互いに寝台に腰かけたものの、人一人分の距離を開けたまま、  
ティアとレクスは固まっていた。  
ちらりとぬすみ見たティアは、ほんのりとこれからの期待と羞恥に染まった頬を晒し、  
膝の上で硬く結んだ己の拳をぼんやりと眺めている。  
長い睫、柔らかそうな唇、寝間着の下で滑らかな線を描くその体。  
ごくり、とレクスは喉を鳴らした。  
無意識のうちに、伸びていこうとした手を、ぎゅっと握り締める。  
ここでがっついたりしたら、みっともない。否、初めてのティアを怖がらせてしまう。  
自分も初めてであることは忘却の彼方に追いやり、努めてティアのことだけ考える。  
たしか、初めてって女はものすごく痛いんだったよな……。  
つまり、男側がどれだけ相手を思いやりつつ、自分の性欲を制御するかにかかっている。  
まかり間違っても、流されて勢いのままティアを貪ることだけは、避けねばならない。  
これからは、ティアのことをずっと守っていくと、レクスは誓ったのだから。  
だが、その誓いも、すぐにふっとぶことになるのだが、  
今のレクスがそれを知る由は当然だが、ない。  
 
よし、と心の中で気合をいれて、レクスはティアに体ごと向き直った。  
それに気付いたティアが、びくんと震えた。おずおずとレクスに視線をあわせてくる。  
「ティア……いいか?」  
何を、とはもう言わないでもわかるはず。  
大きな瞳が潤み、揺れる。耳まで真っ赤になったティアが、こくんと頷いたと同時に、  
レクスはティアに手を伸ばした。  
細い肩を優しく掴み、引き寄せる。  
「あ……レクス……ん、ぅ」  
顔を寄せて、何かいいかける唇に、唇を押し当てる。  
啄ばむように触れ合いながら、ゆっくりとティアを押し倒す。  
寝台に身を横たえたティアに覆いかぶさり、ぐいとその口内に舌先を伸ばす。  
「ふ、んんっ」  
いきなり深くなった口付けに、ティアが鼻にかかった吐息を漏らす。  
小さな舌が反射的に逃げるのは、男の狩猟本能を掻き立てる。  
ちゅる、と捕まえたそれを吸い上げ、絡ませ、上顎をくすぐると、  
苦しげにティアがレクスの胸を叩いた。  
やりすぎたかと思い顔をあげると、はあ、とティアが肩で息をついた。  
ぼんやりとした表情は、単なる酸欠のためか、それとも与えられた熱のせいか。  
それはわからないけれど、艶を帯びたその瞳は、レクスの火に油を注ぐに足るものだった。  
「ティア……好きだぜ」  
「あ、レク、スぅ……」  
細く折れそうな首に顔を埋め、胸元を探りながら幾度も囁く。  
「あ、待って……! 明るい、から……やっ」  
「待てるかっての」  
優しく優しくと己に言い聞かせても、体は結ばれる快楽を求めて走り出そうとする。  
「ひゃ、やぁ!」  
ばっと寝間着を下から勢いよく捲り上げると、わずかな丘を描いたような乳房がさらされる。  
白い肌に、赤く色づいた二つの頂が可愛らしく震えている。  
細い腰から伸びる足の付け根はぴたりと閉じられて、白い下着に覆われていた。  
「れ、レクス、お願い……ランプ、消してぇ」  
真っ赤な顔で、己を照らす明かりを落とすように懇願するティアの声も、  
ただ欲を煽るだけだ。  
 
ぐらぐらと煮える意識に押されるように、レクスはティアの胸に手を伸ばす。  
くに、と下から柔らかな肉を掬い上げ、その感触を楽しむように揉む。  
「あ、やぁ……!」  
誘うように尖った乳首を、ちゅるりとレクスは舌で包んだ。  
「ふ、ぁ、くすぐった……!」  
ちゅ、ちゅ、と音を立て、舌先に甘いそれに夢中で吸い付く。  
もう片方には指を当て優しく摺りつつ、きゅうと摘み上げる。  
びくん、とティアの体が跳ねて、逃げるように腰が揺れる。  
「あ、や、はぁ、ぁあっ!」  
「は、……やっべぇ……可愛い、ティア……」  
涙を滲ませ鳴くティアに、レクスの劣情が加速度的に膨れ上がる。  
唾液に塗れた胸から下腹部へと舌先を滑らせながら、レクスはティアの膝裏に手をかけた。  
勢いよくその足を開かせる。  
「ひっ」  
ティアが反射的に閉じようとする前に、体を滑り込ませる。  
そして、下着の上からティアの秘所を撫でた。  
ここがティアの、女の場所。自然と、レクスの息があがる。  
布越しにも、柔らかく熱いのがわかる。  
幾度もすりあげると、ティアがいやいやと首を振った。  
「そんなに嫌がるなよ……いまから、ここにオレのをいれるんだから」  
そういいながら、下着をほんの少しずらして、レクスは直にそこに触れた。  
「あ、あ、ああっ!」  
背を仰け反らせ、おそらく自分でも触れたことのない場所を、レクスに許しながら  
ティアはぎゅうと目を閉じて耐えている。  
柔らかな秘裂の中心、少しくぼんだ場所がわずかに濡れている。  
ここか、とレクスは中指をそこにゆっくりと挿し入れた。  
 
「あ、はぅ……! や、なに……?!」  
ぐぐぐ、と肉の抵抗を感じながら根元まで押し入れる。  
ざらりとした内壁が、初めての異物に慄くのがわかる。  
探るように指先を動かすと、ティアが「いやぁっ」と声をあげた。  
浮き上がるティアの腰を押さえつけ、レクスは指を抜き差しする。  
「すげえ……」  
ぬぷ、とやがてたつ音と僅かなぬるりとした感触に、レクスは思わず呟いた。  
自分が今弄る場所が、一体どうなっているのか。  
レクスはティアの最後の砦である下着に手をかけ、するっと引き抜いた。  
いきなりすべてをさらけ出すことになったティアが、ひっと悲鳴をあげた。  
おかまいなしに再び足を広げさせると、赤くただれたような、誰もみたことがない  
ティアの中心が、レクスの目の前で咲いた。  
「へえ……こうなってんのか……」  
女のものをみるのは初めてで、思わずまじまじとレクスは視線を注いだ。  
「やだやだ、みないでよぅ……! レクスのばかあっ、やっ……ひあああ!?」  
それがたまらなく恥ずかしいのか、ティアがレクスを押しのけようとする。  
その腕をかいくぐり、レクスは身をかがめてそこをべろりと舐めあげた。  
足の間に顔を埋め、レクスはあますところなく舌先を滑らせていく。  
形をたどり、鼻先を押し付け、わずかに蜜の零れる場所を啜り上げる。  
レクスがそうして思うままに動くたび、ティアが抵抗を強める。  
「やだ、やだ、やめてぇ!」  
じたばたと足をばたつかせるティアに、顔を上げてレクスはいう。  
「んなこといったって、ちゃんとやらねぇとおまえが辛いだろ!」  
「だ、だって、だって、はずかしいよ……!」  
「我慢しろって! そのうちよくなる!」  
「ふぇ〜ん……」  
レクスの言葉に、ティアが眉をさげつつおとなしくなる。  
なんだかんだいって協力的なその姿に、愛されているのがちらりと見えて  
レクスは頬をほんのりと染めた。  
そして、指を再びティアの入り口に添えた。  
 
「んっ」  
つぷ、と唾液の力も借りたせいか指はすんなりとはいっていく。  
少し慣れたのかもしれないと、指を抜き差ししながらレクスは喉を鳴らした。  
はやく、はやく、ここに自分をおさめたい。  
思うままにぐちゃぐちゃにかき回して、思う存分ティアを鳴かせたい。  
はやる心をおさえて、レクスはティアに二本目の指をもぐりこませた。  
「あ、いやっ……いた、ぃ……」  
それをききながら、レクスはちらりと、自分の股間に視線を落とす。  
すでにこちらは出番を待ちかねて、ズボンを押し上げ、存在を主張している。  
痛いといわれても、いまさらここでお預けは厳しすぎる。  
濡れた音をたて、ティアの中を探っていた指を引き抜く。  
何気なく指を開けば、絡み合う粘液が糸をひいた。  
もう、我慢できない。  
「わりぃ、ティア……オレ、もう……」  
「っ!」  
落ち着きのない動作で上半身のシャツを脱ぎ、レクスはズボンを下ろした。  
下着も脱ぎ去ると、我慢を強いられていたモノがティアの眼前に立ち上がった。  
「きゃあああ! やだやだ! レクスのえっちー!」  
「おまっ……いまさらいうなよ!」  
ばっちり目撃してしまったのだろう、手で顔を覆ってティアが横を向いた。  
了承のもとですでにここまできておいて、  
そんな台詞を投げかけられるとは思わなくて、レクスは思わず叫んだ。  
だが、顔を背けようとも、レクスの前には愛するティアの体がある。  
「も、我慢できねぇ……、挿れるからな」  
「あ、やんっ!」  
ぐい、と足をさらに広げさせ、手を添えてその入り口に先端を当てた。  
「レ、レクス、こわい、よぉ……!」  
「大丈夫だって……ほら、つかまっとけ……」  
他人を受け入れるという未知の感覚に恐怖するティアに、  
自分の首に腕をまわさせ捕まらせると、ゆっくりとレクスは侵入を試みる。  
「ん、んぁ! い、痛っ! あ、無理、だよ……いっ!」  
「もう、ちょい……!」  
引き攣れた泣き声をききながらも、レクスは腰を押し出していく。  
拒む入り口を突き破るように、もう一押しすると、ごりっという感覚とともに、  
先端が飲み込まれた。  
 
「あ……あ、ああっ……!」  
ぶるぶるとティアが体を震わせる。  
耐えるように寄せられた眉根に唇を触れされて、レクスもつらそうに目を細めた。  
「もうちょい……がまん、な……」  
「ん、んんっ!!」  
さらに体を密着させるように深いところを目指す。  
ぽた、と滴る汗がティアの肌の上で弾けた。  
そして、なんとかすべてをおさめきったレクスは、ティアを抱きしめ、息をついた。  
ちぎられてしまうような狭さと熱さに、眩暈がする。  
ゆっくりと体を起こし、ティアと自分が繋がっているところを見下ろす。  
やはり無理があったのか、赤いものが痛々しく滲んでいる。  
しかし、それさえも自分とティアが結ばれた証と思えば、レクスの意識がぐらりと揺れた。  
「うぁ……すげえ……」  
「や、や、だ……、レクスぅ……!」  
己を銜え込んでいる場所を思わず指先でなぞると、ティアが恥ずかしげに頭を振った。  
小さな豆をつまみあげると、細い腰がびくびくと跳ねた。  
たまらない。  
細く繋がっていた理性の糸が、断ち切られる。  
むしろ、ここまでもったレクスは、褒め称えられるべきだ。  
「ティア!」  
がばりと覆いかぶさりティアを押さえつけ、レクスは本能のまま腰を動かし始めた。  
「あ、いや! 痛っ! 痛い……! やめ、やめてぇ! いっ、ひ、ああっ! いやぁっ!」  
ただでさえ、挿入された異物に慣れていないというのに、  
がむしゃらに動きだされたティアは、目じりから涙を零してレクスを押しのけようとする。  
だがそれくらいで、一度火のついた男を止められるわけがない。  
「ティア、ティア……!」  
「あ、あ、あ……いたい、よぉっ……、ひぃ、く、んんっ、あ、もう、やだぁ!」  
抜いて、挿れて、また抜いて。そうしてまた、深く犯す。  
荒々しく揺さぶる度に、ティアが泣くというのに、止められない。  
「やべ、ほんと……いい……! ちくしょ……!」  
それもこれも、あまりにもティアの中が気持ちいいから悪いのだ。  
男と女の交わりが、こんなにも快楽をもたらすとは知らなかった。  
想像していたよりもずっとすごい。  
相手がティアだから、というのも大きい。  
ただ、それはレクスの一方的な感覚だ。きっとティアはそれどころではないだろう。  
「ごめん、な、ティア……!」  
聞こえていないと思いつつ、精一杯の謝罪とともにレクスはティアの一番奥を突き上げた。  
「あ、くっ、だす、ぞ……!」  
「ひ……!」  
そして、ぶるりと腰を震わせて、きつく目を閉じて衝撃に備えるティアの中へ  
たっぷりと若い精を吐き出した。  
 
二人で体を重ね、息をゆっくりと整える。  
そっと覗き込んだティアの顔は、涙と汗に塗れていた。  
焦点の定まらない瞳が、ぼんやりとレクスを映す。  
「……ティア、その……だいじょうぶ、か?」  
「……!」  
おずおずと声をかけると、ティアの瞳に光が戻った。  
かーっと赤くなったティアの目が、再び潤む。ぎり、と視線がきつくなった。  
「ばかぁ、痛いっていったのに!」  
「いてっ! ばか、やめろ!」  
ぽかぽかと殴られて、レクスはティアから慌てて身を離した。  
「あぅ、ん!」  
とたん、ティアが身体を強張らせた。  
「あ、わりぃ……!」  
まだティアに居座っていた自身を、レクスは慌ててずるりと引き抜いた。  
「きゃ……!」  
体内から何かが零れ落ちる感覚がわかったのか、  
ティアが捲り上げられていた寝間着をひき下ろし、体を隠した。  
「そんなに嫌がらなくてもいいじゃねえかよ……」  
途中からひどく無理を強いたとは思うが、そこまでされると、さすがに傷つく。  
情けない声を漏らすと、ティアが可愛らしく唸った。  
「……すっごく、痛かった」  
「……ああ、悪かったよ……」  
「……やだっていったのに」  
「……ごめんなさい……」  
「……レクスの、えっち」  
「……」  
当初の誓いもあっさり忘れてしまった以上、責められてもなにもいえない。  
しばらくは抱きしめることもさせてもらえないかも、と悲嘆にくれる  
レクスの手が柔らかなものに包まれる。  
重ねられたのは、少し汗ばんだティアの手だった。  
「……ティア?」  
細い指を絡ませながら、ティアがもじもじと小さく呟く。  
「あ、あの、その……こ、こんどは、もっと……優しく、してね?」  
自分の台詞に首筋まで赤く染めたティアの言葉を理解して、レクスもぼっと赤くなった。  
「お、おま、おまえ、それって……」  
次のお許しを頂けたが、真っ白になった思考では喜びたいのに上手くいかない。  
ぱくぱくと口を開け閉めするしかできないでいると、ティアがはにかみながらいう。  
「私も、次は……もっと、頑張るから……」  
「ティア……」  
えへへ、と笑うティアにレクスはゆっくりと顔を寄せる。  
察したティアが、幸せそうに瞳を閉じていく。  
「好きだぜ、ティア」  
「私も、レクスのこと大好き」  
こんなにも可愛くていじらしいティアが、名実ともに自分の恋人になったことを、  
世界に向かって叫びたい衝動に駆られつつ、  
レクスはそっと、今日一番の優しい口付けをティアに捧げた。  
 
かくして、初々しい恋人たちの夜は厳しく辛く、それでいて溺れるように甘く、過ぎていった。  
 

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