預言者ユミルは激しく苦悩していた。
その原因は行く手を阻む魔物でもなく、預言者という能力でもなく、彼の心強い仲間であるミエリとネアキである。
ふわふわとユミルの周りを飛ぶ二人。
時に彼の頭上を飛んだりすることもある。
そしてそうなると気になるのは、彼女たちの下穿き、スカートの中である。
上空にいるところを見上げれば嫌でも見えてしまうそれは、健全な年頃の少年であるユミルの心を乱すには十分なものであった。
しかも、ここだけの話彼女たちは穿いていないである。
いくらなんでも刺激が強すぎる。
(嬉しくないと言えば嘘になるけど…これは駄目だ。よくわからないけどとにかく駄目だ)
むむむっと眉間に皺を寄せ、どうしたものかと頭を悩ませる毎日。
そして解決策を考えているユミルの目の前、正確には目線の少し上に現れた森の精霊により、大概彼の思考は中断させられるのである。
「どうしたの?考え事?」
「…何でもないよ。あのさ、できればあまり頭より上は飛ばないでほしいんだけど…」
過去にも何度か頭上を飛ぶなと注意したが、それが守られたことは一度もない。
自由に飛べる精霊にとっては、人の目線までという低空飛行は辛いことなのかもしれないので、もうこれはほぼ諦めた。
ではせめて、俗に言うノーパン状態だけでも何とかしたい。
しかしデリケートな問題ゆえ、なかなか言うに言えないのが現状だ。
だが、このままでは延々と言えないだろう。
寧ろ最近、時が経つにつれ言い難くなっていっていることを感じている。
ここは腹を括る時だ。
黙り込んでしまったユミルに首を傾げるミエリに、思い切って声をかける。
「ミエリ、ちょっと待ってて」
「え?うん」
そして預言書を開き、ネアキに呼びかける。
「何…?」
「どうしたの?」
ふわふわと浮く二人を前に、もう後には引けないと思った。
「ね、ねえ。二人にお願いというか、提案があるんだけど…」
心臓がドキドキとなる。
大袈裟な、と思うかもしれないが、少年にしてみれば大問題である。
慎重に言葉を選び、よし、と口を開いた。
「その…スカートの下に何か穿いた方がいいんじゃないかな?」
言ってしまった。
恥ずかしい。顔が熱い。きっと今、自分は真っ赤になっているだろう。
そしてネアキの発言が、恥ずかしさに拍車をかける。
「何故…?」
そんなこと言えるわけないじゃないか!
ユミルは心の中で叫ぶ。
「あ、えっと、寒くないかな、とか」
慌てて適当に理由をつけるが、よくわからない理由だと自分でも思う。
「寒くない…私は氷の精霊…」
「人間がつけてるようなやつでしょ?私も窮屈そうでやだなー」
「そ、そっか。ならいいや。あはは…」
失敗した。
もっと考えて言うべきだった。
二人は頭上にはてなを浮かべてこちらを見ているし、恥ずかしくて居た堪れない。
「…ミエリ、ネアキ、少しこちらへ来てくれませんか?」
脂汗が出そうだ。
そう思ったとき、隣の部屋からウルの声が聞こえてきた。
「何だろう?ユミル、行ってもいい?」
「あ、ああ、いいよ!大丈夫!」
ウル、具現化してたっけ?
そうは思ったものの、今のこの状況下ではありがたい助け舟だ。
(ありがとう、ウル)
心の中で密かに礼を言い、二人が出ていった後にユミルは机へと崩れ落ちた。
その夜、精霊達が眠りに就き、ユミルも眠ろうとした頃、ウルが突然具現化し「駄目でした…」と一言だけ言い残し消えていった。
その時は意味がわからなかったが、後になりそれが昼間のやり取りのことであると悟ったユミルは、ウルでも説得できないなら駄目だと盛大に溜息をつき、なんだかよくわからない絶望に苛まれたそうである。