ギシギシと、寝台が悲鳴をあげる。  
だが、乱れたシーツに放り出され組み敷かれたティアのほうが、  
よほどそうしたいだろう。  
動きを封じる細い両手首を縛り上げる布、  
口には声を漏らさぬようにするための布。  
突き上げるたび、ぽろぽろ零れる涙が眦をたどって落ちていく。  
大きく開かれた上半身の衣服の下には、幼さの残る体にふたつの赤い蕾が震え、  
いつも白い足を覆っている黒いタイツは引き摺り下ろされ、  
下着とともに床の上に放り投げられ、力なく横たわっている。  
「んんっ! ふっ、んうっ……!」  
捲り上げたスカートの下、粘着質な水音を響かせながら  
ヒースは乱暴ともいえる所作でティアを追い詰める。  
男の欲望を咥えさせられているティアの中心は、泣いているように蜜を滴らせている。  
ヒースはそこを晒すように、ぐいと膝裏に手をかけ、  
膨らみかけた胸へとつくくらいに体を折り曲げさせる。  
自分のその姿が嫌だというようにティアが頭をふり、弱弱しく足先をばたつかせた。  
状況だけみれば、どうしてこんなことをするのかと、問い詰められてもしかたがない。  
だが、そんなこと今は気にしていられない。  
ただひたすらに、この少女を抱きたかった。  
「ティア……!」  
ヒースは互いの体液に塗れて反り返る己を、幾度も幾度もティアの内へと突き入れ、  
身勝手に快楽を求めていく。  
誰にも渡さず、誰にも見せたくない。こんなティアを知っているのは、  
自分だけでいいと思いながら、ヒースは腰を打ち付ける。  
 
「ん、ん、んんっ〜!」  
まともにしゃべることができないティアが、くぐもった声で叫ぶ。  
「っは……! だすぞ、ティア……!」  
「っ!! んんっ、んぅ、んぅ〜!!」  
その言葉に、涙目を大きく見開いたティアが、ヒースを見上げて  
さきほどより一層、身を捩らせる。  
逃げようとする獲物をきつく抱きしめ、抉るようにして限界を掴まえにいく。  
「う、くっ……!」  
「ん! んんんっー!!」  
そうして、蕩けるような快楽のうち、ヒースはティアの中へと  
戸惑うことなく精を吐き出す。  
びくびくと打ち震える雄を感じているのか、ティアがぎゅうと目を閉じて  
身体を硬くしている。  
一方的にティアにすべてを受け止めさせたヒースは、ゆっくりと息をついて  
身を起こした。  
中途半端に身にまとう衣服が、汗で肌にまとわりついて気持ちが悪い。  
それを脱ぎ捨てると、まだ繋がっている場所が微かに動いたせいか、  
ティアが熱い息をつく。  
激しい行為のせいで胸を大きく上下させ、力尽きたようにぐったりとしている  
ティアにヒースは手を伸ばす。  
その口元を覆う布を取り去ってやると、ティアがヒースに視線をむけた。  
「ヒース、さん……どう……っ……し…………?」  
「ティア……」  
ちゅ、と柔らかな頬に口付けると、びくんっとティアが震えた。  
「ヒース、さん、ヒースさん……」  
それしか言葉を知らないように、ティアは掠れた声で名前を呼ぶ。  
次いで、ヒースが手首の戒めをといてやると、解き放たれたしなやかな腕が伸びてくる。  
 
とはいえ、罵倒とともに叩かれることも突き飛ばされることもなく、  
ヒースの頬にその指先はそっと添えられる。  
そして、ティアが震える唇を開いた。  
「……どう、でしたか……?」  
潤んだ瞳でさきほどよりもはっきりとした口調でそう問いかけられて、  
ヒースは一拍の置いたあと、ティアの手を握り返した。  
「……その、よかった」  
多少口ごもりつつも、素直にヒースは感想を述べる。  
ふわ、とティアが微笑む。  
よかったと、小さく呟き喜びながらヒースに唇をせがんでくる。  
触れるだけの口付けを落としつつ、ヒースはため息をついた。  
「で、だ。ティア」  
「ん……はい?」  
キスに酔った表情のティアを見下ろし、ヒースは柔らかな布を引き寄せる。  
ティアの手と口元を優しく縛り上げていたもの。  
そっと結んでいたおかげで、ティアの手首に痕は残っていない。  
「どうして、急にこんなことしようなんていいだしたんだ、君は」  
ぼっとティアがさらに赤くなる。  
もじもじとした後、ティアはヒースの視線から逃れるように、顔を背けた。  
「だ、だって……ナナイが……」  
「占い横丁の、あの魔女がどうした?」  
「お、お、男の人は、こういうの好きだから……って」  
「……」  
「それに、たまにこういうのしないと、飽きちゃうっていってた、から……」  
そこまでいって、ティアは口を噤む。  
倦怠期にはいったわけでもあるまいし、どうしてそうなるのか。  
夜も更けたころ、真っ赤な顔で縛ってくださいと言い出したティアの姿を思い出し、  
ヒースはなんとなく頭をかく。  
だが今回は、嘘偽りなく「よかった」。燃えた。  
あのとき、何を言い出すのかと思ったが、理由もきかずいわれるまま  
ティアを抱いた自分に、こういう趣味があったのだと認識を改めざるを  
えないではないか。  
さきほどまでの快感によるものではない、恥ずかしさに涙を浮かべ  
小さくなったティアをこちらに向かせ、その額に口付ける。  
 
「……ありがとう、ティア」  
そういうと、ティアがきょとんと目を瞬かせた。  
きっと口にするにはとても勇気が必要だったろうに、  
恋人である自分を喜ばせようとしてくれた。  
それほどに想っていてくれていることが、幸せだった。  
「オレのためなんだろう? だから、ありがとう」  
「っ、……はいっ」  
感謝を重ねて伝えれば、ティアが心から嬉しそうに微笑んだ。  
ヒースは綻ぶ小さな唇を食べるように、甘く深く口付けて  
舌先でティアの口内をじっくりと辿る。  
そして、上顎をなぞりつつ、ヒースは大きな手でティアの胸元をまさぐった。  
「……んっ」  
指先だけでたどり着いた蕾を、きゅうと摘み上げるとティアが小さく声をあげた。  
「あ、やん……ヒースさぁん……」  
くりくりと可愛がってやると、鼻にかかった声が零れた。  
その様子を楽しみながら、ヒースは口元に笑みを浮かべた。  
「さっきオレが出すといったとき嫌がったのは、自分がまだ達せそうになかったからだろう? だから、今度はちゃんと、な」  
自分だけ達した侘びに、めいっぱい気持ちよくしてやりたかった。  
「ち、がい……ます……、ぁん、スカートが汚れちゃうかも、って思ったからで、ぁ……はうっ」  
あのときの自分の痴態を思い出したのか、恥ずかしげに首をふるティアの髪が、  
シーツの上で乱れ舞う。  
 
そんな嘘をつくティアに小さく笑い、ヒースは心地よく熱い場所から自分自身を引き抜く。  
とろりと二人が愛し合った証をまとわりつかせたそれは、  
一度達したはずなのに、次の快楽を求めてすでにたち上がっていた。  
「あんっ……!」  
そして、ティアの下半身からスカートを抜き去ると、間髪いれずに再び潜り込む。  
内壁が喜ぶように、きゅうと纏わりついてきて、ヒースは思わず腰を震わせた。  
残ったティアの衣服を剥いでは放り投げ、あっという間に裸に仕立てたヒースは  
繋がった部分をゆるやかに動かしながら覆いかぶさる。  
「きゃ、ぁぅっ」  
「さて、オレは随分と楽しませてもらったからな」  
ティアの顔を覗きこんでヒースは笑った。  
「次は、君の番だ」  
ヒースはそういうと、ティアの残り火を燃え上がらせるように動き出す。  
「や、ぁっ! あ、ああっ……! ヒースさん、ふぁ、んっ!」  
広い背に縋り付いて、口の端を唾液で光らせたティアが、与えられる快楽を  
貪るよう甘く鳴き、もっと深く欲しがるように腰を押し付けてくる。  
「あ、あっ……! んくっ……はあ、あ……好き、すきぃ……! ひーす、さ……!」  
「オレも……っく、誰よりも……君が、好きだ……!」  
応えるように背に立てられる小さな爪の痛ささえ心地よく感じながら、  
ヒースはティアを果てがみえぬ快楽の中へと、引きずり込んでいった。  
 
 
「えっと、じゃあこの前は私が縛られたから、今度はヒースさんの番ですよね」  
「……は? お、おい、ティア!?」  
数日後、真剣にそう言ったティアに、手を縛りあげられたヒースが  
押し倒されて青い顔をすることになるのだが、それはまた別のお話。  
 
 

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