りになって跨った。  
すると、爪を短く切り揃えた指先で背の柔肉に位置を定めそっと親指を下ろす。  
彼の大切な商売道具が……じわり、と正絹に沈み込んだ。法縁の取穴(しゅけつ)は的確であった。  
「ぬりゃっ!」  
「……ぁ、ぅ〜っ……!」  
枕に顔を埋めた妖ノ宮が、えも言われぬ圧痛に押し殺した呻きを上げる。  
大和撫子ならぬ八蔓撫子である貞淑な妖ノ宮は、どうしても声を抑えてしまうのだった。  
「気持ち良いか、妖ノ宮? ヌフフフ、なあに、声を我慢することはない。  
 ほら、おぬしの後見人であった赤月の夢路殿のところの凪嬢。あれは実に良い声を上げよったなぁ」  
そう法縁に促されると、妖ノ宮は憮然とした。  
彼女にとって過ぎし四天相克は辛酸を舐めた時期であり、苦い思い出しかないからである。  
後ろ盾であった四天王・夢路は性質が荒く気紛れな男で、時に激しい折檻を受けたこともあった。  
「次はこちらの経穴じゃ!」  
「ぅん、きもち、ぃい……ぁっ、は、ぅ〜!」  
筋肉が弛緩したかと思った途端、また快痛の波が妖ノ宮に押し寄せる。  
 
法縁と妖ノ宮、二人の“えにし”を繋いでくれた、神流河の若手内務官僚・御月佐和人。  
彼は以前「法縁への施術依頼は、自分の俸給ではとても無理だ」と話していた。  
佐和人の言葉は正しく、慈院総元締め直々の指圧術ともなれば治療費は大変高額になり、  
王侯貴族にしか手の届かないものである。  
事実、法縁自らが指圧を施す得意先と言ったら錚々たる顔ぶれ。  
例えば法縁と同じ地方領主のひとり辰親(たつちか)や、神流河最大の敵国“古閑”頭領の古閑隼人。  
また、美味しい米の名産地として知られる、在田の英雄・子柴伊摩利に、  
多角的な事業によって店舗展開をしている、豪徳屋店主の束原恩次郎。  
もちろん決して法外な代金を吹っかけている訳ではない。  
カネの亡者である法縁とて、腐っても玄人の指圧師。  
慈院の頭首を務めるに足る技量の持ち主であり、多額の請求に見合う奉仕を提供しているのである。  
そして、その妙技をいつでも無料で味わえるのが、妻たる妖ノ宮の特権なのだった。  
 
よく鍛えられた柔軟な手指が、妖ノ宮の旋毛から爪先までを満遍なく揉みほぐす。  
「どうじゃ? 段々と身体が軽くなって来たであろう」  
「……ふぁ……は、ぁ……」  
桃色の可憐な唇から零れる、蕩けるような吐息。妖ノ宮はふわふわと夢見心地をたゆたっていた。  
切れ目のないゆっくりした指の加圧に合わせ、彼女は穏やかに呼吸をする。  
指圧の心は母ごころ、押せば命の泉湧く。  
法縁の愛情たっぷりな施術が、妖ノ宮に安心感を与え心身を癒す。  
筋肉の緊張はすっかり和らぎ、血流は良好、細胞が見る見ると活性化した。  
 
また法縁は、指圧の合い間に巧みな“あん摩”を織り交ぜて行った。  
優しく撫でさする軽擦法(けいさつほう)、押し揉み広げる揉撚法(じゅうねつほう)、  
筋肉を震わせる振せん法、関節を屈伸させる運動法、拳や手刀で軽くたたく叩打法(こうだほう)、  
患部に母指球(ぼしきゅう)を当て体重をかける手掌圧迫法。  
これらを絶妙に組み合わせた、律動感のある流れるような指さばき。  
時に微細に時に力強く、それでいて安定した熟練の動作。  
夢とも現とも判らなくなる快感に眠気を催し、いつしかウトウトと微睡む妖ノ宮であった。  
全ての工程を消化する頃には、彼女は健やかな寝息を立てていた。  
 
「……妖ノ宮、妖ノ宮。これ、妖ノ宮よ」  
「ぅ、……ん? ほうえん……わたし、眠っていたの?」  
法縁の呼び声に覚醒した妖ノ宮は、寝ぼけ眼を擦りながら布団から起き出した。  
「む、目覚めたか。さあ、これを飲め。わしの煎じた薬草茶じゃ。気分が落ち着く」  
言うと、法縁は茶盆を差し出した。  
妖ノ宮が眠っている間に淹れたらしく、湯気のたち昇る陶器が載せてある。  
「良い匂い……頂きます」  
渋く香ばしい風味を楽しみながら、妖ノ宮は法縁手製のお茶を啜った。  
発汗作用があるのか、すぐに身体の芯からぽかぽかと温かくなる。  
「おいしい。法縁、ありがとう。疲れが抜けてとても楽になりました」  
と、晴れやかな表情で彼女が礼を述べようとすると、法縁がそれを遮った。  
「さあて、では最後の仕上げといこうかの。襦袢も腰巻も全て脱いで横になれ。ヌフ、ヌフフフフフッ!」  
唐突な指示に一瞬きょとんとした後、妖ノ宮は頬をぷくっと膨らます。  
「……すけべ。今夜はいや」  
「はて、助平なのはどちらだか。わしはただヌッフフ!  
 施術の総仕上げに必要であるから、脱げと言っているまで。一体何を期待しておるのかな?」  
施術の一環だと言い張り、怪しい薄笑いを浮かべる法縁。  
そんな彼に疑わしげな眼差しを向けながら、渋々といった態で妖ノ宮は聞き入れた。  
「……厭らしいことはしないで下さいね」  
彼女が釘を刺すと、途端に法縁はニヤついて嘯いた。  
「ああ。しないしない! ヌフフッ、だからさっさと裸になれ」  
妖ノ宮は急かされて、寝間着の帯の結び目を戸惑いがちに解き始めた。  
すると、男の色好みな視線が彼女の肢体に絡み付く。  
「法縁、そんなに見ないで……私だって恥ずかしいの」  
「なんだ、今更恥ずかしがることもなかろう? わしとおぬしの仲ではないか!」  
「……生臭すけべ坊主」  
尖った耳まで紅潮させ、妖ノ宮は拗ねたように小さく毒づくのだった。  
ねっとりと鑑賞されながら衣の前を肌蹴ると、輝くばかりの玉の肌が現れる。  
妖ノ宮はまだ裳着の式を済ませたばかり。  
少女から女への過渡期にある彼女の艶やかさは、大輪の花に咲き匂う寸前の綻んだ瑞々しい蕾を思わせる。  
「相変らず愛い身体だな……妖ノ宮」  
しなやかな裸身に魅了された法縁は、我知らず咽喉を上下させていた。  
 
枕を布団から退かし、替わりに数枚の折り畳んだ手拭いを重ねて置く。  
生まれた儘の姿になった妖ノ宮は、それを顎の下にして腹這いに寝そべった。  
「眼福に与かる」、そんな感慨が湧き起こる後姿である。  
汗に湿った後れ毛が貼り付く白いうなじ、双肩はたおやかな輪郭を描き、  
くびれた腰の流曲線に続いて、小振りのむっちりした尻山。  
すらりと伸びた両手脚は無造作に投げ出されている。  
「よいか妖ノ宮、治療こそ我が命。そう万人の幸せこそが……いや、おぬしの幸せこそわしの幸せ。  
 ヌフ、ヌフフフ……ッ」  
わざとらしく殊勝な物言いをする法縁。  
……と、妖ノ宮の脊柱に彼の大きな手が静かに乗せられた。労わるような心地良い熱を帯びる厚い皮膚。  
ただそこに触れられているだけで、掌から放出される慈しみの“気”が体内に浸透するようであった。  
 
法縁は薬箱から硝子の小瓶を一本取り出した。  
開封すると粘り気のある液体を適量手に垂らし、暫く体温で暖める。  
「ゆくぞ、妖ノ宮よ」  
そう告げ、彼は眼前の雪肌に粘液を塗布し始めた。ひやりとした感触にびくん、と妖ノ宮が跳ねる。  
「ひゃっ、何ですか? ぬるぬるする……」  
「これか? ただの潤滑油だ。指の滑りを良くする、な」  
植物から抽出した精油を用い法縁自らが調合した特製潤滑液で、非常に高価なものだ。  
仄かに立ち込める陶酔的な香りには、催淫効果もある。  
背のこそばゆさに耐えかね、妖ノ宮はクスクスと笑い出した。  
「ふふふっ、くすぐったい」  
「こらこら、笑うな。いい子だから大人しくしておれ」  
震える脇腹にとろみを広めながら、法縁は彼女を叱った。  
少女の透明感溢れる肌が、彼の手によって次第に濡れ光ってゆく。  
 
柔らかな女体の背面に円滑油を丹念に馴染ませる。  
肉を掬い上げ放したり、握って絞ったり、波立たせたりと変化を付けながら  
筋肉の凝り、張り、むくみ等を取り除いて経絡を流す。  
上から下へ下から上へと、植物の薬効成分を染み込ませるように。  
やはり布越しに触れられるのと、素肌に直に触れられるのとでは違う。  
男女の肌同士の摩擦が、妖ノ宮にもどかしい劣情を喚起させるのだった。  
 
入念に下地を作ってから、頃合を見計らった法縁は妻に話し掛ける。  
「覚えておるか? わしら二人の祝言、おぬしの白無垢姿は美しかったのぉ」  
「……いきなり、どうしたの?」  
顔を起こし、妖ノ宮は訝しげに答える。  
「初夜の床では見物であったなぁ。  
 いつもツンと取り澄ましている面貌が、わしの与える快楽によって歪む様は……」  
「へ、変なこと言わないで……ぁんっ」  
妖ノ宮の花唇から、突如悩ましげな悲鳴が漏れた。  
細腰に顔を寄せ、法縁がフーッと息を吹き掛けたからである。  
著しく感度の鋭くなった皮膚は、僅かな刺激にも敏感に反応した。  
「ぁ、駄目ぇ、そのっ触り方、やだ……!」  
体表を羽毛で掃くような法縁の指の距離。その動きは愛撫の様相を呈してゆく。  
「この淫乱めが。ヌフフッ!」  
元来細長い双眸をさらに窄め、彼は満面の笑みを湛えながら妖ノ宮の羞恥心を煽った。  
 
「嘘つき、厭らしいことはしないって約束したのに。法縁のはげ。つるっぱげ!」  
「ヌフ!? 禿げ、禿げとな? まさか女房から禿げ呼ばわりされるとはなぁ。  
 わしはもう立ち直れぬ。……ヌフハハハッ、こいつ! こいつめぇ」  
焚き付けられた法縁は哄笑しながら反撃に出た。  
仙骨付近にある窪みに指を添えると、ぐっぐっ、と慣れた手付きで押し揉み始める。  
「あっあっ、やぁんっ」  
すると、まるで釣り上げたばかりの鮮魚のように妖ノ宮の身がピチピチと跳ねた。  
腰周りに分布される経穴は、特に婦人科系の疾患を改善する効能を持つ。  
一方で、性感の高揚にも活用することが出来るのだった。  
「ほうれ、ほうれ! どうした、そんなに尻を振って?」  
格言にも「女は耳で恋をする」とある通り、女人とは聴覚情報によって性的興奮を得る生き物。  
卑猥な言葉を浴びせ掛けられながら受けるあん摩は、堪らないものである。  
少女の性感帯を掌握した法縁は、鈴を転がすような愛らしい喘ぎ声を次々に引き出していった。  
「それにしても、けしからん。実にけしからんなぁ」  
法縁は言うと、粘液でテカったぷりぷりの尻たぶを鷲掴みにする。  
「けしからん尻じゃ。ようし、こうしてくれる!」  
「ぁう! いやぁっ……あっぁあ」  
彼は実に楽しそうに、弾力ある円やかな双臀を捏ねくり回した。  
 
如何わしい行為が本来の目的で、治療は最初から口実に過ぎなかったのだ。  
法縁の桃尻への責めは執拗であった。何という尻への執念。  
潤滑液のぬめりを使い、法縁は指で尻の割れ目を往復させた。  
また力んで凹んだ尻えくぼや足の付け根を圧したり、菊蕾に指先を当てて振動させたりすれば、  
妖ノ宮はいじらしい嬌声を上げた。  
「やっだめっ、ほうえん、法縁ったら。……妖怪髪なし! すけべな人は嫌い。  
 もうっ……お、おしりやめてぇ……っ」  
内腿のかなり際どい箇所にまで触れられた時、とうとう彼女は本音を洩らす。  
「……嫌なの。顔見えないの、いやぁ……あなたの顔見たい……だから」  
「よしよし。では前もしてやろうな」  
涙目になって請われた舌足らずなおねだりに、法縁は嬉々として応じる。  
彼の言葉を聞き妖ノ宮は気怠げに上体を起こした。  
すると法縁の首に細い腕を回し、口付けをせがむ仕草を見せる。  
「法縁……」  
「それはまた後で、な」  
「……っ」  
求めを制止された妖ノ宮は、何とも複雑そうな表情を浮かべるのだった。  
 
少女の火照った肉体が仰向けに横たわる。  
眼下に晒された無防備な下半身の茂みに、法縁は保温用の手拭いを被せた。  
妖ノ宮は胸の前で両腕を交差させ、乳白色のなだらかな丘陵を不安げに抱き隠す。  
夫から目を逸らし、些か彼女は怒った様子で脈絡なく呟いた。  
「……ど、どうせ小さいと思ってるんでしょ」  
あどけない妖ノ宮はまだ幼児体型の域を出ていない。  
ペッタンコとまでは言わないが、慎ましく控え目な膨らみである。  
どうやら彼女は、その質量に引け目を感じているらしい。  
「法縁だって大きい方が好きなんでしょ……凪みたいな。浮気者」  
「待て。わしはまだ何も言っとらんぞ。浮気もしておらんし」  
「言わなくても分かってるんだから……」  
先ほど赤月の凪を話題に出したことを根に持っているのか、妖ノ宮は膨れっ面であった。  
法縁は女性患者に対して平気でセクハラじみた施術をする為、浮気の心配もある。  
黙ってさえいれば、法縁は中々の男前。彼女がやきもちを妬くのも無理はない。  
可愛い妻が今にも泣き出しそうな顔をして拗ねるので、法縁は安心させるように  
穏やかな口調で言い聞かせるのだった。  
「ん。しかしまぁ、おぬしが気に病んでいると申すのなら。  
 ヌフフフ、たっぷりと時間を掛けて……わしが乳を大きくしてやろうぞ」  
そう言うと、彼は指をぽきぽきと得意気に鳴らした。  
幼妻は齢(よわい)十六、これから育てる楽しみが充分あると言うものだ。  
「……お願いします。先生」  
妖ノ宮も、こくんと素直に頷いた。  
 
続く。  
 

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