どうして、こんなことになるんだろう?  
 
そんなこと、考えてもわからない。否、考える余裕なんて与えられていない。  
「はっ、あんっ、ぅ、……あぁっ!」  
「ティア……」  
動くたびに響く、粘着質な水音。自分の中を我が物顔で行き来する、熱いもの。  
テーブルにうつ伏せにされ、スカートを捲り上げられ、腰を高く上げさせられた  
格好を恥ずかしく思いながら、ティアはぎゅっと手を握り締めた。  
背後にいるヒースがティアを突き上げるたび、テーブルの足が踊る。  
「ヒース、さんっ! も、無理……です、ひっ……!」  
「ん? もうちょっと頑張れ」  
快楽を貪る最中とも思えぬのんきな声に、ティアはかっとなった。  
「もうっ! どうしてご飯作ってる、あ、最中に、こんな……! ゃ、あんっ!」  
振り向いて抗議しようとするが、ヒースの指先が敏感な部分をなで上げるから、  
大きく甘い声で鳴いてしまう。  
「ん、くっ……! んぅ〜〜!」  
かああ、と羞恥に顔を赤くしながらティアは目をきつく閉じる。  
「そう、いわれても……な……ふ、っ」  
動きは止めず、艶っぽい声を漏らしながら眉を顰めたヒースが、  
ティアを抱きしめる。  
「どうして、あっ……、こんな……!」  
いつも、いつもだ。  
どうしてこう急にスイッチがはいるのだ。  
普段はそんなそぶりを微塵もみせないくせに、ヒースはときたま  
こうしていきなりティアに襲い掛かってくる。  
それがいつなのか、どうしてそうなってしまうのか、  
ティアにはまったくもって理解できない。わからない。  
夜にだって、ちゃんとしてるのに!  
ヒースはそれでもいいのかもしれないが、時間も場所も選ばぬ発情に、  
ティアはたまったものではない。  
今日は家だからまだましなほう。だが、夕飯の支度をしていたところだった。  
 
「ひゃあ!」  
 ずるり、とヒースが勢いよく引き抜かれる。その感覚に、ティアが身を強張らせると。  
そのままひょいとテーブルの上に持ち上げられた。  
「ちょ、ヒースさんっ」  
座らされ、ぐいと足を開かれたティアは、無駄と知りつつ圧し掛かってくる  
ヒースを押し返そうと試みる。  
もちろん、そんなものでヒースがどうにかなるわけもない。  
「あっ、や、やだっ!」  
ティアの身につけるエプロンが、スカートごとたくしあげられる。  
足の付け根が晒され、膝裏に手をかけられて、さらに大きく開かれる。  
「あ、はっ! くぅ……!」  
蜜に塗れたそこをティアが小さな手で覆うよりはやく、  
ヒースが再び侵入を果たした。  
そのまま水音を絡ませながら、ヒースが大きなその身体をゆする。  
「あ、あんっ! や、あっ、あっ!」  
「……ティア……ん、」  
ティアの中をこすり上げるように腰を進めながら、ヒースが気持ちよさそうに吐息を零す。  
ティアはびくつく身体の震えを少しでも逃がすように、浅い息を繰り返す。  
嫌だといっても、覚えさせられた快楽には抗えず、ティアの思考が白んでいく。  
「あっ、あっ、ヒース、さ、ん……、ん、んんっ!」  
ぐいとテーブルに押し倒されて、さらに交わりは濃く深く。  
与えられる熱と、快楽に、ティアはあえぐ。零れる唾液に濡れた唇も、貪られて息が続かない。  
テーブルが、二人の動きに合わせて大きく動く。  
こんな場所で、ご飯を作っていたにもかかわらず、大きく身体を開かされ、  
男の熱を受け入れて。はしたない声をあげて、嫌だ嫌だと思いながらも  
――結局、こうして溺れている。  
そんないやらしさに、眩暈がする。それがまた、気持ちよさを加速させる。  
ティアは、ヒースにきつく抱きついた。自分がこうなっているのは、  
自分のせいじゃない。この人のせいなのだと思うことで、  
沸騰しそうな意識をなんとか繋ぐ。  
「んくっ、あ、ああっ! ヒースさ、もぉ……!」  
今度こそ、本当に限界だと訴える。もう、許してと。  
「はっ、しょうがない、な……」  
顔はみえずとも、ヒースがにやと笑うのが、わかった。  
 
「――っ!!!」  
容赦なく、高みへと突き上げられて、ティアは快楽のほどを伝えるように  
全身を強張らせ、男の欲を受け止めた。  
ぴくぴくと、繋がった場所が震えている。  
それを感じながら、ティアはゆっくりと目頭付近の力を抜いた。  
真っ白になった意識が、ふわりふわりと漂いながら、  
それでも少しずつ戻ってくる。  
互いに荒い息をつきながら、しばらく抱きしめあって鼓動がおさまるのを待つ。  
先に落ち着いたのはやはりヒースのほうだった。  
ゆっくりと大きな身体が離れていく。気遣うように顔を覗き込まれた瞬間、  
ティアはへにゃりと眉を下げた。ぎょっとヒースが目を見開く。  
「な、ティ、ティア!?」  
ひっくり返ったヒースの声を聴きながら、ティアはべそべそと泣き出した。  
「う、ひっく……もぉ、やだぁ〜……」  
「い、痛かったのか?」  
ぶんぶんとティアは頭を振る。  
「ちが、ちがいます……、こんな、の……嫌なのに……いつもいってるのに……!」  
嫌なはずなのに、気持ちいい。その気持ちよさが、堪えられない。  
そしてなにより、そんなふうに溺れるようになってしまった、  
いやらしい自分がたまらなく嫌だった。  
う、とヒースが言葉に詰まる。  
鼻をすするティアを宥めるように大きな手を伸ばしてくるが、顔を背けて避ける。  
「だが、ティアだってずいぶんと気持ちよさそうに声を……んぐっ」  
「〜〜〜!!」  
どうしてこう、一番言われたくないことを、さらっと言おうとするのか!  
デリカシーのない言葉に、ティアは悲鳴をあげて、ヒースの口を塞いだ。  
もごもごとまだなにかいおうとしているヒースに、意識が怒りに煮え立つ。  
ティアはヒースを押しのけ、なんとかテーブルから飛び降りる。  
ふらつく足を堪えて、ヒースをにらみつけた。  
「もうっ! しばらくヒースさんとはしませんからっ!」  
「なっ!?」  
べっとティアが舌を出すと、ヒースの顔が青ざめた。  
「手をだしてきたら、絶対に許しませんからねっ」  
ぷい、とティアは怒りの気をあたりに容赦なく撒き散らしながら、  
おぼつかない足取りで風呂場へ向かう。べたついた身体をすっきりさせたかった。  
だらだらと汗を流したヒースは、そんなティアの後ろ姿に本気をみたらしく。  
がくりと肩を落として顔を覆った。  
後悔とは、いつも物事が終わってからするもの。それは古来より変わらない。  
「しまった……やりすぎたか……」  
大きな身体をした男の、そんな小さな呟きがあらわす後悔は、  
やはり今回も遅すぎた。  
 
 
それから一週間。  
ヒースはティアのいいつけをきちんと守り、まったくもって手出ししてこなかった。  
反省していると行動で示すヒースに、ティアは安心した。  
 
 
そして、さらに一週間。  
まったくもって、ヒースは触れてこない。  
キスもない。熱っぽい目でみつめてくることもない。  
想いを伝えるように抱きしめることさえしてこない。  
もちろん、眠るときは相変わらず優しく抱きしめてくれるが、  
それ以上はまったくない。  
ほんの少し、ティアの胸のうちにもやもやとしたものが、わだかまる。  
それは日を追うごとに降り積もっていき。  
そんなティアの戸惑いが動揺になるのに、さして時間はかからなかった。  
 
 
そこからもう一週間。  
ティアは、テーブルを挟んで向かい側に座るヒースに知られぬよう、  
膝をすり合わせた。何もないのに、もじもじとしてしまう。  
「あ、あの……ヒースさん?」  
「ん? どうした?」  
ティアの様子など気付いていないように、ヒースはスープを掬っていたスプーンを持つ手を止めた。  
「えっと……その、」  
自分は何を言おうとしている?  
ティアは、渦を巻く意識に引きずられそうなのを耐えるように、  
ぎゅうとテーブルの下でスカートを握り締めた。  
「ああ……、今日の料理も美味いぞ? また腕を上げたんじゃないのか?」  
どうやら感想を求められたと思ったらしい。朗らかに笑いながら、  
ヒースがそういった。  
「あ、ありがとうございます……」  
かあ、とティアは頬を染めた。嬉しいけれど。そうじゃない、そうじゃない。  
この身体の奥で燻る火のことを、察してほしい。  
でも、いえない。  
しないと言ったのはティアだ。それがいきなり、こちらがしたくなりました、  
我慢できなくなりましたとは、言いづらい。  
ヒースが、「君がほしい」と、いってくれたら。  
そんな浅ましい願望に、ティアは奥歯を噛み締めて、  
籠にはいったパンへと震える指をのばした。  
自分で作った料理の味もわからぬまま、夕食は終わった。  
後片付けをして、ゆったりとした時間を過ごしながら、  
ティアは無意識のうちにヒースへ視線を送っていた。  
そんな自分に気付いて、ひどくいたたまれなくなる。  
でも、何気ない仕草のひとつひとつが、気になる。  
髪をかきあげる指先、ほんの少し伏せられた睫、  
何かを考えるように寄せられる眉。小さく息をつく、唇。  
なにかの魔力でも宿っているのではないかと思わせるほど、  
ティアの目を惹きつける。  
ティアがのろのろとした動作で寝間着に着替え終わると、ヒースが読んでいた本を閉じた。  
 
「さて、寝るとするか」  
「……は、はい」  
いつもの、会話。ずっとくりかえされてきた、もの。  
ヒースが寝台に近づく。ティアの目の前で背を折って、毛布に手を伸ばす。  
その後姿に、ふわりと漂うヒースの匂いに、もうだめだと思った。  
体が、勝手に動いた。  
「ティア?」  
ヒースの声がする。  
どうした? という声にくらくらとする。  
心と身体がもてあますものを伝えるように、ティアは抱きついたヒースの腕へ、  
額をこすりつける。  
頬が温かなものに包まれて、ティアがゆっくりと顔をあげると、  
ヒースが困ったように小さく笑った。  
「なんて顔してるんだ」  
「ん……」  
どうしたんだ、と優しく問いながら、ヒースが指を滑らせる。  
目尻を指先が掠めるだけで、ティアの背に電流が走る。  
この人が、ほしい。  
ティアは細い体をヒースに寄せた。  
「ヒ、ヒースさん、あの、わたし……わた、し……」  
はあ、と熱のこもった吐息をせつなげに漏らすと、ヒースがすうっと目を細めた。  
「ちゃんと言え。でなきゃ、わからん」  
「ゃ……」  
そんなことをいわないで。  
ちゅ、とティアはヒースの腕へと布越しに口付ける。幾度も、幾度も。  
その間、ヒースの大きな手はティアの頭をゆっくりと撫でるだけ。  
もどかしさに、ティアは恥ずかしさを堪えて、いう。  
「したい……です……」  
 
「何を?」  
「い、意地悪しないで……」  
「先にお預けをいったのはティアだろう?」  
その台詞に、ヒースはティアの状態に気付いていると。わかっていると、確信する。もう、ティアの負けである。  
「うぅ……」  
悔しい。でももう、我慢できない。気持ちの見えない男の顔を、必死にみあげる。  
どうしてそんなに冷静なの? ヒースさんは、こんなふうになってないの?  
そう、聞きたい。でも、いまはそれどころじゃない。  
「ヒースさんと、きもちよく……なりたいっ……」  
真っ赤な顔で、はしたないと思われても仕方のない言葉を零し、  
ティアはぎゅうとヒースの腕にもう一度、額を押し付けた。  
「――まあ、それでよしとしよう」  
く、とヒースが喉の奥で笑い声を転がしている。  
僅かに面を上げたティアの頭に、手が添えられる。  
そのまま、頭を固定されて口付けられた。  
「んっ」  
三週間ぶりの、ヒースとのキスにティアはすぐに夢中になった。  
滅多に自分から絡めることのなかった舌を、懸命に伸ばす。  
ぴちゃ、と絡まる音がたつ。息をつくためか、ヒースが離れようとする。  
まだ、だめ。  
「ん、ちょ、ちょっとまて、ティア、ん、む……」  
「やだぁ、もっと……」  
ヒースの首にすがりつき、終わりなんて許さないように吸い付く。  
制止しようとしたヒースは、ティアの好きにさせることに決めたらしく、  
諦めたように肩の力を抜いていく。  
そんなヒースがゆっくりと寝台に腰掛けていくのにあわせながら、  
ティアは口付けをほどかずに身を寄せ、その腰にまたがるように膝をつく。  
胸元にはヒースの手。寝間着の合間から忍び込むその感触。  
探る指先が動くたび、火がさらにともされていくようだった。  
 
すでに立ち上がっていた胸の飾りを摘まれて、ティアは思わず口付けを解いて、  
「きゃう」と小さく鳴いた。指の腹で優しく撫でられて、腰が揺れる。  
ヒースのもう片方の手が、もどかしい速度で、下へ下へとおりていく。  
へそをくすぐり、するっと足の付け根へともぐりこむ。  
「ん、んぁっ、あっ」  
待ち望んでいた感覚に、ぴく、と身体を震わせて、ティアは赤い顔をしかめた。  
ぬるぬると、すでに溢れていた液体を塗りつけるように、  
ヒースの無骨な指が行き来する。  
「そんなに欲しかったのか?」  
色を含んだ低い声で紡がれる男の言葉に、我を忘れてティアは頷く。  
「ここに?」  
「はぁ、んんっ!」  
指が、もぐりこんでくる。肉を掻き分け、蜜を絡ませ奥へと侵入してくる。  
「ん、んぅ! あ、ああっ、ヒースさ、ん……!」  
さんざん胸の感触を楽しんでいた手が、ティアの寝間着の下をずりさげる。  
白いお尻を晒しながら、ティアは身震いした。  
動きを妨げられることのなくなった指が、ティアを攻め立てる。  
ヒースしか知らない、ヒースだけが触れることを許される場所の、  
ティアが感じるところを幾度も指先が掠めていく。  
「は、ああっ、あ……ん、ん……!」  
ヒースの肩に手をついて、ティアは唇を噛んだ。  
自分の身体が、いやらしく揺れている。久しぶりの感覚を、貪るように味わっている。  
もう、何も知らなかった頃には戻れないのだと、ティアは瞳を閉じて実感する。  
戻るつもりも、ないけれど。  
「あ、や、ヒースさんっ、指じゃ、やぁ……!」  
ひとつになってもっと気持ちよくなりたいと、ティアは髪を乱して訴える。  
このままだと、先に一人で果ててしまう。それは嫌だった。  
「イっていいんだぞ?」  
「や、ぃや……や、なの……!」  
「しないといったり、気持ちよくしろといったり、そうかと思えば一人で達するのは嫌だ、か」  
「っ!」  
ぐ、と身体が引かれる。ティアが目を見開いたときには、  
すでに寝台の上に押し付けられるように、倒されていた。  
「うぶっ」  
枕に顔を埋める形になったティアが、くぐもった声をあげる間に、  
ぐいと下半身が持ち上げられる。  
膝辺りに絡み付いていた寝間着が、引き抜かれる。  
崩れた四つんばいの格好をとらされて、臀部の肉をつかまれて左右に開かれる。  
「あっ、ひっ」  
ひくついているのが、自分でもわかる場所をヒースの目の前に晒し、  
ティアはぎゅっと枕を抱きしめた。  
「まったく……我侭なことだな、ティア」  
見えないけれど、ヒースが笑っている。じっと視線を注がれている。  
恥ずかしいのに、それすらも気持ちいい。  
はぁ、と息をついたところで、入り口に熱いものが押し当てられる。  
「んんぅっ」  
そのまま、ぐっと入ってこようとするのが、大きなヒース自身だと気付いたティアは、息をつめた。  
ひさかたぶりの交わりを味わうように、ヒースはひどくゆっくりとティアを貫いた。  
 
「ふ……くっ、……はいったぞ? ティア」  
「っ、はあ、はあっ」  
一番奥までぴったりと収まったものを、ティアはきゅうと締め付ける。  
「あ、ん、う、動いて……動いてくださ、ぃ……おねが……」  
「いわれなくとも」  
「あ、いっ、んああっ!」  
ちゅ、ぐ、と少しずつヒースが動き出す。馴染んできたところで、  
大きく深く抉られて、ティアは背を仰け反らせた。  
繋がった場所から、全身に快楽が響いていくようだった。  
背骨を伝わり、脳に達する感覚に、どこかへと意識が飛んでいきそうになる。  
だが、まだだめ。もっともっと感じていたい。  
枕に爪をたて、ティアは耐える。  
「あくっ、う、んぅ、ふ、ふぁ、あぁっ」  
思うままにティアの中をかき回すヒースを逃がさないように、内壁が収縮する。  
しごきあげる。それがまた、快感を加速させていく。  
「あ、あっ、あっ!」  
まだ、だめなのに。  
「ん、う、あぅ、ひっ、ぃっ!」  
だめ、だめ……!  
「きゃ、あ、あぁっ、ん、く……ぅ、あっ!」  
でも、  
「あ、いく、いっちゃ……いっちゃうっ……!」  
もう――!  
ぱちん、とティアの何かが弾けた。  
「あ……あ、あああっ!」  
身体が足の先まで震える。堪えられない声が、部屋に響いた。    
 
どうしよう。きもちいい。きもちいい……――  
 
ティアはすっかり蕩けた顔をして、そんなことぼんやりと考えながら、  
身体の力を抜いて息をつこうとする。  
「は、あっ!?」  
だが、ぐるりと中をかき回されて目を見開いて声をあげた。  
「ん、んんっ、ん、ああっ」  
さきほどの比ではない強さと勢いで、ヒースがティアを突き上げ始める。  
まだ絶頂に押し上げられたままのティアに、なす術はない。  
 
堪えられないのは、ヒースも同じだったのだろう。  
「ティア、くっ……ティア、ティア!」  
堰を切ったように想いをぶつけてくるヒースに、ティアは身を委ねる。  
「あ、ヒースさんっ、ひー、す……!」  
腰を抱えられ、押しつぶされそうになりながら、愛しい男の名を呼び続ける。  
やがて、ヒースがぶるりと震えた。  
「は、……く、ぅ……!」  
そして艶っぽい声とともに、中へと吐き出されるものを、ティアは感じて呻いた。  
「あ、ああっ、……あ、は、……ぁ……」  
そのまま、ゆっくりと二人で寝台へと身を落とす。  
自身を引き抜いたヒースが、ティアを押しつぶさないように逞しい腕をつく。  
囲い込まれたような形になったティアのうなじに、ちゅ、と熱い唇が触れてくる。二度、三度、愛しいと思う数だけ触れてくるような、優しい行為。  
くすぐったくて、ティアは首をすくめるが、ヒースはおかまいなしだ。  
「長いお預けのあとのご馳走は格別だが……」  
ヒースが感極まったように、いう。  
「あまり待たされると、もっと手加減できなくなる。ほどほどにしてくれると、お互い助かると思うんだが……。なあ、ティア?」  
「……」  
ティアは、何もいえずに頷いた。我慢はよくないと、今回で身をもって知った。節度は大事だが、触れ合う幸せもまた、大切だった。  
ヒースが、ティアをぎゅっと抱く。  
「オレも、調子に乗りすぎていた。すまなかった。気をつける」  
「――はい」  
ふふ、とティアは笑った。こんな風にいわれたら、そう応えるしかない。  
「だから、」  
「?」  
切ない響きが宿る声に引き寄せられるように、ゆっくりとティアは体を捻る。  
ヒースの瞳が、なんだか泣きそうにみえて、ティアは息を飲む。  
「しない、なんてひどいことは、もういわないでくれ」  
ゆらゆらと揺れる、青灰色。快楽と、情欲と、そしてなによりも愛情を、湛えている。  
「オレは、君がいないとだめだ。オレとて、ずっと触れたくてたまらなかった」  
きゅう、とティアの小さな胸が痛む。自  
分のことしか考えてなくてごめんなさい、と心が悲鳴をあげている。  
ヒースも、ずっとそんな風に思っていてくれたことが、嬉しい。  
「わ、私も……ヒースさんがいないと、だめです……寂しくて、もう……!」  
自分も同じだと、ティアは訴える。細い腕を伸ばして、ヒースに抱きつく。  
「――ティア」  
「ん、」  
吐息だけでなく心を交わすように、深く唇を重ねる。  
瞳をあわせて、もう一度。指先を絡め、体を寄せて、もう一度――何度も、何度も。  
そうしてまた、ふたり一緒に堕ちていく。  
それが、ありとあらゆるものすべてを許せるくらいに幸せだと、ティアは思う。  
どうしてこんなことになるんだろう――そんな風に思っていた三週間前の自分に、  
今なら答えが返せる気がする。  
それは、愛おしさが溢れてしまいそうだからだ。  
それを伝えたくてたまらなくなるからだ、と。  
ティアは現在という未来から、あのときの過去に向かって囁いた。  
 
おしまい。  
 

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